ESRI通信 第13号

平成21年9月14日
内閣府経済社会総合研究所 発行
Cabinet Office, Government of Japan
Economic and Social Research Institute

【危機の景気統計】

100年に一度の危機と喧伝された景気後退も、一見、危機的様相を薄めつつある。しかし、危機をもたらした要因は本当に改善したのか、今後危機を予防するにはどうすれば良いのか、ということはこれからの検討課題である。これらの問いに答えるためには様々な側面からアプローチする必要があるが、私は、景気統計が果たす役割は大きいと考えている。危機に対応し予防するための景気統計はどのようなものであるべきかというのが、危機の景気統計というタイトルの意味である 1。危機は単純には去らない。特に、危機を生じさせた経済構造は再生産する。現在日本が向かっている景気回復の姿をみていると、いつか来た道ではないかという懸念を拭えない。渦中にあってはそれと認識できない脆弱性を継続的に検証し、潜在的なリスクを評価できるような景気統計が必要ではないだろうか。

2007年10月を山とする景気後退局面において、CIは先行指数、一致指数ともタイミング良く下降し始め、後退のシグナルを適切に出したと言える。しかし、それはどちらかというと緩やかな後退を示しており、2008年9月以降の景気の急激な悪化を事前に窺わせる動きではなかった。CIのパフォーマンスとしては良好という評価が下せるが、危機の検出には足りない憾みがある。何よりも、その前の景気拡張期において、危機の萌芽が胚胎しているというシグナルを出せていればという思いが残る。

景気後退の前には、90年代の長い低迷を脱却してようやく経済が正常な姿になってきたという認識が一般的であったと思う。しかし、いまやコンセンサスになっているように、それはアメリカの住宅・消費バブルと超円安によってかさ上げされた見かけ上の「復活」であった。当時は日本経済自体がバブル的な状況とは思えなかったが、実は、持続不可能な要因に基礎を置いていたという意味でバブルだったのである。にもかかわらず、伝統的な景気の考え方では景気局面は拡張と後退の2局面としてとらえられており、どのような形であれ拡張は拡張であって、その拡張が健全なファンダメンタルズに基づくものかどうかは問われることはなかった。また、仮にバブルと気付いても、それが破裂するかどうかすら不確実であるから、常識的には「災い」を預言することはためらわれたであろう。

さらに、そうした見かけの成長を支えた要因が消滅した時に日本経済が他の国に比べて大きな打撃を受けたのは、外需から得た果実が内需、特に消費に還流するメカニズムがなかったためである。その背景には、賃金や所得分配、雇用のあり方などに関する構造的な問題があった 2。外的ショックに対して脆弱だった理由は、外需依存・内需不振を生じさせる構造的歪みなのである。

こうしたことからすると、危機を予測し回避するためには、いち経済活動が適正水準にあるのか、過熱やバブルあるいはデフレ等の状況ではないかを識別すること、に大変動が生じる可能性を新たな発想で予測し発信すること、さん経済の構造的歪みにより脆弱性を抱えていないかを不断に検証することが重要であろう。構造的歪みは、折に触れて指摘され分析されてきた。しかし、政策的アクションを引き起こすためには、継続的に検証し問題を提示する必要がある。そのためには、景気の脆弱性を表す統計として提示することが有効であると考えられる。

具体的にはどうすればよいのだろうか。もはや紙数も尽きたが、以下、断片を書きとめておく。

(1)局面分割のあり方を、従来の2局面分割ではなく、何らかの規範的基準に基づいて、景気が適正な状態にあるのか、それとも不均衡な状態にあるのかを判別することが考えられる。適正と判断される範囲(バンド)を設定し、CIなどがその範囲に収まっているかどうかをチェックするのである。

(2)CIは経済全体の平均的な変動を表現するものであるから、本来的に、危機に対する感度は下げてあると言える。新しい発想の先行指数として、ごく一部の分野や分布の端の情報だけをピックアップして、大変動に対する感度を上げた指数を作成することも考えて良いと思う。確率の低いイベントのシグナルを出すわけであるから、多くの場合は「狼少年」に終わる。したがって使い方に注意が必要であるが、政策形成のための情報として有用ではないだろうか。

(3)テクニカルな点であるが、大きなショックが従う確率分布のモデル化を研究することも重要である。大きなショックは、稀である。しかし、思っている以上に多く生じるというのも事実である。通常使われる正規分布では極端なショックの頻度を過少に見積もることは良く知られている。そこで、t分布などスソの厚い分布、レヴィ過程のようなジャンプを持つ確率過程、数十年に一度という規模の自然災害の予測などに使われる極値分布(最大値などの分布)等を試してみる価値がある。

(4)輸出偏重や雇用・分配構造の歪みが経済の脆弱性となるとすると、こうした構造的歪みを継続的に把握することにより、景気変動のリスクを評価する手法を開発することが求められる。何をもって「歪み」「脆弱性」とするかは難問であるが、金融・為替の状況、内需拡大のための環境(例えば、労働分配率、雇用の「質」(賃金水準や安定性等)、対外的な交易条件等)などをモニターすることが考えられる。これらを総合して景気の「質」を表す指数を作れないだろうかというのが秘かな野望である。

