ESRI通信 第100号

平成28年12月19日
内閣府経済社会総合研究所 発行
Cabinet Office, Government of Japan
Economic and Social Research Institute

【マクロ経済の変動メカニズムは変化しているか】

近年、マクロ経済の変動メカニズムに変化が生じた可能性を伺わせる現象がみられている。

例えば、企業収益と投資の間には、前者が増加すると後者もが増加するという関係が想定されていた。実際、2009年頃までは経常利益と国内の実物投資のピークは概ね一致しており、両者には正の相関がみられたが、リーマンショックからの回復期以降、経常利益が急増しているにも関わらず投資の増勢は緩やかである(図表(1))。

また、円安は輸出企業の価格競争力を高め、輸出を増加させるはずだが、2013年以降実質実効為替指数の低下(円安)にも関わらず、輸出数量指数は概ね横ばいで推移している(図表(2))。為替が円安になるととともに輸出数量が増加していたリーマンショック以前と比較すると、為替と輸出の関係が変化しているように見える。

景気変動を捉える代表的な指標である生産と雇用について、鉱工業生産指数と有効求人倍率の推移をみると、2009年頃までは連動して動いていたが、その後は生産が概ね横ばいで推移しているのに対し、有効求人倍率は一貫した上昇傾向を示している(図表(3))。

リーマンショックを契機に日本経済に構造変化が起こった、と言うことはたやすいが、その背景は自明ではなく、要因解明には丁寧な実証分析が必要である。変化の理由いかんによって処方箋も異なるからである。

企業収益の高まりにも関わらず投資の伸びが緩やかな背景としては、人口減少・高齢化などを背景とした国内市場の縮小予想や、企業の経営姿勢の極端な慎重化、といった見方がある。前者が重要であれば、輸出やインバウンド消費の呼び込みのための投資の振興や、対外・対内投資の活性化が課題となり、後者が重要であれば企業ガバナンスの改善が必要となる。

円安でも輸出が増えない背景としては、輸出企業の価格設定行動が海外での価格を安定化させるよう変化したという仮説がある。その背景には海外企業とのサプライチェーンの発達や輸出財の競争力の向上があるとされるが、観察される変化が持続的なものかどうかを判断するには、競争環境変化の実態を把握することが必要である。また、今回の円安局面において、インバウンド消費を含むサービス輸出が増加しており、為替変動が輸出に影響するルートが変化している可能性もある。

生産と雇用の乖離については、人口減少・高齢化を背景とした人手不足の影響が考えられる。他の景気指標の動向に関わらず、構造的な要因で労働市場がタイトな状況が続くのであれば、景気変動を捉える指標にも再考が必要かもしれない。

経済社会総合研究所は、マクロ経済の実証分析を研究の重要な柱の一つに位置づけている。内外の研究者にもご協力いただきながら、マクロ経済変動メカニズムが変化している背景を明らかにするエビデンスを積み上げていきたい。

平成28年12月

  • 内閣府 経済社会総合研究所
    総括政策研究官 酒巻 哲朗

図表 主な経済指標の推移
主な経済指標の推移の図表


【研究紹介】

大学院教育が賃金に与える影響について

  • 内閣府 経済社会総合研究所
    前研究官 菅 史彦

1990年代以降、大学院進学率は急速に高まり、大学院卒労働者の数は飛躍的に増大した。大学院教育によって労働者の生産性が高まるのであれば、それは国全体にとっても望ましいことである。しかしながら、日本の大学院教育によってどれほど労働者の生産性が向上するのかは、必ずしも明らかではない。それを知る一つの手がかりは、大学院卒の労働者と学部卒労働者の賃金格差(大学院賃金プレミアム)である。就業構造基本調査のデータを使って大学院賃金プレミアムを計測した先行研究では、院卒労働者の賃金は学部卒の労働者より15~30%ほど高いことが明らかにされている。

