ESRI通信 第89号

平成28年1月18日
内閣府経済社会総合研究所 発行
Cabinet Office, Government of Japan
Economic and Social Research Institute

【2008SNAへの移行に向けて】

マクロ経済学の教科書ではGDPの解説から始まることが多く、GDPが理論的にも政策的にもマクロ経済の中核をなしていると言えよう。英国の経済学者ダイアン・コイル氏は近著「GDP」において、GDPの原型の作成監督にあたったのはケインズであり、GDPの作成はマクロ経済政策の発展と切り離せないものだったと説明している。

我が国では「昭和26年度国民所得報告」(経済審議庁)から閣議に報告されて公表されるようになり(昭和28年)、国民所得統計が一応の確立をみた。国民所得推計業務は、昭和33年に経済企画庁経済研究所国民所得部に移管され、「国民所得白書」として公表された。同部が四半期別国民総支出の速報推計(推計値は6か月遅れ)を開始したのが昭和34年である。このように戦後復興期から国民所得統計が経済見通しや経済計画に利用されてきており、経済政策の立案に不可欠のものとなっている。

GDP統計の基本的な枠組みや概念は国連やOECDなどの国際機関が設定しているが、具体的な推計は各国に委ねられている。つまり、基礎統計や加工方法について国際機関が注文をつけることは、まずない。こうした中、我が国では、速報性、正確性、さらには透明性の三つを意識しながら統計の作成に当ってきている。

しかし、とりわけ四半期別GDP推計について、これら三つを同時に満たすのは容易ではない。例えば、基礎データの公表をすべて待てば正確性は増すかもしれないが、公表が遅れ速報性が損なわれる。逆に速報性を高めようとすれば、最初の公表値について事後的に基礎統計情報が追加することにより生じる改定は避けられない。また、近年重視されている市場との対話の観点から推計手法の透明化を図ってきているが、速報性や(改定の小ささという意味での)正確性は保てても、透明性が低ければ、統計としての説明責任が損なわれるのは言うまでもない。

加工統計であるGDP推計手法の底流には、利用可能となった統計情報は捨てずに最大限活用することが望ましいという価値判断が働いていると考えている。そのため、我が国では、季節調整についても、新たな情報が追加されれば始期に遡ってかけ直している。新情報が既発表の季節性を変動させる要因を含んでいると、過去の系列が遡及改定されることになる。

コイル氏は、「GDPは20世紀の大量生産経済を前提とした指標」であり、その後のサービス化やイノベーションの進展などを踏まえれば、「質の向上と選択肢の増加を考慮しつつGDPの数字を「量」と「価格」の要素に分解するのは、ただでさえ厄介な試みだった」と述べている。このような基本問題に加え、世界のGDP統計は新しい事象を体系に包摂する上で多くの課題に直面している。

我が国のGDP統計については、本年末以降に新しい国際基準である2008SNAへの移行を行っていく予定である。内外各方面から信頼性が寄せられるGDP統計を公表する重要な役割を自覚して、多くの課題に向き合い、諸先輩の労苦に学びながら取組みを進めてまいりたい。

平成28年1月

  • 内閣府 経済社会総合研究所長
    梅溪 健児

【研究紹介】

『家計調査』個票をベースとした個別世帯年間消費額の推計

  • 内閣府 経済社会総合研究所
    研究官 菅 史彦

消費税増税や軽減税率の導入、外国人観光客による「爆買い」など、消費に関する話題が世間を賑わせている。経済学の世界においても、消費に関する研究で有名なアンガス・ディートン教授が2015年のノーベル経済学賞を受賞したことでもわかる通り、消費研究は常に高い関心を集めてきた。

財・サービスの消費量(額)は、個人もしくは世帯の厚生水準を測る直接的な指標となるので、政策の効果や影響を分析する上で最も重要な情報の一つである。しかしながら、世帯の消費を正確に把握したデータは少なく、様々な要因から生じる「誤差」も含まれている。内閣府経済社会総合研究所の「家計のライフサイクルを通じた所得・資産・消費等に関する研究」ユニットでは、そうした問題意識の下、『家計調査』に基づく個別世帯の消費・所得・資産に関するデータを構築する作業に取り組んできた。

『家計調査』は、調査対象となる約9000世帯に家計簿をつけてもらい、それを6か月にわたって収集する形で、個別世帯の消費・所得・資産に関する情報を集めている。わが国において、これほどの規模で継続的に消費の情報を集めている調査は他には存在しない。しかし、家計調査では同一家計への継続調査が6ヶ月間しか行われないため、「季節性」の調整が必要になる。「季節性」の問題とは、例えば調査期間にボーナス支給月が入っている場合の世帯消費額の変動や、年金支給月とそうでない月の消費変動を考えると理解し易い。季節性は、消費量(額)を使った様々な分析の結果に大きな影響を与えている可能性がある。そのため、我々の研究グループでは、これを補正して「年間」消費額を推計する作業を行い、その方法を『経済分析第190号』(2016年1月刊行予定)で紹介している。

