ESRI通信 第104号

平成29年4月20日
内閣府経済社会総合研究所 発行
Cabinet Office, Government of Japan
Economic and Social Research Institute

【研究成果の「価値」】

社会人となって20余年、ずっと政策畑で仕事をしてまいりました。現職で研究業務に従事して、これまでは需要側としてお世話になってきた研究成果の数々の価値を、供給側から再認識しています。

政策担当者にとって、急な必要が生じたときに欲しい情報やデータが見つかる喜びと安堵は大きなものです。「この研究者はこの事態を見越して研究していたのだろうか」と思えるほど何らかの情報がこの世に存在しているのは、それだけ研究の蓄積が政策担当者の想像を超えて広く厚いのだと思い当たり、驚嘆に堪えません。良いモノを作れば買い手は必ずある、とモノ作りの熟達者が考えるのと同じように、研究も、これと定めた分野の重要さに確固たる信念があってこそと感じています。

時とともに重要性が見直された分野の一つに、例えば若年者雇用がありますでしょうか。行政の先輩たちは、年齢による就業支援策といえば高齢者向けに決まっていて、「金の卵」に象徴されるような引く手あまたの若年労働者がまさか就職に苦労しようとは思いもよらなかった、と言います。事実、高年齢者雇用安定法の制定が昭和46年であるのに対し、若者雇用促進法は平成27年。それ以前にも勤労青少年福祉法(昭和46年)という法律はあったのですが、青少年の職業人としての健やかな成長を期すものであり、雇用機会の確保などは謳われていなかったようです。

「失われた10年」の終わりごろでしたでしょうか、フリーター問題が政策的に大きく取り上げられるようになったのは比較的急な動きでした。私は当時、内閣府の経済社会システムという部署でその担当になりましたが、若年者の不安定雇用に関する専門家は決して多くありませんでした。有識者として企業人や高校の進路指導の先生なども広く含めて議論を進める中で、この分野を長く専門的に深めてきた研究者の方があったのは、政策方針に実務のみならず理論面の裏づけも与えることとなり、日本にとって幸いだったと感じました。

もう一つ、思いがけず、気が付けばそこにあった研究成果に助けられた経験があります。平成28年4月に熊本県を中心とする地震が起こった時、私は職業安定の対策を担当していました。人命対応がもちろん最優先ですが、地域住民の日々の生活を維持する観点からは、被災企業の離職者防止や、失業者への雇用保険給付の円滑な実施等、直ちに行うべきことが数多くありました。多くの担当部署が昼夜対応に追われる中で、東日本大震災直後の対策実績を調査研究した成果が見つかったおかげで色々な点で回り道が回避され、ありがたかったことを思い出します。

研究成果の需要側としてこうした経験があるものですから、研究成果の「価値」の度合いは、その成果を活用する側の状態変化が重要な一変数だと感じています。多くの研究成果を常日頃から収集・理解しようと張り切っても、私のような者には限界効用はすぐに逓減してしまうのですが、研究成果をどこかに潜在的に「持っている」ことは政策担当者にとって大きな効用です。

そのようなこともつらつらと考えつつ、今は供給側におりますので、現存する政策ニーズや予算制約、効率性との兼ね合いなどの与件を踏まえ、私の能力で望みうる限りの高い将来価値を持つ研究成果の生産に取り組みたいと思っています。

平成29年4月

  • 内閣府 経済社会総合研究所
    上席主任研究官 中村 かおり

【研究紹介】

我が国経済が経験する構造変化の景気循環メカニズムへの影響

  • 内閣府 経済社会総合研究所
    総務部総務課 課長補佐 浦沢 聡士

「経済は、なぜ変動・循環するのか」という景気循環のメカニズムに関する問題意識は、「経済は、なぜ成長するのか」といった成長論的な視点と並び、マクロ経済学が明らかにすべき中心的な課題である。同時に、景気に関する理解を深めることは、適切な景気判断を行う上で、また、効果的な経済政策の企画・立案を行う上で、政策の現場においても重要となっている。

マクロ経済政策を担当する政府のエコノミストとして、景気循環に関する問題意識を中心に据え、研究、実務経験を積む中で、今から10年ほど前となるが、日本の景気循環の特性を検証した論文を発表した1

