ESRI通信 第108号

平成29年8月21日
内閣府経済社会総合研究所 発行
Cabinet Office, Government of Japan
Economic and Social Research Institute

【エビデンスの重要性】

平成21年から2年間総務部長、平成23年から1年4か月間総括政策研究官を務めさせていただきましたが、この度、経済社会総合研究所次長を拝命いたしました。

この間、いくつかのポストを経験することとなりましたが、直近の2年間は内閣審議官/内閣官房領土・主権対策企画室長でした。尖閣諸島と竹島の担当です。経済系で育った私には、当初、極めて異質な職と思われましたが、実は共通するところがありました。

領土・主権対策に関する我が国の基本的スタンスは、力(force)によるのではなく、法の支配(rule of law)の尊重です。前職の仕事の多くを占めていたのは、尖閣諸島や竹島が、国際法上、我が国の領土であることを示すエビデンス(注)の収集と内外への広報・発信でした。我が国の主張はエビデンスに基づくべし、ということになります。既に、尖閣諸島、竹島に関し、それぞれ約200点のエビデンスが内閣官房サイトに公開されています。内外の研究者が、こうしたエビデンスも利用して、論文を書くことも期待されています。

さて、政府ではEBPMの推進が重要な課題となっており、その基盤をなすのが、統計等データを始めとする各種データなどの客観的な証拠です。また、研究者・実務家にとっても、各種データは研究などに不可欠です。当研究所においても、GDP統計を軸とした統計改革は重要課題となっています。特に、経済成長率等が小さくなれば相対的に改訂幅等のノイズが大きくなります。統計の変化のうち経済の実態変化によるものがどの程度でノイズによるものがどの程度なのかの可能性も見極める必要もあり、ノイズの縮小・精度向上は、政策立案等のためにも重要な課題と言えます。

以上、分野は異なるものの、基本的な考え方等は、前職と研究所でも共通するものがあります。

総務部長等の経験も活かし、経済社会総合研究所に貢献していきたいと考えておりますので、よろしくお願いいたします。

平成29年8月

  • 内閣府 経済社会総合研究所
    次長 市川 正樹

(注)例えば、尖閣諸島についての領域権限は、我が国は国際法上「先占(occupation)」によるものとしています。

その成立用件としては、(1)先占の主体が国家であること、(2)対象地が無主地(terra nullius)であること、(3)国家による領有の意志が明示されること、(4)領有意志の存在を立証するに十分な実効的な支配(effective control)、が挙げられます。(1)については我が国は紛れもない国家ですし、(2)については1885年以来、沖縄県が尖閣諸島の調査に着手するなど、他国の支配が及んでいないことを慎重に確認しています。(3)については、1895年に閣議決定により尖閣諸島を沖縄県に編入しています。(4)については、課税、警察権の行使、漁業や鉱業等の規制と許可・認可、測量といった行政権の行使などが重要です。以上に関する具体的なエビデンスが必要となります。

なお、国際裁判において主張される権限の強固さを裏付ける根拠の証拠能力を決する基準日を決定的期日(critical date)といい、この日以降に行われた国家の行為や事実は、領域権限の形成・強化を裏付ける証拠としては考慮されません(経済予測におけるcut-off dateと似ているかもしれません)。尖閣諸島については国際裁判が行われていないため決定的期日がいつかは示されていませんが、学会などでは、ECAFEが東シナ海に石油埋蔵の可能性ありと指摘した後に、中国が史上初めて領有権を主張し始めた1969年12月とするのが一般的です。ですので、例えば、最近の中国公船による領海侵入などは、国際法上、全く領有権の根拠となりません。(以上、基本的に小松一郎(2015)「実践国際法(第2版)」、信山社によります。)


【研究紹介】

ESRI国際コンファレンス2017 ~世界的な低成長と政策対応~

  • 内閣府 経済社会総合研究所
    上席主任研究官 出口 恭子

去る8月1日、「ESRI国際コンファレンス2017」が開催され、「世界的な低成長と政策対応」をテーマに、近年、経済成長率が世界的に低下しつつある中で、成長力の底上げのための政策対応について議論が行われた。

冒頭、オバマ政権で大統領経済諮問委員会(CEA)委員長を務めたオースタン・グールズビー教授(シカゴ大学)による基調講演では、成長率引上げのため、景気刺激策を繰り返すのではなく、労働生産性を継続的に向上させる政策が重要であること、そのためには教育訓練投資の促進が有効であることが強調された。

