ESRI通信 第87号

平成27年11月19日
内閣府経済社会総合研究所 発行
Cabinet Office, Government of Japan
Economic and Social Research Institute

【巻頭言】

DSGEモデル(Dynamic Stochastic General Equilibrium Model)は主として短期のマクロ経済分析ツールの一つであり、学術的な研究のみならず中央銀行、国際機関等でマクロ経済の変動要因や政策効果等の分析に用いられている。DSGEモデルは、将来を考慮して行動する家計や企業の動学的最適化から導出される、ミクロ経済学的な基礎付けを持ったモデルである。その方程式は、家計の嗜好や企業の技術構造等といった、政策変化の影響を受けにくい構造パラメータから構成されている。このため、生産、物価等に対する政策や外生需要の変化の影響を経済理論に即した形で分析することができる。

DSGEモデルは直観的に理解し難い面があるので、特徴的なポイントをいくつかあげておきたい。DSGEモデルでは多くの場合、経済は定常状態を有しており、現実の経済変動は外生的ショックによって定常状態から乖離した後、時間の経過とともにまた定常状態に戻る過程であると考えられている。また、経済主体の期待はモデルと整合的になされる合理的期待形成が仮定されている。DSGEモデルを解くということは、大まかにいえば、家計や企業の動学的最適化等から導出された差分方程式体系の収束条件から、定常状態に収束する均衡動学経路を求めるということである。これに外生的ショック、初期値を与えることにより、インパルス応答という形のシミュレーションで生産、物価等に与える政策変更等の影響を分析することができる。なお、動学的最適化等から得られる方程式は非線形になってしまい扱いにくいため、定常状態周りで対数線形近似されることが多い。

パラメータは、先行研究等を参照して設定(カリブレーション)される場合もあるが、GDP統計等の観測データを用いて推定することもできる。近年では、観測データを内生変数に関係付ける観測方程式をモデルに加え、パラメータの事前分布(平均、分散、分布形状)を設定したうえで、ベイズ推定に基づくMCMC法によりパラメータの事後分布を推定する方法(いわゆる一本釣りでなくシステム推計の一種)が多く採用されている。

こうしたDSGEモデルの分析には、MATLAB、フリーソフトのOctave等の行列演算を得意とする計算ソフトが用いられる。その場合、分析の手順ごとにサブプログラムを作る必要があるが、そのためにはモデルの解法やパラメータの推定方法の理解に加え、ソフトのプログラミングに習熟していなければならない。特にパラメータ推定のプログラミングは複雑な作業となる。しかし、MATLAB、Octave上で動くDynareを用いると容易にDSGEモデル分析を行うことができる。Dynareはフランスのミシェル・ジュイヤール(Michel Juillard)氏とCEPREMAP(経済学応用研究センター)によって開発されたフリーソフトであり、DSGEモデル分析の各手順がパッケージ化されている。モデルの構築、観測データの準備、事前分布の設定等を行うだけであとはDynareが自動的に計算してくれる。

このため、実務家がDSGEモデル分析を行うには、Dynareを実際に動かし、インパルス応答やパラメータの推定を体験しつつ、背後にあるモデルの解法や推定方法の仕組みを理解していくのが効率的である。Dynareはモデル構築や分析結果の解釈にエネルギーを集中する大きな助けになるといえよう。今後、現実の経済変動に対するDSGEモデルの分析力が向上し、DSGEモデル分析の裾野が広がっていくことを期待したい。

平成27年11月

  • 内閣府 経済社会総合研究所
    総括政策研究官 丸山 雅章

【研究紹介】

ESRI国際コンファレンス「拡大するインド経済の発展の可能性」

  • 内閣府 経済社会総合研究所
    研究官 高井 功一

経済社会総合研究所では、成長するアジア経済の活力の取り込みが、今後の我が国の成長戦略を考える上で重要であることから、アジア経済圏のポテンシャルに関する研究を行っている。その一環として、10月30日に国内外の専門家を招き、インド経済の今後の発展の可能性やインドの発展過程の新興国の成長に対する示唆をテーマに国際コンファレンスを開催した。