論文の中では、景気循環メカニズムを理解する上では、まず、観察される実際のマクロ経済変数の動きを検証すべきといった問題意識のもと、1980年から2000年代初めにかけての、50以上におよぶマクロ経済変数の挙動を分析し、いわゆる「定型化された事実(Stylized facts)」と呼ばれる景気循環に関する特性を、我が国について検証した。

検証の結果、消費は景気変動に比して安定的に推移する一方、投資の変動は大きい、雇用や失業といったマクロの労働変数は、景気変動に比して安定的に推移することに加え、景気に遅行するなど、諸外国においても観察される事実とともに、所定外労働時間が景気に先行する、ボーナス等を介して景気と賃金の間にみられる結びつきが米国と比べても高いなど、我が国固有の特性が観察された。こうした特性は、時代を通じて、ある程度普遍的であると考えられる一方、経済に大きな構造変化が生じた場合などには、変化することが考えられる。

論文を発表して10年が経ち、ここ研究所で、景気循環にみられる特性は変化したのかといった疑問を検証する機会を得た。2000年代に入り、経済の供給面をみれば、少子高齢化が進展する中で生産年齢人口の減少が定着し、また、慢性的な需要不足を背景にゼロ金利やデフレの持続、労働市場では非正規雇用者の高まり、さらに、国外に目を向ければグローバル化の進展など、我が国経済は様々な構造的な変化を経験してきた。こうした変化は、景気循環メカニズムにどのような影響を与えているのであろうか。

現在、この10年間に新たに蓄積されたデータをもとに、2000年代以降に観察される景気循環の特性を検証している。先の論文において検証した1980~90年代に観察された特性と比較した時、何がわかるであろうか。精査中ではあるが、例えば、世界の景気との相関が高まる中、国内景気は輸出との相関を高めている可能性が示唆されている。この背景には、グローバル化の進展等により各国経済の結びつきが強まり、国内経済もその影響をより強く受けるようになったという仮説が考えられる。また、労働市場に目を向けると、2000年以降、景気と労働時間との相関の高まりが観察されるなどの変化も見られている。こうした点も含め、我が国経済における構造的な変化の影響を景気循環的・マクロ的な視点から検証していきたい。

加えて、現在行っている研究の中では、景気循環メカニズムの特性をより頑健な形で検証するため、構造変化の前後で景気循環特性を検証するといった「異なる期間を比較した場合の変化」の検証に加え、景気の良い時、悪い時といった局面の違いを明示的に考慮することにより、「経済の状態の違いを比較した場合の変化(business cycle asymmetries)」の検証を試みている。

景気循環メカニズムへの理解を深めることは、景気判断に加え、景気の安定化を図る上でも必要不可欠であり、マクロ経済政策を担うエコノミストとして、私にとって入庁以来変わらぬ問題意識となっている。

グラフ 輸出の景気循環特性、労働時間の景気循環特性


1“Business Cycle Fluctuations in Japanese Macroeconomic Time Series: 1980-2000,” (Satoshi Urasawa) Journal of the Asia Pacific Economy, vol.13, no.4, November 2008, pp. 451-480.


【経済社会総合研究所からのお知らせ】


【最新の研究発表】

  • 経済分析第193号(特別編集号)を掲載しました。(平成29年3月)

    (はじめに)

    (福田慎一)

    (序論)

    長期停滞懸念下におけるマクロ経済:最近の議論のオーバービューと日本経済への含意(福田慎一)

    (論文)

    長期停滞論に関連する分析

    第1章 R&D活動を考慮した世代重複モデルにおける、人口増加、平均余命の上昇及び育児支援策の影響(二神孝一、小西邦彦)

    第2章 日本企業の設備投資はなぜ低迷したままなのか—長期停滞論の観点からの再検討—(中村純一)

    第3章 非保険リスク、長期停滞と財政政策について(R. Anton Braun、中嶋智之)

    第4章 日本国債の低利回りに関するマクロ経済面におけるインプリケーション(櫻川昌哉、櫻川幸恵)

    第5章 国際資金余剰・世界金利・長期停滞(松林洋一)

    非伝統的金融政策の効果に関する分析

    第1章 量的緩和策の銀行貸出への効果(立花実、井上仁、本多佑三)

    第2章 日本における期待インフレ率の変遷(沖本竜義)

    第3章 日本の金融政策とアジアへの波及:グローバルVARモデルによるアプローチ(Robert Dekle)

