ESRI通信 第92号

平成28年4月22日
内閣府経済社会総合研究所 発行
Cabinet Office, Government of Japan
Economic and Social Research Institute

【統計と震災】

今般の熊本・大分の震災でお亡くなりになった方々に心から哀悼の意を表します。また、多くの被災された方々に心からお見舞いを申し上げます。大規模な震災は、様々な形で経済社会に影響します。その影響は、経済統計の結果に表れるだけでなく、経済統計の作成そのものにも及ぶことがあります。

東日本大震災の後の平成23年7月に、当研究所は統計委員会と共催でシンポジウム「震災復興と統計-統計の果たすべき役割とは?」を開催しました。そこでは、被災地における回答者の負担を十分考慮に入れることの重要性が指摘されました。 東日本大震災の際には、実際、総務省の労働力調査は被災地では実施できなくなり、岩手県、宮城県、福島県を除くデータを公表しました。家計調査では、別の地域のデータで補完し、全国値を推計・公表しました。私どもが作成・公表している一次統計も例外ではなく、消費動向調査も、東日本大震災の際には、調査ができない地域が発生しました。

また、一次統計における影響は、私どもが作成する国民経済計算(GDP統計)や景気動向指数という二次統計(加工統計)にも波及します。欠測値を補完するなどして作成された一次統計をベースに推計することに加え、一次統計が欠けているないし入手できない部分について、代替的な情報を用いること等により推計段階で補完を行うケースも発生します。東日本大震災の際には、国民経済計算の確報の時点で固定資産の毀損を考慮するに当たり特殊な処理も行いました。今回についても、一次統計への影響を慎重に精査し、可能な限り精度の高い推計を行うことが重要と考えます。

政府が政策を客観的事実に基づいて行っていくためには、統計調査の精度の高さが重要です。この点は先ほど紹介したシンポジウムでも参加者に共有されました。統計の精度の維持に努めるとともに、その限界についても十分に説明し、政策立案に資する経済分析に必要な基礎的インフラを提供する努力を続けたいと思います。

平成28年4月

  • 内閣府 経済社会総合研究所
    総務部長 桑原 進

【研究紹介】

質と多様性を通じたサービス業の成長

  • 内閣府 経済社会総合研究所
    研究官 亀田 泰佑

我が国の成長を加速するには、サービス業の生産性向上が喫緊の課題となっている。生産性向上に当たっては、これまでのコスト削減・低価格化による成長から、サービスの質の向上や多様なサービスの提供など付加価値の増大による成長への転換が強く求められている。しかしながら、このような成長モデルを実現するための政策を検討するに際しては、1)現行統計においては、サービス業の付加価値や生産性が過小評価されているという計測上の問題があること、2)そのため、サービス業の付加価値や生産性を向上させる決定要因が適切に把握されていないこと、などの課題がある。内閣府経済社会総合研究所生産性ユニットでは、小売サービスを取り上げ、その質の計測と生産性向上の決定要因の分析を行っている。

では、サービスの質はどのように計測すべきだろうか。これまで先行研究の多くでは、利便性、品ぞろえ、接客態度の良し悪し、などのサービスの質の計測について、営業時間、売り場面積、従業員数など既存統計から利用可能な限られた生産者側の情報を代理指標とする手法が多く取られてきた。これに対して、本生産性ユニットでは、Hottman, et. al(2014)1 に倣い、近年注目を浴びている大規模データ、いわゆる「ビッグデータ」を活用することで、小売サービスの質の計測を試みた。具体的には、バーコード単位で収集された日用品の大規模購買データ(インテージSCI 2 )を用いて、まず、サービスの質を高めると需要が増えるという性質を利用して、需要曲線・供給曲線からサービスの質を直接計測し、更に、「誰が、どこで、何を買ったか」という情報から企業ごと・業態ごとにもサービスの質を計測した。そのうえで、日本の小売企業の売上の成長に対する、1.サービスの質、2.多様性3、3.価格などの貢献度合いを推定した。

本研究から浮かび上がった小売業の姿は下記のとおりである。

  1. 1) 小売業の成長は、サービスの質と多様性によりほとんど説明される。特にサービスの質が重要であることから、質の向上を無視した従来型の価格指数では小売業の実質付加価値と生産性を大幅に過小評価していたといえる。
  2. 2) 業種別の推計を行うと4、成長の姿や戦略には大きなバラツキが観察された。例えば、コンビニやデパートでは、価格は高いものの、サービスの質や多様性の面での優位性を発揮し成長を実現していた。対して、スーパーやディスカウントストアでは、価格面での優位性を発揮して成長を実現する中で、サービスの質や多様性は平均程度の水準を確保していた。
  3. 3) 同じ業態内でもサービスの質は大きくばらついていることが観察された。サービスの質が低い企業は、マネジメントの改善によって質を改善させる余地が大きく、こうした企業のサービスの質を平均まで引き上げることにより、サービス業全体が大きく成長することがわかる。

1Hottman, Colin, Stephen J. Redding, and David E. Weinstein, 2014, Quantifying the Sources of Firm Heterogeneity, NBER Working Paper, 20436.

