ESRI通信 第93号

平成28年5月20日
内閣府経済社会総合研究所 発行
Cabinet Office, Government of Japan
Economic and Social Research Institute

【ニーズに応えること】

国民経済計算の推計方法や推計実務について、ユーザーに実感を持ってイメージし、理解してもらうことは実に難しい問題である。むろんGDPとは何か、実質値とは何か、といった基礎的な概念については、マクロ経済学の教科書の第1章で説明されているが、各集計値の推計方法や基礎統計に関して言及されることはまずない。

GDPを中核とする国民経済計算の推計は、広範囲かつ大量のデータをまとめる複雑な工程である。データは異なる期間にわたり、多様な情報源からもたらされ、品質も異なり、また単位、概念、記録時点も様々で、同一時期のデータでも入手できるタイミングに差がある。こうしたバリエーション豊かな(?)データについて、国民経済計算の原則-発生主義や所有権移転、時価評価等-に基づき加工し、欠落値については外挿・予測を施した上で、制度部門別・経済活動別の各集計値の編集(editing)・調整(reconciliation)を行い、一貫性のある時系列を作成することが、国民経済計算の推計作業に必要な一連のプロセスである。その他の統計処理として、ベンチマーキング、実質化、季節調整も挙げられよう。

実は2000年代前半に推計実務の現場に着任した当初、詳細な引継ぎ資料を何度も読み返し、国連の定める大部な1993SNAマニュアルを参照したが、採用されている手法になかなか納得感が得られない状態が続いた(他にもっと良い手法があるのでは?等)。それまで経験した経済分析の時とは異なる頭の部位を使っている感じもし、隔靴掻痒の感を免れなかった。

そうした中で瞠目させられたのがIMFの「四半期別国民経済計算マニュアル‐概念、情報源及び推計」(2001年)である。本マニュアルは、各国・国際機関の数多くの推計担当者(national accountants)が、長年蓄積してきた成果、知見、そして声を反映し、各国のGDP統計の情報源、推計方法および範囲が、ユーザーのニーズ、基礎データの入手可能性、経済状況などの諸事情に応じて差が出てくる現実を踏まえ、「固定的な解を提供することではなく、選択肢の範囲を示し、各国の事情に即したGDP統計の開発に適用可能な通則を提供すること」を目的としている。特に、推計担当者のニーズとして、基礎統計及びその利用方法、推計アプローチ、改定方針等における選択の問題があるが、推奨されること、許容できること、回避した方がよいこと、例外的であること等について適切な相場観、共通認識(common sense)に係る情報を、懇切丁寧に具体的事例を挙げながら提供してくれるのである。私自身、推計方法を検討、開発したり、評価したりする際、本マニュアルを学んで幾度も目から鱗が落ちる思いをし、励ましを得、自戒の念を覚えてきた。(一昨年より、IMFにて2008SNAに則したアップデートが進められている)

現在、国民経済計算部では総力を挙げて、本年末から公表を予定している「平成23年基準改定」に取り組んでいるが、いよいよ胸突き八丁にさしかかってきた。今回の基準改定は、通常の約5年ごとの基準改定と異なり、最新の経済構造を反映した「産業連関表」等の大規模かつ詳細な基礎統計を織り込むのみならず、16年ぶりに新しい国際基準「2008SNA」を適用し、研究開発(R&D)を投資として計上するなどの幅広い概念変更を行う。さらに、長年の課題として、建設部門の産出額等の推計手法を見直すとともに、生産物ごとに供給サイドと使用サイドの情報を突合し調整するスキーム(供給・使用表)を利用し、より精度が高く正確、包括的な形で推計を行う予定である。ストック統計もさらに精緻化、拡充を図る予定である。

アップデートされたデータについては、IMFのマニュアルに見られたように、様々なユーザーの関心、ニーズに適切に応え、経済社会の情報インフラとして、できるだけ多くの人に理解し利用してもらえるような情報提供をしていきたい。ユーザーに対しては、データの有用性のみならず、その意味と限界を含めて、適切な利用を促すような努力も併せて行うことが重要と考えている。

