ESRI通信 第18号

平成22年 2月15日
内閣府経済社会総合研究所 発行
Cabinet Office, Government of Japan
Economic and Social Research Institute

【経済理論におけるミクロとマクロ】

もう30年以上前になる。入学した大学の各学部紹介冊子の物理学科分に、以下のような記述があった。「古典力学(含む解析力学)と量子力学はミクロ現象のミクロ的把握、熱力学はマクロ現象のマクロ的把握、統計力学はマクロ現象のミクロ的把握を行うもので、特殊・一般相対性理論はミクロ・マクロを問わず適用される。」経済学部分は失念した。

経済理論は、物理学をお手本に作られてきたと言われる。単体のニュートン力学(古典力学)に対応するのは、経済学ではミクロ経済学の個別市場均衡論か。「プリンキピア」は1687年、その後約百年を経て「国富論」が1776年。古典力学のうちの解析力学に対応するのは、経済理論では一般均衡理論であり、1788年のラグランジュ「解析力学」から、これまた約百年後の1874年に、ワルラスの「純粋経済学要論」が出た。これは20世紀に入り、大戦前後にアロー、ドブリューらにより数学的に更に精緻化された。以上、いずれも、ミクロ現象のミクロ的把握なのは同じである。

一方、ワルラスと同時代に、物理学ではマクロ現象を把握する理論が進展した。1865年にはクラウジウスによりエントロピーが定式化された。エントロピーの変化S=Q/Tとするものである(Qは系に出入りする熱量、Tは系の絶対温度)。いずれもマクロ的に観測・把握される量であり、こうした量の間の関係を現象論的に定式化した。マクロ現象のマクロ的把握である。このエントロピーにミクロ的基礎を与えたのが1877年にボルツマンが見出したS=klogWである。エントロピーSはマクロ的量であるが、Wは1023 個オーダーの数の原子や分子がとりうる状態数であり、ミクロの量である。kは定数(ボルツマン定数)。この式により、マクロ的現象がミクロ的に把握されたことになる。

対する経済理論は、消費者なら一億人(108 )オーダーのマクロ現象を扱う。マクロ経済学を確立したのはケインズの「一般理論」(1936)であろう。「ケインズ経済学」はマクロ経済学の代名詞ともなり、1960年代ころまでは学会の主流を占めた。しかし、1970年代ころからこれを否定する動きが強まり、現在では、学会では「ケインズ経済学は死んだ」ようである。ただし、否定されたのは、財政出動による景気微調整などがその内容と解釈された「ケインズ経済学」であり、マクロ経済理論自体は現在でも米国を中心に盛んに研究されている。

実は、代表的な「マクロ」経済理論は、マクロ的現象の把握という点では極めて奇妙な代物である。代表的個人(representative agent)なるものを登場させ、これにミクロ経済の消費者行動理論等を適用して分析を行い、ミクロ的基礎(micro-foundation)付けがあるとする。これでは、ミクロ的現象のミクロ的把握を以ってマクロ現象を把握したとするのと同じである。物理学で言えば、コップ一杯の水のマクロ的挙動(相転移、対流など)を説明するために、「代表的原子(representative atom)?」を持ち出してニュートンの運動方程式(量子力学のシュレーディンガー方程式でも同じこと)を適用して解いて、「マクロ現象を把握した」としているようなものである。物理学なら噴飯ものである。1023 個のオーダーの数の原子・分子全体の挙動である相転移や対流などマクロ的現象はニュートンの運動方程式を解いて説明できるものではない。これを説明するのは、マクロ現象のマクロ的把握としての熱力学であり、マクロ現象のミクロ的把握としての統計物理学である。最近の「ミクロ的基礎付けのあるマクロ経済理論」は、「熱力学」と「ニュートン力学」を混同(対象としてのミクロとマクロを混同)しているだけでなく、「統計物理学」に相当するものがない(マクロ現象のミクロ的把握がない。ただし、最近になってやっと、青木正直教授や吉川洋教授によるマクロ経済理論への統計物理学的アプローチが提唱されている。)。

では、マクロ経済政策の立案者や、当方のような政策立案の基盤を提供するのが目的の研究所は、どういうマクロ経済理論に立脚すれば良いか?1990年頃にマンキュー教授が、「マクロ経済の実務ではIS・LM分析の枠組みや計量モデルが依然として使われる一方、学会ではこれを全く無視して論争が続いているが、実務家も役に立つ理論は使えばよい」との趣旨を表明しており、これは今でも該当するのではないか。  当研究所でも、ミクロ経済理論はもちろん、マクロ経済理論についても、実務で従来から有効性が確認され使われてきているものは引き続き活用するとともに、学会の最新のマクロ理論も、実務に有効なものはどんどん使わせていただく、ということなのであろう。

平成22年2月

  • 内閣府 経済社会総合研究所
    総務部長 市川 正樹

【最新の研究発表】

<報告書の掲載>


【最新のシンポジウム・フォーラム】

<開催案内>


【最新の統計】

<SNA統計>

<景気動向指数>12月速報(平成22年2月5日)

