ESRI通信 第37号

平成23年9月13日
内閣府経済社会総合研究所 発行
Cabinet Office, Government of Japan
Economic and Social Research Institute

【GDPギャップ再考】

内閣府の推計によれば、GDPギャップ(現実のGDPと潜在GDPのかい離)は、1–3月期に続き、4–6月期もほぼ横ばいだった。震災を受けてGDPが減ったが、潜在GDPも減ったためだ。GDPギャップの推計では、通常、潜在GDPを過去のGDPのある種のトレンドと考えるが、震災後の潜在GDPへのマイナスの影響を出すために追加的な調整がなされている。ところで、今回の経験は、GDPギャップを解釈するに当たって、次のような点に留意が必要だということを改めて示したのではないか。

第一に、GDPギャップを「需給ギャップ」と呼ぶのはやや無理があるということだ。これは、現実のGDP=需要、潜在GDP=供給、よってGDPギャップ=需要–供給、という理解に基づく。だが今回、震災による供給制約で現実のGDPが下押しされた。現実のGDPは需要ショックだけでなく供給ショックでも動くことが確認された。確認するまでもなく当たり前のことだが。(潜在GDP=供給が仮に成り立つとして)現実のGDP=需要+供給とすれば、GDPギャップ=需要、すなわち需要側の要因の抽出を意図したもの、ということになる。

第二に、潜在GDPを過去のトレンドとして推計する方法には限界があることだ。この方法は、供給側の要因は緩やかにしか変化しないという前提に基づく。結果として、推計された潜在GDPは滑らかな動きをする一方、GDPギャップは毎期ごとの現実のGDPの振れを一手に引き受けて変動する。だが今回、震災による資本ストックの毀損やサプライチェーンの寸断から非連続的に供給力が低下した。これを踏まえると、原油価格上昇など他の供給ショックも短期間で潜在GDPを動かす可能性に気づく。

第三に、需要側、供給側という二分法にも実は限界があることだ。今回の震災の影響の一つに、原発災害に伴う風評被害もあって観光客が減少し、宿泊・飲食関連などで売上低迷が長期化したことが挙げられる。これは、需要ショック、供給ショックのどちらに整理したらよいか。あるいは、震災のため入札などの手続きができずに建設投資が遅れたらどうか。需要側、供給側の区分は意外にあいまいなことが分かる。無理に分けるより、それぞれのショックを物価への影響など政策的な視点から評価していくことが重要だ。

GDPギャップはマクロ経済政策の運営にとって重要な指標だが、その意味するところを十分理解して使いこなすのはなかなか難しい。上記の点も踏まえてGDPギャップについての理解を深めるためには、しっかりしたマクロ経済モデルの中に位置づけてその性質を吟味することが有用であろう。DSGEモデルを使えば、GDPギャップを理論と整合的に再定義した上で、嗜好や生産技術、政策といった根源的なショックの影響を調べることも可能だ。日本経済の実情に即したDSGEモデルの開発に期待がかかる。

平成23年9月

  • 内閣府 経済社会総合研究所
    総括政策研究官 西崎文平

【最新の研究発表】

  • 関税、オフショア・アウトソーシングと失業:2国モデルによる分析(橋本 賢一)(平成23年9月)(本文は英語)

    本稿ではオフショア・アウトソーシングが存在する2国の国際貿易モデルを構築し、流動性のわなにある経済での失業率や有効需要の関係を分析する。オフショアリングに影響を及ぼす経済政策として輸入関税政策を考える。輸入中間財への関税賦課は企業の中間財購入を海外から国内へシフトさせるよう働く。

    これは国内の雇用を改善させる効果をもたらすが、一方で経常収支調整による自国通貨の増価を通じて雇用の悪化の効果ももたらす。本稿の分析から後者の効果が強く働くことが示され、関税率の上昇は課税賦課国である自国の雇用や消費を悪化させることが示される。

    一方で、外国は逆に自国の関税の上昇によって雇用や消費が改善する。また完全雇用の状況と比較分析をおこない、完全雇用下では関税による各国の消費への効果は逆転することが明らかにされる。

<報告書の掲載>


【最新のシンポジウム・フォーラム】

<報告書の掲載>


【最新の統計】

<SNA統計>

  • 平成22 年基準消費者物価指数(CPI)への対応予定について(平成23年8月29日)
  • 四半期別GDP速報(2011年(平成23)年4–6月期・2次速報)(平成23年9月9日)
    1. 平成23年9月9日に公表した23年4-6月期四半期別GDP速報(2次速報)では実質GDP成長率が0.5%(年率2.1%)と、同年8月15日に公表した1次速報(実質GDP成長率0.3%(年率1.3%))から下方改定となった。
    2. これは、1次速報時点では取り込むことのできなかった情報を取り込んだ結果、民間企業設備、民間在庫品増加などの需要項目が下方改定となったためである。

<景気動向指数>7月速報(平成23年9月7日)