これに続く3つのセッションでは、財政政策の効果、財政の状況、女性の活躍について、研究報告が行われた。「財政政策の効果」のセッションでは、敦賀貴之准教授(京都大学)から、我が国の地方財政乗数の推計についての報告、堀雅博ESRI上席主任研究官から、財政乗数についての我が国のエコノミストの見方についての報告があった。討論者のジャスティン・ウォルファーズ教授(ミシガン大学)から、国レベルでの財政乗数(注)について時系列データによる推計は、十分な数のデータが得られないという大きな制約があるため、クロスセクションデータを活用して得られた地方財政乗数の推計は、国レベルの財政乗数の推計にとっても役立つとの評価が示された。会場から、地方財政乗数と国レベルの財政乗数とを関連づける上での課題等についてのコメントもあり、本研究を深めていく上での意義深いやりとりとなった。

「財政の状況」のセッションでは、デビット・ワンシュタイン教授(コロンビア大学)から、2100年までの日本における持続可能な税率についての推計結果が示され、同じ手法による前回(2005年)の推計結果から大きな変更の必要がなかったこと、また、近年の日本政府の政策運営からプラスに評価できるポイントが報告された。討論者の加藤久和教授(明治大学)からは、本報告の推計手法に改善すべき点がいくつか含まれていること、また、将来人口等の前提条件が少し変わるだけで推計結果に大きく影響することに注意が必要であるとの指摘があった。会場からも、前提条件がかなり楽観的であるとの意見のほか、本報告は財政の持続可能性を公的債務の規模から分析しているが、日本の場合、公的債務の規模よりも、世代間の公平性の問題がより重大であるとの指摘もあった。

「女性の活躍」のセッションでは、ベッツィ-・スティ-ブンソン准教授(ミシガン大学)から、米国の経験を通じて、就業面での女性の登用拡大には、法改正だけでなく、文化や人々の考え方も変化する必要があることが報告された。八代尚宏教授(昭和女子大学)からは、男女の賃金格差について、女性への人的投資の促進や同一労働同一賃金の実現が女性の賃金の上昇にとって重要であるとの報告があった。

清家篤ESRI名誉所長のコーディネートの下、オースタン・グールズビー教授、伊藤元重教授(学習院大学)、岩田一政日本経済研究センター理事長、アニル・カシャップ教授(シカゴ大学)によるパネルディスカッションでは、会場からも示唆に富んだ質問や意見が寄せられ、コンファレンスの締め括りに相応しい議論となった。この中で、技術革新を労働生産性の向上に活かすには、労働者が技術革新に対応できる能力を備えていることが不可欠であり、教育・訓練の一層の重要性が強調された。また、高成長期に上手く機能した制度を維持し続けることは現実的でなく、変化に対応できる柔軟な考え方や発想の転換が、とりわけ男性や若者に求められるとの指摘があった。統計が技術革新による生産性向上を十分に把握できていない可能性についての指摘もあり、統計の測定方法の改善について検討を進める重要性が確認された。

ESRI国際コンファレンスは、平成13年以降、NBERの協力もあり、回を重ねてこられている。今回も多数の参加が海外からもあり、国際的視点からの活発な議論が展開され、内外の研究者との交流も魅力の一つとの声を参加者からきかせて頂いた。報告や討論のため、事前準備に時間を割いてくださった登壇者はもとより、すべての参加者に対し、深く感謝申し上げたい。

注:通常、「財政乗数」というときは、国レベルの財政乗数のことを指す。


【経済社会総合研究所からのお知らせ】

  • 消費者マインドアンケート(試行)の8月分の実施(平成29年7月)

    内閣府経済社会総合研究所景気統計部では、消費者の皆さまの「暮らし向き」や「物価の見通し」について、「だれでも」「自由に」回答できるアンケート調査(試行)を行っております。当面毎月20日を締切として調査を行っています。初めてご回答される方も、2回目以上のご回答の方も大歓迎です。質問の数も少なく、ごく簡単なものですので、ぜひ毎月(1回)ご協力ください。

    (URL:http://www.esri.cao.go.jp/jp/stat/shouhi/open_chosa/open_chosa.html


【最新のシンポジウム・フォーラム】

<議事次第(配付資料)の掲載>


【最新の統計】

<SNA統計>

<景気動向指数>平成29年6月速報(平成29年8月7日)