(基調講演)

インドを代表する研究機関であるインド応用経済研究所(NCAER)のシェカー・シャー(Shekhar Shah)所長をお招きし「インドの潜在力の実現に向けて-『低・中所得の罠』の回避のために-」をテーマに主に以下の内容でご講演いただいた。

  • ○インド経済は昨年選挙で大勝したモディ政権下において、他の新興国が減速を見せる中、年6~7%の成長を続けている。購買力平価でみた経済規模は世界第3位だが、2位も視野に入っている。
  • ○若年人口の多いインドでは2100年までに労働力人口(16~64歳)は中国を大幅に上回る9億3100万人まで増加し世界最大となる見込み。人口ボーナスにより雇用、財・サービスの需要増が期待されるが、同時に高齢化社会も近づいてくる。中所得国入りをしてから11年で上位中所得国の水準に達した中国に比べ、インドは毎年10%の成長率を達成したとしても上位中所得国の水準に達するには16年程度かかることが見込まれる。
  • ○インドは高齢化を迎える前に豊かになることができるのか。土地政策、労働政策、インフラ整備、女性の労働参加、人材活用など多くの課題がある。モディ政権は15年先を見据えた政策ビジョンの実現に直ちに着手する必要がある。

(パネルディスカッション)

インド研究がご専門の絵所秀紀法政大学教授をモデレーターとして、インドを始め新興国の諸事情に詳しい平林博日印協会理事長、松本勝男国際協力機構(JICA)南アジア部次長、田中清泰ジェトロ・アジア経済研究所(IDE-JETRO)研究員をパネリストとしてお招きし、シャー所長にもご参加いただいて「インド経済の特徴と今後の展望」、「インド経済の成長と新興国の経済発展」の2部構成で議論を行った。

平林理事長からはモディ政権の現状と課題、日印交流の歴史、インド全域で進行中の大型建設プロジェクトの状況などについて、松本次長からはインド経済の現状・展望や投資促進の課題、インドにおけるJICAの取組、中でも他の新興国にも参考となる「グットプラクティス」について、田中研究員からはグローバル・バリュー・チェーンへの参加の意義や日本からの企業進出の課題に関する分析についてご発表いただいた。その後、インド経済の将来展望などをテーマに議論を行い、絵所教授から以下のようなとりまとめをいただいた。

  • ○インド経済は非常に大きな成長ポテンシャルがあり、とりわけ人口ボーナスの配当は大きい。一方、その配当を実現するためには、硬直的な労働市場をもたらしている労働法制などの多くの障害を除き、大規模な雇用を創出することが必要。
  • ○「メーク・イン・インディア」を実現するうえで人的資源のアップグレードが必要。グローバル・バリュー・チェーンへの参加は、大きな可能性(one big possibility)を秘めている。インド経済の成長は、ICT等のサービス業が製造業の発展と結びつく場合には他の新興国のモデルの一つとなるのではないか。
  • ○インド経済が発展を遂げる上で日本からの直接投資、ODAは重要。

会場にはビジネス関係者など多数の来場をいただき、インド経済に対する関心の高さをうかがわせた。

(参考)ESRI国際コンファレンス「拡大するインド経済の発展の可能性」

http://www.esri.go.jp/jp/workshop/151030/151030main.html


【最新の研究発表】

<報告書の掲載>


【最新の統計】

<SNA統計>

<景気動向指数>平成27年9月速報(平成27年11月6日)

9月のCI(速報値・平成22(2010)年=100)は、先行指数:101.4、一致指数:111.9、遅行指数:114.0となった。

  • 先行指数は、前月と比較して2.1 ポイント下降し、3 か月連続の下降となった。3 か月後方移動平均は1.77 ポイント下降し、3 か月連続の下降となった。7 か月後方移動平均は0.36 ポイント下降し、3 か月連続の下降となった。
  • 一致指数は、前月と比較して0.3 ポイント下降し、3 か月連続の下降となった。3 か月後方移動平均は0.47 ポイント下降し、2 か月ぶりの下降となった。7 か月後方移動平均は0.11 ポイント下降し、2 か月連続の下降となった。
  • 遅行指数は、前月と比較して1.1 ポイント下降し、2 か月連続の下降となった。3 か月後方移動平均は0.67 ポイント下降し、3 か月連続の下降となった。7 か月後方移動平均は0.20 ポイント下降し、2 か月連続の下降となった。