1 景気統計が危機的状況にあるということを述べることがここでの目的ではない。景気統計作成者としては、人的側面からも予算の面からも景気統計が非常に厳しい状況にあることは声を大にして訴えたい。しかし、それは別の機会に譲る。

2 ただし、市場メカニズムはすべて悪だという単純な議論を意図しているのではない。

平成21年9月

  • 内閣府 経済社会総合研究所
    景気統計部長 杉原 茂

【最新のシンポジウム・フォーラム】

<報告書の掲載>

<議事次第(配付資料)の掲載>


【最新の統計】

<SNA統計>

  • 平成21年版国民経済計算年報 参考資料等(平成21年9月3日)
  • 四半期別GDP速報(平成21年4–6月期・2次速報)(平成21年9月11日)
    1. 平成21年9月11日に公表した21年4–6月期四半期別GDP速報(2次速報)では実質GDP成長率が、0.6%(年率2.3%)と同年8月17日に公表した1次速報(実質GDP成長率0.93%(年率3.7%))と比べて下方改定となった。
    2. これは、1次速報時点では取り込むことのできなかった情報を取り込んだ結果、民間在庫品増加、民間企業設備、公的固定資本形成などの需要項目の下方改定が寄与した結果である。

<景気動向指数>7月速報(平成21年9月9日)

  • 7 月のCI(速報値・平成17 年=100)は、先行指数:83.0、一致指数:89.6、遅行指数:82.4 となった。
    先行指数は、前月と比較して2.1 ポイント上昇した。3 ヶ月後方移動平均は2.13 ポイント上昇し、 4 ヶ月連続の上昇、7 ヶ月後方移動平均は0.61 ポイント上昇し、37 ヶ月振りの上昇となった。
    一致指数は、前月と比較して1.0 ポイント上昇した。3 ヶ月後方移動平均は1.13 ポイント上昇し、 3 ヶ月連続の上昇、7 ヶ月後方移動平均は0.15 ポイント下降し、17 ヶ月連続の下降となった。
    遅行指数は、前月と比較して1.7 ポイント下降した。3 ヶ月後方移動平均は1.27 ポイント下降し、 19 ヶ月連続の下降、7 ヶ月後方移動平均は1.41 ポイント下降し、27 ヶ月連続の下降となった。
  • 一致指数の基調判断
    景気動向指数(CI一致指数)は、下げ止まりを示している。

<機械受注統計調査報告>7月実績(平成21年9月10日)

  • 機械受注総額(季節調整値)の動向をみると、21年6月前月比2.3%増の後、7月は同7.5%増の1兆6,571億円となった。
  • 民間設備投資の先行指標である「船舶・電力を除く民需」の動向を見ると、21年6月前月比9.7%増の後、7月は同9.3%減の6,647億円となった。このうち、製造業は同20.4%減の2,237億円、非製造業(除く船舶・電力)は同2.8%減の4,396億円となった。

<消費動向調査>8月調査(平成21年9月11日)

  • 平成21年8月の一般世帯の消費者態度指数(原数値)は、7月の39.4から0.7ポイント上昇し40.1となった。
  • また、消費者(一般世帯)を対象に、世帯として「日頃よく購入する品物」の価格について1年後の見通しを調査したところ、「低下する」と思うとの回答割合が前月に比べ減少し15.5%となり、「変わらない」と思うとの回答割合も減少し30.0%となった。一方、「上昇する」と思うとの回答割合は増加し45.5%となった。

【参考】<月例経済報告>9月(平成21年9月8日)

  • 景気は、失業率が過去最高水準となるなど厳しい状況にあるものの、このところ持ち直しの動きがみられる。
    • 輸出、生産は、持ち直している。
    • 企業収益は、大幅な減少が続いているが、そのテンポは緩やかになっている。設備投資は、減少している。
    • 雇用情勢は、一段と厳しさを増している。
    • 雇個人消費は、このところ持ち直しの動きがみられる。
  • 先行きについては、当面、雇用情勢が悪化するなかで、厳しい状況が続くとみられるものの、在庫調整の一巡や経済対策の効果に加え、対外経済環境の改善により、景気は持ち直しに向かうことが期待される。一方、生産活動が極めて低い水準にあることなどから、雇用情勢の一層の悪化が懸念される。加えて、世界的な金融危機の影響や世界景気の下振れ懸念など、景気を下押しするリスクが存在することに留意する必要がある。

<統計調査公表予定一覧>

<統計調査公表予定一覧>
景気動向指数
速報
景気動向指数
改訂状況
機械受注統計
調査
消費動向調査
(全国・月次)
法人企業景気
予測調査
9月9日
(7月分)
9月18日
(7月分)
9月10日
(7月分)
9月11日
(8月分)
9月17日
(7~9月期)
10月7日
(8月分)
10月20日
(8月分)
10月9日
(8月分)
10月14日
(9月分)
11月6日
(9月分)
11月19日
(9月分)
11月11日
(9月分)
11月13日
(10月分)

SNA(QE)統計の公表予定はこちらから


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