ESRI通信 第44号

平成24年4月18日
内閣府経済社会総合研究所 発行
Cabinet Office, Government of Japan
Economic and Social Research Institute

【巻頭言】

先日、パリの経済協力開発機構(OECD)本部を訪問し、担当者と欧州経済の現状について意見交換を行った。実は私は2007年にもOECDを訪問し、当時の欧州経済の担当者と意見交換をしている。そのとき私が「現在の欧州はバブルで、今後バブル崩壊が起こり、その後は日本と同じ道をたどる可能性がある」と言うと、当時の担当者は真剣に取り合わず、「そんなことはない、欧州は実体経済がいいから問題ない」と反論されるだけであった。そのときは、欧州も日本の1980年代末のバブル経済当時と同じ心理状態だと実感した。

当時の日本で、これから長期不況に陥るかもしれないなどと言っても、信じる人などいなかった。ちょうどその頃、私は不況の理論分析に取りかかったばかりで、出口の見えない慢性的デフレと長期不況が生まれる理論的可能性と、そうなった場合、これまでとまったく異なる政策対応が必要であるということがわかってきた。経済学者の仲間に意見を求めたところ、理論的にはそういう結果が導き出されることはわかったが、現実問題としては長期のデフレ不況など考えにくいと一笑に付された。かく言う私自身も、自分で導いた理論的帰結に半信半疑で、それが現実の問題になるとは考えにくかった。また、外国の友人たちに「日本経済は素晴らしい。日本人が勤勉だからだろう」と言われて、まんざら悪い気がしなかったのが本当のところである。

このような楽観は株価バブルが崩壊した後も数年続き、当時の一般向け経済誌の論調を見ても、バブルの熱狂が収まってよかった、今後は着実な成長が見込まれる、という好意的な意見が支配的であった。長い間、不況らしい不況を経験せずに高度成長を続け、ついにはジャパン・アズ・ナンバーワンとまで言われていた日本人にとって、長期のデフレ不況が机上の空論に見えるのは当然かもしれない。

この冬にOECDを訪問したときには、ヨーロッパも2008年の世界金融危機を経験しているため、さすがに危機意識が違っていた。日本のバブル崩壊がヨーロッパでも現実に繰り返され、それに対して欧米の経済学者の多くも混乱を見せていたからである。そのため、日本経済がバブル崩壊以降どのような経緯をたどったか、ヨーロッパが同じようにならないかについて、学者やOECDの担当者とも真剣に意見交換することができた。

現実にヨーロッパで提示される政策を見ていると、従来とあまり代わり映えがせず、数年後の景気回復と財政規律の復元を前提とした一時的財政拡大と、金融緩和や金融取引規制くらいしか出てきていないように見える。不況問題はこれほど難しいと同時に、経済学者にとってはチャレンジしがいのあるテーマである。特に、長い不況を経験し、いろいろな経済政策を試してきた日本の経済政策担当者や経済学者にこそ、さらなる議論の深化が求められよう。

平成24年4月

  • 内閣府 経済社会総合研究所
    所長 小野 善康

【経済社会総合研究所からのお知らせ】

  • 「政策分析」インタビューシリーズを始めました。(平成24年3月)

    実証に基づく政策分析能力の強化に向け、内閣府に政策分析専門家としてどのような役割が期待されるかをテーマとして、10人の有識者の方々にインタビューを行い、その内容を掲載しています。


【最新の研究発表】

  • 我が国世帯における世代間移転と資産格差(濱秋 純哉、堀 雅博、村田 啓子)(平成24年3月)(本文は英語)

