ESRI通信 第86号

平成27年10月15日
内閣府経済社会総合研究所 発行
Cabinet Office, Government of Japan
Economic and Social Research Institute

【巻頭言】

「密度の経済」という概念がある。政府の「まち・ひと・しごと創生基本方針2015」(以下、「基本方針」)では、「一定の地域に人と企業を集積し、『密度の経済』を実現することによる地域の『稼ぐ力』の向上に資する」とされている。

この「密度の経済」とは、通商白書2008によれば「事業規模、多角化度等を一定とした上で、事業所が立地する場所の(需要者)人口密度が高くなると、生産性が高くなること」とされている。より一般的には「規模の経済が、スケール(規模)ないしネットワークの大きさが増大する場合に、生産量増加に伴い費用が低下することであるのに対し、密度の経済はスケール(規模)ないしネットワーク設備一定(不変)を前提に生産量増加に伴い費用が低下することをいう」(村本 孜 成城大学教授の論文より引用)とのことである。

話は飛ぶが、ソーシャル・キャピタル(以下、SC)という概念がある。「社会関係資本」と訳されることがあり、R.パットナムの定義を当研究所の過去の調査研究より引用すると「人々の協調行動を活発にすることによって社会の効率性を高めることのできる、『信頼』『互酬性の規範』『ネットワーク』といった社会組織の特徴」というものである。なかなか難しいが、筆者のような単純な頭では「社会における豊かな人間関係」と理解しておいてもそう間違いではなさそうである。そして、このSCが豊かであれば地域コミュニティの改善や地域活性化に(弱いながらも)プラスの効果をもつことが、様々な既存研究で示されている。

かなり強引だが、密度の経済とSCとを比較して考えてみる。密度の経済を地方創生に生かそうとするのは、たとえ(人口)規模が小さい地域であっても密度を高めることによって生産性を向上させることが可能であり、そのことを通じて東京一極集中に対抗していこうという発想だと理解できる。ただし、東京は既に巨大な規模と密度を持っておりそれ以上の密度をもつことは相当困難であろう(このため、「基本方針」では、密度の経済実現以外にも様々な政策が盛り込まれている)。

一方SCについては、信頼や互酬性といった人間関係の絆の強さを表すものであり、人口規模や人口密度が小さくても高めることができるゆえ、東京を凌駕するSCを持つことは十分あり得るし、現にそうなっている。人口が多く密度も高い大都市の希薄な人間関係と地方部に多い小規模市町村での豊かな人間関係を考えれば納得がいくだろう。東京一極集中という強力な流れを是正するには、SCをあわせて活用する視点も重要であろう。

現在、当研究所では滋賀大学と共同で、SCの豊かさを生かした地域活性化に関する研究を進めているが、筆者が考えるその意義は以上のようなものである。

平成27年10月

  • 内閣府 経済社会総合研究所
    総括政策研究官 道上浩也

【研究紹介】

家計所得支出勘定の属性別推計でわかること

  • 内閣府 経済社会総合研究所
    総務部総務課課長補佐 前田佐恵子

SNA(国民経済計算)では、企業、政府と家計等といった経済主体別(制度部門別という)の所得の発生や分配・消費に関する所得支出勘定やその資産等を計測する貸借対照表等が存在します。家計を1つの部門で考えることはすなわち、平均的な世帯の姿の動きを追っていることになるわけですが、これでは実際の家計が、その様々な属性に応じて経済活動の実態が大きく異なる現状を表現することはできません。家計の属性を基にした多様な動きをとらえるため、学術研究では政府統計等をはじめとする調査(特にその個票)を活用して、ミクロ分析が種々行われています。しかしながら、こうした分析は、それぞれの調査における概念の違いや特定の対象に絞っていることから、マクロ経済全体への直接的な含意が見えにくくなる側面もあると考えられます。