2SCIは全国50,000人の消費者から継続的に収集している日々の買い物データで、50万品目以上の商品、15000チェーン以上の小売企業の情報を含み、「誰が、いつ、どこで、何を、いくつ、いくらで買ったのか」という購買情報を四半期あたり1000万件以上も記録したものである。

3多様な品ぞろえも広義の「質」であるが、別掲して計測した。

47業態別(スーパー、コンビニエンスストア、100円/99円ショップ、ホームセンター/ディスカウントストア、薬局/ドラッグストア、酒ディスカウントストア、デパート)に推計。


【経済社会総合研究所からのお知らせ】

資料掲載:DSGEモデル入門セミナーを掲載しました。(平成28年4月)

「経済分析」投稿規程が改定されました。(平成28年4月)


【最新の研究発表】

  • 東日本大震災と生産回復のダイナミクス(乾 友彦、枝村 一磨、一宮 央樹)を掲載しました。(平成28年3月)

    本稿では、事業所の地理情報を考慮し、2011年3月に発生した東日本大震災が被災地域だけでなく非被災地域に立地する事業所の生産額のダイナミクスに与える影響について、経済産業省による「生産動態統計調査」及び「企業活動基本調査」の個票データを用いて分析を行う。事業所の生産の減退を生存、回復をハザードとみなしたハザード分析の結果、事業所やその本社が被災地に立地しているか否かは、事業所の生産に影響を与えないことが確認された。事業所と震源地との距離については、震源から遠い場所に立地する事業所ほど回復が早い傾向があるものの、本社の特徴をコントロールするとそのような影響は観測されなかった。また、本社の研究開発集約度が高く、本社従業員数が多く、流動資産比率が高い企業の事業所は回復が早いことが観測された。さらに、宮城県や東京都に立地している事業所の方が、他の県に立地している事業所よりも、生産の回復が早いことも観察された。これらの結果は、自然災害が発生した際に、本社の生産体制がしっかりしており、産業集積が進んでいる地域に立地している事業所ほど、生産の回復が速やかに行われることを示唆している。

  • 財政支出が失業に与えるインパクト-中規模DSGEモデルによる実証分析(松前 龍宜、蓮見 亮)を掲載しました。(平成28年3月)

    財政支出は失業率を改善するか。そうであれば財政支出増がどの程度失業を改善するのだろうか。先行研究では改善・悪化の相反する実証結果があり(例えばMonacelli et al. 2010とBruckner and Pappa 2012)、依然としてこの問いに対する結論は出ていない。本稿では、Gali et al. (2012) に基づき失業を導入した中規模DSGEモデルに、政府消費が民間消費を誘発する効果と政府投資による社会資本蓄積が民間企業の生産性を短期的に高める効果を組み込み、財政支出の失業に対する効果を検証する。日本経済を対象にした実証分析によると、政府消費・政府投資はともに失業を改善させる効果が確認されたが、失業率低下のチャネルは主として伝統的な総需要の増加を通じた効果であった。一方、政府消費による民間消費の誘発効果は小さく、政府投資が民間企業の生産性を短期的に高める効果は賃金を上昇させるものの、失業へ及ぼす影響は限定的であった。ただし、労働者の市場支配力に基づき失業をモデル化していることが我々の結果に影響している可能性には留意を要する。また、財政支出が失業に与える効果については、推定期間にゼロ金利期を含めた場合でも含めない場合でも同様であり、頑健であることが確認された。

  • 2010年産コメ購買行動における原発事故による影響の分析(水田 岳志、乾 友彦、松浦 寿幸)を掲載しました。(平成28年3月)

    本研究は、大規模な自然災害に関する被害のうち間接被害に関して、食品に対するネガティブな情報が購買行動に与えた影響に関して定量的な分析を行った。これまでのネガティブな情報と食品需要に関した分析は、限られた情報を用いた部分均衡分析であるため、その事故による生産者行動の変化や品質の変化の影響を考慮に入れて、消費者行動を識別しているとは言い難い。本研究では、2010年秋に収穫されたため品質や供給に関して2011年3月11日に発生した福島第一原発事故による放射性物質の飛散による物理的な影響が少ないと考えられるコメを対象とし、首都圏の小売店におけるコメ購買データ(POSデータ)を用いて、産地に関連したネガティブな情報が購買行動に与えた影響をDID(Difference in Differences)推定により定量的に評価した。

