ESRI通信 第85号

平成27年9月17日
内閣府経済社会総合研究所 発行
Cabinet Office, Government of Japan
Economic and Social Research Institute

【巻頭言】

かつて経済企画庁の官庁エコノミストは、経済理論と政策現場の交差点に立って多くの情報を発信しており、政策論争等の場で主導的役割を担う人材の供給源でもあった。ところが、省庁再編で企画庁が他の官庁とともに内閣府に統合されて以降、政策立案や調整機能が強化された反面、守備範囲が広がり過ぎて専門性が低下し、政策論争の場での活躍が目立たなくなっているという声が聞こえる。

こうした状況の背景には、

(1)日本経済が成熟して民間シンクタンクや大学等の競合機関が次々に登場する時代となり、官庁エコノミストの分析もそうした競合機関による膨大な調査・分析の中の一つという位置づけに変わったこと、

(2)内閣府の広範な守備範囲の下で、専門性に配意した人事を行うことへの制約が強まっており、それを見越してエコノミスト志向の人材を集め難くなっていること、

等の変化が作用していることは間違いないが、私見では、これらにも増して、

(3)内閣府が諮問会議の企画・運営部隊となり、意思決定の現場に近づいた反面、多忙で責任も重くなり、政策のそもそも論を考えたり、ましてそれを個人名で発信したりすることが難しくなっていること、

の影響が否定し難いように思える。

企画庁の時代には、業務において、白書等を通じ日本経済の分析結果を世の中に提供し、現状理解や将来展望に関する議論をリードするとともに、その成果を個人論文や著書にまとめて発表する先輩方がそこここにおられた。一方、近年では、そうした形で私論を公刊する事例は(大学出向の機会を利用する等の例外を除き)余り見られなくなっている。

官庁エコノミストの本務は、経済政策運営に係る意思決定の助けとなる素材の提供にあり、それに専心すべきことは言うまでもないが、よい素材を提供できる優れたエコノミストになるためには自らを「磨く」必要がある。その「磨く」過程において、個人として考え、それを人の目に晒して批判(時には称賛)を受け、更に考察を深めるという経験は決定的に重要である。

私個人の知る限りでも、国際機関や大学・研究機関のエコノミストの評価は、その所属する組織内における業務の成果と同等かそれ以上に、その個人に対する外部機関の評価(組織外社会貢献、著書の有無、査読誌への掲載、論文の被引用、メディア露出等)に依存していた。それらに比べると、昨今の日本の官庁エコノミストの評価尺度は組織内のそれに止まっていないだろうか。我々の本務に、提供する素材に基づいた「外部者の説得」が含まれるとすれば、官庁エコノミストへの外部評価が(その形態はさておき)遠からず求められるだろう。

経済社会総合研究所では、投稿制の機関誌『経済分析』やディスカッション・ペーパー、冊子「Economic & Social Research(ESR)」等、内閣府職員に幾つかの試論公開の場を用意している。更に意欲ある若手は学会報告や学術誌への投稿を試みてもよいだろう。官庁エコノミストが自らを「磨く」ために外部に晒される意義が理解され、個人的成果の公開にチャレンジする若手エコノミストを応援する空気が広がることを期待したい。

平成27年9月

  • 内閣府 経済社会総合研究所
    上席主任研究官 堀 雅博

【研究紹介】

ESRI国際コンファレンス「日本経済の着実な成長に向けて」の概要

  • 内閣府 経済社会総合研究所
    研究官 梅田 政徳

内閣府経済社会総合研究所は、日本経済の課題と政策を討議する「ESRI国際コンファレンス」を2001年以来東京で開催しており、本年7月31日に第13回目のコンファレンスを開催した。

今回は、「日本経済の着実な成長に向けて」をテーマとして、4つの報告が行われたほか、パネルディスカッションでは、日米両国側の第一線の学者による活発な議論が行われた。

本稿では、本コンファレンスで行われた議論を概説する。

(1)セッション1:日本のビジネス環境(報告者:星岳雄 スタンフォード大学教授、コメンテーター:齋藤潤 慶應義塾大学特任教授、浜田宏一 イェール大学教授)

日本再興戦略におけるKPI (Key Performance Indicator)の設定を評価する一方で、目標達成に向けた道筋が明確になっていない点が指摘された。

討論においては、KPIにある世界銀行のビジネス環境ランキングはビジネスのしやすさの一部をカバーするものにすぎず、数値目標を達成することで満足すべきでないことや法人税率を引き下げる必要性等が指摘された。

(2)セッション2:持続可能な世界経済の発展と日本の成長(報告者:ジェフリー・サックス コロンビア大学教授、コメンテーター:岩田一政日本経済研究センター理事長)

日本は、人的資本レベルが高く科学技術・イノベーションという強みがある一方で、自由化が不十分で、生産性が中庸であることが指摘された。今後の日本経済の持続的な発展のためには、近隣諸国との友好関係を築くことを含めてオープン化を進めるべきとの指摘があり、特に注力すべき分野としては、環境・エネルギー分野が挙げられた。

