ESRI通信 第101号

平成29年1月20日
内閣府経済社会総合研究所 発行
Cabinet Office, Government of Japan
Economic and Social Research Institute

【エビデンス・ベースド・ポリシーとESRIのできること】

近年、我が国でも、政策企画や行政分野の仕事に関連して、エビデンス・ベースド・ポリシー・メイキング(Evidence based policy making、いわば「実証的な証拠に基づいた政策策定」)の必要性が強調されるようになっている。内閣府経済社会総合研究所(ESRI)は、政策に関連する実証的な証拠の蓄積を通じ、当にその中核を担うことが期待されている組織であり、身の引き締まる思いだ。

エビデンス・ベースド・ポリシーには、策定しようとする政策に関連する実証分析が必須である。しかし、だからと言ってESRIがひたすら実証分析に取り組めば万事OKとはいかない。まず、ESRIが自身で行える実証分析(の数)には限りがある。政府が実施する経済・社会施策は膨大で、その全てについてESRIがタイムリーな実証分析を用意することを期待するのは現実的でない。

二番目は、分析結果に係る信頼の問題である。信頼性にとって分析の質が重要なことは言うまでもないが、仮に一定の質を担保できていたとしても、もう一つ「誰による分析か」が問題になり得る。特定領域に権益を有する機関(や個人)が関連分野で行った分析は色眼鏡で見られる。内閣府(ESRI)は特定権益に結び付いた組織ではないが、それでも政権施策を擁護する分析に偏っていると疑われているかもしれない。

限られたリソースしか持たないESRIがこうした問題に対処する妙案はないだろうか。これについて、最近、私個人が辿りつきつつある一つの回答は、「自らの手による直接の分析に拘泥せず(もしくは直接の分析だけを特別扱いせず)国内外を問わない他の外部機関・有識者の調査・研究を活用すること」だ。

近年、日本の経済・社会を分析対象とする研究者の層は年々厚みを増し、大学/市場関係者等相当数に及んでいる。また、それらの方々の研究の質は、今やESRI自身のそれに勝るとも劣らないものが多い。他機関や有識者による成果まで活用すれば、政策のベースにできる実証分析の数は飛躍的に増加するだろう(扱える政策課題の範囲も相当広げられる)。更に他の研究者の成果まで鳥瞰的に目配りをすることで、「同じテーマを扱っても使用データや分析手続きにより結果(政策の評価)がバラつく(1つの実証分析の結果が真実とは限らない)」という実証分析の難しさの克服に繋がるかもしれない。

このように考えると、ESRIが積極化すべき取組の方向として、日本経済・社会に係る「内外研究者による実証分析」の収集・整理が見えてくる。具体的には、各種政策上の論点に関する文献のサーベイ、蓄積された個々の実証結果をサンプルにしたメタアナリシス(複数の個別研究の結果を統合した統計的分析)等である。また、「1つの結果が万人に真理として受容されることは希」である社会科学の実証分析の現実を考えるなら、政策が立脚すべきは個別の実証結果より専門家/有識者間のコンセンサスである。ESRIでは、マクロ政策に係る有識者コンセンサスを把握するため、昨年末、「日本経済と経済政策に関する有識者アンケート」を(試行)実施した(協力頂いた皆様に謝意を表したい)。

こうした所外研究の積極活用はESRIの限界を大きく広げてくれるだろう。とはいえ、新たな政策課題で、未だ誰も手を付けていないテーマの実証分析をESRIが行わなければならないケースも考えられる。また、個別施策の実証分析を自ら行う能力のない機関(や個人)がサーベイやメタアナリシスを行っても、その結果の信ぴょう性は保てないだろう。その意味で、従来から取り組んできた個別施策に係る実証分析の質の向上を図りつつ、所外研究の積極活用も進めることで、ESRIが期待されている役割を全うしていきたいと考えている。

