ESRI通信 第11号

平成21年 7月14日
内閣府経済社会総合研究所 発行
Cabinet Office, Government of Japan
Economic and Social Research Institute

【地球温暖化対策の長期ビジョン】

平成21年6月、麻生首相は、二酸化炭素を始めとする日本の温室効果ガス排出量を西暦2020年までに2005年比で15%(1990年比で8%)削減する中期目標を発表した。我が国は、これまでにG8やダボス会議の場で「美しい星(Cool Earth)50」や「クールアース推進構想」を発表し、世界全体の温室効果ガス排出量の今後10~20年でのピークアウトと2050年までの半減、環境技術の国際移転や革新的技術の開発を訴えていたが、中間点に当たる2020年~2030年頃に我が国自身がどの程度削減するのかという中期の国内目標が欠けていたため、平成20年11月に官邸の「地球温暖化問題に関する懇談会」の下に「中期目標検討委員会」を設け、議論されてきたものである。

この中期目標については、「国民に多大な負担を及ぼす」、「国際的な責任を果たすには不十分」など、さまざまな意見があるが、注目したいのは、この中期目標が国内での削減のみを対象とするいわば「真水」の目標だと言うことである。2008年から2012年を対象として先進国に排出削減を義務づけた京都議定書では、排出量を売買する排出量(権)取引が認められており、2013年以降についても、EUや米国で中期的に出している目標は排出量取引を含むのが通例となっている。排出量取引では、参加者が削減の効果とコストを比較し、コストが高ければより安く排出削減ができる所から排出枠を買い取ることにより自らの削減量とすることができる。これは温室効果ガスの排出に市場原理を導入することであり、削減コストを世界全体で同一にすることによって、もっとも効率的な排出削減を行うことを目指している。京都議定書の削減義務は先進国を対象としているが、先進国同士で取引するほか、開発途上国に技術援助を行うことで発生した削減量を算入することもでき、開発途上国への技術の普及を促進する思想も認められる。

国内目標に話を戻すと、一般に、世界の中でいち早く省エネを達成した我が国は、国内でのさらなる削減のコストは高いとされる。既に最高の効率を達成した状況で、国際的に不利にならないように国内だけの目標を作成すれば、見かけ上大胆な目標にはなりにくい。国内のみで作成した日本の削減目標がぱっとしないとすれば、それは逆に技術輸出の可能性を示していると言うこともできるだろう。

実際には、削減目標に関連しては、さまざまなモデルによる試算が行われている。技術的な可能性を積み上げるボトムアップのモデルでは特定の技術の詳細な情報を組み込むことができるが、経済全体の機会費用の評価や、産業構造、生産構造の変化に対応しにくい。一方、CGEモデルのように経済全体の最適化を目指すトップダウンのモデルは、技術情報の詳細を記述しにくい問題があった。しかしながら、今日ではトップダウンのモデルを多地域・多部門化し、さらに技術の進歩や普及といった要素を取り込むことにより、かなり詳細な分析も可能となってきている。

ESRIでは、長期の目標について平成20年度にGTAPを用いた多地域・多部門のCGEモデルによる世界全体の排出削減の分析を行い、効率的に行えば困難はあっても不可能ではないとの感触を得て、平成21年に国際ワークショップを開催した。日本にとっては、国内の削減余地が限られる中、どのように世界の削減に貢献して行くかが問われる所であり、困難を克服するために、さらに具体的な先進国、途上国間の技術協力のあり方が今後の課題となっている。

平成21年7月

  • 内閣府 経済社会総合研究所
    前 上席主任研究官 坂下信之

【最新の研究発表】

  • 日本経済を対象とした推計DSGEモデルにおける財政政策:非リカーディアン家計で全て説明できるか?(岩田 安晴)(平成21年6月)(本文は英語)

