ESRI通信 第80号

平成27年4月23日
内閣府経済社会総合研究所 発行
Cabinet Office, Government of Japan
Economic and Social Research Institute

【巻頭言】

最近、『経済学者、未来を語る』と題する本を読んだ。10人の経済学者が100年後の経済社会について論じているが、そもそものモチーフはケインズの『説得論集』に収録されている「わが孫たちの経済的可能性」(1930年)である。このエッセイでケインズは、暗い将来像を提示したピグー的な見方に対比させて、100年後の未来を豊かで明るいものに描き出している。すなわち、大航海時代以来の科学と複利の力で、深刻な戦争や顕著な人口増加がなければ、先進国の生活水準は今後100年以内に4倍から8倍に達し、経済問題は解決されるか、もしくは、解決のめどがつく、との見方を示している。特に、その昔に私が読んだ際に印象的だったのは、生産性の向上などにより習慣的な週15時間労働で十分、というくだりであった。しかしながら、ケインズのいう100年後まで残すところ15年ほどだが、2030年までに週15時間労働が実現されると考えている経済学者は皆無といってよいだろう。誠に残念な限りである。もっとも、ケインズは別のところで、長期には我々は皆死んでいる、という有名な言葉も残しており、100年がケインズの考える長期なのかどうかはともかく、長期にわたる将来についてやや矛盾する見方であると感じられないでもない。

グラフ:Global mean temperature change
グラフ:Global mean temperature change のイメージ

話を『経済学者、未来を語る』に戻すと、寄稿している10人の経済学者の見方は、大雑把な印象として、いわゆる慎重な楽観主義に基づいているように見受けられる。しかし、100年後の予測の方法論についても「現在の傾向から推定する」(p.180)というロス教授もいれば、「未来の予測においては新しいアイデアの提案が欠かせない。現在の傾向から未来を推測するだけでは不十分だ。」(p.199)というシラー教授もいたりするのでまちまちである。また、特に注目すべき予測の中身として、より慎重な見方を提供している経済学者が多いテーマが、地球環境問題、中でも地球温暖化の進行、それに伴う海面上昇・凍土融解や気候変動などである点は見逃せない。上のグラフは、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次評価報告書(AR5)第2作業部会の報告『気候変動2014 - 影響・適応・脆弱性』(http://www.ipcc.ch/report/ar5/wg2/) から引用1しているが、温暖化ガスの高排出のシナリオであるRCP8.5では気温が上昇を続けるのに対して、低排出のRCP2.9ではほぼ横ばいが実現できると見込んでいる。こういった地球温暖化を防止し、気候変動に対応する炭素排出削減目標が国内経済や国民生活にどのようなインパクトを有しているかを分析するのも経済学の重要な役割のひとつであろう。

平成27年4月

  • 内閣府 経済社会総合研究所
    上席主任研究官 吉岡 真史

1(出所) Figure RC-1 from IPCC, 2014: Climate Change 2014: Impacts, Adaptation, and Vulnerability. Contribution of Working Group II to the Fifth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change [Field, C.B, V.R. Barros, D.J. Dokken, K.J. Mach, M.D. Mastrandrea, T.E. Bilir, M. Chatterjee, K.L. Ebi, Y.O. Estrada, R.C. Genova, B. Girma, E.S. Kissel, A.N. Levy, S. MacCracken, P.R. Mastrandrea, and L.L. White (eds.)]. Cambridge University Press, Cambridge, United Kingdom and New York, NY, USA.


【研究紹介】

「Empirical Research on Depreciation of Business R&D Capital(企業R&D資本の減耗率についての実証研究)」

  • 内閣府 経済社会総合研究所
    客員研究員 外木 暁幸
    研究官 北岡美智代

日本では、2016年より国民経済計算に新しいSNA基準である2008SNAの実施が計画されている。2008SNAの実施による最も重要な変更点は研究開発(R&D)が固定資本形成として計上され、また、その蓄積が資本ストックとして計上されることである。

