ESRI通信 第29号

平成23年 1月18日
内閣府経済社会総合研究所 発行
Cabinet Office, Government of Japan
Economic and Social Research Institute

【財政政策の有効性をめぐって】

今回の世界的な金融経済危機がもたらした深刻な不況に対して、各国政府は減税や政府支出拡大といった財政刺激策を積極的に行いました。石油危機後のスタグフレーションを契機に信頼を失った財政政策に代わって、これまで長い間、金融政策がマクロ経済政策の主役であったことを考えると、これは歴史的な変化と言えるかもしれません。それでは、財政政策にはどの程度の効果があると考えられているのでしょうか。

経済社会総合研究所では、1960年代からマクロ計量モデルを用いて財政政策をはじめとする経済政策や外的経済環境の変化が日本経済に与える影響を分析してきました。現行の「短期日本経済マクロ計量モデル」は伝統的なケインジアンタイプのモデルで、四半期ベースの推定パラメータ型中規模モデルです。1998年に開発してから随時改訂を行ってきましたが、このたび、推計期間を延長して再推計を行い、最新の経済構造を反映した2011年版モデルを公表しました。

マクロ計量モデルでは、財政政策の効果を乗数で計ります。財政乗数とは、1単位の政府支出拡大や減税が国内総生産(GDP)を何単位増加させるかを見たものです。「短期日本経済マクロ計量モデル」では、例えば、政府支出を増加させたときの乗数(1年目)は1をやや上回る程度です。つまり、政府支出の拡大はそれを若干上回るGDPの増加をもたらすことになります。

ただし、財政政策の効果については、経済学者の間でも意見が分かれています。アメリカでも大規模な財政出動が行われましたが、サマーズ国家経済会議委員長(元ハーバード大学教授)、クルグマン・プリンストン大学教授などは積極財政の必要性を説いています。これに対して、バロー・ハーバード大学教授やテーラー・スタンフォード大学教授などはその効果に懐疑的な見方を示しています。マクロ計量モデルの乗数は、特定の経済理論に基づく結果ですし、政策変更による人々の行動の変化をとらえることができない(ルーカス批判)という問題もあります。また、特定の経済理論を前提としない多変量自己回帰(VAR)モデルによって日本の財政政策を分析した研究の多くは、財政政策の効果が小さいあるいは低下しているとの結論を示しています。

現在の積極的な財政政策や今後の出口戦略に伴う財政政策の転換は、財政政策に関する壮大な実験と考えることができるのではないでしょうか。現在、日本経済は不完全雇用状態にあります。金融市場は「流動性の罠」に陥り伝統的な金融政策が効力を失っています。また、デフレ懸念やリスク回避指向が強くクラウディング・アウトが生じにくい状態にあると考えられます。こうした現状に即して、財政政策にどの程度の効果があるのか、理論的にも実証的にも研究を深めていく必要があると考えています。

平成23年1月

  • 内閣府 経済社会総合研究所
    上席主任研究官 増島 稔

【最新の研究発表】

  • 景気循環の周期と位相偏移の推定–単変量および多変量バンドパスフィルタによる接近–(飯星 博邦)(平成22年12月)

    本稿の目的は、モデルベースである単変量および多変量バンドパスフィルタの日本の時系列データへの適用可能性を検証することにある。まず、本稿はHarvey and Trimbur(2003)に従い一般化バターワースーフィルタ(Generalized Butterworth Filter)と呼ばれるカルマンフィルタを利用したUnobservable Component(UC)モデルにより景気一致指数や鉱工業生産指数などの月次データのバンドバスフィルタをおこないサイクル成分の抽出をおこなった。この手法の特長は従来のHPフィルタやBKフィルタの手法と異なり、各データに応じた最適なパラメータを推定することにある。さらに、本稿ではValle e Azevedo, Koopman and Rua(2006)によりこの単変量バンドパスフィルタが多変量に拡張されたUCモデルを利用して、位相偏移(先行・遅行の大きさ)の観点から在庫循環図の分析、および景気動向指数を構成する個別の29系列について景気一致指数と比較した位相偏移の推定を行った。また、景気一致系列11系列から共通サイクルの抽出とこれらの個別系列間の位相偏移の推定も行った。本手法の利点は、従来の手法では扱えなかった多変量のバンドパスフィルタが行えることである。

  • DSGEモデルにおけるゼロ金利制約への対処方法–日本経済への適用(ステファン アジェミアン、ミシェル ジュイヤール)(平成22年12月)(本文は英語)

    本稿では、時折バインディングな制約に触れるDSGEモデル、例えば名目利子率がゼロ金利制約に触れることを盛り込んだモデルを推計するための戦略をお示しする。

    一般的な尤度アプローチは、モデルの定常状態近傍での一次近似に基づいて分析をしている。しかし、時折バインディングな制約に触れるモデルを扱うときにはこの方法を取ることができない。というのも、こうしたモデルは微分ができず、微分を考えないとしても、そもそも近似されたモデルの中の個人は、将来ゼロ制約に至ると予測することができないからである。

