ESRI通信 第48号

平成24年8月14日
内閣府経済社会総合研究所 発行
Cabinet Office, Government of Japan
Economic and Social Research Institute

【巻頭言】

マクロ現象をマクロ的に理解するとはどういうことだろうか。

例えば、当研究所の研究テーマではないが、我が国の自殺者数は、1998年に一挙に2万4千人程度から3万3千人程度に増加し、その後、現在まで3万人を割ることはなかった。この一挙に増加した理由とその後3万人を超え続けている理由について様々な研究がなされてきたが、未だコンセンサスあるものはない。マクロ的には、1998年の急増の理由として、景気の急激な悪化とそれに伴う雇用情勢の悪化などが挙げられることがあるが、景気はその後何回も回復しているので3万人から下がらないことを説明できない。一方、ミクロで見れば、自殺者個人を精神医学や社会学的側面から研究することになろうが、それでは各個人の自殺の原因などは解明できても、上記の3万人を超えて下がらない理由が説明できない。要するに、この現象は極めてマクロ的なものであり、マクロ的にとらえることが重要である。

今年度の自殺対策白書では、高齢化がひとつの要因として上げられている。高齢者の自殺死亡率(人口十万人当たりの自殺者数)は1998年以前は他の年代に比べ圧倒的に高かったが、近年は低下してきており、中高年と同レベルの率とはなってきている。しかし、高齢者の自殺者数は増加している。要するに、高齢者数の増加が影響しているわけである。白書では、仮に、現在の人口構成が平成22年から20年前の平成2 年と同じであった場合、推定される平成22年の自殺者数は、2 万7,054人と、実績値よりも4,600人程度少なく、平成2年からの20年間で、自殺者数は実績値で1 万人程度増加したことから、この間の増加数のうち約45%は、自殺死亡率の上昇ではなく、高齢化によって引き起こされたものととらえることができるとしている。

自殺には極めて複雑な要因が絡んでおり、以上によって全てが説明できるわけではないが、自殺者数の3万人を超える高止まりというマクロ的現象が、高齢化というマクロ的観点から一部捉えられたことになる。

さて、現在の当研究所の課題のひとつは、自殺の対極ともいえる幸福度・社会的進歩の計測である。国全体での幸福度はマクロ的数値であろう。ところが、一定の経済発展を遂げた後の先進国ではGDPなどが上昇しても、幸福度には殆ど変化がないというパラドックスが存在する。これもマクロ的な現象のひとつである。幸福度研究には、個別の人を捉える脳科学的アプローチや心理学的アプローチなどがあり、成果を上げているが、こうしたマクロ的現象の説明にはどこまで有効かは疑問である。結局、上記は未だパラドックスのままである。

当研究所が実施した調査では、幸福度の低い層を拾うと、孤独感の強い人・周りに頼りになる人がいない人、失業者・失業の不安がある人、未婚の中高年男性など、現在、社会的疎外などとして議論されている層が浮き彫りになるのは分かっている。同じひとつの指標で社会や経済全体を捉えられる点では、幸福度とGDPは同様である。

例えば、孤独感の高い人は、大家族から核家族へ、更には単身世帯へといった現象、或いは地域コミュニティーの崩壊、「会社の縁」の弱体化などによって、増加しているとも考えられる。一方、インターネット利用の拡大は、新たな結び付きをもたらしている。しかし、インターネットを利用していない高齢者は多いだけでなく、今後も高齢化は進展すると見られる。いずれにせよ、過去のデータがないため、分析は困難である。

幸福度研究には、以上のようなことばかりだけでなく、もっと広範なことが期待されており、当研究所も一層、幸福度に関する研究を深めていくこととなろう。

平成24年8月

  • 内閣府 経済社会総合研究所
    前総括政策研究官 市川 正樹

【最新の研究発表】

  • 東日本大震災が新卒者の賃金に与えた短期的影響について―教育の質の役割に着目して― (乾 友彦、権 赫旭、妹尾 渉、中室 牧子、平尾 智隆、松繁 寿和)(平成24年8月)

    本稿の目的は、学校から就業に移行する時期に発生した東日本大震災が、2010年度の大卒者の賃金に与えた短期的影響を実証的に明らかにすることである。更に、震災が新卒者の賃金に与えた負の影響に対して、彼らが直近に卒業した大学教育の質がどのように働いたのかを明らかにした。インターネットの大手ショッピングサイトに登録しているモニターのうち、2008年度から2010年度までに卒業した20代の若者を対象にしたアンケート調査のデータを用いた実証分析からは、震災直後に就職した2010年度の新卒者の賃金が、それ以前に就職した同程度の能力の若者よりも有意に低いことが明らかになった。また教育の質は初任給に対して影響を与えているだけでなく、震災直後に就職した新卒者の賃金に対する負の影響を緩和する方向に働いていることが示された。

    本稿の分析からは、2010年度の新卒は、年度末に卒業したことから、厳しい人材選別や内定切りなどの雇用調整の影響は受けにくく、むしろ賃金調整による影響を受けたグループである可能性が示唆されている。一方、2011年度に卒業を予定しているグループは、震災による教育中断の影響を受けているだけでなく、震災後の需要の減少による雇用調整圧力を直接的に受けているとみられる。このことから、2010年度の新卒者はもちろんのこと、2011年度の卒業予定者の賃金、雇用、教育への影響を把握するためには、パネルデータ設計によって、調査対象の個人を長期間追跡調査することが肝要である。