しかしながら、就業構造基本調査のデータを用いた結果は、過大に推計されている可能性がある。例えば、大学院進学率は国公立理系が圧倒的に高いため、大学院卒と学部卒の賃金格差は、大学院賃金プレミアムではなく、単純に国公立理系とその他(国公立文系と私立)の賃金格差を反映している可能性がある。また、もし能力が高い学生ほど大学院に進学するという傾向があり、その能力が仕事に役立つものなのであれば、大学院卒のほうが賃金は高くなるが、これは大学院教育が賃金に与える影響とは区別されるべきものである。それ以外にも、大学四年生になった年が就職氷河期だった学生が、大学院進学によって労働市場に出るタイミングを遅らせるということが行われていれば、大学院卒の賃金が高くなる可能性があるが、これは生産性の上昇とは無関係である。

そこで、以上のような大学院進学に関する推定上のバイアスを考慮し、大学院教育(修士号の獲得)が賃金に与える影響の推定を試みた。本研究は、2016年6月に開催された日本経済学会春季大会において報告したものであるが、まず文系や理系といった専攻と国公立や私立といった設置の情報が得られる家計経済研究所のデータ(「消費生活に関するパネル調査」)を用いることで、専攻と設置が考慮されていないことに伴って起こるバイアスに対処した。推定結果から、専攻と設置を考慮しても大学院賃金プレミアムはなお有意であり、専攻と設置で説明される部分はごくわずかであることがわかった。しかし、前述のように、大学院進学に関する意思決定に影響を与え、推定にバイアスを生じさせる要因は専攻と設置以外にも存在し、それらの多くは観察することができない。そのため、次のステップとして、大学院への入りやすさを変数(操作変数)に加え、賃金と大学院卒の関係をみたところ、両者には統計的に有意な関係は見られなかった。その原因の一つとして、家計経済研究所データにおける大学院卒サンプルの少なさが考えられるため、サンプル数の多い他の調査によるデータを用いて推定を行ったが、推定結果はやはり有意とはならなかった。

以上の結果からは、大学院教育が賃金に与える影響は、先行研究で示されているほど明らかなものではないことが考えられる。


【経済社会総合研究所からのお知らせ】


【最新の研究発表】

  • 経済分析第191号(特別編集号)を掲載しました。(平成28年11月)

    (エディトリアル)

    日本の労働市場における賃金変動の変質と労働供給制約(樋口美雄)

    (論文)

    日本の二部料金的賃金設定ルール —名目賃金上昇の条件—(脇田 成)

    景気変動が賃金格差に与える影響(佐々木 勝、宮本弘曉)

    付加価値生産性と部門間労働配分(塩路悦朗)

    持続的成長に向けての人的資本政策の役割(川口大司)

    保育所整備と母親の就業率(朝井友紀子、神林 龍、山口慎太郎)

    育児休業給付金と女性の就業(朝井友紀子、神林 龍、山口慎太郎)

    中高年の就業意欲と実際の就業状況の決定要因に関する分析(戸田淳仁)

    要介護の親と中高齢者の労働供給制約・収入減少(山田篤裕、酒井 正)

<報告書の掲載>


【最新の統計】

<SNA統計>

<景気動向指数>平成28年10月速報(平成28年12月7日)

10月のCI(速報値・平成22(2010)年=100)は、先行指数:101.0、一致指数:113.9、遅行指数:113.3となった。

  • 先行指数は、前月と比較して1.0ポイント上昇し、2か月ぶりの上昇となった。3か月後方移動平均は0.33ポイント上昇し、2か月ぶりの上昇となった。7か月後方移動平均は0.27ポイント上昇し、3か月連続の上昇となった。
  • 一致指数は、前月と比較して1.4ポイント上昇し、2か月連続の上昇となった。3か月後方移動平均は0.63ポイント上昇し、3か月連続の上昇となった。7か月後方移動平均は0.40ポイント上昇し、2か月連続の上昇となった。
  • 遅行指数は、前月と比較して0.7ポイント下降し、3か月ぶりの下降となった。3か月後方移動平均は0.03ポイント上昇し、3か月連続の上昇となった。7か月後方移動平均は0.12ポイント下降し、2か月ぶりの下降となった。

一致指数の基調判断

  • 景気動向指数(CI一致指数)は、改善を示している。

<機械受注統計調査報告>平成28年10月実績(平成28年12月12日)

  • 機械受注総額の動向をみると、2016(平成28)年9月前月比0.9%増の後、10月は同3.3%増の2兆1,486億円となった。
  • 民間設備投資の先行指標である「船舶・電力を除く民需」の動向をみると、2016(平成28)年9月前月比3.3%減の後、10月は同4.1%増の8,783億円となった。このうち、製造業は同1.4%減の3,310億円、非製造業(除く船舶・電力)は同4.6%増の5,336億円となった。