    本稿では,内閣府経済社会総合研究所で実施した『家族関係,就労,退職金及び教育・資産の世代間移転に関する世帯アンケート調査』の個票を用いて,世代間移転が世帯間の資産格差にどのような影響を与えるかを定量的に評価した。具体的には,資産移転の受取額と受取世帯の経済力の関係を,他の様々な世帯属性をコントロールした上で推定した。この際に,推定結果が計量手法の選択に依存しないことを確認するために,トービット,区間回帰,順序プロビットの三つの手法を用いた。いずれの手法を用いても,世帯の経済力を世帯主の年間収入で測る場合,裕福な世帯ほど親からより多くの資産移転を受けており,世代間移転によって格差が拡大する恐れがあることが分かった。一方,世帯の経済力をライフサイクル資産額(世帯の保有資産額と資産移転額の差)で測ると,格差拡大の量的な効果は限定的であることが示唆された。

  • 開放経済DSGEモデルにおける非浪費的政府支出:財政政策パズル再論(岩田 安晴)(平成24年4月)(本文は英語)

    本稿は、日本経済を対象に、政府支出が消費と実質為替レートに与える効果について検証を行うことを目的としている。米国等の海外データに基づく標準的な時系列分析では、政府支出の増加は消費の増加と実質為替レートの減価をもたらすことが示されているが、理論モデルでは、逆に消費の減少と実質為替レートの増価が示唆される(財政政策パズル)。この謎を明らかにするため、まず、いち符号制約 VARを用いて、日本においても、政府消費と政府投資のそれぞれについて、支出の増加後に消費の増加と実質為替レートの減価が観察されることを確認した。その上で、に(a) 民間消費と政府消費の分離不可能性、(b) 社会資本の生産力効果、を考慮した開放経済ニューケインジアンDSGEモデルの推計を行い、同モデルが政府支出増加後の消費の増加と実質為替レートの減価を説明できることを明らかにした。さらに、エッジワース補完性、自国バイアス、国際資本市場の不完全性、の組み合わせによって、政府消費の増加に対する直後の消費の増加とラグを伴った実質為替レートの減価が再現されることがわかった。この結果は、理論モデルが国際的に観察される相対的な消費と実質為替レートの間の負の相関を説明できない、という問題に対して潜在的に重要な含意を与える。

  • 統計からみた震災からの復興(樋口 美雄、乾 友彦、杉山 茂、若林 光次、空閑 信憲、細井 俊明、池本 賢悟、高部 勲、植松 良和、有光 建依)(平成24年4月)

    本稿では、東日本大震災発災後おおむね1年を経過した時点において入手可能な情報を元に、既存研究を用いた大規模自然災害による直接被害の国際比較、阪神・淡路大震災と東日本大震災の直接被害推計の比較、東日本大震災発災後の公的統計に関する政府の対応を整理した後、間接被害に関して公的統計を使用して、様々な角度から定量的に被害と復興の過程を分析した。主な分析結果は次のとおりである。

    人口・雇用面をみると、被災地では震災以降若年層の流出により更なる高齢化が進み、若年層の新規雇用創出が重要であるが、「医療・福祉」産業にその可能性がある。また、被災地では震災復旧関連等の求人の増加は見られるものの、雇用のミスマッチも生じており、地域特性を生かした雇用回復が重要である。供給側ショックをみると、製造業は震災の直接の被害からは脱しつつあるが、その後の回復では海外需要に不安がある。農漁業については、被害者の実人数が約4万7千人と試算でき、津波被災地域での営農再開農家は、岩手県で1割、宮城県で2割であるなど、復旧に時間を要している。需要側ショックをみると、全国的には震災後の消費自粛の解消等が徐々に進む一方、被災地では生活再建のため消費がある程度まで回復したが、地域により消費生活の基盤ともなる住宅建設の遅れ等が見られる。また、サービス業では観光関連の回復が遅れているほか、原発事故に伴う風評被害の影響が主要な福島県産青果物の価格形成において確認され、食品中の放射性物質の安全性に関する信頼性の高い情報提供が必要である。

<報告書の掲載>


【最新のシンポジウム・フォーラム】

<報告書の掲載>


【最新の統計】

<SNA統計>

<景気動向指数>2月速報(平成24年4月6日)

