ESRI通信 第83号

平成27年7月24日
内閣府経済社会総合研究所 発行
Cabinet Office, Government of Japan
Economic and Social Research Institute

【巻頭言】

インドでは約5年前に導入された個別識別番号制 (Aadhaar、「礎」の意。) への登録が進んでいるようである。識者の方には旧聞と思われるが、住所や顔写真だけでなく、手指の指紋や瞳の虹彩等という生体情報も採取する個別識別制度(※出生証明、銀行口座等個人の証明に使用される。)は、任意登録にもかかわらず13.2億の人口のうち8億人以上が登録し最近でも月2千万人のペースで登録が増えているという。これはITに対する適応性の高さを反映しているともいえるし、紙媒体の証明や既存の非効率な手続が変わることへの期待、政府の補助を受ける際に登録が有利に働く等理由は様々あると考えられる。

個人の識別が容易になることで取引コストの低減が期待されるが、インドで注目されているのは、食料や燃料等の補助プログラムでの不正受給を削減する効果である。例えば、調理用LPGガスは貧困層向けに一部価格補助された容器も販売されているが不正購入が全体の1~2割を占めると言われる。これに対しAadhaarにより識別された銀行口座に直接補助金を振り込む方式1が約2年前から開始され、低価格ガスの補助受給者は従来に比べ約6分の1減少し相当の補助金が節約される見通しと報じられた。貧困層への現金の直接支給は、数億人単位の受給対象者に正確かつ迅速に支給されればその効果は小さくないであろう。

これまで新興国ではインフラ不足により金融サービスを享受できるのは一部の人々に限られていた。しかし、インドでの最近の動きは、IT 等を活用することにより、多くの人々が金融サービスへの新たなアクセスを確保し、金融サービスが産業として発展していく可能性を示唆している。今後、技術革新の成果を活用することで従来の障壁を突破2し 、経済成長の加速につなげていくのかどうか興味深いところである。

経済社会総合研究所では、アジアの経済活力の源泉を探るためそのポテンシャルに関する検討を行ってきた。今年度は、インドを取り上げ、インフラ整備の遅れや貧困問題など構造的な懸案への対応に焦点を当てながら今後の新興国の経済発展に対する示唆を得ることを目指している。インド経済については今世紀半ばまでにアメリカ、中国以外の他国を大きく上回る経済規模になるとの見通しが示されている。その過程で現状突破につながる変革が一、二度は必要になってくるのではないだろうか。様々な現象を統計的な事実として集めどう確認していくか、こうした研究の一環として、内外の有識者を集めたコンファレンスを開催すべく準備を進めている。海外も含む多くの機関や研究者とのネットワーク構築を行いながら、少しでも疑問の解明につなげたいと考えている。

平成27年7月

  • 内閣府 経済社会総合研究所
    上席主任研究官 渡部 良一

1Aadhaarを持たない貧困層の救済策としてLPG会社に口座等情報を登録することにより補助金の口座への振り込みを受けられる措置も2015年1月から行われている。

2The Economist(2015年5月23日)は、技術革新等によりこれまでの障壁を突破する現象を蛙跳びとして紹介している。

【研究紹介】

「災害に強い国土利用への中長期誘導方策の研究」の概要

  • 内閣府 経済社会総合研究所
    研究官 田中陽三

内閣府経済社会総合研究所の防災ユニットでは、巨大災害が発生した場合の経済への影響等、防災・減災政策のあり方に関する様々な研究を行っている。ここでは本年6月に暫定的にとりまとめた研究成果1について紹介したい。これは、巨大災害のうち、巨大地震を例にとって、その災害リスク指数を試作したものである。

スイス再保険会社が2013年に発表した世界の都市災害危険ランキング2では、東京-横浜都市圏は世界で突出してリスクの高い地域と評価されている。それは、元々地震や洪水などの発生確率が高いと言われている地域に、膨大な人口等が集積しているためであると考えられる。つまり、このような日本の特性を考えれば、その国土利用方法自体が災害リスクを拡大しているのであり、低頻度巨大災害リスクを軽減する方策として、既存の国土利用そのものを所与とするのではなく、災害リスクを軽減するような国土の利用を促すことが考えらえる。