  • 大学院教育が賃金に与える影響(菅史彦)を掲載しました。(平成29年3月)

    この研究は日本における大学院教育が、労働者の賃金に与える影響を推定することを目的としている。日本の大学院については、1)学生の大部分が国公立理系であり、2)その中でも学力の高い層が大学院に行く傾向があり、3)大学院進学者数が経済状況に依存して変動することがわかっている。そのため、能力の違いや大学院進学時の経済状況を無視した推定では、上方バイアスがかかってしまう。この問題に対処するため、労働者が卒業した大学について詳しい情報が含まれる『消費生活に関するパネル調査』データを使い、専攻や設置(国公立/私立)の影響を考慮した上で、大学院修士課程の教育が賃金に与える影響を推定した。推定結果から、大卒と大学院卒の賃金格差の中で専攻や設置で説明される部分はごく一部でしかないということがわかった。さらに、専攻や設置以外の要因を考慮するために、操作変数による推定を行ったが、推定結果は統計的に有意ではなかった。より多くのサンプルが含まれる『ワーキングパーソン調査』のデータでも同様の分析を行ったが、操作変数による推定結果はやはり有意ではなかった。そのため、先行研究等で報告されている大学院賃金プレミアムが、大学院教育以外の要因を反映しているという可能性を排除することはできなかった。一方で、大学院教育が仕事満足度を高める効果は観察されており、労働者が賃金以外の面で大学院教育の恩恵を享受していることが示唆される。

  • 南海トラフ巨大地震の被害想定地域における社会移動〜DID(差分の差分)法による影響の検証〜(直井道生、佐藤慶一、田中陽三、松浦広明、永松伸吾)を掲載しました。(平成29年3月)

    本研究では、住民基本台帳に基づく人口動態データと、内閣府による南海トラフ巨大地震の被害想定データを収集・整理して、差分の差分(Difference-in-Differences, DID)推定量による分析を行った。結果として、公表された津波高は社会増減に対して負の影響があることが確認された。さらに、転出に対する影響は公表直後に観測されるのみであるが、転入に対する影響は、公表後の各年で継続して負の影響が出ていることが明らかとなった。被害想定の公表によって、期待されていた避難訓練や耐震化といった防災行動を超え、津波高の引き上げ幅が高い地域への転入減やそうした地域からの転出増という形での人口減少を通じて、人々がリスク回避を図っている可能性がある。また、防災業務に携わる関係機関の人口集中地区への集約度を考慮した推計では、集約度が高い市区町村ほど、転入に対する津波高の負の影響が弱まるという結果を得た。

  • 経済分析第192号(ジャーナル版)を掲載しました。(平成29年3月)

    (論文)

    所得分配が経済成長に与える影響—都道府県別パネルデータを用いた実証研究—(大山昌子)

    失業経験が健康に及ぼす影響(佐藤一磨)

    PFI事業におけるVFMと事業方式に関する実証分析—日本のPFI事業のデータを用いて—(要藤正任、溝端泰和、林田雄介)

    (資料)

    デジタル時代を迎えた今も、GDPは正しく計測されているか?(仮訳)(Nadim AHMAD, Paul SCHREYER)

    ESRI国際コンファレンス「日本の高齢化:団塊の世代引退の影響」(概要)(編集:経済社会総合研究所)

    マネジメントに関する調査研究について(杉原茂)

  • 貸出、債券と株式の間で「裁定」は十分働いているか—株式による資金調達に対する金融政策の波及について—(坪内浩、中山奈津美、吉岡徹哉)を掲載しました。(平成29年3月)

    本稿では、金融資産間の「裁定」を通じて金融政策が株式による企業の資金調達に影響を与えているかどうかについて検証を行った。その結果、2000年前後から、銀行システムを通じて金融政策の影響が直接及ぶ債券と株式の間で「裁定」が十分働いているとはいえなくなっていることがわかった。その背景として、近年株式市場において存在感を増している海外投資家が日本の債券と株式の間で「裁定」を行っていないことが原因となっている可能性がある。

    一方、海外投資家は日本の株式と海外の株式との間で「裁定」を行っており、日本の株価は海外の株価や為替レートの影響を受けやすくなっている。

<報告書の掲載>


【最新の統計】

<SNA統計>

<景気動向指数>平成29年2月速報(平成29年4月7日)

