ESRI通信 第14号

平成21年10月15日
内閣府経済社会総合研究所 発行
Cabinet Office, Government of Japan
Economic and Social Research Institute

【巻頭言】

ドイツの天文学者ヨハネス・ケプラーは、17世紀、膨大な天文観測の資料を解析しケプラーの法則を発見した。この法則は、ガリレオの地動説やニュートンの万有引力の法則にも影響を与えることになる。ケプラーが解析した資料とは、デンマーク生まれの天文学者ティコ・ブラーエが、生涯をかけて天体の運行等を記録したものであった。

ニュージーランド出身の経済学者アルバン・フィリップスは、1958年に発表した論文で、賃金上昇率と失業率の間に右下がりの曲線で表されるようなトレードオフの関係があることを示した。フィリップスの論文は、1862年~1957年のイギリスの統計をもとに作成されたものであった。

ティコが記録を残したのは地動説を立証するためにではなかった。イギリスで賃金の記録を残したのはフィリップス曲線を描くためにではなかった。しかし、蓄積した記録や統計は天動説や経済学の常識を打ち破り、科学技術や経済政策を発展させるのに大きく貢献した。

いずれも、よく知られた事柄ではあるが、観測された事実を理論的にどう解明するかというのは、いつの日も研究の大きなテーマとなる。経済社会に関する政策研究等にとって、統計の重要性を強調しすぎることはない。その統計調査が、今誰もが認めるように難しい環境に置かれている。こうした中で個人や企業の調査に携わっておられる方々に、また調査票記入等のために貴重な時間を割いてくださる皆様に、あらためて深い敬意を表するものである。

平成21年10月

  • 内閣府 経済社会総合研究所
    総括政策研究官 私市 光生

【最新の研究発表】

  • 知識スピルオーバーが企業の生産性に与える影響分析(中野 諭、伊藤 萬里)(平成21年9月)

    本研究は、日本の1995年~2005年までの企業データを利用して、知識スピルオーバーによる企業パフォーマンスへの影響を分析する。4つのパターンの知識スピルオーバー指標を推計し、その存在が企業の生産性向上に寄与するのか、寄与するならばその貢献はどの程度なのかという2つの課題について定量的な分析結果を提示する。分析結果によれば、知識スピルオーバーの存在は企業のパフォーマンスに寄与し、その貢献度は無視できないことが示されている。したがって、企業の研究開発活動を促進する政策を実施することによって、自らの研究開発を通して生産性が改善するとともに、企業の技術交流を通して他者の研究開発活動が自らの生産性向上に寄与するポテンシャルが残されていると考えられる。

  • 公的R&D資金受入れが企業のR&D活動に与える影響:日本企業の個票データを利用した実証分析(伊藤 萬里、中野 諭)(平成21年9月)

    本稿は、日本の1995年~2005年までの企業データを利用して、公的R&D資金受入れによる企業のR&D活動への影響を分析する。分析では、量的な影響として、1.公的R&D資金の投入が企業の自社R&D投資をクラウド・アウトするのか、質的な影響として、2.社会的収益が大きいとされる分野へのR&D活動を活発にするのかという2つの実証的課題を扱う。こうした影響評価の分析には、公的R&D資金の支給対象となるか否かという選抜過程において、もともとパフォーマンスの優れた企業が選抜されていることによるセレクション・バイアスの問題があり、受入企業と非受入企業の単純な比較は適切ではない。本研究では、この問題に対処するため、因果関係を明らかにすることが可能なプロペンシティ・スコア・マッチングを分析手法に導入している。実証分析の結果は、公的R&D資金の投入が企業のR&D投資を平均的にクラウド・アウトしないこと、社会的に影響の大きいと考えられる環境や情報通信技術などの特定分野への企業のR&D活動を促進することを示している。

  • DAC諸国のODA支出とGDPなどの経済指標との相関・因果関係に関する分析:GDPはどこまでODA支出を説明できるか(大村 昌弘)(平成21年9月)

    ODAに関する国際目標が、もっぱらドナー国のODA支出とGDPとの関係に注目していることの妥当性に関して過去のデータに基づいて検証した。クロスセクション分析では、各種説明変数の中でGDPの説明力が際立って高く、租税負担率、経常収支、失業率、公的債務が次ぐ。ODAとGDPとの単回帰分析では、GDPの回帰係数が、1990年代初頭以降1997年まで下降し、その後安定、2002年以降持ち直した趨勢が明らかとなった。こうした傾向は、 1990年代前半において国際援助理念が模索期にあったこと、また、2000年代に入りモンテレー合意に象徴されるように各国の援助コミットメントが再確認されたことと平仄が合っている。パネルデータ分析においては、GDPのみを説明変数とするモデルの説明力が一番高く、GDP、公的債務、財政収支、経常収支の4変数を用いるモデルがそれに次ぐ。1変数モデルにおいて、GDPの回帰係数は、0.2077であり、DAC諸国のGDPが100億ドル増加すると、ODA支出が2077万ドル増加することになる。GDP以外では、公的債務、財政収支、経常収支についてその順序で説明力が認められた。時系列分析では、重回帰における説明変数の中で、GDPが最も多くのケースで採用され、租税負担率、経常収支、失業率、公的債務が次ぐ。DAC等において、GDPと ODA支出との関係に注目し、国際目標を作成したり、その比率をモニターすることには妥当性があると言えよう。しかし、GDP以外の経済指標(パネルデータ分析によれば、公的債務、財政収支、経常収支、回帰分析によれば、租税負担率、経常収支、失業率、公的債務)にも比較的強い説明力が認められるので、これら指標の動向にもしかるべく留意することが適当である。