    その結果、2011年3月11日の福島第一原発事故前後の南関東の食品スーパーにおいて、福島県産以外を含む被災地産コシヒカリの売上金額の伸び率が対照群と比較して低下したことがわかった。また、その要因として単価の落ち込みよりも販売量の落ち込みが大きく寄与したことが明らかになった。

<報告書の掲載>


【最新のシンポジウム・フォーラム】

<議事次第(配付資料)の掲載>


【最新の統計】

<SNA統計>

<景気動向指数>平成28年2月速報(平成28年4月6日)

2月のCI(速報値・平成22(2010)年=100)は、先行指数:99.8、一致指数:110.3、遅行指数:114.8となった。

  • 先行指数は、前月と比較して2.0ポイント下降し、2か月ぶりの下降となった。3か月後方移動平均は0.90ポイント下降し、8か月連続の下降となった。7か月後方移動平均は0.79ポイント下降し、7か月連続の下降となった。
  • 一致指数は、前月と比較して3.2ポイント下降し、2か月ぶりの下降となった。3か月後方移動平均は0.53ポイント下降し、2か月ぶりの下降となった。7か月後方移動平均は0.37ポイント下降し、2か月ぶりの下降となった。
  • 遅行指数は、前月と比較して横ばいとなった。3か月後方移動平均は0.20ポイント下降し、2か月連続の下降となった。7か月後方移動平均は0.13ポイント下降し、4か月連続の下降となった。

一致指数の基調判断

  • 景気動向指数(CI一致指数)は、足踏みを示している。

<機械受注統計調査報告>平成28年2月実績(平成28年4月11日)

  • 機械受注総額の動向をみると、2016(平成28)年1月前月比8.8%減の後、2月は同9.0%増の2兆2,442億円となった。
  • 民間設備投資の先行指標である「船舶・電力を除く民需」の動向をみると、2016(平成28)年1月前月比15.0%増の後、2月は同9.2%減の8,487億円となった。このうち、製造業は同30.6%減の3,210億円、非製造業(除く船舶・電力)は同10.2%増の5,310億円となった。

<消費動向調査>平成28年3月調査(平成28年4月8日)

  • 平成28年3月の消費者態度指数(二人以上の世帯、季節調整値)は41.7と前月から1.6ポイント上昇し、3か月ぶりに前月を上回った。消費者態度指数を構成する4つの意識指標全てが前月と比べて上昇した。
  • 「日頃よく購入する品物」の1年後の価格の予想(二人以上の世帯)は、「低下する」が5.5%(前月差 -1.3%)、「変わらない」が13.5%(同 +0.6%)、「上昇する」が77.8%(同 +0.4%)となった。
  • なお、3月調査では、主要耐久消費財の保有・普及状況及び主要耐久消費財の買替え状況についても調査(年に一度の調査)を行った。

【参考】<月例経済報告>平成28年4月(平成28年4月21日)

景気は、このところ弱さもみられるが、緩やかな回復基調が続いている。

    • 個人消費は、消費者マインドに足踏みがみられるなか、おおむね横ばいとなっている。
    • 設備投資は、持ち直しの動きがみられる。
    • 輸出は、おおむね横ばいとなっている。
    • 生産は、横ばいとなっている。
    • 企業収益は、非製造業を中心に改善傾向にある。企業の業況判断は、慎重さがみられる。
    • 雇用情勢は、改善している。
    • 消費者物価は、緩やかに上昇している。

先行きについては、雇用・所得環境の改善が続くなかで、各種政策の効果もあって、緩やかな回復に向かうことが期待される。ただし、海外経済で弱さがみられており、中国を始めとするアジア新興国や資源国等の景気が下振れし、我が国の景気が下押しされるリスクがある。こうしたなかで、海外経済の不確実性の高まりや金融資本市場の変動の影響に留意する必要がある。また、平成28年(2016年)熊本地震の経済に与える影響に十分留意する必要がある。

<統計調査公表予定一覧>

<統計調査公表予定一覧>
景気動向指数
速報
景気動向指数
改訂状況
機械受注統計
調査
消費動向調査
(全国・月次)
法人企業景気
予測調査(四半期)
4月6日
(2月分)
4月25日
(2月分)
4月11日
(2月分)
5月9日
(4月分)
 
5月11日
(3月分)
5月23日
(3月分)
5月19日
(3月分)
6月2日
(5月分)
 
6月7日
(4月分)
6月23日
(4月分)
6月9日
(4月分)
7月1日
(6月分)
6月13日
(4-6月期)

「企業行動に関するアンケート調査」は毎年2月下旬~3月上旬に公表予定

国民経済計算(GDP統計)公表予定はこちらから


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