そこでまずは、巨大地震を対象にハザードがどのような場所に分布しているのかを概観することとした。具体には、医療機関等の公的施設や就業者数等の社会経済活動が、首都直下地震や南海トラフ巨大地震等の震源を特定した地域のハザードや確率論的地震動予測地図3の震源を特定しない全国のハザードにどの程度暴露される可能性があるのかを整理した。

その結果、例えば、今後30年間に3%の確率で震度6弱以上の揺れに見舞われる地域に存在する医療機関の数は、約15万(全国の約93%。以下、同様。)存在することが確認された。さらに同様の地域に居住する人口は約1億1400万人(約89%)であり、卸売業、小売業の就業者数はで約880万人(約90%)、卸売業、小売業の事業所数は約140万(約89%)であることが確認された。以上のことから、地震の影響を受けやすい地域に公的施設や産業等が集中していることが明らかとなった。

また、ハザードと被災対象物量の関係だけでは把握できない災害リスクを可視化するため、ハザードと被災対象物量の他に、災害に対する脆弱性や地域社会の持続可能性などの社会経済関係データについても指標化し、さらにそれらを統合した暫定的な地震災害リスク指数(REDRI)を試作した。

今後、洪水など地震以外の災害も考慮し、この災害リスク指数の精緻化等について引き続き検討していく予定である。


1New ESRI Working Paper No.34「災害に強い国土利用への中長期誘導方策の研究」
http://www.esri.go.jp/jp/archive/new_wp/new_wp040/new_wp034.pdf別ウィンドウで開きます。(PDF形式 2.9 MB)

2Swiss Re (2014) Mind the risk: A global ranking of cities under threat from natural disasters.

3確率論的地震動予測地図http://www.j-shis.bosai.go.jp/download 外部サイトへ接続します。

【最新の研究発表】

  • 我が国世帯の生涯資産と貯蓄率:2つの個票データを用いた実証分析(堀 雅博、岩本 光一郎、新関 剛史、菅 史彦)を掲載しました。(平成27年6月)(本文は英語)

    本稿では、我が国世帯の経済行動に関する2つの調査(『家計調査』及び『家族と暮らしに関するアンケート』)から得られた個票データを活用して、経済的に恵まれた世帯(生涯利用可能資産が大きい世帯)の貯蓄率が、恵まれない世帯のそれに比べて高いか否かの検証を行った。実証上難しいのは、世帯の生涯利用可能資産額を代理する信頼できる(万人が合意できる)指標が見出し難い点である。そこで本稿では、2つの調査から得られる複数の指標を代理変数として、世帯の「豊かさ」と貯蓄率の関係を見てみることにした。その結果、得られる(豊かさと貯蓄率の)関係は生涯利用可能資産額の代理変数の選択に依存する面はあるものの、米国等で報告されている先行研究と概ね同様のパターン、すなわち、学歴や職種等を代理変数とした場合、経済的に恵まれていると考えられる世帯程貯蓄率が高いという正の相関が見られる一方、(恒常所得仮説に基づいて)支出関連指標を代理変数とした場合には正の相関が消失すること、が確認できた。更に、本稿独自の代理指標として、ラグ付の消費、世帯資産、世帯の購入価格情報に基づく指標等も試みた結果、それらの指標では、勤労(現役)世帯について、緩やかな正の相関が見られるものの、豊かさと貯蓄率の関係は世帯の(恒常所得仮説から予想される通り)ライフステージに依存しており、多額の資産を保有する高齢世帯では、その資産の一部を取り崩すという行動も見られることが分かった。

<報告書の掲載>


【最新の統計】

<SNA統計>

  • 平成24年度県民経済計算(含む政令指定都市) (2015年7月14日)
  • 四半期別民間企業資本ストック速報(2015(平成27)年1-3月期)(平成27年6月26日)
    1. 有形固定資産 全産業(進捗ベース)
      • 27年3月末のストックは1,309.2兆円、前年同期比1.4%増となった(前期は1.5%増)。
      • 27年1~3月の新設投資額は18.2兆円、前年同期比▲3.8%減となり、7期ぶりでマイナスとなった(前期は0.0%増)。
    2. 無形固定資産 全産業(取付ベース)
      • 27年3月末のストックは43.4兆円、前年同期比1.6%増となり、10期連続のプラスとなった(前期は1.3%増)。
      • 27年1~3月の新設投資額は2.7兆円、前年同期比0.6%増となり、4期ぶりのプラスとなった(前期は0.9%減)。

<景気動向指数>平成27年5月速報(平成27年7月6日)