SNAの家計部門について所得支出勘定を属性別に推計することで、マクロ統計とミクロ分析の両方の長所を併せ持つ情報を得ることができます。この取組を求める声は古くからあり、SNAの改訂のマニュアルにおいても推奨される重要な課題の1つとなっています。しかし、現在もOECDで家計の細分化に関する研究プロジェクトが取り組まれており、日本だけではなく先進各国で研究課題となっているのです。

日本における研究について、総務省「全国消費実態調査」、「家計調査」等を用いた方法や推計の結果が示されています(詳細は、ESRI通信3月号「研究紹介」を参照)が、以下では、この統計を利用することの3つの長所を紹介します。

まずは、所得の発生から消費に至るまでの経緯を属性別に観察することができるということです。93SNA以降における家計の所得支出勘定は前述の通り、所得の発生(どのような分野から稼得しているのか)や再分配(税や社会保障等)、消費(どう使うのか)に分かれた勘定を示します。特に近年、高齢化の影響は大きく、より高い所得を得る世帯(主に比較的若い年齢層)とより多額の消費をする世帯層(中高齢者を含む世帯)は必ずしも一致していないことが示せます。

さらに、帰属計算や利子配当等の推計を行うことで、所得・消費と資産との関係を知ることができます。家計を対象とした統計等では財産所得(金融資産等から得られる利子や配当、家賃等)は回答率が悪く十分の把握が難しい項目です。それらを資産額等から推計することで、より実態に近い財産所得を把握できる可能性があります。また、SNAにある帰属家賃という考え方を応用すれば、持ち家から得られているはずの恩恵を属性の近い家賃相場から推計し、金融資産だけではなく実物資産の所得・消費への影響も評価することができるのです。実際、高齢世帯主の家計は毎期の労働所得等が小さくても、住まいや金融資産等の保有世帯が多く、労働所得だけに注目した場合の格差とは異なる結果をみることができるのです。

最後に、それぞれの家計の受ける影響をマクロ経済に反映させた分析が可能です。そもそもSNAはマクロ経済の経済主体間の関係を踏まえて全体像を示すための仕組みです。政府が家計等から税等を受け取り、逆に補助金や社会保障給付等を移転させていく再分配の姿を表現することができます。ある分析では、家計の属性による影響の違いを考慮しながら、2時点間の制度変化の影響を推計しました。その結果、2004年~2009年の間に行われた制度改正について考えた時に、世帯平均でみると大きな変化はないように見えますが、世帯主年齢や所得といった属性別にその影響に違いがみられることがわかりました。さらに、粗い計算により、これらの家計の影響の総計を政府の財政収支の変化に照らし合わせたところ、この間の税や社会保険料率等の制度改正を行っていなければ日本の財政収支は現状より悪化していた可能性を示せました。

このように、SNAの枠組みに基づき、家計の属性別に推計された結果は、経済主体の異質性に配慮した簡便なデータとして、広く分析に活用されることが期待されます。


【最新の統計】

<SNA統計>

  • 平成26年度民間企業投資・除却調査結果(平成25年度計数)(平成27年9月30日)
  • 四半期別民間企業資本ストック速報(平成27年4-6月期)(平成27年9月29日)
    1. 有形固定資産 全産業(進捗ベース)
      • 27年6月末のストックは1,314.9兆円、前年同期比1.4%増となった(前期は1.4%増)。
      • 27年4~6月の新設投資額は14.1兆円、前年同期比0.3%増となり、2期ぶりでプラスとなった(前期は▲3.5%減)。
    2. 無形固定資産 全産業(取付ベース)
      • 27年6月末のストックは43.6兆円、前年同期比1.7%増となり、11期連続のプラスとなった(前期は1.6%増)。
      • 27年4~6月の新設投資額は1.9兆円、前年同期比2.7%増となり、2期連続のプラスとなった(前期は0.6%増)。

<景気動向指数>平成27年8月速報(平成27年10月7日)

