ESRI通信 第99号

平成28年11月21日
内閣府経済社会総合研究所 発行
Cabinet Office, Government of Japan
Economic and Social Research Institute

【中所得国の罠をどう飛び越えるか】

かつて「貧困の悪循環」という言葉が開発経済学の中で展開されていた。悪循環には供給サイドの悪循環と需要サイドの悪循環の2種類がある。供給サイドの方を見てみると、「低所得→低貯蓄→資本不足→低生産性→低所得」であり、需要サイドの方は「低所得→低購買力→低い投資誘因→低生産性→低所得」となる。この悪循環をどのように打ち破るかというのがかなりの難問となっていて、先進国からの経済支援を行ったとしても、支援が終了すると元の木阿弥という指摘がなされていた。

現在でも1日1.25ドル未満で暮らす極度の貧困層が南アジアやサブサハラ・アフリカを中心に約12億人存在する。しかしその一方で、東アジアや東南アジアには、比較的短期間に低所得国から中所得国に成長した国々が現れた。海外からの投資や技術の積極的な導入が悪循環を断ち切る鍵となった。ASEAN諸国でいえば、タイやマレーシアがその例に該当するのだが、ここにきて彼らは「中所得国の罠」という問題に直面している。中所得国から先進国にジャンプするには、自国内で持続的な技術のイノベーションが起きること、そしてそれを活用できる優秀な国内人材を確保すること、という処方箋が既に示されてはいる。しかし、イノベーションを持続することや優秀な人材を養成することは日本を含む先進国ですら大きな課題であり、簡単に実現できるような話ではない。

ここでタイの「中所得の罠回避作戦」を見てみよう。2015年9月にタイ政府が公表したクラスター政策では、高度技術を使用する次世代産業として、1.自動車・自動車部品、2.電気・電子機器、3.環境にやさしい石油化学および化学品、4.デジタル、5.食品、6.医療ハブを指定し、これらの分野に投資を行う企業には15年に及ぶ法人所得税減免、機械の輸入関税免除、国際レベルの専門家の個人所得税免除等の特典を与えることとしている。2015年末にはASEANの統一市場を目指したASEAN経済共同体が発足したが、これを機に低付加価値産業を周辺の低開発国(カンボジア・ラオス・ミャンマー)に移転させ、タイ国内では高付加価値産業を育成するという作戦である。外国企業が進出する際には、タイ国内の大学や研究機関等と提携することを義務付けているので、外国資本が持ち込む技術をタイ人の中に取り込もうとする努力も行われている。一見すると「他人の褌で相撲を取る」というスタンスは、これまでのタイの産業政策と同一のように思われる。

しかしながら、この試みは大いに注目されてよいと思う。先進国にジャンプするために、自国内に持続的イノベーションを起こすとか、一定規模の優秀な人材を養成するということが必須だとすると、その実現は不可能とは言えないまでも、かなり困難なことになってしまう。「他人の褌」作戦で先進国に仲間入りできるのであれば、それに越したことはない。現代は後発国にとって、多くの先進国や新興国から資本や技術を導入することが可能な時代である。中所得国に至るまでの成功体験により国内投資家の将来期待も高いとすれば、「差異」が消滅しない限り、この成長メカニズムは働き続けるのではないだろうか。

平成28年11月

  • 内閣府 経済社会総合研究所
    総括政策研究官 福島 章

【研究紹介】

組織マネジメントに関する調査について

  • 内閣府 経済社会総合研究所
    研究官 川本 琢磨

生産性の向上が叫ばれて久しい。人口減少等に伴う人手不足を乗り越え、日本経済が持続的に成長していくためには、生産性の向上が不可欠である。では、生産性はどのようなメカニズムで決まっているのだろうか。従来は、ICT投資や高度人材の育成など量的な充実が重要とされてきたが、例えば、米国と日本のICT投資の伸びを比較すると大差はないものの、労働生産性を比べると米国に比して日本の伸びは6割程度と低迷している1。こうした中、近年米国を中心に生産性の決定要因として、企業(事業所)の組織マネジメントの在り方に注目が集まっている。ニコラス・ブルーム教授(スタンフォード大学)等のマネジメント調査による研究が国際的に展開され、分析や知見が蓄積される中、米国においては政府の公的統計としてマネジメントに関する調査(US-MOPS)が実施されているが、日本ではマネジメントを把握する公的な統計調査は実施されてこなかった。