討論においては、日本の生産性と技術レベルが合致していないとの報告者の主張に同意するとともに、2050年頃までに情報関連サービスが成長をけん引する経済構造に転換することが地球温暖化への対応の上でも重要との指摘がなされた。

(3)セッション3:女性の労働供給(短期と長期のトレードオフ)(報告者:阿部正浩 中央大学教授、コメンテーター:キャサリン・エイブラハム メリーランド大学教授)

1990-2000年の都道府県の特殊合計出生率と女性の労働参加率の変化には負の相関関係がみられ、女性の労働参加率上昇により少子化が進む恐れを指摘し、女性の活躍促進と同時にワークライフバランスの確保を進めることの重要性が提起された。

討論においては、女性・高齢者に限らず、若年層の労働市場への取込み、終身雇用制全体を見直した流動性の高い雇用制度を作ることなどの指摘があった。

(4)セッション4:為替相場と日本企業(報告者:堀雅博 ESRI上席主任研究官、コメンテーター:ミシェル・ドゥブロ ブリティッシュ・コロンビア大学教授)

90年代半ばから2013年度までの日本の企業レベルのミクロデータに基づき、円安による企業の売上増加は輸出企業、大企業に限らず生じたこと、特に輸出主体の企業での改善効果が顕著である一方で輸入主体の企業では調達コストの上昇によるマイナス面があった点を指摘した。また2013年度には推定される想定を上回る業績の改善がみられたことも指摘された。討論においては、為替変動に対する企業の価格転嫁機能低下や輸出シェアが高い大企業に焦点を絞った分析等が提案された。

(5)パネルディスカッション(パネリスト:モーリス・オブストフェルド 大統領経済諮問委員会委員、伊藤元重 経済財政諮問会議議員、アニル・カシャップ シカゴ大学教授、伊藤隆敏 コロンビア大学教授)

アメリカ経済の現状と日本経済の現状についての紹介がなされた上で、今後さらにサプライサイドの対策が必要となるとの指摘や短期間での円安・株高をもたらしたのは海外投資家であったことから今後は潜在成長率を上昇させ海外投資家の支持が低下しないことが重要との議論がなされた。

(参考)ESRI国際コンファレンス「日本経済の着実な成長に向けて」
http://www.esri.go.jp/jp/workshop/150731/150731.html


【経済社会総合研究所からのお知らせ】

季刊「Economic & Social Research (ESR) No.10 2015年(秋号)」平成27年度経済財政白書特集を発刊しました。(平成27年9月)


【最新の研究発表】

  • 少子化と未婚女性の生活環境に関する分析~出生動向基本調査と「未婚男女の結婚と仕事に関する意識調査」の個票を用いて~(松田 茂樹、佐々木 尚之、高村 静、大澤 朗子、小野田 壮、藤澤 美穂、上村 秀紀、石田 絢子)を掲載しました。(平成27年8月)

    1970年代半ば以降の出生率低下のほとんどは未婚化によってもたらされている。出生率を回復させるためには未婚化の背景要因を把握した上で、少子化対策の拡充等により未婚化の流れを止めることが不可欠である。

    経済社会総合研究所では、少子化の動向や未婚者の状況を分析するため、2010年の「出生動向基本調査(独身者調査)」(調査対象者:18歳から50歳未満の男女独身者)の二次分析を実施した。

    さらに、未婚化の動向についてより詳細な項目について検討する基礎資料とすることを目的に、25歳から40歳未満の男女未婚者を対象に結婚に対する意識調査(「未婚男女の結婚と仕事に関する意識調査」)を実施した。調査には出生動向基本調査と同様の問を設け結果を比較するとともに、未婚者の生活環境(家族の状況、職場の環境や本人の働き方、居住地域の状況等)を尋ね、出生動向基本調査では解明できなかった分析も実施した。


【最新のシンポジウム・フォーラム】

<開催案内>


【最新の統計】

<SNA統計>

  • 四半期別GDP速報(2015(平成27)年4-6月期・2次速報)(平成27年9月8日)
    1. 平成27年9月8日に公表した27年4-6月期四半期別GDP速報(2次速報)では実質GDP成長率が▲0.3%(年率▲1.2%)と、1次速報値の▲0.4%(年率▲1.6%)から上方改定となった。
    2. 実質GDP成長率が上方改定となったのは、需要項目別の前期比寄与度でみて、民間在庫品増加などが改定されたためである。

<景気動向指数>平成27年7月速報(平成27年9月7日)

7月のCI(速報値・平成22(2010)年=100)は、先行指数:104.9、一致指数:112.2、遅行指数:115.7となった。

  • 先行指数は、前月と比較して1.6ポイント下降し、5か月ぶりの下降となった。3か月後方移動平均は0.17ポイント下降し、4か月ぶりの下降となった。7か月後方移動平均は横ばいとなった。
  • 一致指数は、前月と比較して0.1ポイント下降し、2か月ぶりの下降となった。3か月後方移動平均は0.44ポイント下降し、2か月ぶりの下降となった。7か月後方移動平均は0.09ポイント下降し、2か月ぶりの下降となった。
  • 遅行指数は、前月と比較して0.1ポイント上昇し、2か月連続の上昇となった。3か月後方移動平均は0.33ポイント下降し、7か月ぶりの下降となった。7か月後方移動平均は0.19ポイント上昇し、5か月連続の上昇となった。

