ESRI通信 第15号

平成21年 11月16日
内閣府経済社会総合研究所 発行
Cabinet Office, Government of Japan
Economic and Social Research Institute

【経済社会総合研究所に求められるもの】

経済社会総合研究所には、四回目の勤務になる。今まで研究所の内から外へ、外から内へと移りながら、大学・民間研究機関・各省庁の研究に携わる方々と研究所の役割、研究所は何をすべきか、について意見交換をしてきた。そのような議論を踏まえると、国民が経済社会総合研究所に期待していることは、次に挙げる四点くらいに集約できるのではないか。

第1には、レベルの高い研究を行うことである。経済社会総合研究所は政策決定に近い場にあり、政策決定に関してそれへの知的サポートの役割を担っている。その意味からも国民が納得するようなレベルの高い研究が求められているといえよう。内外の研究機関との交流や研究官自身のネットワークを通じて、最先端・新潮流の研究に接し、評価することにより、また自らもそれを踏まえた研究を行うことによってレベルの高い成果を挙げていく必要がある。

第2には、政策判断に役立つ研究を行うことである。経済社会総合研究所は、その性格上自然科学や人文科学といった基礎研究は行っていない。平成13年に経済企画庁の経済研究所が現在の経済社会総合研究所に改組・拡充され、これまで経済政策が中心であった研究課題に、科学技術、少子化などの分野が加わった。時々の政策課題に応じて、政策担当部局との意見交換も通じて、研究課題の設定が行われている。

第3に、タイムリーな(優先順位の高い)研究を行うことである。レベルの高い、政策判断に役立つ研究も、それが適切なタイミングで提供されないと意味が薄れてしまうであろう。通常は研究に着手してから成果が得られるまでには1年程度かかることを考えるとこのことは決して容易ではない。研究目的の設定にあたっては「1年後にどのような政策イシューが浮上しているか」という先読みが求められる。一方で研究課題の設定に当たってあまりにも予想屋のようになってしまっては研究機関としては本末転倒となろう。

第4に、研究を行う視点として公正・中立であり偏っていない、ことである。社会科学においては、特定の理論、政策を巡って互いに対立する立場から、学会・メディア等において論争が行われることがある。このような問題について、公正・中立という観点からはどう扱うべきであろうか。扱わないことが中立であるという考えは、建設的な論争の重要性が増してきた現在に於いては、消極的に過ぎよう。対立する考え方がある場合は、それぞれの立場を明確にした論文をつきあわせた上で、できる限りevidence baseで評価を行うことが必要であろう。論点を明確にして議論することは「フォーラム」などの場ではかなり進められてきている。今後は「論文」の分野に於いてもこのような方式の重要性が増していくものと考えている。

本文が掲載されているこのホームページには経済社会総合研究所の今までの研究成果が全て掲示されている。個々の研究を注意深く読んで頂ければ、上に四つ挙げた要因は概ね満たしている確信はある。ただし個人にとっては、自分の専門分野を除けば、広範な研究分野にわたってそのような判断を下すことはなかなか困難なことであろうと思う。

その意味で、重要なのは経済社会総合研究所の研究成果に対する国民の信頼であり、それは私たち研究所の一人一人が丹念に成果をまとめ、それを一つ一つ丁寧に発表・説明していくことによってのみ培われていくものであろう。

平成21年11月

  • 内閣府 経済社会総合研究所
    総括政策研究官 飛田 史和

【最新の研究発表】

  • DSGEモデルにおけるトレンドの処理について:日本経済への応用(ステファン アジェミアン、ミシェル ジュイヤール)(平成21年10月)(本文は英語)

    本稿は、DSGEモデルにおけるトレンド処理の方法論を提示するものである。DSGEモデルは、循環的なダイナミクスとともに長期の成長を扱うため、統一的なフレームワークで双方を処理することが望ましい。この場合、2つの異なる問題に対処する必要がある。一つは、均斉成長モデルの頑健な局所近似に関する問題だが、これはモデルを定常化させ、直接(対数)線形のトレンドを用いるという通常の方法で解決される。もう一つが、データにおけるレベルの推計を行うという問題である。データが定常ではない場合、例えばKoopman and Durbin (2003)が提案したように、拡散カルマン・フィルターを用いる必要がある。本稿では、共和分変数へのよりよい対処法として、このフィルターの修正・応用を提案する。例示として、消費の習慣形成、および財市場と労働市場における調整コストと名目粘着性を取り入れた中規模のニューケインジアン・モデルを用い、日本のデータで推計を行った。近年、日本の金融政策が直面している名目ゼロ金利制約を考慮するため、金利についてはその対数を使ってモデル化することを試みた。この方法は完全と言えるものではないが、名目金利がマイナスの値をとることを回避しつつ、局所近似を行うことを可能にする。

