ESRI通信 第12号

平成21年 8月12日
内閣府経済社会総合研究所 発行
Cabinet Office, Government of Japan
Economic and Social Research Institute

【世代別の受益と負担の分析】

経済社会総合研究所では、経済社会全般にわたって、政策判断の材料となる研究を行っています。今回は、私が携わっている「世代会計(generational accounting)」の研究をご紹介しましょう。

「世代会計」というのは、ある人が生涯の間に、政府に対してどれだけの税や社会保険料を支払い、年金、医療、介護などの社会保障給付を通じて政府からどれだけの受益を受け取るかを世代別に推計したものです。誤解を恐れずにわかりやすく言うと、どの世代が得をしどの世代が損をするのかを金額で評価する枠組みと言うことができます。

現在、政府の財政は赤字ですので、こうした財政構造が変わらないとすれば、現在生きている私たちの世代(現存世代)は、政府を通じて、まだ生まれていない私たちの子供や孫の世代(将来世代)にツケを残していることになります。しかも、社会保障制度は、若者が高齢者を支える「賦課方式」で運営されています。これから少子高齢化がさらに進むと、受益を多く受ける高齢者の割合が高まり、それを支える若者の割合が下がっていきますので、将来世代の負担が大きくなるのです。

現存世代が残したツケを将来世代が支払うとすれば、将来世代は現存世代(ここでは現在の0歳世代)に比べて、生涯所得の30%以上も高い負担を強いられることを私たちの試算は明らかにしています。

こうした世代間の不均衡を小さくするためにはどうすればいいのでしょうか?それには私たちの世代が我慢して受益を受け取らないようにするか、あるいはがんばって負担を増やすか、いずれかしかありません。どちらもつらい選択ですが、つらいからと言って子供や孫にツケを回すような親やおじいちゃん、おばあちゃんになってしまっていいのでしょうか?

「世代会計」は、1991年にAuerbachやKotlikoffらによって提唱されるようになった考え方です。ですから、今回の研究成果は、最新の経済理論を使った先進的な学術研究というわけではありませんが、新聞や雑誌などで取り上げられ、将来世代に負担が先送りされていることに警鐘を鳴らすことができました。

「ペンは剣よりも強し」と言います。ひとつのグラフが社会を動かす、そんな政策研究を行っていきたいと思っています。

平成21年8月

  • 内閣府 経済社会総合研究所
    上席主任研究官 増島 稔

【最新の研究発表】

  • 主成分分析によるマクロ経済パネルデータの共通ファクターの抽出とその利用(飯星 博邦)(平成21年7月)

    本稿では欧米において近年注目されているStock andWatson (1998, 2002a,b) のDiffusionIndex の推定法を日本の約120 系列のマクロ経済パネルデータに適用し、これから共通ファクターを景気動向指数(Diffusion Index) として抽出した。さらにこの共通ファクター(因子) を利用して、主要マクロ経済変数の12 系列の予測およびこの予測値を用いたForward-looking型テイラールールの推定をおこなった。この推定結果から、抽出した共通ファクターは経済活動の先行指数として有用な情報を有していることが暗示された。このマクロ経済の大規模パネルデータから共通ファクターを抽出するStockand Watson (1998, 2002a,b) の手法は、近似ダイナミックファクターモデル(ApproximateDynamic Factor Model) と呼ばれる主成分分析をベースとした比較的簡単な計算で行える推定手法である。本稿では彼らの手法およびこの一連の最新研究に関するサーベイもあわせて行う。

  • 2025 年の世界経済と中国経済(中国の経済政策は現状維持可能か?)(広瀬 哲樹)(平成21年7月)

    中国・インドという「人口大国」が工業化し、グローバル化することは、歴史的変化をもたらす可能性を秘めている。こうした21世紀の趨勢の下で、中国等の四半世紀後を展望するには、非直線的、非連続的変化を考慮に加える必要があることを意味していることになる。最近5 年をとっても、大規模な検討が4つ行われている。これらでは、中国等の重要性が今後も増し続けるであろうこと、今後20年、高度成長が持続すると想定する一方、グローバルな輸出・輸入構造を正確に考慮していなかったり、先進国の反応を想定していなかったりなど楽観論と呼ばれかねない要素が基本にある。 本論文では、過去の中国等「人口大国」の経済発展が可能となった要因を抽出し、これが21世紀の趨勢の中でどのような環境変化に直面するかを新たに生産・貿易・技術の要因を明示的に考慮して評価する。課題としては、中国等の高度成長を可能としてきた輸出主導の発展政策が21世紀でも最適政策と言えるのかどうか、諸外国への影響とその反応を考慮した場合、どのようなリパーカッションがあり得るのか、中国国内、諸外国の反応も考慮に入れた場合、どのような政策の枠組みがより望ましいのかを分析する。 第1章では、本論文の分析の視点を整理し、第2章では、中国を中心とした「人口大国」の発展要因を持続性の観点から検討する。第3章では、2025年を3つのシナリオに基づき展望する。第4章で、政策選択を含む将来への課題と対応を検討する。 本論文の主な分析の結果では、これまで中国等の発展政策を成功させてきた輸出主導の政策が国内経済厚生やバランスの点、国際的な影響の点からも行き詰る可能性の高いことが明らかになる。もし、国際的にネガティブな反応に遭遇すると中国が最も厳しい結果に直面することも指摘する。これを回避するには、内需主導の効率性向上重視の政策に移行することが重要で、中国自身にも、また、国際的にもより望ましい政策選択となりうることを導出する。 これらの分析は、将来の不確実性、特に、現状の直線的延長では解析できないことから、シナリオ分析の手法とグローバルな貿易・生産均衡モデルを組み合わせて用いている。このため、これまでの研究と比較して世界の相互依存関係を明示的に捕らえることに成功している。しかしながら、シナリオの想定と実態経済との関係には様々な可能性が残されており、ここで示されたシナリオが唯一のものとは言えない。様々な可能性をより絞り込む研究は、今後の課題として残されている。

