ESRI通信 第50号

平成24年10月15日
内閣府経済社会総合研究所 発行
Cabinet Office, Government of Japan
Economic and Social Research Institute

【人口ボーナスの功罪】

新興国経済の世界シェアが高まっている。新興国の成長率が先進国より高くなった結果である。かつては先進国と途上国の格差は開く一方だといわれ、それが開発援助の必要性の根拠となってもいたのだが、条件が整えば途上国であっても先進国以上の成長率実現が可能であることが実証された。その条件としてまず挙げられるのが人口転換である。人口構造が多産多死から少産少死へ移行する過程において、生産年齢人口の総人口に対する割合が一時的に高くなる、すなわち人口当たりの平均生産力が高まる時期がある。これを人口ボーナスと呼ぶのだが、この時に社会資本整備や生産性向上による賃金上昇など需要を拡大する要件を整えてやれば、高水準の成長を確保することができる。途上国の将来展望を悲観した当時、先進国は人口ボーナス期にあり、途上国は裾野の広い人口ピラミッドによる年少従属人口の重みに喘いでいたのだ。

問題は年少従属人口比率ばかりではない。若年労働力があっても雇用機会がなければ生産活動につながらず、成長はおぼつかない。実際、父親ひとりに息子が3~4人もいれば、成長した息子たちの居場所は地元にはない。そのため彼らは国内の枠組みの変更を求めて内乱を起こしたり、海外で暴力沙汰に及んだりという形で自己実現しようとする。欧州もかつて、戦闘年齢人口と呼ばれる15~29歳男子の人口比率が高かった時代には、船団を組んで中東に掠奪に出かけ、あるいは大発見時代と称して世界中を植民地にした。つまり、人口ボーナス期であっても、若者が活躍する場がなければ秩序破壊の元凶となってしまう。最近の情勢は、イスラム過激派だからではなく、人口転換の遅かったイスラム教国で戦闘年齢人口比率が高すぎるからなのだ。彼らの多くは極度に貧しくもなく、教育水準も低くないのに、活躍の場がない。

現在、新興国と呼ばれる国は、人口ボーナスを謳歌している。日本では既にその時期が過ぎて新興国の追い上げを懸念する状況なので諸外国の人口ボーナスが気になるが、人口ボーナスが成長につながるのは、戦闘年齢人口に生産的な居場所が与えられてこそだ。それがないと現在の秩序を破壊する動きも出てくる。途上国の中には、既に出生率が下がり始め、人口転換途上にある国も少なくない。これらは次の新興国候補であるが、彼らが人口ボーナスを背景に豊かな成長を実現するためには、若者たちが前向きに活躍できる場を整えることが不可欠なのである。

平成24年10月

  • 内閣府 経済社会総合研究所
    上席主任研究官 田町 典子

【最新の研究発表】

  • 低頻度巨大災害に対する国民の政策選好に関する調査(永松 伸吾、佐藤 主光、宮崎 毅、多田 智和)(平成24年10月)

    2011年3月に発生した東日本大震災は、政府の想定をはるかに上回る規模の巨大災害であり、こうした低頻度巨大災害を軽減するための防災・減災政策の新たな方向性が模索されている。

    低頻度巨大災害への対策は政策上きわめて難しい性質を有している。めったに発生しない災害への対策の効果はほとんど実感されないゆえに、限られた政策的資源をどの地域にどういった優先順位で投じるべきかについての明確な規範は存在しない。また低頻度であるがゆえに対策の中身を決定し実施するのは現在世代だが、その対策の恩恵を受けるのは現在世代とは限らず、むしろ将来世代である可能性が高い。これからの防災・減災政策において、こうした様々な課題をどのように乗り越えていくかは、大きな政策的挑戦である。

    本稿は、こうした議論の参考となることを目的として、震災後の2011年11月に行ったインターネット調査のデータを基に、巨大災害対策に関する国民の選好を明らかにすることを目的としている。