R&D資本ストックの計測には、OECDの『Intellectual Property Products Handbook』のガイダンスにより恒久棚卸法等が推奨されているが、恒久棚卸法を用いてR&D資本ストックを計測する場合、R&D資本の減耗率をどのように推定するかが極めて重要な論点となる。このR&D資本減耗率の計測の方法については、同ガイダンスにおいて幾つかの方法が提案されているが、我々の研究ユニットでは米国NIPA1における企業R&D資本減耗率の推計のベースとなったLi (2012)2のモデルと手法をベースに日本の企業R&Dの資本減耗率推計の研究を行い、その成果を2015年3月に「Empirical Research on Depreciation of Business R&D Capital(企業R&D資本の減耗率についての実証研究)」(ESRI Discussion Paper No.319)3として公表を行った。

本研究において、企業R&D資本減耗率の推計に用いるモデルでは、いくつかの仮定の下で企業がR&Dの将来の売上への貢献度を予測しながら、最適なR&Dの投資額を決定する。データについては日本の20産業についてのR&D支出及び産出を用いる。推計の結果、R&D集約度の高い産業(「R&D投資(支出)/ 売上高(産出)」が1%以上の産業(例えば製薬業、非鉄金属工業、電気機械等))では、R&D資本減耗率が0.12~0.48となり、先行研究である米国のR&D集約度の高い産業のそれと大きな矛盾のない結果が得られた。また、同推計結果はMiyagawa et al. (2014)4のアンケートによるR&D資本減耗率の結果とも一定の整合性がみられた。

今後は、学術誌への投稿等を通して本研究について発信するとともに、日本経済の現状により適したR&D資本減耗率を求めるべく、モデルや手法の最適化について分析を深めたい。


1NIPA(National Income and Product Accounts):国民所得生産勘定

2Li, W. C. Y. (2012). "Depreciation of Business R&D Capital." R&D Satellite Account Paper. Bureau of Economic Analysis/National Science Foundation.

3http://www.esri.go.jp/jp/archive/e_dis/e_dis319/e_dis319.html

4Miyagawa, T., K. Tonogi and S. Hisa. (2014). "Intangible Investment and Economic Growth in Japan." Presented at the 3rd World KLEMS Conference at Tokyo.


【最新の研究発表】

  • 企業R&D資本の減耗率についての実証研究(外木 暁幸、北岡 美智代、Wendy C. Y. Li)を掲載しました。(平成27年3月)(本文は英語)

    日本では、2016年より国民経済計算に新しいSNA基準である2008SNAの実施が計画されている。2008SNAの実施による最も重要な変更点は研究開発(R&D)が固定資本形成として計上され、また、その蓄積が資本ストックとして計上されることである。R&D資本ストックの計測は恒久棚卸法を用いて行われるため、R&D資本の減耗率をどのように推定するかが極めて重要な論点となる。R&D資本減耗率の計測の方法については、OECDの『Intellectual Property Products Handbook』において幾つかの方法が提案されているが、この研究では米国NIPAにおける企業R&D資本減耗率の推計のベースとなったLi (2012)のモデルと手法をベースに日本の企業R&Dの資本減耗率推計の研究を行う。推計に用いるモデルでは、いくつかの仮定の下で企業がR&Dの将来の売上への貢献度を予測しながら、最適なR&Dの投資額を決定する。データについては日本の20産業についてのR&D支出及び産出を用いる。推計の結果、先行研究との間で大きな矛盾のないR&D資本減耗率が推計されている。また、それらの推計結果はMiyagawa et al. (2014)のアンケートによるR&D資本減耗率の結果とも一定の整合性がみられる。

<報告書の掲載>


【最新のシンポジウム・フォーラム】

<議事次第(配付資料)の掲載>


【最新の統計】

<SNA統計>

  • SNA産業連関表(平成25年)(平成27年3月27日)
  • 四半期別民間企業資本ストック速報(2014(平成26)年10-12月期)(平成27年3月27日)
    1. 有形固定資産 全産業(進捗ベース)
      • 26年12月末のストックは1,306.3兆円、前年同期比1.6%増となった(前期は1.7%増)。
      • 26年10~12月の新設投資額は14.4兆円、前年同期比0.5%増となり、6期連続でプラスとなった(前期は1.7%増)。
    2. 無形固定資産 全産業(取付ベース)
      • 26年12月末のストックは43.3兆円、前年同期比1.2%増となり、9期連続のプラスとなった(前期は1.1%増)。
      • 26年10~12月の新設投資額は2.1兆円、前年同期比1.3%減となり、3期連続のマイナスとなった(前期は3.2%減)。
  • 2008SNA(仮訳)について(平成27年3月26日)

