ESRI通信 第38号

平成23年10月13日
内閣府経済社会総合研究所 発行
Cabinet Office, Government of Japan
Economic and Social Research Institute

【巻頭言】

初めて私が経済社会総合研究所(ESRI)の前身である旧経済企画庁経済研究所に勤務したのは、平成元年でした。当時研究所で開発されていた世界経済モデルの日本モデル(短期モデル)を担当し、特に金融ブロックや為替レートの定式化の改善などに取り組みました。すぐ隣りのユニットでは、高山憲之教授(当時一橋大学助教授)が客員主任研究官となり、総務省「全国消費実態調査」の個票(個々の経済主体を対象としたデータ、ミクロデータともいいます)を用いた日本の家計行動に関する先駆的な研究が行われていました。

その後20年余りが経ち、現在、当研究所では短期マクロ計量モデルのみならず、動学的一般均衡モデル(DSGEモデル)や世代会計モデルなど、様々なモデルの開発が行われ、その成果はディスカッションペーパーシリーズ等の形で随時公表されています。

一方でミクロデータを用いた分析も行われています。経済・社会を対象とした分析は自然科学のような統御実験は難しく、また、集計されたマクロデータでなく個々の人々の行動を観察できるミクロデータや、その行動変化を追うことのできるパネルデータにより的確に検証できる問題があるからです。例えば、雇用に関する分析においては、マクロ指標の失業率や賃金も勿論重要ですが、私たちの生涯所得を考える上で重要となる賃金プロファイルの変化の有無を検証するにあたっては、ミクロデータやパネルデータを用いれば、より正確にその変化を観察・検証することが可能となります。

当研究所の「個票データの分析による家計行動の研究」ユニットにおいては、ミクロデータやパネルデータを用いて雇用や所得、消費行動及び格差問題に関する分析を行っています。昨年以降研究の成果として、高齢化及び経済成長の鈍化が続くなか、日本的雇用慣行に変化が起こっていること、日本では若者が不景気により学校卒業時に正社員になれないとその効果は5年から10年にわたって続く可能性があることなどを公表しています。また、家計の世代間移転の問題の一つとして、親からの遺産・相続について研究所で独自にアンケート調査を行い、その実態や決定要因を分析しました。その結果、世帯の保有する所得・資産額が大きいほど親から遺産・相続を受け取る確率が高くその額も大きいものの、(世代内の)資産格差を固定化あるいは拡大する効果はそれ程大きくないことを示唆する結果が得られました。

日本経済が抱える課題は山積しており、政策に役立つ分析への期待はますます高まっています。用いるデータや手法は様々ですが、時宜に適った研究を行いその成果を発信していくことができればと考えています。

平成23年10月

  • 内閣府 経済社会総合研究所
    前上席主任研究官 村田啓子

【最新の研究発表】

  • 取引銀行の効率性が企業の生産性に与える影響(宮川 大介、乾 友彦、庄司 啓史)(平成23年9月)(本文は英語)

    本研究は、資金の貸し手である取引銀行の効率性が、借り手である企業の生産性(Total Factor Productivity: TFP)に対して与える影響を定量的に分析したものである。

    企業と銀行の融資関係情報により構築した企業–銀行マッチレベルのパネルデータを用いて、企業、銀行及びマッチ固有の属性をコントロールした上で、FISIM(Financial Intermediation Services Indirectly Measured)概念に立脚して構築された貸し手銀行の効率性指標が、顧客企業のTFP成長率及び将来のTFP水準に対し、正の影響を及ぼしている事を確認した。

    このことは、企業の生産性の決定要因について、取引相手の属性(例:金融、仕入、販売、アウトソース、提携等)を含めた議論へと拡張する必要が有る事を示唆している。

  • 中国輸出企業の特徴:日本の輸出企業との比較(伊藤 恵子、乾 友彦、権 赫旭、戸堂 康之)(平成23年9月)

    中国経済や企業のダイナミクスを理解する上で、企業の輸出行動を理解することは重要であり、特に外資系企業の役割を分析することは重要である。本論文は、中国企業を中心に、日本の企業のミクロデータを使用した研究と比較をしながら、輸出市場への企業の参入・退出、生産性向上のダイナミクスの比較研究を行う。この比較を通じて、中国の輸出主導型といわれる経済成長のメカニズムを解明することを目指す。この際、国内企業と外資系企業と分けてその特徴を分析してみた。使用したミクロデータは、中国の工業統計の2000 年~2007 年におけるパネルデータで、全ての国有企業と年間売上高500 万元以上の非国有企業を対象としたものである。また日本に関しては1994 年~2007 年における経済産業省の「企業活動基本調査」を使用してデータをパネル化した。

