ESRI通信 第96号

平成28年8月19日
内閣府経済社会総合研究所 発行
Cabinet Office, Government of Japan
Economic and Social Research Institute

【創造の源は人】

6月に世界を揺るがした英国のEU離脱決定の衝撃は一段落し、本格的な動きは今後になるとしても、とても気になるのは人の動きである。今回のきっかけは難民であるが、一方、英国にはEUの各国から労働力はもとより優秀な人材が集まっている。北海油田の枯渇が迫る英国にとって人材は最重要資源なのだが、例えば、イノベーションを担う人材は早々に独仏などEU諸国に移動して、英国からの人材流出が始まるのではないか懸念される。

英国以上に、人材が将来に向けての最重要な資源であるのは日本だ。まもなく研究開発投資が国内総生産にも勘定されることになるが、研究開発に代表される知的で創造的な価値を生み出すのは人間である。しかも、人材は個人としても、また集団としても枯渇しない。では、日本はその人材の知恵を十分に活かしているだろうか。高度成長期には、例えばものづくりを見ると大学の工学部を中心に産学官のネットワークを人材や情報が効果的に循環して、日本の製造業を世界に冠たるものとした。今日、製造業単独では新興国に追い上げられ、ものだけではない様々なサービスでは米国が独走している。ものとサービスが結びついて高い付加価値をもたらす新たなビジネスの創造が望まれる。それも大企業だけでなく、様々なレベル、特に個人や小企業が世界を目指すような起業が続々と生み出される活力が求められる。このようなエコシステムは米国のシリコンバレーにあるとされるが、その秘密は何か。シリコンバレーには新たなビジネスを起こすに必要な要素が全て存在すると言われる。資金、市場ニーズなどの情報に加え、企業に必要な法律、経理、管理の専門家や手法、そしてシーズを生み出す研究開発能力などニーズに合致する製品やサービスを生み出す要素が、起業者のアクセス可能な形で存在し、かつ起業を促す文化が満ちている。

日本でも「和製シリコンバレー」を目指す動きがあったが、本来の企業に必要な機能を揃えてきただろうか。いまや、情報通信技術が飛躍的に進歩した現在、シリコンバレーの機能は仮想空間にも存在する。仮想空間と実空間を分ける壁はきわめて低くなり、両者は融合し始めている(Cyber Physical System) 。だとすれば、物理的に近接していなければ本当に困るもの以外は、CPSの活用で何とかなる。

日本での先行する調査などでなかなか得がたいとされるのが、先人の経験や指導で、これこそは仮想空間だけでは難しく、起業の先輩も実際にアイディアを聞き、ビジネスプランや試作の状況を見て、人を見極める、ハンズオンの指導が重要だそうだ。こうして得られる知的なネットワークが起業の成否を握ると言われ、決して数は多くない日本人の起業成功者をどのように繋いでいくかが、秘訣のようである。そのような新たなエコシステムを日本に築けないか、今後の課題である。

最後に必要なものは、将来を見据えたアイディア、語学、人との対話力など意思と活力だと思う。これは、起業をしようとする人々、特に将来を担う世代に求められるが、ここ20年、失われたかに見えた日本の活力は、若い世代や女性を中心に、今復活の兆しを感じる。折しもリオ五輪での若者の活躍に続くかのごとく。

平成28年8月

  • 内閣府 経済社会総合研究所
    総括政策研究官 大竹 暁

【研究紹介】

ESRI国際コンファレンス「日本の高齢化:団塊の世代引退の影響」の概要

  • 内閣府 経済社会総合研究所
    主任研究官 市川恭子

内閣府経済社会総合研究所(ESRI)は、日本経済の課題を議論するESRI国際コンファレンスを2001年以降開催している。本年8月2日に「日本の高齢化:団塊の世代引退の影響」をテーマとして開催した。

本会議の冒頭は、ファーマン米国大統領経済諮問委員会委員長による「需要と供給:米国と日本から学ぶこと」と題する特別セッションで、リーマンショック以降の経済回復の道筋が日米欧で異なること、生産性の伸びに各国バラつきがあり特に日本の成長が伸び悩む要因であること、労働供給制約が顕在化していることなどを指摘した上でその対応策が示された。

第1セッションは坪内浩 ESRI総括政策研究官が「団塊の世代引退の経済的影響」というテーマで報告した。団塊の世代が60歳代後半となり、職場からの引退及び高齢化が日本経済社会に大きな影響を及ぼしつつある。この状況について、人口推計、少子高齢化の見通し、生産年齢人口及び潜在成長率の減少や社会保障にかかる人手や費用の増加という課題、それに対応するニッポン一億総活躍プランを紹介した。具体的には、団塊の世代が75歳以上となる2025年頃以降深刻な高齢化の課題が顕在化し、75歳以上になると1人当たり医療費や介護費が格段と増加するため、2025年頃以降社会保障にかかる人手や費用が急増する見込みである。また、生産年齢人口が減少し潜在成長率にも影響する。潜在成長率の制約要因となっている労働投入を伸ばすために女性と高齢者の活用が鍵であり、ニッポン一億総活躍プラン等に盛り込まれた施策を実施していくことが必要である。