  • 12 月のCI(速報値・平成17 年=100)は、先行指数:94.0、一致指数:97.6、遅行指数:84.3 となった。
    先行指数は、前月と比較して3.0 ポイント上昇し、10 ヶ月連続の上昇となった。3 ヶ月後方移動平均は2.13 ポイント上昇し、9 ヶ月連続の上昇、7 ヶ月後方移動平均は2.28 ポイント上昇し、6 ヶ月連続の上昇となった。
    一致指数は、前月と比較して1.6 ポイント上昇し、9 ヶ月連続の上昇となった。3 ヶ月後方移動平均は1.47 ポイント上昇し、8 ヶ月連続の上昇、7 ヶ月後方移動平均は1.45 ポイント上昇し、5 ヶ月連続の上昇となった。
    遅行指数は、前月と比較して1.4 ポイント上昇し、2 ヶ月振りの上昇となった。3 ヶ月後方移動平均は0.40 ポイント上昇し、2 ヶ月ぶりの上昇、7 ヶ月後方移動平均は0.03 ポイント上昇し、32 ヶ月振りの上昇となった。
  • 一致指数の基調判断
    景気動向指数(CI一致指数)は、改善を示している。

<機械受注統計調査報告>12月実績および平成22年1~3月見通し(平成22年2月10日)

  • 機械受注総額(季節調整値)の動向をみると、21年11月前月比8.0%減の後、12月は同21.2%増の1兆9,830億円となった。
  • 民間設備投資の先行指標である「船舶・電力を除く民需」の動向を見ると、21年11月前月比11.3%減の後、12月は同20.1%増の7,512億円となった。このうち、製造業は同17.1%増の2,814億円、非製造業(除く船舶・電力)は同22.9%増の4,679億円となった。
  • 10~12月をみると、受注総額は前期比7.8%増の5兆3,973億円となった。「船舶・電力を除く民需」は同0.5%増の2兆810億円、製造業は同17.8%増の8,155億円、非製造業(除船舶・電力)は同8.4%減の1兆2,747億円となった。
  • 22年1~3月見通しをみると、受注総額は前期比1.9%減の5兆2,939億円の見通しになっている。「船舶・電力を除く民需」は同2.0%増の2兆1,225億円、製造業は同2.3%増の8,340億円、非製造業(除船舶・電力)は同3.5%増の1兆3,192億円の見通しになっている。
  • 平成21年実績をみると、受注総額は前年比31.8%減の19兆8,702億円になっている。「船舶・電力を除く民需」は同26.9%減の8兆4,762億円、製造業は同42.3%減の2兆9,668億円、非製造業(除船舶・電力)は同15.1%減の5兆5,409億円になっている。

<消費動向調査>1月調査(平成22年2月12日)

  • 平成22年1月の一般世帯の消費者態度指数(原数値)は、12月の37.6から1.4ポイント上昇し39.0となった。
  • また、消費者(一般世帯)を対象に、世帯として「日頃よく購入する品物」の価格について1年後の見通しを調査したところ、「低下する」と思うとの回答割合が前月に比べ減少し27.2%となった。一方、「上昇する」と思うとの回答割合は増加し29.9%となり、「変わらない」と思うとの回答割合も増加し33.2%となった。

【参考】<月例経済報告>1月(平成22年1月20日)

  • 景気は、持ち直してきているが、自律性に乏しく、失業率が高水準にあるなど依然として厳しい状況にある。
    • 輸出は、アジア向けを中心に、増加している。生産は、持ち直している。
    • 企業収益は、大幅な減少が続いているが、そのテンポは緩やかになっている。設備投資は、下げ止まりつつあるものの、このところ弱い動きもみられる。
    • 企業の業況判断は、依然として厳しい状況にあるものの、全体として持ち直しの動きが続いている。ただし、中小企業では先行きに慎重な見方となっている。
    • 雇用情勢は、依然として厳しい。
    • 個人消費は、持ち直しの動きが続いている。
    • 物価の動向を総合してみると、緩やかなデフレ状況にある。
  • 先行きについては、当面、厳しい雇用情勢が続くとみられるものの、海外経済の改善や緊急経済対策の効果などを背景に、景気の持ち直し傾向が続くことが期待される。一方、雇用情勢の一層の悪化や海外景気の下振れ懸念、デフレの影響など、景気を下押しするリスクが存在することに留意する必要がある。

<統計調査公表予定一覧>

<統計調査公表予定一覧>
景気動向指数
速報
景気動向指数
改訂状況
機械受注統計
調査
消費動向調査
(全国・月次)
法人企業景気
予測調査
2月5日
(12月分)
2月18日
(12月分)
2月10日
(12月分)
2月12日
(1月分)
3月9日
(1月分)
3月18日
(1月分)
3月10日
(1月分)
3月15日
(2月分)
3月18日
(1~3月期)
4月6日
(2月分)
4月21日
(2月分)
4月8日
(2月分)
4月19日
(3月分)

SNA(QE)統計の公表予定はこちらから


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