    ゼロ金利を含む中規模のDSGEモデルは、シュミレーション積率法(Simulated Method of Moment)と呼ばれる方法、つまり観測変数について理論上の時系列変数をシュミレーションする拡張経路アプローチ(Extended Path approach)を使用して推計される。確率的なフォワードルッキングモデルのシュミレーションにおける拡張経路アプローチ(Extended Path approach)は、完全予見モデルの非線形性を考慮する一方、ジェンセンの不等式を満たさない。拡張経路法(Extended Path approach)は、ゼロ制約を含むモデルに適しており、摂動法(perturbation approach)とは異なり、強力な平滑の仮定によっておらず、微分不可能な問題を取り扱うことができる。この方法が、実際上取扱い可能であることが証明された。

  • 短期日本経済マクロ計量モデル(2011年版)の構造と乗数分析(佐久間 隆、増島 稔、前田 佐恵子、符川 公平、岩本 光一郎)(平成23年1月)

    「短期日本経済マクロ計量モデル」は、伝統的なIS–LM–BP型のフレームワークを持つ四半期ベースの推定パラメータ型中規模モデルである。その主たる目的は、経済政策や外的ショックが日本経済に与える短期的な影響を分析することにある。1998年の開発以来、随時改訂を行ってきたが、今回、推計期間を2007年第4四半期まで延長して再推計を行い、最新の経済情勢を反映したモデルへと改訂した。また、今回の改訂では、安定的な定常状態の存在を確保するため、生産関数の形状を変更することとし、労働節約的(ハロッド中立的)な技術進歩を仮定したCES型生産関数を採用した。結果として算出された乗数については、2008年バージョンのモデルのそれと比較して大きな変化はない。


【最新のシンポジウム・フォーラム】

<開催案内>


【最新の統計】

<SNA統計>

<景気動向指数>11月速報(平成23年1月7日)

  • 11 月のCI(速報値・平成17 年=100)は、先行指数:101.0、一致指数:102.1、遅行指数:87.3 となった。
    先行指数は、前月と比較して3.3 ポイント上昇し、5ヶ月振りの上昇となった。3ヶ月後方移動平均は0.40 ポイント上昇し、3ヶ月振りの上昇、7ヶ月後方移動平均は0.17 ポイント下降し、2ヶ月連続の下降となった。
    一致指数は、前月と比較して1.4 ポイント上昇し、3ヶ月振りの上昇となった。3ヶ月後方移動平均は0.37 ポイント下降し、3ヶ月連続の下降、7ヶ月後方移動平均は0.04 ポイント上昇し、2ヶ月振りの上昇となった。
    遅行指数は、前月と比較して1.4 ポイント下降し、7ヶ月振りの下降となった。3ヶ月後方移動平均は0.03 ポイント上昇し、7ヶ月連続の上昇、7ヶ月後方移動平均は0.50 ポイント上昇し、11 ヶ月連続の上昇となった。
  • 一致指数の基調判断
    景気動向指数(CI一致指数)は、足踏みを示している。

<機械受注統計調査報告>11月実績(平成23年1月13日)

  • 機械受注総額(季節調整値)の動向をみると、22年10月前月比6.6%増の後、11月は同8.3%減の1兆9,587億円となった。
  • 民間設備投資の先行指標である「船舶・電力を除く民需」の動向を見ると、22年10月前月比1.4%減の後、11月は同3.0%減の7,230億円となった。このうち、製造業は同10.6%増の3,101億円、非製造業(除く船舶・電力)は同10.5%減の4,132億円となった。

<消費動向調査>12月調査(平成23年1月17日)

  • 平成22年12月の一般世帯の消費者態度指数(原数値)は、11月の40.4から0.3ポイント低下し40.1となった。
  • また、消費者(一般世帯)を対象に、世帯として「日頃よく購入する品物」の価格について1年後の見通しを調査したところ、「低下する」と思うとの回答割合が減少し12.9%となり、「変わらない」と思うとの回答割合も減少し34.9%となった。一方、「上昇する」と思うとの回答割合は増加し43.0%となった。

【参考】<月例経済報告>12月(平成22年12月22日)

  • 景気は、このところ足踏み状態となっている。また、失業率が高水準にあるなど厳しい状況にある。
    • 輸出は、緩やかに減少している。生産は、このところ減少している。
    • 企業収益は、改善している。設備投資は、持ち直している。
    • 企業の業況判断は、慎重さがみられる。
    • 雇用情勢は、依然として厳しいものの、持ち直しの動きがみられる。
    • 個人消費は、持ち直しているものの、一部に弱い動きもみられる。
    • 物価の動向を総合してみると、緩やかなデフレ状況にある。
  • 先行きについては、当面は弱めの動きがみられるものの、海外経済の改善や各種の政策効果などを背景に、景気が持ち直していくことが期待される。一方、海外景気の下振れ懸念や為替レート・株価の変動などにより、景気がさらに下押しされるリスクが存在する。また、デフレの影響や、雇用情勢の悪化懸念が依然残っていることにも注意が必要である。

<統計調査公表予定一覧>

<統計調査公表予定一覧>
景気動向指数
速報
景気動向指数
改訂状況
機械受注統計
調査
消費動向調査
(全国・月次)
法人企業景気
予測調査
1月11日
(11月分)
1月20日
(11月分)
1月13日
(11月分)
1月17日
(12月分)
2月7日
(12月分)
2月17日
(12月分)
2月10日
(12月分)
2月9日
(1月分)
3月7日
(1月分)
3月18日
(1月分)
3月9日
(1月分)
3月14日
(2月分)
3月16日
(1~3月期)

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