  • DSGE–VARモデルの日本のマクロデータへの応用(渡部 敏明)(平成21年10月)

    DSGEモデルでは、モデルのパラメータをベイズ推定するときの事前分布をあたかもモデルから人工的なデータを発生させたものとして選択する。モデルをより信頼する場合には、モデルからより多くのデータを発生させればよい。そこで、モデルから発生させるデータ数を変えて推定し、周辺尤度によってモデルのフィットの良さを比較することにより、モデルからの事前情報がモデルの推定にどれだけ有用か、言い換えると、モデルの定式化がどの程度正しいかを分析できる。本稿では、こうしたモデルについて解説を行うとともにモデルの日本のマクロデータへの応用を行った。本稿では、DSGEモデルとして Christiano , Eichenbaum and Evans[CEE,2005] で提案されている物価・賃金硬直性、消費の習慣形成、投資の調整コストなど、様々な市場の摩擦を加えたニュー・ケインジアン・モデルを用いている。CEEモデルをDSGEモデルとしたDSGE–VARモデルを日本のゼロ金利前のマクロデータに当てはめた結果、CEEモデルは定式化の誤りはあるものの、有用な情報を含んでいるとの結果が得られた。これは、Del Negro et al.[2006]ら米国のマクロデータについての結果と同様である。

  • 増え続ける米国人口とその要因:人種・エスニシティ・宗教における多様性(是川 夕、岩澤 美帆)(平成21年11月)

    米国の総人口は2006年10月に3億人を突破し,人口増加のペースが依然として衰えていないことを示した。本稿では,多くの先進国が人口置き換え水準を大幅に下回る出生力低下を経験し,人口減少局面に突入,あるいは減少を目前にしているさなか,なぜ,米国だけが例外的に人口増加を続けるのかといった疑問に答えを出すべくことを目的とする。特に、米国における主に1990年代以降の人口動態の特徴を出生、死亡,移動についてそれぞれ検討した。補論では、カナダと米国の比較を論じている。米国の人口動態は他の先進諸国と比較して「例外的」とされることが多い。しかし米国人が平均的に特異であるというのではなく,人口動態行動を異にする多様な集団が存在する結果であることを理解する必要がある。例えば、米国の合計出生率は,戦後,18年間という非常に長期にわたるベビーブームを経験した後低下局面を迎えたものの,90年代以降は人口置換水準前後で安定的に推移している。他の先進国と比較して高いこうした出生力の背景には,一部の人種・エスニシティ,宗教人口における著しく高い出生力および,米国特有の柔軟かつ適応的な社会のしくみが深く関わっている。また,米国の死亡率が他の先進諸国と比較して高いことも,出生力と同様,人口集団間で死亡率に格差があることが背景にある。これらに加えて,米国は年間 100万人程度の移民を受け入れている。移民は再生産年齢の途上にある若年層が多く出生力も高い。したがって,人口の再生産に大きく貢献する結果となっている。今後の米国は,単に人口が増えるだけでなく,人口構造にも変化をもたらすことが予想されるが,サブグループ間で行動の格差が縮小する側面がある一方で,より格差が顕著になる側面も存在し,その方向性については,むしろ不確実性が高まっている。


【最新の統計】

<SNA統計>

  • 平成21年4–6月期「民間企業資本ストック速報」における除却額の推計方法について(平成21年10月16日)
  • 四半期別民間企業資本ストック速報(平成21年4-6月期)(平成21年10月20日)
    • 1.有形固定資産 全産業(進捗ベース)
      • 21年6月末のストックは1,199.2兆円、前年同期比0.1%増となり、前期の伸び(0.6%増)を下回った。
      • 21年4~6月の新設投資額は14.1兆円、同25.3%減となり、4期連続のマイナスとなった(前期21.6%減)。
    • 2.無形固定資産 全産業(取付ベース)
      • 21年6月末のストックは36.1兆円、前年同期比0.7%増となり、前期の伸び(1.0%増)を下回った。
      • 21年4~6月の新設投資額は1.4兆円、同3.3%減となり、3期連続のマイナスとなった(前期6.2%減)。
  • 平成21年度 民間企業投資・除却調査 ご協力のお願い(平成21年11月2日)
  • 国家石油製品備蓄の導入に伴う公的在庫品増加の推計方法の変更について(平成21年11月6日)
  • 四半期別GDP速報(平成21年7-9月期・1次速報)(平成21年11月16日)

    1.平成21年11月16日に公表した21年7-9月期四半期別GDP速報(1次速報)では実質GDP成長率が、1.2%(年率4.8%)と同年9月11日に公表した4-6月期四半期別GDP速報(2次速報)に引き続きプラス成長となった。