第2セッションは近藤絢子 東京大学准教授が「団塊の世代が引退し、医療・介護需要が増大することが労働市場に与える影響」というテーマで報告し、オリビア・ミッチェル ペンシルバニア大学教授が討論者としてコメントした。制度変更により団塊の世代が60歳になった時に60歳代の就業率は大幅に増加したものの、賃金は大企業を中心に大幅に低下した。この高齢者雇用の増加がもたらす影響は、若年労働者と置き換わる効果は殆どなく、女性パート労働者と置き換わった。家族介護による女性労働の供給制約については今のところ限定的であるが、今後は仕事と介護の両立に影響があるかもしれない。討論では、個人の介護費用負担の余地は未だある、高齢者の賃金低下を平準化すべきではないか、103万円の壁は再考すべきではないか、介護市場で混合市場のような仕組みを検討すべきではないかとの指摘がなされた。

第3セッションは、祝迫得夫 一橋大学教授が、日本における高齢化が金融市場に与える影響、とりわけ家計が貯蓄を取り崩し、株のようなリスク資産の保有を減らしているか否かに関する研究を発表し、高齢化に伴う貯蓄率の減少は緩やかであり、株の保有高に有意な減少は見られなかったことを示した。ジェームズ・ポターバ MIT教授が、高齢化の影響をデータから検出することの難しさや、高齢化が投資の収益率に与える影響についてコメントした。討論では、日本の家計とアメリカの家計の資産選好の違い等に関して活発な議論が行われた。

第4セッションは、クラウディア・ゴルディン ハーバード大学教授が高齢化の人口圧力(従属人口指数)を高める要因について、日本では1975年以降の出生率低下の影響が最も大きいことを示す一方、ベビーブーマー(団塊の世代)の影響は、米国と異なり日本においては軽微であったことを示した。敦賀貴之 ESRI主任研究官は、日米の比較よりも各国ごとのシミュレーションから結論を導くべきとの指摘をした。

第5セッションでは、伊藤元重 学習院大学教授、エドワード・ラジアー スタンフォード大学教授、ジェームズ・ポターバ MIT教授、清家篤 経済社会総合研究所名誉所長により、高齢化に関するパネルディスカッションが行われた。

4人のパネリストからは、高齢化する日本において、労働力人口の低下、起業・開業率の低下等の課題が提起された。このような課題に対し、健康寿命の延伸によるアクティブシニアの活躍や年功賃金制の見直しなどの必要性の指摘がなされた。その他にも、生産性の向上の観点からは、人手不足が予想される日本は省人化の技術を受け入れることに対して比較優位があることや工夫によって高齢者でも生産性は若い人材と同様になるなど、高齢化する日本における課題解決策について広範な意見交換がなされた。


【最新の研究発表】

  • 商品価格ショックがインフレに与える影響:クロスカントリー分析(関根 篤史、敦賀 貴之)を掲載しました。(平成28年7月)

    2000年代以降、商品価格の大きな変動が金融政策当局の間で政策上の関心時となっている。本稿では、144か国の月次パネルデータを用いて、商品価格のショックがインフレ率に及ぼす影響を分析する。本稿の分析では商品価格がインフレ率に及ぼす影響は一時的であることが示される。商品価格ショックが消費者物価に及ぼす影響は国によって様々であるが、その影響が一時的であることは広範に観察され、この点、いわゆる商品価格ショックの第二次効果のリスクは低いことが示唆される。本稿ではさらに、過去のインフレ率を推移変数としたSmooth Transition Autoregressive modelを用いて、商品価格ショックの影響が、インフレ率の水準に応じて持続的になり得るかどうかも検討している。この特定化では、その国の通貨がアメリカドルにペッグされている場合は商品価格ショックの影響が一時的ではない可能性があるものの、対米ドルの為替レートが変動的である国ではその影響は依然として一時的に過ぎないことが示される。


【最新のシンポジウム・フォーラム】

<議事次第(配付資料)の掲載>


【最新の統計】

<SNA統計>

<景気動向指数>平成28年6月速報(平成28年8月5日)