5月のCI(速報値・平成22 年=100)は、先行指数:106.2、一致指数:109.2、遅行指数:125.8 となった。

  • 先行指数は、前月と比較して0.2 ポイント下降し、3か月ぶりの下降となった。3か月後方移動平均は0.43 ポイント上昇し、2か月連続の上昇、7か月後方移動平均は0.20 ポイント上昇し、4か月ぶりの上昇となった。
  • 一致指数は、前月と比較して1.8 ポイント下降し、2か月ぶりの下降となった。3か月後方移動平均は0.37 ポイント下降し、4か月連続の下降、7か月後方移動平均は0.23 ポイント下降し、2か月ぶりの下降となった。
  • 遅行指数は、前月と比較して0.6 ポイント上昇し、2か月連続の上昇となった。3か月後方移動平均は1.10 ポイント上昇し、11 か月連続の上昇、7か月後方移動平均は0.80 ポイント上昇し、27 か月連続の上昇となった。

一致指数の基調判断

  • 景気動向指数(CI一致指数)は、足踏みを示している。

平成27年5月改訂(平成27年7月21日)

  • 5月のCI(改定値・平成22年=100)は、先行指数:106.2、一致指数:109.0、遅行指数:125.1となった。

一致指数の基調判断

  • 景気動向指数(CI一致指数)は、足踏みを示している。

<機械受注統計調査報告>平成27年5月実績(平成27年7月9日)

  • 機械受注総額の動向をみると、27年4月前月比1.1%減の後、5月は同6.2%減の2兆3,028億円となった。
  • 民間設備投資の先行指標である「船舶・電力を除く民需」の動向をみると、27年4月前月比3.8%増の後、5月は同0.6%増の9,076億円となった。このうち、製造業は同9.9%増の4,417億円、非製造業(除く船舶・電力)は同4.0%減の4,750億円となった。

<消費動向調査>平成27年6月調査(平成27年7月10日)

  • 平成27年6月の一般世帯(2人以上の世帯)の消費者態度指数(季節調整値)は41.7と前月から0.3ポイント上昇し、3か月ぶりに前月を上回った。消費者態度指数を構成する4つの意識指標全てが前月から上昇した。
  • 世帯として「日頃よく購入する品物」の価格が1年後どうなると思うか消費者(一般世帯)に調査したところ、「低下する」は3.2%、「変わらない」の回答割合は7.4%といずれも前月から増加したのに対し、「上昇する」は87.3%と前月から減少した。

【参考】<月例経済報告>平成27年7月(平成27年7月21日)

景気は、緩やかな回復基調が続いている。

    • 個人消費は、持ち直しの兆しがみられる。
    • 設備投資は、このところ持ち直しの動きがみられる。
    • 輸出は、おおむね横ばいとなっている。
    • 生産は、このところ横ばいとなっている。
    • 企業収益は、総じて改善傾向にある。企業の業況判断は、おおむね横ばいとなっているが、一部に改善の兆しもみられる。
    • 雇用情勢は、改善傾向にある。
    • 消費者物価は、緩やかに上昇している。

先行きについては、雇用・所得環境の改善傾向が続くなかで、各種政策の効果もあって、緩やかに回復していくことが期待される。ただし、中国経済をはじめとした海外景気の下振れなど、我が国の景気を下押しするリスクに留意する必要がある。

<統計調査公表予定一覧>

<統計調査公表予定一覧>
景気動向指数
速報
景気動向指数
改訂状況
機械受注統計
調査
消費動向調査
(全国・月次)
法人企業景気
予測調査(四半期)
7月6日
(5月分)
7月21日
(5月分)
7月9日
(5月分)
7月10日
(6月分)
 
8月6日
(6月分)
8月19日
(6月分)
8月13日
(6月分)
8月10日
(7月分)
 
9月7日
(7月分)
9月下旬
(7月分)
9月10日
(7月分)
9月9日
(8月分)
9月11日
(7-9月期)

「企業行動に関するアンケート調査」は毎年2月下旬~3月上旬に公表予定

国民経済計算(GDP統計)公表予定はこちらから


ご意見・ご感想はこちらから

新着情報メール配信の登録内容の変更・停止等はこちらから

  • 〒100-8914
    東京都千代田区永田町1-6-1 中央合同庁舎第8号館
  • 電話 03-5253-2111(代表)