    2.これは、民間最終消費支出、民間在庫品増加、外需、民間企業設備などの需要項目がプラスに寄与した結果である。

<景気動向指数>9月速報(平成21年11月6日)

  • 9 月のCI(速報値・平成17 年=100)は、先行指数:86.4、一致指数:92.5、遅行指数:84.5 となった。
    先行指数は、前月と比較して3.2 ポイント上昇した。3 ヶ月後方移動平均は1.83 ポイント上昇し、6 ヶ月連続の上昇、7 ヶ月後方移動平均は1.76 ポイント上昇し、3 ヶ月連続の上昇となった。
    一致指数は、前月と比較して1.3 ポイント上昇した。3 ヶ月後方移動平均は1.30 ポイント上昇し、5 ヶ月連続の上昇、7 ヶ月後方移動平均は1.04 ポイント上昇し、2 ヶ月連続の上昇となった。
    遅行指数は、前月と比較して0.3 ポイント上昇した。3 ヶ月後方移動平均は0.14 ポイント上昇し、2 ヶ月連続の上昇、7 ヶ月後方移動平均は0.73 ポイント下降し、29 ヶ月連続の下降となった。
  • 一致指数の基調判断
    景気動向指数(CI一致指数)は、上方への局面変化を示している。

<機械受注統計調査報告>9月実績および10~12月見通し(平成21年11月11日)

  • 機械受注総額(季節調整値)の動向をみると、21年8月前月比1.9%減の後、9月は同6.0%増の1兆7,232億円となった。
  • 民間設備投資の先行指標である「船舶・電力を除く民需」の動向を見ると、21年8月前月比0.5%増の後、9月は同10.5%増の7,380億円となった。このうち、製造業は同0.1%減の2,343億円、非製造業(除く船舶・電力)は同18.0%増の5,154億円となった。
  • 7~9月をみると、受注総額は前期比10.4%増の5兆57億円となった。「船舶・電力を除く民需」は同0.9%減の2兆708億円、製造業は同8.7%減の6,926億円、非製造業(除船舶・電力)は同4.9%増の1兆3,919億円となった。
  • 10~12月見通しをみると、受注総額は前期比1.1%減の4兆9,513億円の見通しになっている。「船舶・電力を除く民需」は同1.0%増の2兆924億円、製造業は同0.4%増の6,954億円、非製造業(除船舶・電力)は同1.3%増の1兆4,099億円の見通しになっている。

<消費動向調査>10月調査(平成21年11月13日)

  • 平成21年10月の一般世帯の消費者態度指数(原数値)は、9月と同水準の40.5となった。
  • また、消費者(一般世帯)を対象に、世帯として「日頃よく購入する品物」の価格について1年後の見通しを調査したところ、「低下する」と思うとの回答割合が前月に比べ増加し18.3%となり、「変わらない」と思うとの回答割合も増加し33.2%となった。一方、「上昇する」と思うとの回答割合は減少し39.4%となった。

【参考】<月例経済報告>10月(平成21年10月16日)

  • 景気は、持ち直してきているが、自律性に乏しく、失業率が高水準にあるなど依然として厳しい状況にある。
    • 輸出は、アジア向けを中心に、増加している。生産は、持ち直している。
    • 企業収益は、大幅な減少が続いているが、そのテンポは緩やかになっている。設備投資は、減少している。
    • 企業の業況判断は、依然として厳しい状況にあるものの、全体として持ち直しの動きが続いている。ただし、中小企業ではそのテンポは遅い。
    • 雇用情勢は、悪化傾向が続いており、極めて厳しい状況にある。
    • 個人消費は、持ち直しの動きが続いている。
  • 先行きについては、当面、雇用情勢が悪化傾向で推移するものの、海外経済の改善などを背景に、景気の持ち直し傾向が続くことが期待される。一方、雇用情勢の一層の悪化や海外景気の下振れ懸念、金融資本市場の変動の影響など、景気を下押しするリスクが存在することに留意する必要がある。

<統計調査公表予定一覧>

<統計調査公表予定一覧>
景気動向指数
速報
景気動向指数
改訂状況
機械受注統計
調査
消費動向調査
(全国・月次)
法人企業景気
予測調査
11月6日
(9月分)
11月19日
(9月分)
11月11日
(9月分)
11月13日
(10月分)
12月8日
(10月分)
12月17日
(10月分)
12月10日
(10月分)
12月11日
(11月分)
12月24日
(10~12月期)
1月8日
(11月分)
1月21日
(11月分)
1月14日
(11月分)
1月19日
(12月分)

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