    本研究で得られた主要な結論は以下のとおりである。

    第一に、国民は地震災害リスクをこれまで以上に不確実なものと考えている。防災投資の地域間配分について、ハザードの発生確率によって決めるよりも、全国まんべんなく、あるいは予想される被害の大きさに応じて配分すべきであるという考え方がより支持されている。また、東日本大震災の発生により、事前の防災対策から事後的な被災者支援に政策選好がシフトしているという傾向も明らかになった。これも災害リスクをより不確実なものと国民が考えるようになったとすれば、当然の結果であると言えよう。

    一方で災害リスク軽減の方策について、国民の多くは10年以内の事業実施を望み、負担は基本的に現代世代が行うが、ハード的な対策によって抑止できる外力はせいぜい数十年から100年に一回程度の規模のものであり、それを上回るハザードについてはソフトで対応すべきであるというのが大方の選好である。土地利用規制を伴う都市の再開発など大規模なコストと時間を必要とする抜本的な対策については国民の支持は必ずしも高くない。このような世論に沿った防災対策は、中長期的な災害被害の軽減につながらず、目の前の災害リスクにアドホックに対応していくようなものになる危険性がある。

  • 暖化対策における国境調整措置の動学的応用一般均衡分析(武田 史郎、鈴木 晋、有村 俊秀)(平成24年10月)

    本稿は、多地域・多部門の動学的応用一般均衡モデル(CGEモデル)を用いて、先進国(Annex B国)において排出規制とともに国境調整措置が導入されたときの経済的影響を定量的に分析している。モデルには12地域、22部門、2004年から2020年までの逐次動学モデルを、データにはGTAP7.1データを利用している。2020年までに、先進各国が削減をおこなう状況を想定した上で、国境調整措置の導入が、炭素リーケージ、エネルギー集約貿易部門(EITE部門)、GDP、厚生等にどのような効果をもたらすかを分析している。

    主な結論は以下の通りである。まず、国境調整措置は炭素リーケージを抑制する効果を確かに持つが、その効果はあまり大きいとは言えない。第二に、国境調整措置によりEITE部門へのマイナス効果を抑制できる(国際競争力を回復できる)ことがわかった。ただし、この効果は国や部門によってかなりの差がある。また、特に日本の鉄鋼部門が国境調整措置から大きな恩恵を受けるということもわかった。第三に、厚生、GDPへの効果は総じて小さく、国境調整措置の導入は、厚生、GDPという側面にはほとんど影響をもたらさないという結果となった。

<報告書の掲載>


【最新の統計】

<SNA統計>

  • 四半期別民間企業資本ストック速報(平成24年4–6月期)(平成24年9月28日)
    1. 有形固定資産 全産業(進捗ベース)
      • 24年6月末のストックは1,252.8兆円、前年同期比1.4%増となった(前期1.3%増)。
      • 24年4~6月の新設投資額は13.1兆円、同4.5%増となり、3期連続のプラスとなった(前期2.2%増)。
    2. 無形固定資産 全産業(取付ベース)
      • 24年6月末のストックは42.6兆円、前年同期比0.3%減となり、6期連続のマイナスとなった(前期0.4%減)。
      • 24年4~6月の新設投資額は1.9兆円、同1.0%増となり、2期連続のプラスとなった(前期2.8%増)。

<景気動向指数>8月速報(平成24年10月5日)

