ESRI通信 第77号

平成27年1月21日
内閣府経済社会総合研究所 発行
Cabinet Office, Government of Japan
Economic and Social Research Institute

【巻頭言】

往く年を振り返り、来る年を展望する際に、時間軸という言葉を思い出す。「時間軸を当てるとどうなるのか」という質問には多様な含意がある。

経済分析では、時間軸に沿って経済のups & downsの流れの基調を観察するというアプローチがまず浮かぶ。その際四半期決算開示の拡大にみられるような意志決定の短期化を踏まえて経済を観察すべきではないかという指摘を受けることがある。時系列指標について、時点毎に直前の変化率がどうなっているのか、季節要因による変動を除去した前期比変化率を中心に観察すべきということだろう。極端にいえば、すべての時系列に季節調整の加工をほどこすということかもしれない。現実には、季節調整手法はそれほど万能ではないので、すべての対象時系列に季節調整を加えると、変数間の関係、特に部分と全体の関係が見えにくくなってしまうことなどの問題がある。国民経済計算体系において、加法性が失われることは大きな情報の損失だろう。原系列前年同期比による観察にも、季節要因だけをほぼざっくりと除去し、不要な手が加わっていないことからくる使い易さがある。新年早々のアメリカ経済学会(於ボストン)において会った著名な米エコノミストからも、「世界中で公表されている経済指標が、季節調整済みで解釈されているのか、原系列前年比で解釈されているのか、いずれのモードで説明解釈されているのかということに、最近強い関心がある」、「日本では二つがどう使われているのか知りたい。」と質問された。

経済分析では、様々な経済主体が活動しているうちに、時間の経過とともになぜ主体間の成果に違いが生じるのかその成り立ちを観察するというより構造的なアプローチも大事である。多数の確定された個人について、その環境や行動がどう変化したか、所得、資産、教育、就業、訓練、婚姻,出産、疾病、扶助などの項目について長年継続的に(多くは各年決まった時期に一回)調査したパネルデータを作成し、それを用いた人的資本に関するミクロ分析が代表例だろう。この場合、時間軸は離散した目盛りになる。

昨年公開された映画「6才のボクが、大人になるまで。(原題名Boyhood)」は、その斬新な製作スタイルで話題になっている。両親が離婚した6才のボクの家族の周りでさまざまなイベントが生じ、渦中のボクのパーソナリティがどう形成されて大人になり、離婚したママや時々現れる(元)パパがそれぞれの固有の人生をどう生きたのか、描いた映画である。この映画の製作のために当初6才だった主人公をはじめほとんどの俳優が、12年間毎年集まり、撮影を行ったそうである。鑑賞者は、12年間の記録をドラマ化した映画をみることにより、傷つき葛藤を経ながら大人になるボクの人格形成や、ママや(元)パパがそれぞれの性格を持ちながら出会いや学び(ママは大学に行き教授と再婚するが)によりそれなりに変わっていく姿を観察できるという仕掛けである。撮影はまるでパネルデータ収集のためにインタビュアーが標本対象者を毎年訪問しているようである。映画の各シーンが離散的な目盛りを構成し、固有の人格をもつボク・ママ・パパが変わっていく道筋を実験ではなく疑似体験できる。2015年ゴールデングローブ賞映画ドラマ部門作品賞・監督賞等を受賞したこの作品のなかにも、時間軸が通っていそうである。

平成27年1月

  • 内閣府 経済社会総合研究所
    所長 西川 正郎

【研究紹介】

「財政支出が失業に与える効果:DSGEモデルによる検証」

近年、各国政府機関、中央銀行ならびに国際機関等の経済政策の現場において、ミクロ経済学的基礎付けを有する動学的確率的一般均衡(Dynamic Stochastic General Equilibrium, DSGE)型のマクロ計量モデルの開発が急速に進展している。構造型モデルと呼ばれるDSGEモデルは、景気変動や物価変動が、企業の生産性や家計の選好の変化に起因していたのか、経済政策の変化に起因していたのかを識別することが可能であり、経済政策の効果をモデルの構造に基づいて評価できる利点を有するためである。

このような背景の下、DSGEユニットでは、財政・金融政策の効果についてDSGEモデルに基づいた実証研究を鋭意行ってきたところである。またIMFや内外の中央銀行等のエコノミストを招聘して、CEPREMAP1との共同ワークショップを開催し、当ユニットの研究成果を報告してきたところである。ここでは昨年11月に開催したワークショップにおける報告論文を紹介したい2

先行研究によれば、財政支出が失業を改善する実証結果もあれば悪化させるという実証結果も存在し、財政の失業に対する効果は定まっていない状況である。そこで本研究は、失業を考慮した閉鎖経済版DSGEモデルを構築・推定し、日本経済において財政支出が失業を改善するか否かを定量的に把握することを目的とした。