6月のCI(速報値・平成22(2010)年=100)は、先行指数:98.4、一致指数:110.5、遅行指数:112.0となった。

  • 先行指数は、前月と比較して横ばいとなった。3か月後方移動平均は0.20ポイント上昇し、2か月連続の上昇となった。7か月後方移動平均は0.27ポイント下降し、11か月連続の下降となった。
  • 一致指数は、前月と比較して1.3ポイント上昇し、2か月ぶりの上昇となった。3か月後方移動平均は0.17ポイント上昇し、2か月ぶりの上昇となった。7か月後方移動平均は0.18ポイント下降し、2か月連続の下降となった。
  • 遅行指数は、前月と比較して0.5ポイント上昇し、2か月ぶりの上昇となった。3か月後方移動平均は0.30ポイント下降し、2か月連続の下降となった。7か月後方移動平均は0.23ポイント下降し、2か月連続の下降となった。

一致指数の基調判断

  • 景気動向指数(CI一致指数)は、足踏みを示している。

<機械受注統計調査報告>平成28年6月実績および平成28年7~9月見通し(平成28年8月10日)

  • 機械受注総額の動向をみると、2016(平成28)年5月前月比11.5%減の後、6月は同10.1%増の2兆2,098億円となった。
  • 民間設備投資の先行指標である「船舶・電力を除く民需」の動向をみると、2016(平成28)年5月前月比1.4%減の後、6月は同8.3%増の8,498億円となった。このうち、製造業は同17.7%増の3,666億円、非製造業(除く船舶・電力)は同2.1%増の4,838億円となった。
  • 4~6月をみると、受注総額は前期比6.1%減の6兆4,834億円となった。また、「船舶・電力を除く民需」は同9.2%減の2兆4,312億円、製造業は同13.4%減の1兆110億円、非製造業(除く船舶・電力)は同5.0%減の1兆4,325億円となった。
  • 2016(平成28)年7~9月見通しをみると、受注総額は前期比4.3%増の6兆7,654億円の見通しになっている。 また、「船舶・電力を除く民需」は同5.2%増の2兆5,587億円、製造業は同14.2%増の1兆1,546億円、非製造業(除く船舶・電力)は同1.5%減の1兆4,111億円の見通しになっている。

<消費動向調査>平成28年7月調査(平成28年8月2日)

  • 平成28年7月の消費者態度指数(二人以上の世帯、季節調整値)は41.3と前月から0.5ポイント低下し、3か月ぶりに前月を下回った。消費者態度指数を構成する4つの意識指標のうち、「暮らし向き」を除く3項目が前月と比べて低下した。
  • 「日頃よく購入する品物」の1年後の価格の予想(二人以上の世帯)は、「低下する」が6.3%(前月差 +1.7%)、「変わらない」が18.2%(同 -2.2%)、「上昇する」が72.2%(同 +0.4%)となった。

【参考】<月例経済報告>平成28年7月(平成28年7月25日)

景気は、このところ弱さもみられるが、緩やかな回復基調が続いている。

    • 個人消費は、消費者マインドに足踏みがみられるなか、おおむね横ばいとなっている。
    • 設備投資は、持ち直しの動きがみられる。
    • 輸出は、おおむね横ばいとなっている。
    • 生産は、横ばいとなっている。
    • 企業収益は、高い水準にあるものの、改善に足踏みがみられる。企業の業況判断は、慎重さが増している。
    • 雇用情勢は、改善している。
    • 消費者物価は、このところ上昇テンポが鈍化している。

先行きについては、雇用・所得環境の改善が続くなかで、各種政策の効果もあって、緩やかな回復に向かうことが期待される。 ただし、海外経済で弱さがみられており、中国を始めとするアジア新興国や資源国等の景気が下振れし、我が国の景気が下押しされるリスクがある。 また、英国のEU離脱問題など、海外経済の不確実性の高まりや金融資本市場の変動の影響に留意する必要がある。 さらに、平成28年(2016年)熊本地震の経済に与える影響に十分留意する必要がある。

<統計調査公表予定一覧>

<統計調査公表予定一覧>
景気動向指数
速報
景気動向指数
改訂状況
機械受注統計
調査
消費動向調査
(全国・月次)
法人企業景気
予測調査(四半期)
平成28年 9月7日
(7月分)
平成28年 8月24日
(6月分)
平成28年 9月12日
(7月分)
平成28年 9月2日
(8月分)
平成28年 9月13日
(7-9月期)
10月7日
(8月分)
9月26日
(7月分)
10月12日
(8月分)
10月4日
(9月分)
12月9日
(10-12月期)
11月8日
(9月分)
10月24日
(8月分)
11月10日
(9月分)
11月2日
(10月分)
平成29年 3月10日
(1-3月期)

※ 消費動向調査の上に掲載した調査以降の公表予定については、こちらのページに掲載しています。

「企業行動に関するアンケート調査」は例年2月下旬~3月上旬に公表

国民経済計算(GDP統計)公表予定はこちらから


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