平成29年1月

  • 内閣府 経済社会総合研究所
    上席主任研究官 堀 雅博

【研究紹介】

「人口減少・高齢化の日本の企業行動への影響」について

  • 内閣府 経済社会総合研究所
    研究官 梅田 政徳

近年、日本の企業収益が増加する中で、国内投資の増加は緩やかなものにとどまっている。企業収益と設備投資の相関は高く、連動した動きを見せるが、1990、2000年代の動きと比べ、近年はその連動性は弱まっており、アベノミクスの下で企業収益が増加する中で、国内投資の増加は緩やかなものにとどまっている(図表1)。

この要因としては、企業の期待収益率の低下、経済のグローバル化による生産拠点のシフト、M&A、研究開発、海外への投資拡大などの影響のほか、企業のガバナンス取組が投資行動に影響を与えているとの指摘もなされているところである。ESRIでは、こうした諸要因の背景として、人口減少・高齢化が投資等の企業行動に与える影響について実証分析を進めている。

人口減少や高齢化が企業の設備投資に与える影響としては、(1)「企業をとりまく」人口減少・高齢化、(2)「企業内部の」人口減少・高齢化という視点が考えられる。

(1)「企業をとりまく」人口減少・高齢化の影響としては、人口減少による国内市場の縮小を背景とした投資の減少や高齢化による若年・中間層向けの製品・サービス市場の縮小による投資の減少が考えられる一方で、高齢者向けの製品・サービス市場の拡大による投資の増加という正負両面の作用が考えられる。

次に、(2)「企業内部の」人口減少・高齢化という観点でも、人口減少による労働力不足によって事業縮小に伴う投資の減少が考えられる一方で、省力化のための投資の増加が考えられる。また、経営者や労働者の高齢化についても、意思決定の保守化による投資の減少も考えられる一方で、働きやすい職場環境整備のための投資増加などの正負両面の作用が考えられる。

このような仮説の下、(1)「企業をとりまく」人口減少・高齢化については、世界各国のマクロ経済指標によるパネルデータを用いて、投資率と人口減少・高齢化の関係についての分析を試みている。投資率と貯蓄率の間には正の相関があることが知られているが、さらに人口減少・高齢化が貯蓄率や期待成長率を通じて投資へ影響を与えているかという視点による分析を進めている。

また、(2)「企業内部の」人口減少・高齢化については、企業財務情報のパネルデータを用いて、経営者の年齢及び従業員平均年齢という「企業内部の高齢化指標」を含めた設備投資関数の推計を行うことで、高齢化が設備投資に与える影響を考察しようと試みているところである。「企業内部の」高齢化については、例えば、上場企業の平均年齢の分布の山が30代後半から40代前半に移行するなどの変化も見られており、このような変化が投資をはじめとした企業行動にどのような影響を与えているかを分析することは重要であろう(図表2)。

こうした分析を通じて、マクロ経済政策を実施するうえで重要なファクターとなる少子高齢化という構造的な変化が、日本の企業行動を変動させる要因となりうるか否かを検証し、その政策的含意を探っていくこととしたい。

図表1 経常利益・実物投資の推移
経常利益・実物投資の推移の図表
(備考)財務省「法人企業統計」より作成。

図表2 従業員平均年齢の分布(上場企業)
従業員平均年齢の分布(上場企業)の図表
(備考) 日本政策投資銀行「企業財務データバンク」より作成。


【経済社会総合研究所からのお知らせ】

  • 消費者マインドアンケート(試行)の1月分の実施(平成29年1月)

    内閣府経済社会総合研究所景気統計部では、消費者の皆さまの「暮らし向き」や「物価の見通し」について、「だれでも」「自由に」回答できるアンケート調査(試行)を行っております。当面毎月20日を締切として調査を行っています。初めてご回答される方も、2回目以上のご回答の方も大歓迎です。質問の数も少なく、ごく簡単なものですので、ぜひ毎月(一回)ご協力ください。

    (URL:http://www.esri.cao.go.jp/jp/stat/shouhi/open_chosa/open_chosa.html

  • 経済分析 特定テーマ論文募集のお知らせを掲載しました。(平成29年1月)

【最新の研究発表】


【最新の統計】

<SNA統計>

<景気動向指数>平成28年11月速報(平成29年1月11日)