<景気動向指数>平成27年2月速報(平成27年4月6日)

2月のCI(速報値・平成22 年=100)は、先行指数:105.3、一致指数:110.5、遅行指数:120.3 となった。

  • 先行指数は、前月と比較して0.2 ポイント下降し、2か月連続の下降となった。3か月後方移動平均は0.36 ポイント上昇し、2か月連続の上昇、7か月後方移動平均は0.07 ポイント下降し、3か月ぶりの下降となった。
  • 一致指数は、前月と比較して2.8 ポイント下降し、3か月ぶりの下降となった。3か月後方移動平均は0.34 ポイント上昇し、6か月連続の上昇、7か月後方移動平均は0.09 ポイント上昇し、2か月連続の上昇となった。
  • 遅行指数は、前月と比較して0.2 ポイント下降し、3か月連続の下降となった。3か月後方移動平均は0.27 ポイント下降し、8か月ぶりの下降、7か月後方移動平均は0.04 ポイント上昇し、24 か月連続の上昇となった。

一致指数の基調判断

  • 景気動向指数(CI一致指数)は、改善を示している。

平成27年2月改訂(平成27年4月21日)

  • 2月のCI(改訂値・平成22年=100)は、先行指数:104.8、一致指数:110.7、遅行指数:121.5となった。

一致指数の基調判断

  • 景気動向指数(CI一致指数)は、改善を示している。

<機械受注統計調査報告>平成27年2月実績(平成27年4月13日)

  • 機械受注総額の動向をみると、27年1月前月比14.2%増の後、2月は同1.4%減の2兆4,745億円となった。
  • 民間設備投資の先行指標である「船舶・電力を除く民需」の動向をみると、27年1月前月比1.7%減の後、2月は同0.4%減の8,356億円となった。このうち、製造業は同0.9%増の3,552億円、非製造業(除く船舶・電力)は同3.6%減の4,769億円となった。

<消費動向調査>平成27年3月調査(平成27年4月17日)

  • 平成27年3月の一般世帯(2人以上の世帯)の消費者態度指数(季節調整値)は41.7と前月から0.8ポイント上昇、4か月連続で前月を上回った。消費者態度指数を構成する4つの意識指標全てが2か月連続で前月から上昇した。
  • 世帯として「日頃よく購入する品物」の価格が1年後どうなると思うか消費者(一般世帯)に調査したところ、「変わらない」の回答割合は6.0%と前月から増加した一方、「上昇する」は87.8%、「低下する」は3.9%といずれも前月から減少した。
  • なお、3月調査では主要耐久消費財等の保有状況についても調査を行った(年1回の調査)。

【参考】<月例経済報告>平成27年4月(平成27年4月20日)

景気は、企業部門に改善がみられるなど、緩やかな回復基調が続いている。

    • 個人消費は、総じてみれば底堅い動きとなっている。
    • 設備投資は、おおむね横ばいとなっている。
    • 輸出は、このところ持ち直しの動きがみられる。
    • 生産は、持ち直している。
    • 企業収益は、改善の動きがみられる。企業の業況判断は、おおむね横ばいとなっているが、一部に改善の兆しもみられる。
    • 雇用情勢は、改善傾向にある。
    • 消費者物価は、横ばいとなっている。

先行きについては、雇用・所得環境の改善傾向が続くなかで、原油価格下落の影響や各種政策の効果もあって、緩やかに回復していくことが期待される。ただし、海外景気の下振れなど、我が国の景気を下押しするリスクに留意する必要がある。

<統計調査公表予定一覧>

<統計調査公表予定一覧>
景気動向指数
速報
景気動向指数
改訂状況
機械受注統計
調査
消費動向調査
(全国・月次)
法人企業景気
予測調査(四半期)
4月6日
(2月分)
4月21日
(2月分)
4月13日
(2月分)
4月17日
(3月分)
5月12日
(3月分)
5月20日
(3月分)
5月18日
(3月分)
5月15日
(4月分)
6月5日
(4月分)
6月19日
(4月分)
6月10日
(4月分)
6月9日
(5月分)
6月11日
(4-6月期)

「企業行動に関するアンケート調査」は毎年2月下旬~3月上旬に公表予定

国民経済計算(GDP統計)公表予定はこちらから


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