ESRI通信 第62号

平成25年10月15日
内閣府経済社会総合研究所 発行
Cabinet Office, Government of Japan
Economic and Social Research Institute

最近の国際貿易理論の劇的な進化と計算可能な一般均衡(CGE)モデルとの関係

最近の国際貿易理論の発展は目覚ましい。リカードとヘクシャー・オリーンが、生産要素賦存量や生産技術に基づいた比較優位のある財に生産及び輸出が完全特化するという貿易理論を導出してから久しい。この理論は、市場競争の分類では完全競争を前提としており、南北間の貿易によく当てはまるものの、先進国同士の産業内貿易を説明することができなかった。

そこで、クルーグマンは、1980年に差別化された財の多様性が消費者の効用を高めるとともに、生産に固定費用が存在し、規模の経済が存在する独占的競争の国際貿易理論を構築した。財が差別化されている点が効用関数に反映され、独占的競争という不完全競争になった。各国とも生産に固定費がかかることから、全ての財を生産しつつ輸入するということはなく、固定費が低く生産可能なものだけを生産し輸出することという、実態に沿った産業内貿易を導入することができた。このクルーグマン・モデルでは、貿易は規模の経済をもたらすことによって各国のGDPを押し上げるとともに、独占的競争の下、貿易自由化は外国企業の参入を通じて企業間競争を強め、経済的厚生を改善する。

ここまでの理論では、企業は、同質の代表的な企業として扱ってきたが、さらに、これを異質なものの集合として扱ったのがメルリッツである。

第1図では、2つの独占的競争を行う企業が、同じ右下がりの需要曲線に直面している。左側の図を見ると、企業1の限界費用(c1)は企業2の限界費用(c2)より小さい。各企業の限界費用と限界収入が等しくなるところで生産されるため、企業1の生産量は企業2より多く、価格は企業1の方が安くなる。価格と限界費用との差であるマージンは、限界収入曲線が需要曲線より2倍の傾きとなっているため、企業1の方が企業2より大きい。こうしたことから企業1の方は利益が企業2より大きくなる。

右側の図で、限界費用の差異によりどの程度の利益を得ているかが分かる。

第1図 企業間の生産コスト差によるパフォーマンスの違い

第1図 企業間の生産コスト差によるパフォーマンスの違い

企業1は高い営業利益を得ているが、企業2はそれほどではない。固定費用の存在を考えると、企業2は純利益がマイナスかもしれない。限界費用がc*の企業は純利益が固定費用分だけマイナスである。純利益がプラスであることを期待して参入するが、長期的には収益性が高い企業から順に並べると、ちょうど純利益がゼロになる企業まで参入することになる。

ここで、市場が統合されるとどうなるのであろうか(第2図)。市場規模が大きくなると生き残れる企業の数が多くなり、企業の競争が激化するので、個々の企業が直面する需要曲線の切片が小さくなり、傾きがなだらかになる(D→D')。こうした需要曲線では、最も生産性の高い企業が有利であり、限界費用とのマージンを小さくすることにより価格を下げ、自己の市場シェアを高めることができる。

第2図 市場統合の効果

第2図 市場統合の効果

このように生産性の高い企業は市場シェアを拡大することにより、営業利益が高まるが、その一方で、生産性の低い企業は競争の激化で限界費用の方が価格を上回るので、退出せざるを得ない。

さらに、輸出市場が導入されることに加え、関税が撤廃されて貿易が自由化されたらどうなるのだろうか(第3図)。

第3図  輸出行動と貿易自由化

第3図 輸出行動と貿易自由化01
第3図 輸出行動と貿易自由化02

パネルAで輸出市場が導入されるとしよう。貿易コストtはそれほど大きくないので、企業1は自己の低い生産コストを活かして輸出ができるので国内市場での利益に加えて、輸出市場の利益が加わる。生産コストがc*-tの企業まで輸出ができるが、企業2のコストはこれを上回るので、国内市場に止まる。第1図と同じようにコストがc*を超える企業は国内市場から撤退する。