もし消費の季節パターンが全ての家計で同じであれば、平均的に消費の多い月の消費は少なめに、消費の少ない月の消費は大目になるように調整し、12か月分の消費に変換すれば、「年間」消費額を推計することができる。これが、データの「季節性」を調整するために一般的に行われる方法の基本的なアイデアである。しかし、消費の季節性は家計の属性によって大きく異なると考えられるので、季節性が全ての家計で同じであるという仮定には無理がある。上記の例でいえば、勤労者世帯の季節性はボーナス支給月の影響を大きく受けるであろうし、年金受給世帯では年金支給月に大きく影響を受けると考えられる。そのため、我々の研究では、家計をその「属性」に応じて216のタイプに分類し、そのそれぞれについて別々に季節調整を施した。また、季節性以外にも、「調査疲れ」による記入漏れや標本抽出の偏り、持家/借家の違いなども考慮し、適宜補正を施している。

そのようにして推計した年間消費額は、1か月の消費だけを記録し、それを単純に12倍して推計した「年間」消費額とは顕著に異なる。例えば、我々が推計した世帯の年間消費額は、単月の消費額を12倍したケースに比べてばらつきが小さく、標準偏差は3分の2ほどになる。標準偏差のような「バラつき」の指標は、「格差」や「貧困」などの分析において非常に重要な意味を持つため、消費のデータを用いてそのような分析を行う際には、複数月にまたがった消費の情報に補正を施して用いることが重要であることがわかる。

以上の議論は、年間消費データの「構築」に関するものであり、我々の最終目的はデータを使った分析にある。今後、我々の研究ユニットでは、構築したデータを使い、格差に関する包括的な分析や、消費の資産効果の推計など、様々な研究を行うことを予定している。


【経済社会総合研究所からのお知らせ】

季刊「Economic & Social Research (ESR) No.11 2015年(冬号)」移行期の世界経済とそのリスクを発刊しました。(平成27年12月)

開催案内:DSGEモデル入門セミナーを掲載しました。(平成27年12月)


【最新の研究発表】

  • 労働時間と過労死不安(亀坂 安紀子、田村 輝之)を掲載しました。(平成28年1月)

    2014年11月に「過労死等防止対策推進法」が施行され、過労死防止のための対策が日本でも喫緊の課題となっている。本稿では、内閣府が実施した「平成24年度生活の質に関する調査(世帯調査:訪問留置法)」の個票データを使用し、労働時間が「過労死」に対する不安に与える影響を分析する。その結果、男性については、週労働時間が「60時間」を超えると過労死不安が有意に高まることが示され、女性については、週労働時間が「45時間」を超えると過労死不安が有意に高まることが示された。この労働時間が過労死不安に与える影響についての分析結果は頑健であり、かつ、日本では過労死不安を抱く労働時間には、統計的に有意に男女差が存在することが本稿によって明らかにされた。

    日本の場合、国際比較などを含む様々な調査において、男性に比べて女性の家事負担が大きいことが報告されている。このため、日本では男性同様、女性についても、家事時間を考慮すると就労により過重負担が生じやすいこととなる。日本で男女間の家事分担の格差が解消されない限り、女性に男性と全く同一の条件で働くことを求めれば、特に結婚・出産などで家事負担が増しがちな女性の就労継続を事実上難しくしている可能性が高いと思われる。また、家事・育児負担の他、介護に関する問題は男女に共通であり、高齢化の進展により仕事との両立の問題は今後より重要になると思われる。

    このような状況下で、長時間労働を抑制する対策としては、これまで主として割増賃金率(間接規制)と労働時間の上限の設定(直接規制)について議論されてきた。しかし、割増賃金率の増加だけでは、長時間労働の改善が難しいことが報告されている。また、職場の労働時間の管理のあり方や女性の働き方への配慮、新卒採用に偏った単線型のキャリアパスの是正、ライフステージに応じた柔軟な働き方など、多様な労働市場の改革を進めて、誰もが意欲的に就業できる社会を実現する必要性について議論する。

  • サプライチェーンと金融制約を織り込んだ震災モデルの構築及び分析(佐藤 主光、小黒 一正)を掲載しました。(平成27年12月)

