ESRI通信 第27号

平成22年11月16日
内閣府経済社会総合研究所 発行
Cabinet Office, Government of Japan
Economic and Social Research Institute

【所長挨拶】

バブル崩壊以降、長い間、日本経済は低迷期に入っています。経済成長は鈍化し、デフレも続いて失業率もなかなか下がりません。それに追い打ちをかけるように円高も進行しています。経済の低迷は、国債の累積や社会保障制度の持続可能性の問題、若者の就職など、若者から老人まで、様々な面で深刻な問題を引き起こしています。これまで一生懸命働き、世界でも有数の経済大国になったはずなのに、なぜこのようになってしまったのでしょうか。また、どう対処したらいいのでしょうか。これらは私自身の長年の研究テーマでもあります。

こうした状況は日本だけの特殊事情かと言えば、そうでもなさそうな気配が世界経済を覆い始めています。つい数年前まで順調だと思われていた米国経済やEU経済でも、2008年のリーマン・ショック以降、様々な問題が噴出しています。したがって、日本が行う経済政策の成否は、世界各国も注目しているはずです。

そうした気概を持って、当研究所が積み上げたデータ解析能力と、景気分析のノウハウを生かし、これら様々な問題について、理論と実証の両面から研究を進め、政府の政策立案に直結できる提言をしていきたいと思っています。

平成22年11月

  • 内閣府 経済社会総合研究所
    所長 小野 善康

【最新の研究発表】

  • 首都直下地震災害からの経済復興シナリオ作成の試み(永松 伸吾、林 春男)(平成22年10月)

    首都直下地震についての経済被害は直接間接合わせて112兆円と推計されている。だが、被害想定とはそもそも非常に不確実性の高い数字であり、実際にはより大規模な被害が生じる可能性もゼロではない。加えて、この数字だけでは、地震が実際の経済活動にどのような影響を与えて、その後の復興過程においてどのような問題をもたらすのかを十分にイメージすることは出来ず、具体的な対策の検討を困難にしている。本稿はこのような問題に対処するため、不確実性下の意思決定手法の一つとして経営学の分野で用いられるシナリオ・プランニングにより、首都直下地震における経済被害とその後の復興過程についてのシナリオを作成することを試みた。シナリオは、次の二つの不確実性によって4つに分類される。第一の不確実性は、我が国の財政破綻の懸念である。今後日本の財政状況がますます悪化した場合や、想定を遙かに上回る規模の地震が発生した場合は、復旧・復興資金の調達が極めて困難になる事態が想定される。第二の不確実性は、復興関連市場、特に建設業における需給ギャップである。復旧・復興需要の規模に比べて需給ギャップが十分に大きい場合は、物価上昇を伴わず速やかに住宅やインフラ・企業設備などを回復させることが出来るが、その反対に需給ギャップが小さい場合は、こうした物理的被害の回復に時間を要すると同時に、物価上昇のリスクが生じる。現時点において中央防災会議による想定規模の首都直下地震が発生した場合は、それによって日本政府が財政破綻に陥るということは考えにくいものの、他方で国内建設市場の規模はすでに阪神・淡路大震災当時の半分程度に縮小しているため、国内の物価上昇が深刻化したり物理的な復旧が遅れるなどの影響が出る恐れがある。このような事態に対処するためには、震災廃棄物の処理等で海外への支援を求めると同時に、復旧・復興事業についても海外企業への協力を求めるといった大胆な戦略についても検討する必要があるだろう。

  • 金利の期間構造モデルによる景気一致指数の予測―アフィン型マクロ・ファイナンスモデルによる接近―(市川 達夫、飯星 博邦)(平成22年10月)

    本研究では、長短スプレッドが景気循環に対して約24ヶ月の先行した周期性をもつという特徴を利用して、アフィン型の金利の期間構造モデルによる景気一致指数の予測モデルの提案と評価をおこなう。そのために Ang, Piazzesi, and Wei (2006)のマクロ・ファイナンスモデルを改良し、これに Valle e Azevedo, Koopman and Rua (2006)が提案した位相偏移をもつ多変量バンドパスフィルターを取り込こんだ予測モデルを提案する。 Ang et al. (2006) の手法は VAR (1) モデルを利用した予測法であり短期の予測には適しているが長期の予測には適していない。これに対し本研究が提案する手法はマクロ経済変数がもつ周期性と変数間のサイクルのズレ(位相偏移)を利用した予測法を採用することで、1~2年先の長期予測には適している。日本における景気一致指数(月次データ)で検証した結果、12~24ヶ月先の長期予測では本研究で提案する予測モデルは、より一層の予測精度の向上が図れることが判明した。注目すべき点はOLS推定での一致指数の12~24ヶ月先の長期予測では長短金利差の係数は負になるがマクロ・ファイナンスモデルでは正になることである。

  • 地域活性化における地域イノベーション政策の効果 —クラスター政策は開業率を押し上げるか?—(奥山 尚子)(平成22年11月)

    地域経済の活性化や国内産業の国際競争力を強化するための政策として、産業クラスターの形成を目指す政策(クラスター政策)が注目を浴びてきた。産学官の連携をベースとして、地域に新しい事業や産業が生まれるような環境づくりや、地域イノベーションのための環境づくりを支援し、新たな産業集積を起こしていくことをその目的としているが、地域活性化に対して具体的な成果をもたらしたのかについては、十分な計量的把握がなされていない。本稿では、地域活性化の成果指標として民営事業所の開業率を用いて、クラスタ―政策(「知的クラスター創成事業」「都市エリア産学官連携事業」)の実施地域と非実施地域で開業率に差があったかどうかについて実証分析を行った。分析の結果、新規創業への需要の高さや資本の蓄積の度合いや自治体の支援体制が開業を促進することが明らかになるとともに、クラスター政策の実施によって開業率を押し上げるとともに、政策実施からの経過時間が長いほどその効果が大きくなっていることが明らかになった。