<消費動向調査>平成28年11月調査(平成28年12月5日)

  • 平成28年11月の消費者態度指数(二人以上の世帯、季節調整値)は、10月の42.3から1.4ポイント低下して40.9となり、2か月連続の低下となった。消費者態度指数を構成する4項目全てが前月から低下した。
  • 「日頃よく購入する品物」の1年後の価格の予想(二人以上の世帯)は、「低下する」が6.7%(前月差 +0.8%)、「変わらない」が15.8%(同 -1.5%)、「上昇する」が74.2%(同 +0.4%)となった。

<法人企業景気予測調査>平成28年10–12月期調査(平成28年12月9日)

「貴社の景況判断」BSIの平成28年10–12月期(現状判断)をみると、大企業(全産業)は3.0%ポイントで2期連続の「上昇」超、中堅企業(全産業)は1.0%ポイントで2期連続の「上昇」超、中小企業(全産業)は▲7.1%ポイントで11期連続の「下降」超。なお、前回(7–9月期の現状判断:大企業1.9%ポイント、中堅企業0.9%ポイント、中小企業▲15.0%ポイント)と比較して、大企業、中堅企業は「上昇」超幅が拡大、中小企業は「下降」超幅が縮小。

先行きについてみると、大企業、中堅企業は平成29年1–3月期「上昇」超の後、4–6月期は「下降」超に転化する見通し。中小企業は29年1–3月期以降も「下降」超で推移する見通し。

「国内の景況判断」BSIの平成28年10–12月期(現状判断)をみると、大企業(全産業)は3.2%ポイントで、4期ぶりの「上昇」超、前回(7–9月期の現状判断:▲0.9%ポイント)と比較して、「上昇」超に転化。

「従業員数判断」BSIの平成28年12月末(現状判断)をみると、大企業(全産業)は15.3%ポイントで22期連続の「不足気味」超で、前回(9月末の現状判断:12.6%ポイント)と比較して、「不足気味」超幅が拡大。

平成28年度の売上高(全規模・全産業)は前年度比▲1.3%の減収見込み、経常利益(全規模・全産業)は同▲6.9%の減益見込み、設備投資(ソフトウェア含む、土地除く:全規模・全産業)は同2.5%の増加見込み。

【参考】<月例経済報告>平成28年11月(平成28年11月25日)

景気は、このところ弱さもみられるが、緩やかな回復基調が続いている。

    • 個人消費は、総じてみれば底堅い動きとなっている。
    • 設備投資は、持ち直しの動きに足踏みがみられる。
    • 輸出は、おおむね横ばいとなっている。
    • 生産は、持ち直しの動きがみられる。
    • 企業収益は、高い水準にあるものの、改善に足踏みがみられる。企業の業況判断は、一部に慎重さがみられるものの、おおむね横ばいとなっている。
    • 雇用情勢は、改善している。
    • 消費者物価は、横ばいとなっている。

先行きについては、雇用・所得環境の改善が続くなかで、各種政策の効果もあって、緩やかな回復に向かうことが期待される。ただし、海外経済の不確実性や金融資本市場の変動の影響に留意する必要がある。

<統計調査公表予定一覧>

<統計調査公表予定一覧>
景気動向指数
速報
景気動向指数
改訂状況
機械受注統計
調査
消費動向調査
(全国・月次)
法人企業景気
予測調査(四半期)
平成29年 1月11日
(11月分)
平成28年 12月26日
(10月分)
平成29年 1月16日
(11月分)
平成29年 1月10日
(12月分)
平成29年 3月10日
(1-3月期)
2月7日
(12月分)
平成29年 1月23日
(11月分)
2月9日
(12月分)
2月2日
(1月分)
6月13日
(4-6月期)
3月8日
(1月分)
2月23日
(12月分)
3月13日
(1月分)
3月3日
(2月分)
9月13日
(7-9月期)

「企業行動に関するアンケート調査」は例年2月下旬~3月上旬に公表

(平成27年度調査の公表日: 平成28年2月26日)

国民経済計算(GDP統計)公表予定はこちらから


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