このモデルでは、差別化された職能を持つ多数の労働組合が存在し、かつそれぞれの組合内に留保賃金の異なる多数のメンバーがいると想定する。ここでは組合が実質賃金を決定し、価格支配力によって実質賃金が高止まりする。このとき、高い実質賃金の下で働きたいにもかかわらず働けないメンバー(留保賃金が低いメンバー)が組合内に生じ、非自発的な失業が発生することとなる。

また財政支出には、例えば公的医療サービス増が家計の健康を促進して民間消費を高めるといった政府消費増が民間消費を誘発する効果や(政府消費と民間消費の「補完性」)、政府投資増が社会資本を形成して民間企業の生産性を高める効果(社会資本の「生産力効果」)が存在すると考えられる。そこで本論文では、このような家計の効用や企業の生産性の改善に資する「非浪費的」な財政支出を想定した。

財政が失業を改善する場合とは、財政支出による雇用増が労働供給増を上回る場合である。財政支出増による総需要増で雇用は増加するが、家計は将来の増税に備えて現在の消費を減らすため(負の所得効果)、この総需要減が雇用増を一部相殺する。一方、消費減は働きたい人を増やすため、労働供給を増加させる。ただし「非浪費的」な財政支出の場合、財政が失業を改善する新たなチャネルがもたらされる。補完性があれば、政府消費増は民間消費を増加させ、生産力効果があれば、政府投資増は企業の限界費用の下落、ひいては物価の下落をもたらし、金融緩和による総需要拡大を通じて、いずれも雇用増をもたらす。これが負の所得効果を緩和し、雇用増が労働供給増を上回るように作用し、財政が失業を改善する可能性がある3 。報告論文の推定結果によれば、補完性や生産力効果のチャネルを通じた効果は小さかったものの、日本経済ではいずれの財政支出によっても失業率が改善されることが判明した。

ただし本モデルの失業メカニズムに基づけば、労働組合の価格支配力が高まれば失業が増えることとなるが、別の実証研究によれば賃金マークアップ率と失業率のデータの間には負の相関が検出されており、モデルの前提が支持されていないのではないかという批判も存在する。労働市場のミスマッチ等、失業のモデル化にさらに修正を加え、財政支出の失業に与える影響を引き続き検証する必要がある。


1 CEntre Pour la Recherche EconoMique et ses APplications (Center for economic research and its applications)の略。DYNAREと呼ばれるDSGEモデル分析用のフリーソフトを開発しているフランスの研究機関。

2 昨年11月のワークショップ概要については、http://www.esri.go.jp/jp/workshop/141113/141113main.htmlを参照されたい。

3 名目価格と名目賃金が速やかに調整されないという名目硬直性を仮定していることに注意されたい。


【最新の研究発表】

  • 短期日本経済マクロ計量モデル(2015年版)の構造と乗数分析(浜田 浩児、堀 雅博、横山 瑠璃子、花垣 貴司、亀田 泰佑、岩本 光一郎)を掲載しました。(平成27年1月)

    内閣府・経済社会総合研究所では、1998年の第一次版以来、「短期日本経済マクロ計量モデル」の開発・公表を続けている。本論文では、同モデルの2015年版(第9次モデル)の構造と乗数を紹介・解説している。

    「短期日本経済マクロ計量モデル」は、伝統的なIS-LM-BP型のフレームワークを基本としつつ、モデルの長期的な特性を保証する共和分関係や誤差修正メカニズムなど、計量経済学の発展を取り入れた、推定パラメータ型中規模モデルである。そのパラメータには、2012年迄の四半期マクロ時系列データを用いて得られた推定値を活用している。

    主な乗数分析の結果を紹介すると、公共投資(実質公的固定資本形成)が実質GDPに与える影響は、一年目に1.14程度となっている。所得減税は、その一部が貯蓄に回ってしまうことから、GDPの1%相当の施策でも、その影響は公共投資の場合に比べて小さくなる。短期金利の1%の引上げは実質GDPを0.32%程度引き下げる。

    なお、本モデルは「価格調整を伴う開放ケインジアン型」として構築されており、そのモデルの体系では表現されていない中長期の生産性の変化などから生じる効果はシミュレーション結果には含まれていない点に留意する必要がある。

  • 米国におけるリーマンショックの真因:―時変型ボラティリティ構造ショック付データリッチDSGEモデルのベイズ推定(飯星 博邦、松前 龍宜、西山 慎一)を掲載しました。(平成26年12月)(本文は英語)