こうした背景の下、日本の事業所を対象に「組織マネジメントに関する調査」を実施する。本調査の実施により、日本のマネジメントの実態はどうなっているのか、どのようなマネジメントを行っている事業所の生産性が高いのか、国際的に見て日本のマネジメントはどのような特徴を有しているかなど、幅広い視点から分析を行うことが可能となる。

本調査は、政府の公的統計(一般統計調査)として来年1月~2月にかけて実施され、従業員30人以上の事業所を対象とし、製造業約36,000事業所、サービス業約7,000事業所(飲食小売業、情報サービス業それぞれ約3,500事業所)を調査対象とする。抽出率は製造業が約64%、サービス業が約27%(飲食小売業:約18%、情報サービス業:約54%)となっている。米国における調査は製造業のみを対象にしているが、日本におけるサービス業の政策的な重要性も踏まえ、本調査ではサービス業も対象とする。本調査は、上記の2業種を対象として行うが、将来的にはサービス業の対象業種を拡大することも考えられる。

なお、本調査の主要な調査項目は以下のとおりである。

  • 業務管理 (例)KPI(重要業績評価指標)を利用しているか。KPIをどのくらいの頻度でチェックしているか。事業所で問題が生じた際に再発防止策をとっているか。
  • 組織(権限の所在) (例)人事や製品・サービスに係る意思決定(正社員の採用や価格設定など)はどこで(本社、事業所など)行われているか。
  • データと意思決定 (例)どのような情報源(KPI、ビッグデータなど)を利用して、それはどの程度意思決定に影響を与えているか。

さらに、本調査は、日本において初めて組織マネジメントを把握する公的統計であることに加えて以下の2つの特徴を備えている。1つ目は、本調査の結果は米国を始めとした諸外国と国際的な比較が可能となるよう設計されていることである。日本における調査票の設計に際して米国のマネジメント調査に可能な限り準拠するとともに、米国の研究チームや統計当局と連携を密にしながら設問の細かな文言に至るまで調整を行った経緯がある。2つ目は、本調査がサンプル数という点で大規模であり、経済センサスを始めとする他の公的統計と接続することで、日本におけるマネジメントの実態を把握するにとどまらず、マネジメントと生産性の関係などより詳細な分析が可能となっている点である。

本調査や続く分析等を通じて、日本のマネジメントに関する知見や研究を蓄積し、生産性向上に資するよう積極的に取り組んでまいりたい。


11995年~2014年までの年率の伸び率について、アメリカの値をそれぞれ1とすると、日本のICT資本増加率は1.02である一方、日本の労働生産性上昇率は0.61に留まる。(出所:OECD統計)


【経済社会総合研究所からのお知らせ】

  • 消費者マインドアンケート(試行)の11月分の実施(平成28年11月)

    内閣府経済社会総合研究所景気統計部では、消費者の皆さまの「暮らし向き」や「物価の見通し」について、「だれでも」「自由に」回答できるアンケート調査(試行)を行っております。毎月末日を締切として調査を行っています。初めてご回答される方も、2回目以上のご回答の方も大歓迎です。質問の数も少なく、ごく簡単なものですので、ぜひ毎月(一回)ご協力ください。

    (URL:http://www.esri.cao.go.jp/jp/stat/shouhi/open_chosa/open_chosa.html



【最新の統計】

<SNA統計>

<景気動向指数>平成28年9月速報(平成28年11月8日)

9月のCI(速報値・平成22(2010)年=100)は、先行指数:100.5、一致指数:112.1、遅行指数:113.2となった。

  • 先行指数は、前月と比較して0.4ポイント下降し、2か月ぶりの下降となった。3か月後方移動平均は0.03ポイント下降し、5か月ぶりの下降となった。7か月後方移動平均は0.22ポイント上昇し、2か月連続の上昇となった。
  • 一致指数は、前月と比較して0.2ポイント上昇し、2か月ぶりの上昇となった。3か月後方移動平均は0.03ポイント上昇し、2か月連続の上昇となった。7か月後方移動平均は0.25ポイント上昇し、2か月ぶりの上昇となった。
  • 遅行指数は、前月と比較して0.2ポイント上昇し、3か月ぶりの上昇となった。3か月後方移動平均は0.20ポイント下降し、2か月ぶりの下降となった。7か月後方移動平均は0.07ポイント下降し、5か月連続の下降となった。