ここで関税が撤廃され、貿易コストtが小さくなると(パネルB)、輸出機会が増えるので輸出営業利益曲線が点線まで上方にシフトし、新たな輸出企業が増える。一方、輸入が増加して国内での競争が激しくなるので、国内営業利益曲線が点線まで下方にシフトして、撤退企業も増える。このように、脆弱な企業が淘汰され、強靭な企業が生き残るため、全体の生産性が向上する。これがミクロ的基礎を持つ真の貿易自由化の生産性向上効果である。規模の経済が働き、学習効果があるところではこの生産性向上効果が大きくなることが見込まれる。

このように、理論は飛躍的に進歩し、貿易自由化の本来の効果はもっと大きいことが示唆される。理論モデルでの発展に対応するように、CGE分析でも、完全競争→不完全競争→新々貿易理論というような形のモデルが利用されるようになっており、新々貿易理論のCGEモデルへの実装がフロンティアとなっている。

平成25年10月

  • 内閣府経済社会総合研究所
    上席主任研究官 鈴木 晋

【最新の研究発表】

  • 労働市場における学歴ミスマッチ―その賃金への影響―(平尾 智隆)を掲載しました。(平成25年10月)

    本研究の目的は,「就業構造基本調査」の個票データを用い,学歴ミスマッチ(教育過剰と教育過少)が賃金に与える影響を統計的に検証することにある。具体的には,同じ学歴を獲得したにもかかわらず,より低い学歴しか求められない職業に就いた者(教育過剰者)とその学歴に見合った職業に就いた者(教育適当者)の賃金を比較する。また,より高い学歴が求められる職業に就いた者(教育過少者)の賃金を教育適当者のそれと比較する。さらに,学歴ミスマッチ年数の収益を計測することで,賃金に対してどれほどのロスが生じているのかを検証する。

    近年,日本では労働需要の減退と労働供給の高学歴化が進行してきたわけであるが,このことは学歴に見合った職業や仕事に就けない者が数多く生まれていることを疑わせる。諸外国の先行研究では,概して教育過剰者の賃金・所得や仕事満足は,教育適当者に比べて低いことが実証されてきた。本研究は,日本のデータを用い,客観的計測法(objective measure)で教育過剰を捉え,その賃金への影響を分析した初の研究である。その意味で,本研究は先駆的な貢献を果たす。

    分析の結果,(1)教育過剰者は教育適当者に比べて賃金が低いこと,(2)教育過少者の賃金は教育適当者のそれと比べて高いこと,(3)学歴ミスマッチの賃金に与える影響は,若年層よりも中高年層において,また男性よりも女性において大きいこと,(4)学歴ミスマッチ年数の収益は,教育適当年数の収益よりも小さいことが明らかになった。高学歴社会では高学歴者がその学歴に見合った仕事に就けないという労働市場でのミスマッチが高確率で発生しうる。本研究の分析結果は,効率的な経済成長のためには,社会的・企業的・個人的なロスとなる学歴ミスマッチを回避する手立てを考えることの必要性を提起している。


最新のシンポジウム・フォーラム】

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<議事録の掲載>


【最新の統計】

<SNA統計>

  • 四半期別民間企業資本ストック速報(平成25年4-6月期)(平成25年9月30日)
    1. 有形固定資産 全産業(進捗ベース)
      • 25年6月末のストックは1,264.1兆円、前年同期比0.7%増となった(前期1.0%増)。
      • 25年4~6月の新設投資額は13.0兆円、同3.3%減となり、3期連続のマイナスとなった(前期5.6%減)。
    2. 無形固定資産 全産業(取付ベース)
      • 25年6月末のストックは42.0兆円、前年同期比0.7%減となり、10期連続のマイナスとなった(前期0.5%減)。
      • 25年4~6月の新設投資額は1.9兆円、同4.2%増となった(前期1.5%増)。
  • 平成24年度民間企業投資・除却調査結果(平成23年度計数)(平成25年9月20日)