    本稿は、米国において2007年12月~2009年6月に生じたGreat Recessionと呼ばれる不況の原因を探るために、標準的ニューケインジアン型の確率的動学一般均衡(DSGE)モデルに銀行部門と企業部門の両部門に自己資本ショックを導入した。また、これらの構造ショックにレバレッジ効果を持つ時変型ボラティリティという特性を持たせ、データリッチ推定法から40系列のマクロ時系列データを用いて推定を行った。DSGEモデルの観点から、米国のリーマンショック不況について以下の3点を実証結果として示した。(1)企業部門の自己資本が毀損するより先に銀行部門の自己資本ショックが負の方向に徐々に拡大していた。(2)本モデルでは、標準的DSGEモデルの結果と異なり、不況後の景気変動の大部分が企業部門の自己資本ショックによって引き起こされていた。(3)不良債権買収プログラム(TARP)が金融機関の救済に効果的であった一方で、企業部門のバランスシートの毀損は依然として歯止めがかかっていなかった。さらに計量的手法で明確になったのは、時変型ボラティリティ付構造ショックをDSGEモデルに導入した場合、標準的DSGEモデルと比較すると構造ショックの信用区間が半分以下に狭まった点である。これは時変型ボラティリティ付構造ショックが現実的な仮定であることを示唆している。つまり、現実の経済では平時ではボラティリティ(不確実性)は小さいが、景気循環の転換点ではボラティリティ(不確実性)は大きく変化することを示している。


【最新の統計】

<SNA統計>

<景気動向指数>平成26年11月速報(平成27年1月9日)

11 月のCI(速報値・平成22 年=100)は、先行指数:103.8、一致指数:108.9、遅行指数:119.9 となった。

  • 先行指数は、前月と比較して0.7 ポイント下降し、2か月連続の下降となった。3か月後方移動平均は0.40 ポイント下降し、2か月連続の下降、7か月後方移動平均は0.33 ポイント下降し、9か月連続の下降となった。
  • 一致指数は、前月と比較して1.0 ポイント下降し、3か月ぶりの下降となった。3か月後方移動平均は0.20 ポイント上昇し、2か月連続の上昇、7か月後方移動平均は0.31 ポイント下降し、6か月連続の下降となった。
  • 遅行指数は、前月と比較して1.3 ポイント上昇し、2か月連続の上昇となった。3か月後方移動平均は0.53 ポイント上昇し、2か月連続の上昇、7か月後方移動平均は0.27 ポイント上昇し、2か月ぶりの上昇となった。

一致指数の基調判断

  • 景気動向指数(CI一致指数)は、下方への局面変化を示している。

<機械受注統計調査報告>平成26年11月実績(平成27年1月15日)

  • 機械受注総額の動向をみると、26年10月前月比2.9%減の後、11月は同10.4%減の2兆222億円となった。
  • 民間設備投資の先行指標である「船舶・電力を除く民需」の動向を見ると、26年10月前月比6.4%減の後、11月は同1.3%増の7,880億円となった。このうち、製造業は同7.0%減の3,198億円、非製造業(除く船舶・電力)は同0.5%増の4,449億円となった。

<消費動向調査>平成26年12月調査(平成27年1月19日)

  • 平成26年12月の一般世帯(2人以上の世帯)の消費者態度指数(季節調整値)は11月の37.7から1.1ポイント上昇して38.8となり、5か月ぶりに前月を上回った。消費者態度指数を構成する4つの意識指標全てが前月から上昇した。
  • 消費者(一般世帯)に、世帯として「日頃よく購入する品物」の価格が1年後どうなると思うか調査したところ、「上昇する」の回答割合は前月から低下し、87.0%となった一方、「低下する」と「変わらない」は前月から上昇し、「低下する」の回答割合は3.8%、「変わらない」の回答割合は6.6%となった。

【参考】<月例経済報告>平成26年12月(平成26年12月19日)

景気は、個人消費などに弱さがみられるが、緩やかな回復基調が続いている。

    • 個人消費は、消費者マインドに弱さがみられるなかで、底堅い動きとなっている。
    • 設備投資は、おおむね横ばいとなっている。
    • 輸出は、横ばいとなっている。
    • 生産は、下げ止まっている。
    • 企業収益は、全体としてはおおむね横ばいとなっているが、大企業製造業では改善の動きもみられる。企業の業況判断は、おおむね横ばいとなっている。
    • 雇用情勢は、有効求人倍率の上昇には一服感がみられるものの、改善傾向にある。
    • 消費者物価は、このところ横ばいとなっている。

先行きについては、当面、弱さが残るものの、雇用・所得環境の改善傾向が続くなかで、各種政策の効果もあって、緩やかに回復していくことが期待される。ただし、消費者マインドの低下や海外景気の下振れなど、我が国の景気を下押しするリスクに留意する必要がある。

<統計調査公表予定一覧>

<統計調査公表予定一覧>
景気動向指数
速報
景気動向指数
改訂状況
機械受注統計
調査
消費動向調査
(全国・月次)
法人企業景気
予測調査(四半期)
1月9日
(11月分)
1月21日
(11月分)
1月15日
(11月分)
1月19日
(12月分)
 
2月6日
(12月分)
2月19日
(12月分)
2月12日
(12月分)
2月9日
(1月分)
 
3月6日
(1月分)
3月17日
(1月分)
3月11日
(1月分)
3月12日
(2月分)
3月12日
(1-3月期)

「企業行動に関するアンケート調査」は毎年2月下旬~3月上旬に公表予定

国民経済計算(GDP統計)公表予定はこちらから


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