平成28年5月

  • 内閣府 経済社会総合研究所
    国民経済計算部長 長谷川 秀司

【研究紹介】

「商品価格とインフレーション」

  • 内閣府 経済社会総合研究所
    主任研究官 敦賀 貴之

商品価格(石油、穀物、鉱物資源等の価格等、第一次産品の価格)の動向は政策決定者の主要な関心事の一つであり、特に金融政策の決定においても重要な要因であると考えられる。たとえば、原油価格が大きく下落すると金融政策が意図する消費者物価の上昇が阻害されてしまう。たとえば、2014年10月の日本銀行による追加金融緩和は、「原油価格の低下による物価の下押し」が一因であった。日本だけでなく、石油価格をはじめとする商品価格変動はその他の先進国でも注視されており、資源の豊富な新興国においても商品価格の下落は、潜在的な下振れリスクであると考えられている。

商品価格の動向を見てみると、2000年代以降、商品価格は大きく上昇しつづけた。このような動きから、リーマンショック以前は、商品価格の変動は、物価上昇のリスクと捉えられていた。また、すでに述べたように、近年の商品価格の下落は、物価の下振れリスクとなっている。加えて、2008年以降は商品価格の変動自体も高まっているように思われ、この点からも金融政策上の含意を検討することは重要である。

私が現在ESRIで実施している研究のひとつに、商品価格とインフレの関係に関するクロスカントリー分析がある。この研究の問題意識は、商品価格変動の一般物価に対する効果は持続性を持つか否か、という点である。

商品価格に一時的なショックが起こる場合、一般には、商品価格自体にも一時的な影響しか及ぼさないと考えられている。そのため、商品価格の変化がその他の財・サービスの価格と無関係であれば、商品価格の一時的なショックは物価全体に対しても一時的な効果を持つにすぎない。しかし、これらの商品価格の変化には、生産過程を通じて他の財・サービスの価格に波及するという「第2次効果」がある。この第2次効果が大きい場合、他の財・サービスの価格はゆっくりと動くため、商品価格のインフレへの影響は、持続性を持つ可能性がある。このようなプロセスを通じて商品価格の変動が一般物価に対して持続的な影響を及ぼす場合、金融政策での対応の必要が生じうる。しかし、第2次効果が弱く、一時的な商品価格の低下が物価を一時的に押し下げるだけだとすれば、過度な政策対応は政策の波及に時間がかかることから、逆に経済の不安定化につながりかねず、慎重な政策判断が必要であろう。

このような問題意識に基づき、私の研究では商品価格変動がインフレにもたらす影響を抽出している。この研究では、少なくとも各国平均でみると、商品価格の上昇に起因する物価の上昇効果は概ね最初の1年以内におこり、2年目には、物価に影響を及ぼしていないということが分かった。すなわち、商品価格のショックが発生しても、物価への影響はショックから数えて1年目のうちに反映され、その後の影響はあまり持続性を持たない。この点、平均的にみれば、石油価格等、商品価格の変動には慎重に政策対応する必要があることが示唆される。

もちろん、この結果はあくまで平均的な変動であり、各国における様々な要因が持続性に影響するため、その国独自の要因も考慮しなければならない。しかし特に自国通貨が米国ドルにペッグされていない先進国では持続性はさほど強くないことが示唆されており、日本の場合、他の先進国同様、石油価格等の商品価格の変動には慎重に政策対応する必要があることが明らかとなった。この研究は、今後内容をさらに精査し、ESRIディスカッションペーパーとして取りまとめる予定である。


【最新のシンポジウム・フォーラム】

<議事次第(配付資料)の掲載>


【最新の統計】

<SNA統計>

<景気動向指数>平成28年3月速報(平成28年5月11日)

3月のCI(速報値・平成22(2010)年=100)は、先行指数:98.4、一致指数:111.2、遅行指数:112.0となった。

  • 先行指数は、前月と比較して0.5ポイント下降し、2か月連続の下降となった。3か月後方移動平均は0.70ポイント下降し、9か月連続の下降となった。7か月後方移動平均は0.76ポイント下降し、8か月連続の下降となった。
  • 一致指数は、前月と比較して0.5ポイント上昇し、2か月ぶりの上昇となった。3か月後方移動平均は0.17ポイント上昇し、5か月ぶりの上昇となった。7か月後方移動平均は0.10ポイント下降し、5か月連続の下降となった。
  • 遅行指数は、前月と比較して1.8ポイント下降し、3か月連続の下降となった。3か月後方移動平均は1.10ポイント下降し、3か月連続の下降となった。7か月後方移動平均は0.40ポイント下降し、3か月連続の下降となった。