  • 7月のCI(速報値・平成 17 年=100)は、先行指数:106.0、一致指数:109.0、遅行指数:90.0 となった。
    先行指数は、前月と比較して2.7 ポイント上昇し、3ヶ月連続の上昇となった。3ヶ月後方移動平均は3.30 ポイント上昇し、2ヶ月連続の上昇、7ヶ月後方移動平均は0.84 ポイント上昇し、3ヶ月連続の上昇となった。
    一致指数は、前月と比較して0.3 ポイント下降し、4ヶ月振りの下降となった。3ヶ月後方移動平均は1.70 ポイント上昇し、2ヶ月連続の上昇、7ヶ月後方移動平均は0.64 ポイント上昇し、24 ヶ月連続の上昇となった。
    遅行指数は、前月と比較して0.6 ポイント下降し、2ヶ月振りの下降となった。3ヶ月後方移動平均は0.33 ポイント下降し、6ヶ月振りの下降、7ヶ月後方移動平均は0.16 ポイント上昇し、19 ヶ月連続の上昇となった。
  • 一致指数の基調判断
    景気動向指数(CI一致指数)は、改善を示している。

<機械受注統計調査報告>7月実績(平成23年9月8日)

  • 機械受注総額(季節調整値)の動向をみると、23年6月前月比5.6%増の後、7月は同11.3%減の1兆8,629億円となった。
  • 民間設備投資の先行指標である「船舶・電力を除く民需」の動向を見ると、23年6月前月比7.7%増の後、7月は同8.2%減の7,252億円となった。このうち、製造業は同5.2%減の3,261億円、非製造業(除く船舶・電力)は同1.4%減の4,383億円となった。

<消費動向調査>8月調査(平成23年9月9日)

  • 平成23年8月の一般世帯の消費者態度指数(季節調整値)は、7月と比べて横ばいの37.0となった。消費者態度指数を構成する4項目の意識指標のうち、「暮らし向き」「収入の増え方」は4か月連続の上昇となったものの、「雇用環境」「耐久消費財の買い時判断」は4か月ぶりの低下となった。
  • 消費者(一般世帯)を対象に、世帯として「日頃よく購入する品物」の価格について1年後の見通しを調査したところ、「上昇する」と思うとの回答割合は減少して70.5%となった。他方、「低下する」と思うとの回答割合は6.6%、「変わらない」と思うとの回答割合は16.5%となり、ともに増加した。

<法人企業景気予測調査>7–9月期調査(平成23年9月12日)

  • 23年7–9月期の「貴社の景況判断」BSIを大企業・全産業でみると、6.6となった。東日本大震災の影響により、前回調査ではマイナス幅が拡大したが、今回調査では、自動車・同附属品製造業等の改善により、プラスに転じた。中堅企業、中小企業は、マイナス幅が縮小した。
    先行きについては、大企業はプラスが続く見通し、中堅企業は23年10–12月期にプラスに転じる見通しである。他方、中小企業は、マイナスが続く見通しとなっている。
  • 設備投資(ソフトウェア含む、土地除く)は、23年度は前年度比5.4%の増加の見通しとなっている。

【参考】<月例経済報告>8月(平成23年8月10日)

  • 景気は、東日本大震災の影響により依然として厳しい状況にあるものの、持ち直している。
    • 生産は、サプライチェーンの立て直しにより、持ち直している。輸出は、持ち直しの動きがみられる。
    • 企業収益は、増勢が鈍化している。設備投資は、下げ止まりつつある。
    • 企業の業況判断は、東日本大震災の影響による厳しさが残るなど、慎重さがみられる。
    • 雇用情勢は、東日本大震災の影響により、このところ持ち直しの動きに足踏みがみられ、依然として厳しい。
    • 個人消費は、持ち直しの動きがみられる。
    • 物価の動向を総合してみると、緩やかなデフレ状況にある。
  • 先行きについては、サプライチェーンの立て直し、海外経済の緩やかな回復や各種の政策効果などを背景に、景気の持ち直し傾向が続くことが期待される。ただし、電力供給の制約や原子力災害の影響、海外景気の下振れ懸念に加え、為替レート・株価の変動等によっては、景気が下振れするリスクが存在する。また、デフレの影響や、雇用情勢の悪化懸念が依然残っていることにも注意が必要である。

<統計調査公表予定一覧>

<統計調査公表予定一覧>
景気動向指数
速報
景気動向指数
改訂状況
機械受注統計
調査
消費動向調査
(全国・月次)
法人企業景気
予測調査
9月7日
(7月分)
9月20日
(7月分)
9月8日
(7月分)
9月9日
(8月分)
9月12日
(7~9月期)
10月7日
(8月分)
10月20日
(8月分)
10月12日
(8月分)
10月11日
(9月分)
11月7日
(9月分)
11月21日
(9月分)
11月10日
(9月分)
11月10日
(10月分)

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