11月のCI(速報値・平成22(2010)年=100)は、先行指数:102.7、一致指数:115.1、遅行指数:112.9となった。

  • 先行指数は、前月と比較して1.9ポイント上昇し、2か月連続の上昇となった。3か月後方移動平均は0.74ポイント上昇し、2か月連続の上昇となった。7か月後方移動平均は0.39ポイント上昇し、4か月連続の上昇となった。
  • 一致指数は、前月と比較して1.6ポイント上昇し、3か月連続の上昇となった。3か月後方移動平均は1.13ポイント上昇し、4か月連続の上昇となった。7か月後方移動平均は0.33ポイント上昇し、3か月連続の上昇となった。
  • 遅行指数は、前月と比較して0.3ポイント下降し、2か月連続の下降となった。3か月後方移動平均は0.07ポイント下降し、4か月ぶりの下降となった。7か月後方移動平均は0.25ポイント下降し、2か月連続の下降となった。

一致指数の基調判断

  • 景気動向指数(CI一致指数)は、改善を示している。

<機械受注統計調査報告>平成28年11月実績(平成29年1月16日)

  • 機械受注総額の動向をみると、2016(平成28)年10月前月比3.3%増の後、11月は同20.6%増の2兆5,915億円となった。
  • 民間設備投資の先行指標である「船舶・電力を除く民需」の動向をみると、2016(平成28)年10月前月比4.1%増の後、11月は同5.1%減の8,337億円となった。このうち、製造業は同9.8%増の3,635億円、非製造業(除く船舶・電力)は同9.4%減の4,834億円となった。

<消費動向調査>平成28年12月調査(平成29年1月10日)

  • 平成28年12月の消費者態度指数(二人以上の世帯、季節調整値)は、11月の40.9から2.2ポイント上昇して43.1となり、3か月ぶりの上昇となった。消費者態度指数を構成する4項目全てが前月から上昇した。
  • 「日頃よく購入する品物」の1年後の価格の予想(二人以上の世帯)は、「低下する」が5.5%(前月差 -1.2%)、「変わらない」が17.2%(同 +1.4%)、「上昇する」が74.2%(同 0.0%)となった。

【参考】<月例経済報告>平成28年12月(平成28年12月21日)

景気は、一部に改善の遅れもみられるが、緩やかな回復基調が続いている。

    • 個人消費は、持ち直しの動きがみられる。
    • 設備投資は、持ち直しの動きに足踏みがみられる。
    • 輸出は、持ち直しの動きがみられる。
    • 生産は、持ち直している。
    • 企業収益は、高い水準にあるものの、改善に足踏みがみられる。企業の業況判断は、緩やかに改善している。
    • 雇用情勢は、改善している。
    • 消費者物価は、横ばいとなっている。

先行きについては、雇用・所得環境の改善が続くなかで、各種政策の効果もあって、緩やかに回復していくことが期待される。ただし、海外経済の不確実性や金融資本市場の変動の影響に留意する必要がある。

<統計調査公表予定一覧>

<統計調査公表予定一覧>
景気動向指数
速報
景気動向指数
改訂状況
機械受注統計
調査
消費動向調査
(全国・月次)
法人企業景気
予測調査(四半期)
平成29年 2月7日
(12月分)
平成29年 1月23日
(11月分)
平成29年 2月9日
(12月分)
平成29年 2月2日
(1月分)
平成29年 3月10日
(1-3月期)
3月8日
(1月分)
2月23日
(12月分)
3月13日
(1月分)
3月3日
(2月分)
6月13日
(4-6月期)
4月7日
(2月分)
3月24日
(1月分)
4月12日
(2月分)
4月6日
(3月分)
9月13日
(7-9月期)

※ 消費動向調査の上に掲載した調査以降の公表予定については、こちらのページに掲載しています。

「企業行動に関するアンケート調査」は例年2月下旬~3月上旬に公表

(平成27年度調査の公表日: 平成28年2月26日)

国民経済計算(GDP統計)公表予定はこちらから


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