一致指数の基調判断

  • 景気動向指数(CI一致指数)は、足踏みを示している。

<機械受注統計調査報告>平成28年3月実績および平成28年4~6月見通し(平成28年5月19日)

  • 機械受注総額の動向をみると、2016(平成28)年2月前月比9.0%増の後、3月は同15.8%増の2兆5,993億円となった。
  • 民間設備投資の先行指標である「船舶・電力を除く民需」の動向をみると、2016(平成28)年2月前月比9.2%減の後、3月は同5.5%増の8,951億円となった。このうち、製造業は同19.7%増の3,842億円、非製造業(除く船舶・電力)は同6.9%減の4,944億円となった。
  • 1~3月をみると、受注総額は前期比4.4%減の6兆9,021億円となった。また、「船舶・電力を除く民需」は同6.7%増の2兆6,785億円、製造業は同13.7%増の1兆1,677億円、非製造業(除く船舶・電力)は同3.5%増の1兆5,071億円となった。
  • 2016(平成28)年4~6月見通しをみると、受注総額は前期比1.2%減の6兆8,160億円の見通しになっている。また、「船舶・電力を除く民需」は同3.5%減の2兆5,836億円、製造業は同7.5%減の1兆802億円、非製造業(除く船舶・電力)は同1.5%減の1兆4,845億円の見通しになっている。
  • 2015(平成27)年度実績をみると、受注総額は前年度比0.6%減の28兆3,956億円になっている。また、「船舶・電力を除く民需」は同4.1%増の10兆1,838億円、製造業は同6.2%増の 4兆4,214億円、非製造業(除く船舶・電力)は同2.5%増の5兆7,898億円になっている。

<消費動向調査>平成28年4月調査(平成28年5月9日)

  • 平成28年4月の消費者態度指数(二人以上の世帯、季節調整値)は40.8と前月から0.9ポイント低下し、2か月ぶりに前月を下回った。消費者態度指数を構成する4つの意識指標のうち、「収入の増え方」を除く3項目が前月と比べて低下した。
  • 「日頃よく購入する品物」の1年後の価格の予想(二人以上の世帯)は、「低下する」が4.1%(前月差 -1.4%)、「変わらない」が11.0%(同 -2.5%)、「上昇する」が82.3%(同 +4.5%)となった。

【参考】<月例経済報告>平成28年4月(平成28年4月21日)

景気は、このところ弱さもみられるが、緩やかな回復基調が続いている。

    • 個人消費は、消費者マインドに足踏みがみられるなか、おおむね横ばいとなっている。
    • 設備投資は、持ち直しの動きがみられる。
    • 輸出は、おおむね横ばいとなっている。
    • 生産は、横ばいとなっている。
    • 企業収益は、非製造業を中心に改善傾向にある。企業の業況判断は、慎重さがみられる。
    • 雇用情勢は、改善している。
    • 消費者物価は、緩やかに上昇している。

先行きについては、雇用・所得環境の改善が続くなかで、各種政策の効果もあって、緩やかな回復に向かうことが期待される。ただし、海外経済で弱さがみられており、中国を始めとするアジア新興国や資源国等の景気が下振れし、我が国の景気が下押しされるリスクがある。こうしたなかで、海外経済の不確実性の高まりや金融資本市場の変動の影響に留意する必要がある。また、平成28年(2016年)熊本地震の経済に与える影響に十分留意する必要がある。

<統計調査公表予定一覧>

<統計調査公表予定一覧>
景気動向指数
速報
景気動向指数
改訂状況
機械受注統計
調査
消費動向調査
(全国・月次)
法人企業景気
予測調査(四半期)
5月11日
(3月分)
5月23日
(3月分)
5月19日
(3月分)
6月2日
(5月分)
 
6月7日
(4月分)
6月23日
(4月分)
6月9日
(4月分)
7月1日
(6月分)
6月13日
(4-6月期)
7月7日
(5月分)
7月25日
(5月分)
7月11日
(5月分)
8月2日
(7月分)
 

「企業行動に関するアンケート調査」は毎年2月下旬~3月上旬に公表予定

国民経済計算(GDP統計)公表予定はこちらから


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