ESRI通信 第95号

平成28年7月20日
内閣府経済社会総合研究所 発行
Cabinet Office, Government of Japan
Economic and Social Research Institute

【景気統計部便り】

「経済財政運営に当たっては、不断の統計の改善が不可欠である。」(「経済財政運営と改革の基本方針2016」より)

景気統計部においても、個々の統計の改善に加え、統計が抱える横断的な課題について検討することが求められている。このため、統計学・経済学等に知見を持つ専門チームの設置を目指しているが、まずは今年度より、欠測値補完手法の改善に向けた調査研究を始めることとしている。なぜ欠測値補完をとりあげるのか。それは、リーマンショック、東日本大震災といった大きな経済変動を経験する中、研究者・分析者のみならず、多くの実務者の間で、データの欠測を無視あるいは軽視した単純な解析を行うことは、大きなバイアスを生み出す恐れがある、との問題意識が広がりつつあるからである。統計学での欠測データ解析の理論的研究は、この20年間で飛躍的に進展したといわれている。理論と応用の橋渡しに貢献したい。

また、個々の統計の改善についても検討を行う予定である。消費者マインドを把握するため、不特定多数を対象としたインターネット調査(オープン調査)を施行する。さらに、若年層に受け入れられやすいインターネット用調査票及びアプリ等の開発に向けた検討も行うこととしている。企業アンケート調査についても、調査対象を従来は上場企業約2,500社であったところを今年度からは資本金1~10億円規模の企業約8,000社を追加し、地方の中堅企業からの声もきめ細かく拾えるよう改善することとした。

最後に、統計部が開催している昼の勉強会(昼食をとりながら)について。多くの内閣府統計作成者に、統計改善の重要性をわかりやすく理解してもらえるよう、今年度から始めた。第1弾として、5月27日、総務省統計委員会担当室次長の上田聖氏を招き開催したが、そのなかで特に印象的だったのが、白衣の天使ナイチンゲールは、実は優秀な統計学者であった、というくだりである。クリミア戦争に従軍、野戦病院の死亡者の大多数は戦死よりも伝染病であることをわかりやすく死因分析表で提示(統計データ可視化の先駆者)。本国上層部の理解を得ることで病院環境は改善し、死亡率は大幅に低下した、という内容である。まさに、Evidence-based policyの見本のような話であった。残念ながら、日本の小学生高学年用「偉人伝 ナイチンゲール」には出ていない。

統計改善のためには高い統計リテラシーが不可欠である。いくばくでも統計リテラシーを向上しようとする意欲に働きかけることができればと思う。

平成28年7月

  • 内閣府 経済社会総合研究所
    景気統計部長 西崎 寿美

【研究紹介】

我が国における家族間遺産分割と親の遺産動機

  • 内閣府 経済社会総合研究所
    客員研究員 濱秋 純哉

近年、我が国では、高齢層への貯蓄の偏在が問題視されており、若年層への資産移転と消費喚起を意図した相続税の引上げや贈与税の軽減措置等の施策が講じられた。こうした政策の効果は親の遺産動機(子孫に遺産を遺す理由)のあり様に依存する。筆者の属する内閣府経済社会総合研究所の「家計のライフサイクルを通じた所得・資産・消費等に関する研究」ユニットでは、家計個票分析の一環として遺産動機の解明に取り組んでいる。

米国では、遺産分割パターンから親の遺産動機を探る研究が広範に実施されてきており、遺産が子の間で均等に分割される割合が非常に高いことが明らかにされた1。一方、日本で実施された遺産分割に関するアンケート調査によると、遺産が子の間で不等分される割合が(米国に比べて)高いことが分かっている。

この日米の差はなぜ生じるのか。我々は、近年、コンセンサス形成が進んだ米国の遺産分割(等分)を説明するロジックで、日本での遺産の不等分も理解できるかを考えてみた。ロジックの前提は、「親は様々な理由で財産を子供毎に不均等に遺すことを望むが、その不平等な扱いを子供達に知られることは望まない」ことである。また、親が子に資産移転する方法には、それぞれがいくらもらったか観察が難しい手段(たとえば、生前贈与や信託・生保による移転)と、それを観察できる手段(裁判所の手続きを経た相続)がある。このような場合、子に知られずに財産を不等分したい親は、極力、前者の手段で不等分を実現し、(それができない部分のみ)後者の手段で等分するだろう。実際、米国の先行研究の多くでは、裁判所の手続きを経た遺産分割(分割パターンが直接観察できる相続)が分析対象となっており、これが均等分割の要因である。

一方、日本では生前贈与の税が相続より重い上、分割パターンを観察できなくする移転の手段があまり発達していないため、親が財産の不等分を実現しようとすれば、それは(観察可能な)相続に反映せざるを得ない。注意を要するのは、日本の遺産分割は相続人間の協議に基づくため、親の動機だけでなく子の意向もそこに反映される点である。我々は、親と子の意向を分離するため、一次相続と二次相続2の分割パターンの比較も試みた。一次相続では、生存配偶者(生き残った方の親)が協議への参加を通じ遺産分割に親の動機を反映させることが可能だが、子だけの間での分割となる二次相続では、親の動機よりも子が共有する家族の価値観が分割に現れる。

我々が独自に実施したアンケート調査の個票データを分析した結果、日本で観察される遺産の不等分は、男子が遺産を相続するという伝統的な「家」制度の価値観や、親が老後の面倒を看てもらう見返りに子に遺産を遺す動機(戦略的動機)と整合的であることが分かった。また、予想された通り、この傾向は一次相続時の分割により強く反映されていた。

このような遺産動機の解明は、我が国における高齢者消費の促進や、公共投資の景気刺激効果に関する理論的評価、更には世代間移転が世帯間格差に与える影響等、マクロ経済政策上の広範な課題に含意を有している。