一致指数の基調判断

  • 景気動向指数(CI一致指数)は、足踏みを示している。

<機械受注統計調査報告>平成28年9月実績および平成28年10~12月見通し(平成28年11月10日)

  • 機械受注総額の動向をみると、2016(平成28)年8月前月比4.0%減の後、9月は同0.9%増の2兆808億円となった。
  • 民間設備投資の先行指標である「船舶・電力を除く民需」の動向をみると、2016(平成28)年8月前月比2.2%減の後、9月は同3.3%減の8,437億円となった。このうち、製造業は同5.0%減の3,355億円、非製造業(除く船舶・電力)は同0.9%減の5,103億円となった。
  • 7~9月をみると、受注総額は前期比3.0%減の6兆2,916億円となった。また、「船舶・電力を除く民需」は同7.3%増の2兆6,080億円、製造業は同4.5%増の1兆563億円、非製造業(除く船舶・電力)は同8.2%増の1兆5,503億円となった。
  • 2016(平成28)年10~12月見通しをみると、受注総額は前期比1.3%減の6兆2,118億円の見通しになっている。また、「船舶・電力を除く民需」は同5.9%減の2兆4,539億円、製造業は同3.8%減の1兆162億円、非製造業(除く船舶・電力)は同6.2%減の1兆4,541億円の見通しになっている。

<消費動向調査>平成28年10月調査(平成28年11月2日)

  • 平成28年10月の消費者態度指数(二人以上の世帯、季節調整値)は、9月の43.0から0.7ポイント低下して42.3となり、3か月ぶりの低下となった。消費者態度指数を構成する4項目全てが前月から低下した。
  • 「日頃よく購入する品物」の1年後の価格の予想(二人以上の世帯)は、「低下する」が5.9%(前月差 +0.2%)、「変わらない」が17.3%(同 +0.4%)、「上昇する」が73.8%(同 -1.0%)となった。

【参考】<月例経済報告>平成28年10月(平成28年10月25日)

景気は、このところ弱さもみられるが、緩やかな回復基調が続いている。

    • 個人消費は、総じてみれば底堅い動きとなっている。
    • 設備投資は、持ち直しの動きに足踏みがみられる。
    • 輸出は、おおむね横ばいとなっている。
    • 生産は、持ち直しの動きがみられる。
    • 企業収益は、高い水準にあるものの、改善に足踏みがみられる。企業の業況判断は、一部に慎重さがみられるものの、おおむね横ばいとなっている。
    • 雇用情勢は、改善している。
    • 消費者物価は、横ばいとなっている。

先行きについては、雇用・所得環境の改善が続くなかで、各種政策の効果もあって、緩やかな回復に向かうことが期待される。ただし、海外経済で弱さがみられており、中国を始めとするアジア新興国等の景気が下振れし、我が国の景気が下押しされるリスクがある。また、英国のEU離脱問題など、海外経済の不確実性の高まりや金融資本市場の変動の影響に留意する必要がある。

<統計調査公表予定一覧>

<統計調査公表予定一覧>
景気動向指数
速報
景気動向指数
改訂状況
機械受注統計
調査
消費動向調査
(全国・月次)
法人企業景気
予測調査(四半期)
平成28年 12月7日
(10月分)
平成28年 11月24日
(9月分)
平成28年 12月12日
(10月分)
平成28年 12月5日
(11月分)
平成28年 12月9日
(10-12月期)
平成29年 1月11日
(11月分)
12月26日
(10月分)
平成29年 1月16日
(11月分)
平成29年 1月10日
(12月分)
平成29年 3月10日
(1-3月期)
2月7日
(12月分)
平成29年 1月23日
(11月分)
2月9日
(12月分)
2月2日
(1月分)
6月13日
(4-6月期)

※ 消費動向調査の上に掲載した調査以降の公表予定については、こちらのページに掲載しています。

「企業行動に関するアンケート調査」は例年2月下旬~3月上旬に公表

国民経済計算(GDP統計)公表予定はこちらから


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