一致指数の基調判断

  • 景気動向指数(CI一致指数)は、足踏みを示している。

<機械受注統計調査報告>平成27年9月実績および平成27年10~12月見通し(平成27年11月12日)

  • 機械受注総額の動向をみると、2015(平成27)年8月前月比14.6%減の後、9月は同9.5%増の2兆3,103億円となった。
  • 民間設備投資の先行指標である「船舶・電力を除く民需」の動向を見ると、2015(平成27)年8月前月比5.7%減の後、9月は同7.5%増の8,164億円となった。このうち、製造業は同5.5%減の3,289億円、非製造業(除く船舶・電力)は同14.3%増の4,824億円となった。
  • 7~9月をみると、受注総額は前期比4.0%減の6兆8,909億円となった。また、「船舶・電力を除く民需」は同10.0%減の2兆3,813億円、製造業は同15.3%減の1兆362億円、非製造業(除く船舶・電力)は同6.5%減の1兆3,539億円となった。
  • 10~12月見通しをみると、受注総額は前期比0.3%増の6兆9,105億円の見通しになっている。また、「船舶・電力を除く民需」は同2.9%増の2兆4,501億円、製造業は同6.0%増の1兆979億円、非製造業(除く船舶・電力)は同2.5%増の1兆3,873億円の見通しになっている。

<消費動向調査>平成27年10月調査(平成27年11月4日)

  • 平成27年10月の一般世帯(2人以上の世帯)の消費者態度指数(季節調整値)は41.5と前月から0.9ポイント上昇し、2か月ぶりに前月を上回った。消費者態度指数を構成する4つの意識指標(「暮らし向き」「収入の増え方」「雇用環境」「耐久消費財の買い時判断」)全てが前月から上昇した。
  • 「日頃よく購入する品物」の1年後の価格の予想は、「低下する」が6.2%(前月差 +3.0%)、「変わらない」が10.3%(同 +2.3%)、「上昇する」が81.0%(同 -5.3%)となった。

【参考】<月例経済報告>平成27年10月(平成27年10月14日)

景気は、このところ一部に弱さもみられるが、緩やかな回復基調が続いている。

    • 個人消費は、総じてみれば底堅い動きとなっている。
    • 設備投資は、総じて持ち直しの動きがみられる。
    • 輸出は、このところ弱含んでいる。
    • 生産は、このところ弱含んでいる。
    • 企業収益は、改善している。企業の業況判断は、一部に慎重さがみられるものの、おおむね横ばいとなっている。
    • 雇用情勢は、改善傾向にある。
    • 消費者物価は、緩やかに上昇している。

先行きについては、雇用・所得環境の改善傾向が続くなかで、各種政策の効果もあって、緩やかな回復に向かうことが期待される。ただし、アメリカの金融政策が正常化に向かうなか、中国を始めとするアジア新興国等の景気が下振れし、我が国の景気が下押しされるリスクがある。こうしたなかで、金融資本市場の変動が長期化した場合の影響に留意する必要がある。

<統計調査公表予定一覧>

<統計調査公表予定一覧>
景気動向指数
速報
景気動向指数
改訂状況
機械受注統計
調査
消費動向調査
(全国・月次)
法人企業景気
予測調査(四半期)
11月6日
(9月分)
11月25日
(9月分)
11月12日
(9月分)
11月4日
(10月分)
 
12月7日
(10月分)
12月25日
(10月分)
12月9日
(10月分)
12月4日
(11月分)
12月10日
(10-12月期)
1月8日
(11月分)
1月25日
(11月分)
1月14日
(11月分)
1月12日
(12月分)
 

「企業行動に関するアンケート調査」は毎年2月下旬~3月上旬に公表予定

国民経済計算(GDP統計)公表予定はこちらから


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