  • 2 月のCI(速報値・平成17 年=100)は、先行指数:96.6、一致指数:93.7、遅行指数:85.6 となった。
    先行指数は、前月と比較して2.1 ポイント上昇し、4ヶ月連続の上昇となった。3ヶ月後方移動平均は1.16 ポイント上昇し、3ヶ月連続の上昇、7ヶ月後方移動平均は0.22 ポイント上昇し、4ヶ月連続の上昇となった。
    一致指数は、前月と比較して1.0 ポイント上昇し、2ヶ月振りの上昇となった。3ヶ月後方移動平均は1.03 ポイント上昇し、3ヶ月連続の上昇、7ヶ月後方移動平均は0.36 ポイント上昇し、5ヶ月連続の上昇となった。
    遅行指数は、前月と比較して2.2 ポイント上昇し、2ヶ月振りの上昇となった。3ヶ月後方移動平均は0.56 ポイント上昇し、4ヶ月連続の上昇、7ヶ月後方移動平均は0.41 ポイント上昇し、22 ヶ月連続の上昇となった。
  • 一致指数の基調判断
    景気動向指数(CI一致指数)は、改善を示している。

<機械受注統計調査報告>2月実績(平成24年4月11日)

  • 機械受注総額(季節調整値)の動向をみると、24年1月前月比21.6%増の後、2月は同14.5%減の2兆1,817億円となった。
  • 民間設備投資の先行指標である「船舶・電力を除く民需」の動向を見ると、24年1月前月比3.4%増の後、2月は同4.8%増の7,940億円となった。このうち、製造業は同16.0%増の3,579億円、非製造業(除く船舶・電力)は同2.3%増の4,326億円となった。

<消費動向調査>3月調査(平成24年4月17日)

  • 平成24年3月の一般世帯の消費者態度指数(季節調整値)は、2月の39.9から0.4ポイント上昇して40.3となり、2か月ぶりに前月を上回った。消費者態度指数を構成する4項目全ての意識指標が上昇した。
  • 消費者(一般世帯)を対象に、世帯として「日頃よく購入する品物」の価格について1年後の見通しを調査したところ、「上昇する」と思うとの回答割合は増加して65.9%となった。他方、「低下する」と思うとの回答割合は6.7%、「変わらない」と思うとの回答割合は19.5%となり、ともに減少した。

【参考】<月例経済報告>4月(平成24年4月12日)

  • 景気は、東日本大震災の影響により依然として厳しい状況にあるなかで、緩やかに持ち直している。
    • 生産は、緩やかに持ち直している。輸出は、横ばいとなっている。
    • 企業収益は、減少している。設備投資は、このところ持ち直しの動きがみられる。
    • 企業の業況判断は、大企業製造業で下げ止まっており、全体としては小幅改善となっている。
    • 雇用情勢は、持ち直しの動きもみられるものの、東日本大震災の影響もあり依然として厳しい。
    • 個人消費は、底堅く推移している。
    • 物価の動向を総合してみると、下落テンポが緩和しているものの、緩やかなデフレ状況にある。
  • 先行きについては、各種の政策効果などを背景に、景気の持ち直し傾向が確かなものとなることが期待される。ただし、欧州政府債務危機や原油高の影響、これらを背景とした海外景気の下振れ等によって、我が国の景気が下押しされるリスクが存在する。また、電力供給の制約や原子力災害の影響、さらには、デフレの影響、雇用情勢の悪化懸念が依然残っていることにも注意が必要である。

<統計調査公表予定一覧>

<統計調査公表予定一覧>
景気動向指数
速報
景気動向指数
改訂状況
機械受注統計
調査
消費動向調査
(全国・月次)
法人企業景気
予測調査
4月6日
(2月分)
4月23日
(2月分)
4月11日
(2月分)
4月17日
(3月分)
5月9日
(3月分)
5月21日
(3月分)
5月16日
(3月分)
5月15日
(4月分)
6月7日
(4月分)
6月19日
(4月分)
6月13日
(4月分)
6月11日
(5月分)
6月11日
(4–6月期)

SNA(QE)統計の公表予定はこちらから


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