一致指数の基調判断

  • 景気動向指数(CI一致指数)は、足踏みを示している。

<機械受注統計調査報告>平成27年7月実績(平成27年9月10日)

  • 機械受注総額の動向をみると、27年6月前月比5.0%増の後、7月は同2.2%増の2兆4,703億円となった。
  • 民間設備投資の先行指標である「船舶・電力を除く民需」の動向をみると、27年6月前月比7.9%減の後、7月は同3.6%減の8,056億円となった。このうち、製造業は同5.3%減の3,594億円、非製造業(除く船舶・電力)は同6.0%減の4,494億円となった。

<消費動向調査>平成27年8月調査(平成27年9月9日)

  • 平成27年8月の一般世帯(2人以上の世帯)の消費者態度指数(季節調整値)は41.7と前月から1.4ポイント上昇し、2か月ぶりに前月を上回った。消費者態度指数を構成する4つの意識指標(「暮らし向き」「収入の増え方」「雇用環境」「耐久消費財の買い時判断」)全てが前月から上昇した。
  • 「日頃よく購入する品物」の1年後の価格の予想は、「低下する」が3.7%(前月差+0.4%)、「変わらない」が8.4%(同 +1.7%)、「上昇する」が85.5%(同 -2.2%)となった。

<法人企業景気予測調査>平成27年7-9月期調査(平成27年9月11日)

「貴社の景況判断」BSIの平成27年7-9月期(現状判断)をみると、大企業(全産業)は9.6%ポイントで2期ぶりの「上昇」超、中堅企業(全産業)は5.7%ポイントで2期ぶりの「上昇」超、中小企業(全産業)は▲11.2%ポイントで6期連続の「下降」超。なお、前回(4-6月期の現状判断:大企業▲1.2%ポイント、中堅企業▲2.2%ポイント、中小企業▲13.6%ポイント)と比較して、大企業、中堅企業は「上昇」超に転化、中小企業は「下降」超幅が縮小。

先行きについてみると、大企業と中堅企業は27年10-12月期以降「上昇」超で推移する見通し。中小企業は「下降」超で推移する見通し。

「国内の景況判断」BSIの平成27年7-9月期(現状判断)をみると、大企業(全産業)は10.5%ポイントで5期連続の「上昇」超であり、前回(4-6月期の現状判断:9.8%ポイント)より「上昇」超幅が拡大。

「従業員数判断」BSIの平成27年9月末(現状判断)をみると、大企業(全産業)は11.6%ポイントで17期連続の「不足気味」超。前回(6月末の現状判断:10.6%ポイント)より「不足気味」超幅は拡大。

平成27年度の売上高(全規模・全産業)は前年度比0.1%の増収見通し、経常利益(全規模・全産業)は同4.1%の増益見込み、設備投資(ソフトウェア含む、土地除く:全規模・全産業)は同6.1%の増加見込み。

【参考】<月例経済報告>平成27年8月(平成27年8月26日)

景気は、このところ改善テンポにばらつきもみられるが、緩やかな回復基調が続いている。

    • 個人消費は、総じてみれば底堅い動きとなっている。
    • 設備投資は、このところ持ち直しの動きがみられる。
    • 輸出は、このところ弱含んでいる。
    • 生産は、このところ横ばいとなっている。
    • 企業収益は、総じて改善傾向にある。企業の業況判断は、おおむね横ばいとなっているが、一部に改善の兆しもみられる。
    • 雇用情勢は、改善傾向にある。
    • 消費者物価は、緩やかに上昇している。

先行きについては、雇用・所得環境の改善傾向が続くなかで、各種政策の効果もあって、緩やかに回復していくことが期待される。ただし、中国経済をはじめとした海外景気の下振れなど、我が国の景気を下押しするリスクや金融資本市場の変動に留意する必要がある。

<統計調査公表予定一覧>

<統計調査公表予定一覧>
景気動向指数
速報
景気動向指数
改訂状況
機械受注統計
調査
消費動向調査
(全国・月次)
法人企業景気
予測調査(四半期)
9月7日
(7月分)
9月28日
(7月分)
9月10日
(7月分)
9月9日
(8月分)
9月11日
(7-9月期)
10月7日
(8月分)
10月23日
(8月分)
10月8日
(8月分)
10月13日
(9月分)
 
11月6日
(9月分)
11月25日
(9月分)
11月12日
(9月分)
11月上旬
(10月分)
 

「企業行動に関するアンケート調査」は毎年2月下旬~3月上旬に公表予定

国民経済計算(GDP統計)公表予定はこちらから


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