6月のCI(速報値・平成 22(2010)年=100)は、先行指数:106.3、一致指数:117.2、遅行指数:118.1となった。

  • 先行指数は、前月と比較して1.6ポイント上昇し、2か月連続の上昇となった。3か月後方移動平均は0.20ポイント上昇し、3か月ぶりの上昇となった。7か月後方移動平均は0.50ポイント上昇し、11か月連続の上昇となった。
  • 一致指数は、前月と比較して1.4ポイント上昇し、2か月ぶりの上昇となった。3か月後方移動平均は0.93ポイント上昇し、3か月連続の上昇となった。7か月後方移動平均は0.37ポイント上昇し、11か月連続の上昇となった。
  • 遅行指数は、前月と比較して1.7ポイント上昇し、2か月ぶりの上昇となった。3か月後方移動平均は0.47ポイント上昇し、11か月連続の上昇となった。7か月後方移動平均は0.57ポイント上昇し、7か月連続の上昇となった。

一致指数の基調判断

  • 景気動向指数(CI一致指数)は、改善を示している。

<機械受注統計調査報告>平成29年6月実績および平成29年7~9月見通し(平成29年8月10日)

  • 機械受注総額の動向をみると、2017(平成29)年5月前月比3.1%減の後、6月は同2.1%増の2兆2,706億円となった。
  • 民間設備投資の先行指標である「船舶・電力を除く民需」の動向をみると、2017(平成29)年5月前月比3.6%減の後、6月は同1.9%減の7,900億円となった。このうち、製造業は同5.4%減の3,458億円、非製造業(除く船舶・電力)は同0.8%増の4,508億円となった。
  • 4~6月をみると、受注総額は前期比1.7%増の6兆7,918億円となった。また、「船舶・電力を除く民需」は同4.7%減の2兆4,314億円、製造業は同3.7%増の1兆733億円、非製造業(除く船舶・電力)は同9.9%減の1兆3,696億円となった。
  • 2017(平成29)年7~9月見通しをみると、受注総額は前期比6.5%増の7兆2,335億円の見通しになっている。また、「船舶・電力を除く民需」は同7.0%増の2兆6,011億円、製造業は同1.8%減の1兆541億円、非製造業(除く船舶・電力)は同13.5%増の1兆5,543億円の見通しになっている。

<消費動向調査>平成29年7月調査(平成29年8月2日)

  • 平成29年7月の消費者態度指数(二人以上の世帯、季節調整値)は、6月の43.3から0.5ポイント上昇して43.8となり、2か月ぶりに前月を上回った。消費者態度指数を構成する項目のうち、「雇用環境」以外の3項目「暮らし向き」「収入の増え方」及び「耐久消費財の買い時判断」が前月から上昇した。
  • 「日頃よく購入する品物」の1年後の価格の予想(二人以上の世帯)は、「低下する」が4.2%(前月差+0.5%)、「変わらない」が16.9%(同+2.8%)、「上昇する」が75.8%(同-3.4%)となった。

【参考】<月例経済報告>平成29年7月(平成29年7月19日)

景気は、緩やかな回復基調が続いている。

    • 個人消費は、緩やかに持ち直している。
    • 設備投資は、持ち直している。
    • 輸出は、持ち直している。
    • 生産は、持ち直している。
    • 企業収益は、改善している。企業の業況判断は、改善している。
    • 雇用情勢は、改善している。
    • 消費者物価は、横ばいとなっている。

先行きについては、雇用・所得環境の改善が続くなかで、各種政策の効果もあって、緩やかに回復していくことが期待される。ただし、海外経済の不確実性や金融資本市場の変動の影響に留意する必要がある。

<統計調査公表予定一覧>

<統計調査公表予定一覧>
景気動向指数
速報
景気動向指数
改訂状況
機械受注統計
調査
消費動向調査
(全国・月次)
法人企業景気
予測調査(四半期)
平成29年 9月7日
(7月分)
平成29年 8月24日
(6月分)
平成29年 9月11日
(7月分)
平成29年 9月1日
(8月分)
平成29年 9月13日
(7-9月期)
10月6日
(8月分)
9月25日
(7月分)
10月11日
(8月分)
10月3日
(9月分)
12月11日
(10-12月期)
11月8日
(9月分)
10月23日
(8月分)
11月9日
(9月分)
11月2日
(10月分)
平成30年 3月12日
(1-3月期)
12月7日
(10月分)
11月24日
(9月分)
12月13日
(10月分)
12月4日
(11月分)
平成30年 1月11日
(11月分)
12月25日
(10月分)
平成30年 1月17日
(11月分)
平成30年 1月9日
(12月分)
2月7日
(12月分)
平成30年 1月24日
(11月分)
2月15日
(12月分)
2月2日
(1月分)

※ 消費動向調査の上に掲載した調査以降の公表予定については、こちらのページに掲載しています。

「企業行動に関するアンケート調査」は例年2月下旬~3月上旬に公表

 (平成28年度調査の公表日: 平成29年2月28日)

国民経済計算(GDP統計)公表予定はこちらから


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