【最新のシンポジウム・フォーラム】

<開催案内>

  • 参加者募集:「労働時間・生活時間の日欧比較に関するセミナー」 平成22年度「ワーク・ライフ・バランス社会の実現と生産性の関係に関する研究」(平成22年11月26日開催予定)
  • 「アジア経済:長期自律的発展の条件—APEC日本年を踏まえて—」 第45回 ESRI-経済政策フォーラム(平成22年11月19日開催)

【最新の統計】

<SNA統計>

<景気動向指数>9月速報(平成22年11月8日)

  • 9月のCI(速報値・平成17 年=100)は、先行指数:98.9、一致指数:102.0、遅行指数:88.4 となった。
    先行指数は、前月と比較して0.6 ポイント下降し、3ヶ月連続の下降となった。3ヶ月後方移動平均は0.46 ポイント下降し、4ヶ月連続の下降、7ヶ月後方移動平均は0.12 ポイント上昇し、15 ヶ月連続の上昇となった。
    一致指数は、前月と比較して1.3 ポイント下降し、18 ヶ月振りの下降となった。3ヶ月後方移動平均は0.13 ポイント下降し、17 ヶ月振りの下降、7ヶ月後方移動平均は0.37 ポイント上昇し、14 ヶ月連続の上昇となった。
    遅行指数は、前月と比較して1.0 ポイント上昇し、2ヶ月振りの上昇となった。3ヶ月後方移動平均は1.10 ポイント上昇し、3ヶ月連続の上昇、7ヶ月後方移動平均は0.58 ポイント上昇し、9ヶ月連続の上昇となった。
  • 一致指数の基調判断
    景気動向指数(CI一致指数)は、改善を示している。
    ただし、CI一致指数の3ヶ月後方移動平均の前月差が17 ヶ月振りにマイナスに転じており、足踏みの動きもみられる。

<機械受注統計調査報告> 9月実績および10~12月見通し(平成22年11月11日)

  • 機械受注総額(季節調整値)の動向をみると、22年8月前月比9.8%増の後、9月は同9.2%減の2兆33億円となった。
  • 民間設備投資の先行指標である「船舶・電力を除く民需」の動向を見ると、22年8月前月比10.1%増の後、9月は同10.3%減の7,565億円となった。このうち、製造業は同20.7%減の2,766億円、非製造業(除く船舶・電力)は同3.0%増の5,058億円となった。
  • 7~9月をみると、受注総額は前期比11.1%増の6兆2,207億円となった。「船舶・電力を除く民需」は同9.6%増の2兆3,662億円、製造業は同12.2%増の9,357億円、非製造業(除船舶・電力)は同9.9%増の1兆4,499億円となった。
  • 10~12月見通しをみると、受注総額は前期比2.0%減の6兆965億円の見通しになっている。「船舶・電力を除く民需」は同9.8%減の2兆1,354億円、製造業は同1.8%減の9,192億円、非製造業(除船舶・電力)は同15.2%減の1兆2,301億円の見通しになっている。

<消費動向調査>10月調査(平成22年11月10日)

  • 平成22年10月の一般世帯の消費者態度指数(原数値)は、9月の41.2から0.3ポイント低下し40.9となった。
  • また、消費者(一般世帯)を対象に、世帯として「日頃よく購入する品物」の価格について1年後の見通しを調査したところ、「低下する」と思うとの回答割合が前月と横ばいの13.1%となった。一方、「上昇する」と思うとの回答割合は増加し44.2%となり、「変わらない」と思うとの回答割合も増加し33.6%となった。

【参考】<月例経済報告>10月(平成22年10月19日)

  • 景気は、このところ足踏み状態となっている。また、失業率が高水準にあるなど厳しい状況にある。
    • 輸出は、このところ弱含んでいる。生産は、弱含んでいる。
    • 企業収益は、改善している。設備投資は、持ち直している。
    • 企業の業況判断は、改善している。ただし、先行きについては慎重な見方が広がってい る。
    • 雇用情勢は、依然として厳しいものの、このところ持ち直しの動きがみられる。
    • 個人消費は、持ち直している。
    • 物価の動向を総合してみると、緩やかなデフレ状況にある。
  • 先行きについては、当面は弱めの動きも見込まれるものの、海外経済の改善や各種の政策効果などを背景に、景気が持ち直していくことが期待される。一方、海外景気の下振れ懸念や為替レート・株価の変動などにより、景気がさらに下押しされるリスクが存在する。また、デフレの影響や、雇用情勢の悪化懸念が依然残っていることにも注意が必要である。

<統計調査公表予定一覧>

<統計調査公表予定一覧>
景気動向指数
速報
景気動向指数
改訂状況
機械受注統計
調査
消費動向調査
(全国・月次)
法人企業景気
予測調査
11月8日
(9月分)
11月17日
(9月分)
11月11日
(9月分)
11月10日
(10月分)
12月7日
(10月分)
12月20日
(10月分)
12月8日
(10月分)
12月10日
(11月分)
12月10日
(10~12月期)
1月11日
(11月分)
1月20日
(11月分)
1月13日
(11月分)
1月17日
(12月分)

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