    本稿は、スタンダードな中規模のニューケインジアンDSGE(動学的確率的一般均衡)モデルに財政政策当局の政策反応関数を加えて拡張し、日本経済のデータを用いてMCMC推計するとともに、推計したモデルを用いて政策シミュレーションを行い、財政政策当局の歳入調達行動が財政支出ショック後のモデルの動学的反応にどのような影響を与えるかを分析したものである。モデルでは、非リカーディアン家計比率が低く推計されたにもかかわらず、財政支出ショック直後に消費が増加する効果を得ることができた。また、複数の非中立的な税の債務残高対GDP比に対する政策反応関数の組み合わせが、財政政策効果を決定する上で重要な役割を果たすことが明らかとなった。特に、労働阻害的な課税の反応を軽減することで財政政策がより効果的なものとなること、税の政策反応関数の組み合わせが非リカーディアン家計比率以上に財政政策乗数に影響を与える場合があること、が示される。

  • 世代別の受益と負担~社会保障制度を反映した世代会計モデルによる分析~(増島 稔、島澤 諭、村上 貴昭)(平成21年6月)

    世代会計の手法を用いて、過去から将来にかけての生涯にわたる世代別の受益・負担と所得の推計を行い、2005年時点の価値で評価することによって、生涯純負担率(=生涯純負担/生涯所得)を推計した。  その結果、以下の諸点が明らかになった。(1)現存世代では、0歳世代は90歳世代に比べて24%ポイント程度生涯純負担率が高い。(2)将来世代は0歳世代に比べて35%ポイント程度生涯純負担率が高い。(3)生産性が高いほど、利子率が低いほど、出生率が高いほど、将来世代や現在の若い世代を中心に生涯純負担率は低下し、将来世代と0歳世代の生涯純負担率の差(世代間不均衡)は小さくなる。とりわけ生産性上昇の効果が大きい。(4)消費税率10%相当の増税は、現存世代の負担を増やすことによって、世代間不均衡を解消する効果がある。増税の先送りはその分だけ将来世代に負担を先送りすることになる。 (5)累次の年金制度改革は世代間不均衡を改善する効果がある。とりわけマクロ経済スライドの導入は、生涯純負担率で見て13%ポイント程度の改善効果がある。(6)社会保障給付の伸びを経済成長率に厳しく抑制しても、生涯純負担率13%ポイント程度の世代間不均衡が残る。

  • 設備投資分析の潮流と日本経済-過剰投資か過少投資か-(宮川 努、田中 賢治)(平成21年6月)

    日本の設備投資は1990 年代以降伸びが低下したが、国際比較の観点からは設備投資の水準は必ずしも低くなく、設備投資動向の判断はどちらの視点でどの時期を考えるかによって異なる。80 年代以降の設備投資の実証分析はTobin のQ 理論を中心に展開されてきたが、それに流動性制約や不確実性の影響を考慮することによって、設備投資が過小となる可能性が指摘されてきた。しかし、不確実性や不可逆性を踏まえると、企業が設備投資を手控えた後一気に設備投資を実行した場合には断続性が生じ、設備投資に大きな山(investmentspike)が生まれる可能性がある。また、IT のような革新的技術による誘発や企業の「横並び」行動によってもinvestment spike は起こり得る。こうした横並び行動は必ずしも合理的な判断に基づく行動とは言えず、その結果、過剰投資が生じる可能性もある。そこで、 investment spike の要因についてプロビット推計の手法で実証分析したところ、横並び行動の影響が示唆される結果が得られた。設備投資行動の同調性は、特にバブル崩壊前まで強く、そのために変動も大きく、景気全体の変動に大きな影響を与えていたが、近年はこうした同調性が薄れ、むしろキャッシュ・フローの影響力が強くなっている。


【最新の統計】

<SNA統計>

<景気動向指数>5月速報(平成21年7月6日)