2月のCI(速報値・平成22(2010)年=100)は、先行指数:104.4、一致指数:115.5、遅行指数:116.0となった。

  • 先行指数は、前月と比較して0.5ポイント下降し、5か月ぶりの下降となった。3か月後方移動平均は0.50ポイント上昇し、5か月連続の上昇となった。7か月後方移動平均は0.64ポイント上昇し、7か月連続の上昇となった。
  • 一致指数は、前月と比較して0.4ポイント上昇し、3か月ぶりの上昇となった。3か月後方移動平均は横ばいとなった。7か月後方移動平均は0.48ポイント上昇し、6か月連続の上昇となった。
  • 遅行指数は、前月と比較して0.6ポイント上昇し、4か月連続の上昇となった。3か月後方移動平均は0.70ポイント上昇し、7か月連続の上昇となった。7か月後方移動平均は0.38ポイント上昇し、3か月連続の上昇となった。

一致指数の基調判断

  • 景気動向指数(CI一致指数)は、改善を示している。

<機械受注統計調査報告>平成29年2月実績(平成29年4月12日)

  • 機械受注総額の動向をみると、2017(平成29)年1月前月比10.0%減の後、2月は同1.3%減の2兆2,075億円となった。
  • 民間設備投資の先行指標である「船舶・電力を除く民需」の動向をみると、2017(平成29)年1月前月比3.2%減の後、2月は同1.5%増の8,505億円となった。このうち、製造業は同6.0%増の3,508億円、非製造業(除く船舶・電力)は同1.8%増の5,166億円となった。

<消費動向調査>平成29年3月調査(平成29年4月6日)

  • 平成29年3月の消費者態度指数(二人以上の世帯、季節調整値)は、2月の43.2から0.7ポイント上昇して43.9となり、4か月連続で前月を上回った。消費者態度指数を構成する4項目全てが前月から上昇した。
  • 「日頃よく購入する品物」の1年後の価格の予想(二人以上の世帯)は、「低下する」が4.2%(前月差 -1.0%)、「変わらない」が20.8%(同 +3.2%)、「上昇する」が71.5%(同 -2.2%)となった。
  • なお、3月調査では、主要耐久消費財の保有・普及状況及び主要耐久消費財の買替え状況についても調査(年に一度の調査)を行った。

【参考】<月例経済報告>平成29年3月(平成29年3月23日)

景気は、一部に改善の遅れもみられるが、緩やかな回復基調が続いている。

    • 個人消費は、総じてみれば持ち直しの動きが続いている。
    • 設備投資は、持ち直しの動きがみられる。
    • 輸出は、持ち直している。
    • 生産は、持ち直している。
    • 企業収益は、改善している。企業の業況判断は、緩やかに改善している。
    • 雇用情勢は、改善している。
    • 消費者物価は、横ばいとなっている。

先行きについては、雇用・所得環境の改善が続くなかで、各種政策の効果もあって、緩やかに回復していくことが期待される。ただし、海外経済の不確実性や金融資本市場の変動の影響に留意する必要がある。

<統計調査公表予定一覧>

<統計調査公表予定一覧>
景気動向指数
速報
景気動向指数
改訂状況
機械受注統計
調査
消費動向調査
(全国・月次)
法人企業景気
予測調査(四半期)
平成29年 5月10日
(3月分)
平成29年 4月24日
(2月分)
平成29年 5月17日
(3月分)
平成29年 5月8日
(4月分)
平成29年 6月13日
(4-6月期)
6月7日
(4月分)
5月24日
(3月分)
6月12日
(4月分)
6月2日
(5月分)
9月13日
(7-9月期)
7月7日
(5月分)
6月26日
(4月分)
7月10日
(5月分)
7月3日
(6月分)
12月11日
(10-12月期)
8月7日
(6月分)
7月24日
(5月分)
8月10日
(6月分)
8月2日
(7月分)
9月7日
(7月分)
8月24日
(6月分)
9月11日
(7月分)
9月1日
(8月分)
10月6日
(8月分)
9月25日
(7月分)
10月11日
(8月分)
10月3日
(9月分)

※ 消費動向調査の上に掲載した調査以降の公表予定については、こちらのページに掲載しています。

「企業行動に関するアンケート調査」は例年2月下旬~3月上旬に公表

 (平成28年度調査の公表日: 平成29年2月28日)

国民経済計算(GDP統計)公表予定はこちらから


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