    本研究の主な目的は、震災と経済成長・財政の相互作用に関する分析を行うため、サプライチェーンといった複雑化する経済構造を織り込んだマクロ経済の基本モデルを構築することにある。具体的には1)中間財と最終財を区別することで多層的な生産工程(サプライチェーン)をモデル化するとともに、2)企業への貸し出しにおける金融(信用)制約を反映させる。後者については貸出額を中間財企業の内部留保(利益)の一定割合とするFinancial acceleratorモデルの簡単化による。1)震災後のサプライチェーンの途絶(モデル上は中間財生産性の低下)による短期的な効果、2)金融機関の貸し出し能力の低下による短期・中期的効果、及び3)公的債務の累積に伴う金利上昇による中長期的効果が示される。

<報告書の掲載>


【最新のシンポジウム・フォーラム】

<開催案内>


【最新の統計】

<SNA統計>

<景気動向指数>平成27年11月速報(平成28年1月8日)

11月のCI(速報値・平成22(2010)年=100)は、先行指数:103.9、一致指数:111.6、遅行指数:115.0となった。

  • 先行指数は、前月と比較して0.3 ポイント下降し、2 か月ぶりの下降となった。3 か月後方移動平均は0.03 ポイント下降し、5 か月連続の下降となった。7 か月後方移動平均は0.24 ポイント下降し、2 か月ぶりの下降となった。
  • 一致指数は、前月と比較して1.7 ポイント下降し、2 か月ぶりの下降となった。3 か月後方移動平均は0.10 ポイント下降し、2 か月ぶりの下降となった。7 か月後方移動平均は0.32 ポイント下降し、2 か月ぶりの下降となった。
  • 遅行指数は、前月と比較して0.4 ポイント下降し、2 か月連続の下降となった。3 か月後方移動平均は0.23 ポイント下降し、5 か月連続の下降となった。7 か月後方移動平均は0.29 ポイント下降し、2 か月連続の下降となった。

一致指数の基調判断

  • 景気動向指数(CI一致指数)は、足踏みを示している。

<機械受注統計調査報告>平成27年11月実績(平成28年1月14日)

  • 機械受注総額の動向をみると、2015(平成27)年10月前月比20.9%増の後、11月は同23.2%減の2兆1,456億円となった。
  • 民間設備投資の先行指標である「船舶・電力を除く民需」の動向をみると、2015(平成27)年10月前月比10.7%増の後、11月は同14.4%減の7,738億円となった。このうち、製造業は同10.2%減の3,383億円、非製造業(除く船舶・電力)は同18.0%減の4,379億円となった。

<消費動向調査>平成27年12月調査(平成28年1月12日)

  • 平成27年12月の一般世帯(2人以上の世帯)の消費者態度指数(季節調整値)は42.7と前月から0.1ポイント上昇し、3か月連続で前月を上回った。消費者態度指数を構成する4つの意識指標のうち、「暮らし向き」と「収入の増え方」は前月と比べて上昇した一方、「雇用環境」は低下し、「耐久消費財の買い時判断」は横ばいとなった。
  • 「日頃よく購入する品物」の1年後の価格の予想は、「低下する」が5.0%(前月差 +0.4%)、「変わらない」が11.1%(同 +0.9%)、「上昇する」が81.1%(同 -1.0%)となった。

【参考】<月例経済報告>平成27年12月(平成27年12月21日)

景気は、このところ一部に弱さもみられるが、緩やかな回復基調が続いている。

    • 個人消費は、総じてみれば底堅い動きとなっている。
    • 設備投資は、おおむね横ばいとなっている。
    • 輸出は、弱含んでいる。
    • 生産は、このところ弱含んでいる。
    • 企業収益は、改善している。企業の業況判断は、一部に慎重さがみられるものの、おおむね横ばいとなっている。
    • 雇用情勢は、改善している。
    • 消費者物価は、緩やかに上昇している。

先行きについては、雇用・所得環境の改善が続くなかで、各種政策の効果もあって、緩やかな回復に向かうことが期待される。ただし、アメリカの金融政策の正常化が進むなか、中国を始めとするアジア新興国等の景気が下振れし、我が国の景気が下押しされるリスクがある。

<統計調査公表予定一覧>

<統計調査公表予定一覧>
景気動向指数
速報
景気動向指数
改訂状況
機械受注統計
調査
消費動向調査
(全国・月次)
法人企業景気
予測調査(四半期)
平成28年 1月8日
(27年 11月分)
平成28年 1月25日
(27年 11月分)
平成28年 1月14日
(27年 11月分)
平成28年 1月12日
(27年 12月分)
 
2月5日
(27年 12月分)
2月24日
(27年 12月分)
2月17日
(27年 12月分)
2月3日
(28年 1月分)
 
3月7日
(28年 1月分)
3月25日
(28年 1月分)
3月14日
(28年 1月分)
3月8日
(28年 2月分)
平成28年 3月11日
(28年 1-3月期)

「企業行動に関するアンケート調査」は毎年3月頃に公表予定

国民経済計算(GDP統計)公表予定はこちらから


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