【最新の統計】

<SNA統計>

<景気動向指数>8月速報(平成21年10月7日)

  • 8 月のCI(速報値・平成17 年=100)は、先行指数:83.3、一致指数:91.4、遅行指数:83.8 となった。
    先行指数は、前月と比較して0.8 ポイント上昇した。3 ヶ月後方移動平均は1.86 ポイント上昇し、 5 ヶ月連続の上昇、7 ヶ月後方移動平均は1.02 ポイント上昇し、2 ヶ月連続の上昇となった。
    一致指数は、前月と比較して1.6 ポイント上昇した。3 ヶ月後方移動平均は1.33 ポイント上昇し、 4 ヶ月連続の上昇、7 ヶ月後方移動平均は0.49 ポイント上昇し、18 ヶ月振りの上昇となった。
    遅行指数は、前月と比較して1.0 ポイント上昇した。3 ヶ月後方移動平均は0.10 ポイント下降し、 20 ヶ月連続の下降、7 ヶ月後方移動平均は1.02 ポイント下降し、28 ヶ月連続の下降となった。
  • 一致指数の基調判断
    景気動向指数(CI一致指数)は、下げ止まりを示している。

<機械受注統計調査報告>8月実績(平成21年10月9日)

  • 機械受注総額(季節調整値)の動向をみると、21年7月前月比7.5%増の後、8月は同1.9%減の1兆6,255億円となった。
  • 民間設備投資の先行指標である「船舶・電力を除く民需」の動向を見ると、21年7月前月比9.3%減の後、8月は同0.5%増の6,681億円となった。このうち、製造業は同4.9%増の2,346億円、非製造業(除く船舶・電力)は同0.6%減の4,368億円となった。

<消費動向調査>9月調査(平成21年10月14日)

  • 平成21年9月の一般世帯の消費者態度指数(原数値)は、8月の40.1から0.4ポイント上昇し40.5となった。
  • また、消費者(一般世帯)を対象に、世帯として「日頃よく購入する品物」の価格について1年後の見通しを調査したところ、「低下する」と思うとの回答割合が前月に比べ増加し15.8%となり、「変わらない」と思うとの回答割合も増加し30.7%となった。一方、「上昇する」と思うとの回答割合は減少し43.4%となった。

<法人企業景気予測調査>7~9月期調査(平成21年9月17日)

  • 21年7-9月期の「貴社の景況判断」BSIを全産業で見ると、大企業は「上昇」超、中堅企業、中小企業は「下降」超となっている。
    先行きを全産業で見ると、大企業は「上昇」超で推移する見通し、中堅企業、中小企業は「下降」超で推移する見通しとなっている。
  • 21年9月末時点の「従業員数判断」BSIを全産業でみると、大企業、中堅企業、中小企業いずれも「過剰気味」超となっている。

【参考】<月例経済報告>9月(平成21年9月8日)

  • 景気は、失業率が過去最高水準となるなど厳しい状況にあるものの、このところ持ち直しの動きがみられる。
    • 輸出、生産は、持ち直している。
    • 企業収益は、大幅な減少が続いているが、そのテンポは緩やかになっている。設備投資は、減少している。
    • 雇用情勢は、一段と厳しさを増している。
    • 個人消費は、このところ持ち直しの動きがみられる。
  • 先行きについては、当面、雇用情勢が悪化するなかで、厳しい状況が続くとみられるものの、在庫調整の一巡や経済対策の効果に加え、対外経済環境の改善により、景気は持ち直しに向かうことが期待される。一方、生産活動が極めて低い水準にあることなどから、雇用情勢の一層の悪化が懸念される。加えて、世界的な金融危機の影響や世界景気の下振れ懸念など、景気を下押しするリスクが存在することに留意する必要がある。

<統計調査公表予定一覧>

<統計調査公表予定一覧>
景気動向指数
速報
景気動向指数
改訂状況
機械受注統計
調査
消費動向調査
(全国・月次)
法人企業景気
予測調査
10月7日
(8月分)
10月20日
(8月分)
10月9日
(8月分)
10月14日
(9月分)
11月6日
(9月分)
11月19日
(9月分)
11月11日
(9月分)
11月13日
(10月分)
12月8日
(10月分)
12月17日
(10月分)
12月10日
(10月分)
12月11日
(11月分)
12月24日
(10~12月期)

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