    中国企業は生産性がそれほど高くないにもかかわらず、とりあえず輸出ブームに乗って参入した国内企業は数多かったが、輸出額の小さな企業が市場から撤退することも多く、それによって大企業への集中が高まっている。

  • 6次産業化が稲作農業経営体の生産性に与える影響について(空閑 信憲)(平成23年9月)

    本稿では、我が国の稲作農業経営体の生産性変化に6次産業化が及ぼす影響の大きさについて、2004年から2008年までの『農業経営統計調査』の個票データを用いて分析した。生産性計測には、DEA効率値及びマルムクイスト生産性指数を使用した。また、計測されたDEA効率値及びマルムクイスト生産性指数の要因分析を行うことにより、6次産業化の取り組み等がTFPの変化に与えうる影響についても分析を行った。

    本分析の結果、主に以下の3点が明らかとなった。第1に、6次産業化取組農家の平均的なTFP水準は、非取組農家の平均的なTFP水準よりも高いことである。一方で、6次産業化取組農家のTFP変化の伸びは、総じて非取組農家を下回る傾向がある。第2に、稲作農家全体の特徴として、作付延べ面積のうち稲の占める割合、資本節約・労働使用的な傾向、そして、農業経営費と比較した相対的な6次産業化事業費の割合が大きいほど、TFP水準・変化がともに高くなることである。第3に、6次産業化取組農家のTFP変化については、総労働時間に占める女性労働力の割合がプラスの影響を及ぼしていることである。

    本稿の分析で明らかになったように、6次産業化事業費の比率が大きくなるほど経営体の生産性の水準・変化の伸びは高くなることから、6次産業化の取り組みは経営体の生産性の向上に寄与すると考えられる。一方で、農地のまとまった利用集積が進んでいない現状を考慮すると、6次産業化の取り組みを生産性の向上につなげるためには、作付延べ面積に占める稲の割合を高めるとともに、女性労働力の利活用を軸にした土地節約・労働使用的な農業経営を推進していくことが必要であると考えられる。

  • 防災対策と世代間公平~持続可能な防災・減災政策のあり方に関するアンケート調査~(永松 伸吾、佐藤 主光、宮崎 毅)(平成23年9月)

    低頻度高被害型の災害リスクへの対処が、今日の我が国の防災・減災政策の主要な課題の一つである。本稿では、持続可能性をキーワードにした新しい防災・減災政策の方法論を示すため、巨大災害対策の世代間公平の観点からのアンケート調査を実施し分析を行った。

    ここでの主要な質問項目は次の通りである。第一に、大規模地震対策、大規模水害対策のそれぞれについて、どの程度の期間でそれを完成させるべきかについて質問した。第二に、それらの対策の費用負担は現在世代と将来世代のどちらが行うべきかについて質問した。第三に、過疎地の防災対策について、どの程度国による支援を実施すべきかについて質問した。第四に、土地の利用規制方策について質問した。第五に、防災対策における政府の関与の程度について質問した。これらを被説明変数として、個人の属性や、また将来の日本や地球環境、災害リスク、科学技術の進展などに関する楽観性を表す因子を説明変数に加え、回帰分析や順序ロジット分析、多項ロジット分析を実施した。

    これらから得られた主要な結論は次の通りである。まず、性別、年収、子ども・孫の有無でかなりはっきりとした政策選好の違いが見られることである。女性についてはリスク回避的であるが、将来世代への負担転嫁を望んでいる。また世帯年収が上がれば上がるほど、防災対策を長期に分散させ、将来世代の負担とすることを選好する。子ども・孫が存在することは、女性と同様にリスク回避的であるが、将来世代の負担転嫁を望まない傾向がある。なお、将来への楽観度については、様々な政策選好に影響を及ぼしている。将来の日本の状況や巨大災害リスクへの楽観度は防災対策の完了期間をより長期で実施することをのぞみ、そのための負担は将来世代にわたって負担することを望む。これは、将来状況を悲観的に捉える人ほど、そのための対策と負担を前倒しすることを選好することを意味している。

<報告書の掲載>


【最新の統計】

<SNA統計>

  • 四半期別民間企業資本ストック速報(平成23年4–6月期)(平成23年9月30日)
    • 1.有形固定資産 全産業(進捗ベース)
      • 23年6月末のストックは1,237.8兆円、前年同期比1.6%増となり、7期連続のプラスとなった(前期1.7%増)。
      • 23年4~6月の新設投資額は16.0兆円、同0.2%増となり、5期連続のプラスとなった(前期2.1%増)。
    • 2.無形固定資産 全産業(取付ベース)
      • 23年6月末のストックは35.5兆円、前年同期比1.7%減となり、6期連続のマイナスとなった(前期1.3%減)。
      • 23年4~6月の新設投資額は1.4兆円、同3.0%減となり、11期連続のマイナスとなった(前期3.9%減)。
  • 平成22年度民間企業投資・除却調査(平成21年度計数)(平成23年10月12日)