<景気動向指数>平成25年8月速報(平成25年10月7日)

8月のCI(速報値・平成22 年=100)は、先行指数:106.5、一致指数:107.6、遅行指数:112.8 となった。

  • 先行指数は、前月と比較して1.4 ポイント下降し、2ヶ月ぶりの下降となった。3ヶ月後方移動平均は1.30 ポイント下降し、9ヶ月ぶりの下降、7ヶ月後方移動平均は0.44 ポイント上昇し、8ヶ月連続の上昇となった。
  • 一致指数は、前月と比較して0.1 ポイント下降し、2ヶ月ぶりの下降となった。3ヶ月後方移動平均は0.23 ポイント上昇し、9ヶ月連続の上昇、7ヶ月後方移動平均は0.65 ポイント上昇し、7ヶ月連続の上昇となった。
  • 遅行指数は、前月と比較して0.0 ポイント差の保合いとなった。3ヶ月後方移動平均は0.50 ポイント上昇し、7ヶ月連続の上昇、7ヶ月後方移動平均は0.67 ポイント上昇し、11 ヶ月連続の上昇となった。

一致指数の基調判断

  • 景気動向指数(CI一致指数)は、改善を示している。

<機械受注統計調査報告>平成25年8月実績(平成25年10月10日)

  • 機械受注総額(季節調整値)の動向をみると、25年7月前月比4.4%増の後、8月は同4.5%増の2兆1,203億円となった。
  • 民間設備投資の先行指標である「船舶・電力を除く民需」の動向を見ると、25年7月前月比0.0%減の後、8月は同5.4%増の8,193億円となった。このうち、製造業は同0.8%増の3,213億円、非製造業(除く船舶・電力)は同6.2%増の4,911億円となった。

<消費動向調査>平成25年9月調査(平成25年10月10日)

  • 平成25年9月の一般世帯の消費者態度指数(季節調整値)は、8月の43.0から2.4ポイント上昇して45.4となり、4か月ぶりに前月を上回った。消費者態度指数を構成する4項目全ての意識指標が上昇した。
  • 消費者(一般世帯)を対象に、世帯として「日頃よく購入する品物」の価格について1年後の見通しを調査したところ、「上昇する」と思うとの回答割合は87.8%、「低下する」と思うとの回答割合は3.8%となり、ともに前月から増加した。一方、「変わらない」と思うとの回答割合は前月から減少して6.1%となった。

【参考】<月例経済報告>平成25年9月(平成25年9月13日)

  • 景気は、緩やかに回復しつつある。
    • 輸出は、このところ持ち直しの動きが緩やかになっている。生産は、緩やかに増加している。
    • 企業収益は、大企業を中心に改善している。設備投資は、非製造業を中心に持ち直しの動きがみられる。
    • 企業の業況判断は、改善している。
    • 雇用情勢は、改善している。
    • 個人消費は、持ち直し傾向にある。
    • 物価の動向を総合してみると、デフレ状況ではなくなりつつある。
  • 先行きについては、輸出が持ち直し、各種政策の効果が発現するなかで、家計所得や投資の増加傾向が続き、景気回復の動きが確かなものとなることが期待される。ただし、海外景気の下振れが、引き続き我が国の景気を下押しするリスクとなっている。

<統計調査公表予定一覧>

<統計調査公表予定一覧>
景気動向指数
速報
景気動向指数
改訂状況
機械受注統計
調査
消費動向調査
(全国・月次)
法人企業景気
予測調査
10月7日
(8月分)
10月21日
(8月分)
10月10日
(8月分)
10月10日
(9月分)
 
11月7日
(9月分)
11月19日
(9月分)
11月13日
(9月分)
11月12日
(10月分)
 
12月6日
(10月分)
12月19日
(10月分)
12月11日
(10月分)
12月10日
(11月分)
12月10日
(10-12月期)

「企業行動に関するアンケート調査」は毎年2月下旬~3月上旬に公表予定

国民経済計算(GDP統計)公表予定はこちらから


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