なお本研究の成果は、近く、ESRI Discussion Paperとして公表することが予定されている。


1この結果、米国での遺産分割パターンの分析は、親の遺産動機を明らかにすることにはあまり繋がらなかった。というのも、遺産の等分は、通常考えられているどの遺産動機とも相いれないからである。

2一次相続は二人の親のうち、一人目の親が死亡した際の遺産相続を指し、二次相続とは残りの一人が死亡した際の遺産相続を指す。


【最新の研究発表】

<報告書の掲載>


【最新のシンポジウム・フォーラム】

<開催案内>


【最新の統計】

<SNA統計>

  • 四半期別民間企業資本ストック速報(2016(平成28)年1-3月期)(平成28年6月28日)
    1. 有形固定資産 全産業(進捗ベース)
      • 28年3月末のストックは1,327.1兆円、前年同期比1.6%増となった(前期は1.5%増)。
      • 28年1~3月の新設投資額は17.9兆円、前年同期比0.7%増となり、4期連続でプラスとなった(前期は2.8%増)。
    2. 無形固定資産 全産業(取付ベース)
      • 28年3月末のストックは43.9兆円、前年同期比1.4%増となり、14期連続のプラスとなった(前期は1.2%増)。
      • 28年1~3月の新設投資額は2.7兆円、前年同期比▲1.7%減となり、5期ぶりのマイナスとなった(前期は2.2%増)。

<景気動向指数>平成28年5月速報(平成28年7月7日)

5月のCI(速報値・平成22(2010)年=100)は、先行指数:100.0、一致指数:110.5、遅行指数:113.7となった。

  • 先行指数は、前月と比較して横ばいとなった。3か月後方移動平均は0.33ポイント上昇し、11か月ぶりの上昇となった。7か月後方移動平均は0.33ポイント下降し、10か月連続の下降となった。
  • 一致指数は、前月と比較して1.5ポイント下降し、3か月ぶりの下降となった。3か月後方移動平均は0.17ポイント上昇し、2か月連続の上昇となった。7か月後方移動平均は0.33ポイント下降し、2か月ぶりの下降となった。
  • 遅行指数は、前月と比較して1.6ポイント下降し、3か月ぶりの下降となった。3か月後方移動平均は0.10ポイント下降し、2か月ぶりの下降となった。7か月後方移動平均は0.20ポイント下降し、2か月ぶりの下降となった。

一致指数の基調判断

  • 景気動向指数(CI一致指数)は、足踏みを示している。

<機械受注統計調査報告>平成28年5月実績(平成28年7月11日)

  • 機械受注総額の動向をみると、2016(平成28)年4月前月比12.8%減の後、5月は同11.5%減の2兆64億円となった。
  • 民間設備投資の先行指標である「船舶・電力を除く民需」の動向をみると、2016(平成28)年4月前月比11.0%減の後、5月は同1.4%減の7,850億円となった。このうち、製造業は同6.4%減の3,115億円、非製造業(除く船舶・電力)は同0.3%減の4,738億円となった。

<消費動向調査>平成28年6月調査(平成28年7月1日)

  • 平成28年6月の消費者態度指数(二人以上の世帯、季節調整値)は41.8と前月から0.9ポイント上昇し、2か月連続で前月を上回った。消費者態度指数を構成する4つの意識指標全てが前月と比べて上昇した。
  • 「日頃よく購入する品物」の1年後の価格の予想(二人以上の世帯)は、「低下する」が4.6%(前月差 -0.3%)、「変わらない」が20.4%(同 +6.9%)、「上昇する」が71.8%(同 -7.1%)となった。

【参考】<月例経済報告>平成28年6月(平成28年6月17日)

景気は、このところ弱さもみられるが、緩やかな回復基調が続いている。

    • 個人消費は、消費者マインドに足踏みがみられるなか、おおむね横ばいとなっている。
    • 設備投資は、持ち直しの動きがみられる。
    • 輸出は、おおむね横ばいとなっている。
    • 生産は、横ばいとなっている。
    • 企業収益は、高い水準にあるものの、改善に足踏みがみられる。企業の業況判断は、慎重さがみられる。
    • 雇用情勢は、改善している。
    • 消費者物価は、このところ上昇テンポが鈍化している。

先行きについては、雇用・所得環境の改善が続くなかで、各種政策の効果もあって、緩やかな回復に向かうことが期待される。ただし、海外経済で弱さがみられており、中国を始めとするアジア新興国や資源国等の景気が下振れし、我が国の景気が下押しされるリスクがある。こうしたなかで、海外経済の不確実性の高まりや金融資本市場の変動の影響に留意する必要がある。また、平成28年(2016年)熊本地震の経済に与える影響に十分留意する必要がある。

<統計調査公表予定一覧>

<統計調査公表予定一覧>
景気動向指数
速報
景気動向指数
改訂状況
機械受注統計
調査
消費動向調査
(全国・月次)
法人企業景気
予測調査(四半期)
平成28年 8月5日
(6月分)
平成28年 7月25日
(5月分)
平成28年 8月10日
(6月分)
平成28年 8月2日
(7月分)
平成28年 9月13日
(7-9月期)
9月7日
(7月分)
8月24日
(6月分)
9月12日
(7月分)
9月2日
(8月分)
12月9日
(10-12月期)
10月7日
(8月分)
9月26日
(7月分)
10月12日
(8月分)
10月4日
(9月分)※
平成29年 3月10日
(1-3月期)

※ 消費動向調査の上に掲載した調査以降の公表予定については、こちらのページに掲載しています。

「企業行動に関するアンケート調査」は例年2月下旬~3月上旬に公表予定

国民経済計算(GDP統計)公表予定はこちらから


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