【最新の統計】

<SNA統計>

<景気動向指数>6月速報(平成24年8月6日)

  • 6月のCI(速報値・平成 17 年=100)は、先行指数:92.6、一致指数:93.8、遅行指数:86.9 となった。
    先行指数は、前月と比較して2.6 ポイント下降し、3ヶ月連続の下降となった。3ヶ月後方移動平均は 1.33 ポイント下降し、2ヶ月連続の下降、7ヶ月後方移動平均は0.10 ポイント下降し、9ヶ月振りの下 降となった。
    一致指数は、前月と比較して2.0 ポイント下降し、3ヶ月連続の下降となった。3ヶ月後方移動平均は 1.17 ポイント下降し、7ヶ月振りの下降、7ヶ月後方移動平均は0.20 ポイント上昇し、9ヶ月連続の上 昇となった。
    遅行指数は、前月と比較して0.4 ポイント上昇し、2ヶ月連続の上昇となった。3ヶ月後方移動平均は 0.24 ポイント上昇し、11 ヶ月連続の上昇、7ヶ月後方移動平均は0.39 ポイント上昇し、26 ヶ月連続の 上昇となった。
  • 一致指数の基調判断
    景気動向指数(CI一致指数)は、足踏みを示している。

<機械受注統計調査報告>6月実績および7~9月見通し(平成24年8月9日)

  • 機械受注総額(季節調整値)の動向をみると、24年5月前月比14.5%減の後、6月は同7.4%増の1兆9,477億円となった。
  • 民間設備投資の先行指標である「船舶・電力を除く民需」の動向を見ると、24年5月前月比14.8%減の後、6月は同5.6%増の7,097億円となった。このうち、製造業は同2.9%減の2,933億円、非製造業(除く船舶・電力)は同2.6%増の4,242億円となった。
  • 4~6月をみると、受注総額は前期比12.6%減の5兆8,815億円となった。また、「船舶・電力を除く民需」は同4.1%減の2兆1,702億円、製造業は同5.8%減の9,234億円、非製造業(除船舶・電力)は同0.0%増の1兆2,794億円となった。
  • 7~9月見通しをみると、受注総額は前期比1.7%減の5兆7,800億円の見通しになっている。また、「船舶・電力を除く民需」は同1.2%減の2兆1,437億円、製造業は同1.0%増の9,323億円、非製造業(除船舶・電力)は同3.5%減の1兆2,350億円の見通しになっている。

<消費動向調査>7月調査(平成24年8月9日)

  • 平成24年7月の一般世帯の消費者態度指数(季節調整値)は、6月の40.4から0.7ポイント低下して39.7となり、2か月連続で前月を下回った。これは、消費者態度指数を構成する4項目全ての意識指標が低下したためである。
  • 消費者(一般世帯)を対象に、世帯として「日頃よく購入する品物」の価格について1年後の見通しを調査したところ、「上昇する」と思うとの回答割合は60.6%、「低下する」と思うとの回答割合は7.4%となり、ともに減少した。他方、「変わらない」と思うとの回答割合は増加して24.9%となった。

【参考】<月例経済報告>7月(平成24年7月23日)

  • 景気は、依然として厳しい状況にあるものの、復興需要等を背景として、緩やかに回復しつつある。
    • 生産は、緩やかに持ち直している。輸出は、持ち直しの動きがみられる。
    • 企業収益は、持ち直している。設備投資は、緩やかに持ち直している。
    • 企業の業況判断は、大企業を中心に小幅改善となっている。
    • 雇用情勢は、持ち直しているものの、東日本大震災の影響もあり依然として厳しい。
    • 個人消費は、緩やかに増加している。
    • 物価の動向を総合してみると、下落テンポが緩和しているものの、緩やかなデフレ状況にある。
  • 先行きについては、復興需要等を背景に、景気回復の動きが確かなものとなることが期待される。ただし、欧州政府債務危機を巡る不確実性が依然として高いなかで、世界景気に減速感が広がっている。こうした海外経済の状況が、金融資本市場を通じた影響も含め、我が国の景気を下押しするリスクとなっている。また、電力供給の制約、デフレの影響等にも注意が必要である。

<統計調査公表予定一覧>

<統計調査公表予定一覧>
景気動向指数
速報
景気動向指数
改訂状況
機械受注統計
調査
消費動向調査
(全国・月次)
法人企業景気
予測調査
8月6日
(6月分)
8月20日
(6月分)
8月9日
(6月分)
8月9日
(7月分)
 
9月7日
(7月分)
9月19日
(7月分)
9月12日
(7月分)
9月10日
(8月分)
9月11日
(7–9月期)
10月5日
(8月分)
10月19日
(8月分)
10月11日
(8月分)
10月11日
(9月分)
 

「企業行動に関するアンケート調査」は毎年2月下旬~3月上旬に公表予定

SNA(QE)統計の公表予定はこちらから


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