  • 8月のCI(速報値・平成 17 年=100)は、先行指数:93.6、一致指数:93.6、遅行指数:87.6 となった。
    先行指数は、前月と比較して0.6 ポイント上昇し、5ヶ月振りの上昇となった。3ヶ月後方移動平均は0.73 ポイント下降し、4ヶ月連続の下降、7ヶ月後方移動平均は0.14 ポイント下降し、2ヶ月連続の下降となった。
    一致指数は、前月と比較して0.2 ポイント下降し、5ヶ月連続の下降となった。3ヶ月後方移動平均は0.90 ポイント下降し、3ヶ月連続の下降、7ヶ月後方移動平均は0.17 ポイント下降し、2ヶ月連続の下降となった。
    遅行指数は、前月と比較して0.9 ポイント上昇し、2ヶ月振りの上昇となった。3ヶ月後方移動平均は0.33 ポイント上昇し、13 ヶ月連続の上昇、7ヶ月後方移動平均は0.54 ポイント上昇し、28 ヶ月連続の上昇となった。
  • 一致指数の基調判断
    景気動向指数(CI一致指数)は、足踏みを示している。

<機械受注統計調査報告>8月実績(平成24年10月11日)

  • 機械受注総額(季節調整値)の動向をみると、24年7月前月比2.6%減の後、8月は同12.6%減の1兆6,573億円となった。
  • 民間設備投資の先行指標である「船舶・電力を除く民需」の動向を見ると、24年7月前月比4.6%増の後、8月は同3.3%減の7,173億円となった。このうち、製造業は同15.1%減の2,790億円、非製造業(除く船舶・電力)は同3.6%増の4,300億円となった。

<消費動向調査>9月調査(平成24年10月11日)

  • 平成24年9月の一般世帯の消費者態度指数(季節調整値)は、8月の40.5から0.4ポイント低下して40.1となり、2か月ぶりに前月を下回った。消費者態度指数を構成する4項目の意識指標のうち、「収入の増え方」は前月と比べて上昇したものの、「暮らし向き」「雇用環境」「耐久消費財の買い時判断」は低下した。
  • 消費者(一般世帯)を対象に、世帯として「日頃よく購入する品物」の価格について1年後の見通しを調査したところ、「上昇する」と思うとの回答割合は62.3%、「低下する」と思うとの回答割合は6.4%となり、ともに増加した。他方、「変わらない」と思うとの回答割合は減少して23.3%となった。

【参考】<月例経済報告>10月(平成24年10月12日)

  • 景気は、引き続き底堅さもみられるが、世界景気の減速等を背景として、このところ弱めの動きとなっている。
    • 生産は、減少している。輸出は、弱含んでいる。
    • 企業収益は、持ち直しているが、頭打ち感がみられる。設備投資は、一部に弱い動きもみられるものの、緩やかに持ち直している。
    • 企業の業況判断は、製造業を中心に慎重さがみられる。
    • 雇用情勢は、依然として厳しさが残るものの、改善の動きがみられる。
    • 個人消費は、おおむね横ばいとなっているが、足下で弱い動きがみられる。
    • 物価の動向を総合してみると、下落テンポが緩和しているものの、緩やかなデフレ状況にある。
  • 先行きについては、当面は弱めの動きが続くと見込まれる。その後は、復興需要が引き続き発現するなかで、海外経済の状況が改善するにつれ、再び景気回復へ向かうことが期待されるが、欧州や中国等、対外経済環境を巡る不確実性は高い。こうしたなかで、世界景気のさらなる下振れや金融資本市場の変動等が、我が国の景気を下押しするリスクとなっている。また、収益や所得の動向、デフレの影響等にも注意が必要である。

<統計調査公表予定一覧>

<統計調査公表予定一覧>
景気動向指数
速報
景気動向指数
改訂状況
機械受注統計
調査
消費動向調査
(全国・月次)
法人企業景気
予測調査
10月5日
(8月分)
10月19日
(8月分)
10月11日
(8月分)
10月11日
(9月分)
 
11月6日
(9月分)
11月19日
(9月分)
11月8日
(9月分)
11月9日
(10月分)
 
12月7日
(10月分)
12月19日
(10月分)
12月12日
(10月分)
12月10日
(11月分)
12月10日
(10–12月期)

「企業行動に関するアンケート調査」は毎年2月下旬~3月上旬に公表予定

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