8月のCI(速報値・平成22(2010)年=100)は、先行指数:103.5、一致指数:112.5、遅行指数:115.2となった。

  • 先行指数は、前月と比較して1.5 ポイント下降し、2 か月連続の下降となった。3 か月後方移動平均は0.86 ポイント下降し、2 か月連続の下降となった。7 か月後方移動平均は0.13 ポイント下降し、2 か月連続の下降となった。
  • 一致指数は、前月と比較して0.6 ポイント下降し、2 か月連続の下降となった。3 か月後方移動平均は0.17 ポイント上昇し、2 か月ぶりの上昇となった。7 か月後方移動平均は0.33 ポイント下降し、3 か月ぶりの下降となった。
  • 遅行指数は、前月と比較して0.8 ポイント下降し、3 か月ぶりの下降となった。3 か月後方移動平均は0.24 ポイント下降し、2 か月連続の下降となった。7 か月後方移動平均は0.02 ポイント下降し、6 か月ぶりの下降となった。

一致指数の基調判断

  • 景気動向指数(CI一致指数)は、足踏みを示している。

<機械受注統計調査報告>平成27年8月実績(平成27年10月 8日)

  • 機械受注総額の動向をみると、27年7月前月比2.2%増の後、8月は同14.6%減の2兆1,103億円となった。
  • 民間設備投資の先行指標である「船舶・電力を除く民需」の動向をみると、27年7月前月比3.6%減の後、8月は同5.7%減の7,594億円となった。このうち、製造業は同3.2%減の3,479億円、非製造業(除く船舶・電力)は同6.1%減の4,221億円となった。

<消費動向調査>平成27年9月調査(平成27年10月13日)

  • 平成27年9月の一般世帯(2人以上の世帯)の消費者態度指数(季節調整値)は40.6と前月から1.1ポイント低下し、2か月ぶりに前月を下回った。消費者態度指数を構成する4つの意識指標(「暮らし向き」「収入の増え方」「雇用環境」「耐久消費財の買い時判断」)全てが前月から低下した。
  • 「日頃よく購入する品物」の1年後の価格の予想は、「低下する」が3.2%(前月差-0.5%)、「変わらない」が8.0%(同 -0.4%)、「上昇する」が86.3%(同 +0.8%)となった。

【参考】<月例経済報告>平成27年10月(平成27年10月14日)

景気は、このところ一部に弱さもみられるが、緩やかな回復基調が続いている。

    • 個人消費は、総じてみれば底堅い動きとなっている。
    • 設備投資は、総じて持ち直しの動きがみられる。
    • 輸出は、このところ弱含んでいる。
    • 生産は、このところ弱含んでいる。
    • 企業収益は、改善している。企業の業況判断は、一部に慎重さがみられるものの、おおむね横ばいとなっている。
    • 雇用情勢は、改善傾向にある。
    • 消費者物価は、緩やかに上昇している。

先行きについては、雇用・所得環境の改善傾向が続くなかで、各種政策の効果もあって、緩やかな回復に向かうことが期待される。ただし、アメリカの金融政策が正常化に向かうなか、中国を始めとするアジア新興国等の景気が下振れし、我が国の景気が下押しされるリスクがある。こうしたなかで、金融資本市場の変動が長期化した場合の影響に留意する必要がある。

<統計調査公表予定一覧>

<統計調査公表予定一覧>
景気動向指数
速報
景気動向指数
改訂状況
機械受注統計
調査
消費動向調査
(全国・月次)
法人企業景気
予測調査(四半期)
10月7日
(8月分)
10月23日
(8月分)
10月8日
(8月分)
10月13日
(9月分)
 
11月6日
(9月分)
11月25日
(9月分)
11月12日
(9月分)
11月4日
(10月分)
 
12月7日
(10月分)
12月25日
(10月分)
12月9日
(10月分)
12月4日
(11月分)
12月10日
(10-12月期)

「企業行動に関するアンケート調査」は毎年2月下旬~3月上旬に公表予定

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