  • 「経済分析第181号(ジャーナル版)」(平成21年1月)
    (論文)
    日本企業の海外子会社からの利益送金―本社の配当政策からみた分析―(田近 栄治、布袋 正樹)
    わが国家計の消費税負担の実態について(八塩 裕之、長谷川 裕一)
    教育の生産関数の推計―中高一貫校の場合(小塩 隆士、佐野 晋平、末富 芳)
    日本企業における資金調達行動(坂井 功治)
    内航貨物輸送における参入規制の影響分析(細江 宣裕)
    (研究ノート)
    利子所得・配当所得・株式等の譲渡所得の実効税率の計測(関田 静香)
    (調査)
    「ワーク・ライフ・バランスと生産性に関する調査」の概要(山田 亮、吉田 美幸)

<報告書の掲載>


【最新の統計】

<SNA統計>

<景気動向指数>6月速報(平成21年8月6日)

  • 6 月のCI(速報値・平成17 年=100)は、先行指数:79.8 、一致指数:87.8、遅行指数:83.3 となった。
    先行指数は、前月と比較して2.9 ポイント上昇した。3 ヶ月後方移動平均は1.43 ポイント上昇し、2 ヶ月連続の上昇、7 ヶ月後方移動平均は0.19 ポイント下降し、36 ヶ月連続の下降となった。
    一致指数は、前月と比較して0.7 ポイント上昇した。3 ヶ月後方移動平均は1.00 ポイント上昇し、2 ヶ月連続の上昇、7 ヶ月後方移動平均は0.77 ポイント下降し、16 ヶ月連続の下降となった。
    遅行指数は、前月と比較して0.8 ポイント下降した。3 ヶ月後方移動平均は1.50 ポイント下降し、18 ヶ月連続の下降、7 ヶ月後方移動平均は1.67 ポイント下降し、26 ヶ月連続の下降となった。
  • 一致指数の基調判断
    景気動向指数(CI一致指数)は、下げ止まりを示している。

<機械受注統計調査報告>6月実績および7~9月見通し(平成21年8月10日)

  • 機械受注総額(季節調整値)の動向をみると、21年5月前月比1.5%増の後、6月は同2.3%増の1兆5,416億円となった。
  • 民間設備投資の先行指標である「船舶・電力を除く民需」の動向を見ると、21年5月前月比3.0%減の後、6月は同9.7%増の7,328億円となった。このうち、製造業は同14.6%増の2,811億円、非製造業(除く船舶・電力)は同7.3%増の4,523億円となった。
  • 4~6月をみると、受注総額は前期比6.3%減の4兆5,350億円となった。「船舶・電力を除く民需」は同4.9%減の2兆898億円、製造業は同10.8%増の7,590億円、非製造業(除船舶・電力)は同12.1%減の1兆3,266億円となった。
  • 7~9月見通しをみると、受注総額は前期比0.6%増の4兆5,627億円の見通しになっている。「船舶・電力を除く民需」は同8.6%減の1兆9,098億円、製造業は同15.0%減の6,449億円、非製造業(除船舶・電力)は同4.7%減の1兆2,649億円の見通しになっている。

<消費動向調査>7月調査(平成21年8月11日)

  • 平成21年7月の一般世帯の消費者態度指数(原数値)は、6月の37.6から1.8ポイント上昇し39.4となった。
  • また、消費者(一般世帯)を対象に、世帯として「日頃よく購入する品物」の価格について1年後の見通しを調査したところ、「変わらない」と思うとの回答割合が前月に比べ増加し31.7%となった。一方、「低下する」と思うとの回答割合は減少し17.2%、「上昇する」と思うとの回答割合も減少し41.7%となった。

【参考】<月例経済報告>8月(平成21年8月11日)

  • 景気は、厳しい状況にあるものの、このところ持ち直しの動きがみられる。
    • 輸出、生産は、持ち直している。
    • 企業収益は、極めて大幅に減少している。設備投資は、大幅に減少している。
    • 雇用情勢は、急速に悪化しており、厳しい状況にある。
    • 個人消費は、このところ持ち直しの動きがみられる。
  • 先行きについては、当面、雇用情勢が悪化するなかで、厳しい状況が続くとみられるものの、在庫調整の一巡や経済対策の効果に加え、対外経済環境の改善により、景気は持ち直しに向かうことが期待される。一方、生産活動が極めて低い水準にあることなどから、雇用情勢の一層の悪化が懸念される。加えて、世界的な金融危機の影響や世界景気の下振れ懸念など、景気を下押しするリスクが存在することに留意する必要がある。

<統計調査公表予定一覧>

<統計調査公表予定一覧>
景気動向指数
速報
景気動向指数
改訂状況
機械受注統計
調査
消費動向調査
(全国・月次)
法人企業景気
予測調査
8月6日
(6月分)
8月18日
(6月分)
8月10日
(6月分)
8月11日
(7月分)
9月9日
(7月分)
9月18日
(7月分)
9月10日
(7月分)
9月11日
(8月分)
9月17日
(7~9月期)
10月7日
(8月分)
10月20日
(8月分)
10月9日
(8月分)
10月14日
(9月分)

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