<景気動向指数>8月速報(平成23年10月7日)

  • 8月のCI(速報値・平成 17 年=100)は、先行指数:103.8、一致指数:107.4、遅行指数:89.6 となった。
    先行指数は、前月と比較して0.8 ポイント下降し、4ヶ月振りの下降となった。3ヶ月後方移動平均は1.50 ポイント上昇し、3ヶ月連続の上昇、7ヶ月後方移動平均は0.40 ポイント上昇し、4ヶ月連続の上昇となった。
    一致指数は、前月と比較して0.3 ポイント上昇し、2ヶ月振りの上昇となった。3ヶ月後方移動平均は0.77 ポイント上昇し、3ヶ月連続の上昇、7ヶ月後方移動平均は0.32 ポイント上昇し、5ヶ月連続の上昇となった。
    遅行指数は、前月と比較して1.0 ポイント上昇し、4ヶ月振りの上昇となった。3ヶ月後方移動平均は0.06 ポイント上昇し、2ヶ月振りの上昇、7ヶ月後方移動平均は0.19 ポイント上昇し、2ヶ月振りの上昇となった。
  • 一致指数の基調判断
    景気動向指数(CI一致指数)は、改善を示している。

<機械受注統計調査報告>8月実績(平成23年10月12日)

  • 機械受注総額(季節調整値)の動向をみると、23年7月前月比11.3%減の後、8月は同6.5%増の1兆9,834億円となった。
  • 民間設備投資の先行指標である「船舶・電力を除く民需」の動向を見ると、23年7月前月比8.2%減の後、8月は同11.0%増の8,049億円となった。このうち、製造業は同13.7%増の3,709億円、非製造業(除く船舶・電力)は同6.1%減の4,117億円となった。

<消費動向調査>9月調査(平成23年10月11日)

  • 平成23年9月の一般世帯の消費者態度指数(季節調整値)は、8月の37.0から1.6ポイント上昇して38.6となった。消費者態度指数を構成する意識指標をみると、4項目全てで上昇した。
  • 消費者(一般世帯)を対象に、世帯として「日頃よく購入する品物」の価格について1年後の見通しを調査したところ、「上昇する」と思うとの回答割合は67.2%、「低下する」と思うとの回答割合は6.3%となり、ともに減少した。他方、「変わらない」と思うとの回答割合は増加して19.4%となった。

【参考】<月例経済報告>9月(平成23年9月20日)

  • 景気は、東日本大震災の影響により依然として厳しい状況にあるものの、持ち直している。
    • 生産は、サプライチェーンの立て直しにより、持ち直している。輸出は、持ち直しの動きがみられる。
    • 企業収益は、減少している。設備投資は、下げ止まりつつある。
    • 企業の業況判断は、東日本大震災の影響による厳しさが残るなど、慎重さがみられる。
    • 雇用情勢は、東日本大震災の影響により、このところ持ち直しの動きに足踏みがみられ、依然として厳しい。
    • 個人消費は、持ち直しの動きがみられる。
    • 物価の動向を総合してみると、緩やかなデフレ状況にある。
  • 先行きについては、サプライチェーンの立て直しや各種の政策効果などを背景に、景気の持ち直し傾向が続くことが期待される。ただし、電力供給の制約や原子力災害の影響に加え、回復力の弱まっている海外景気が下振れた場合や為替レート・株価の変動等によっては、景気が下振れするリスクが存在する。また、デフレの影響や、雇用情勢の悪化懸念が依然残っていることにも注意が必要である。

<統計調査公表予定一覧>

<統計調査公表予定一覧>
景気動向指数
速報
景気動向指数
改訂状況
機械受注統計
調査
消費動向調査
(全国・月次)
法人企業景気
予測調査
10月7日
(8月分)
10月20日
(8月分)
10月12日
(8月分)
10月11日
(9月分)
11月7日
(9月分)
11月21日
(9月分)
11月10日
(9月分)
11月10日
(10月分)
12月7日
(10月分)
12月20日
(10月分)
12月8日
(10月分)
12月12日
(11月分)
12月9日
(10~12月期)

SNA(QE)統計の公表予定はこちらから


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