  • 5 月のCI(速報値・平成17 年=100)は、先行指数:77.0 、一致指数:86.9、遅行指数:84.0 となった。
    先行指数は、前月と比較して0.8 ポイント上昇した。3 ヶ月後方移動平均は0.96 ポイント上昇 し、23 ヶ月振りの上昇、7 ヶ月後方移動平均は1.10 ポイント下降し、35 ヶ月連続の下降となった。
    一致指数は、前月と比較して0.9 ポイント上昇した。3 ヶ月後方移動平均は0.57 ポイント上昇し、 15 ヶ月ぶりに上昇、7 ヶ月後方移動平均は1.32 ポイント下降し、15 ヶ月連続の下降となった。
    遅行指数は、前月と比較して2.3 ポイント下降した。3 ヶ月後方移動平均は1.87 ポイント下降し、 17 ヶ月連続の下降、7 ヶ月後方移動平均は1.76 ポイント下降し、25 ヶ月連続の下降となった。
  • 一致指数の基調判断
    景気動向指数(CI一致指数)は、悪化を示している。
    ただし、CI一致指数の前月差が2ヶ月連続プラスになるなど、下げ止まりの動きも見られる。

<景気動向指数研究会>7月10日開催(平成21年7月10日)

<機械受注統計調査報告>5月実績(平成21年7月8日)

  • 機械受注総額(季節調整値)の動向をみると、21年4月前月比12.7%減の後、5月は同1.5%増の1兆5,076億円となった。
  • 民間設備投資の先行指標である「船舶・電力を除く民需」の動向を見ると、21年4月前月比5.4%減の後、5月は同3.0%減の6,682億円となった。このうち、製造業は同5.4%増の2,453億円、非製造業(除く船舶・電力)は同6.9%減の4,216億円となった。

<消費動向調査>6月調査(平成21年7月13日)

  • 平成21年6月の一般世帯の消費者態度指数(原数値)は、5月の35.7から1.9ポイント上昇し37.6となった。
  • また、消費者(一般世帯)を対象に、世帯として「日頃よく購入する品物」の価格について、1年後の見通しを調査したところ、「上昇する」と思うとの回答割合が前月に比べ増加し42.1%となった一方で、「低下する」と思うとの回答割合は減少し19.0%となった。「変わらない」と思うとの回答割合は増加し29.4%となった。

<法人企業景気予測調査>4~6月期調査(平成21年6月22日)

  • 21年4~6月期の「貴社の景況判断」BSIを全産業で見ると、大企業、中堅企業、中小企業いずれも「下降」超で推移しているが、「下降」超幅は大幅に縮小した。
    先行きを全産業で見ると、大企業は7-9月期は「下降」超幅がさらに縮小し、10~12月期には「上昇」超に転じる見通しとなっている。
  • 「従業員数判断」BSIは大企業、中堅企業、中小企業とも「過剰気味」超幅が拡大した。

【参考】<月例経済報告>7月(平成21年7月13日)

  • 景気は、厳しい状況にあるものの、このところ持ち直しの動きがみられる。
    • 輸出、生産は、持ち直している。
    • 企業収益は、極めて大幅に減少している。設備投資は、大幅に減少している。
    • 雇用情勢は、急速に悪化しており、厳しい状況にある。
    • 個人消費は、このところ持ち直しの動きがみられる。
  • 先行きについては、当面、雇用情勢が悪化するなかで、厳しい状況が続くとみられるものの、在庫調整の一巡や経済対策の効果に加え、対外経済環境の改善により、景気は持ち直しに向かうことが期待される。一方、生産活動が極めて低い水準にあることなどから、雇用情勢の一層の悪化が懸念される。加えて、世界的な金融危機の影響や世界景気の下振れ懸念、金融資本市場の変動の影響など、景気を下押しするリスクが存在することに留意する必要がある。

<統計調査公表予定一覧>

<統計調査公表予定一覧>
景気動向指数
速報
景気動向指数
改訂状況
機械受注統計
調査
消費動向調査
(全国・月次)
法人企業景気
予測調査
7月6日
(5月分)
7月17日
(5月分)
7月8日
(5月分)
7月13日
(6月分)
8月6日
(6月分)
8月18日
(6月分)
8月10日
(6月分)
8月11日
(7月分)
9月9日
(7月分)
9月18日
(7月分)
9月10日
(7月分)
9月11日
(8月分)
9月17日
(7~9月期)

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