ESRI通信 第109号

平成29年9月20日
内閣府経済社会総合研究所 発行
Cabinet Office, Government of Japan
Economic and Social Research Institute

【研究を進めるに当たり思うこと】

本年4月より文部科学省から経済社会総合研究所に出向し、総括政策研究官を務めさせて頂いている。担当する研究テーマの一つが、「教育の質の変化を反映した価格の把握手法に関する研究」である。これは、昨年12月に決定された「統計改革の基本方針」を踏まえ、GDP統計の改善を進める一環として、教育サービスの分野について、可能な限り質の変化を反映する形で実質ベースの産出等をより正確に計測すべく本年度から取組みを始めたものである。

欧州等をはじめとした海外諸国では、本格的な導入には至っていないものの、教育サービスの実質値に質の変化を反映させるための種々の研究、取組みが進められている。我が国においても、国際基準に沿った統計の整備のためにも、今後の対応が必要とされている状況である。

話は少し変わるが、昨年末に実施された国民経済計算の平成23年基準改定及び2008SNA対応において、GDPに計上される範囲をはじめ、JSNAの見方・使い方はかなり変化することとなった。特に、企業の生産活動における役割が高くなっている研究開発支出がGDPの構成要素である投資(総固定資本形成)に記録されるようになるなど、経済の実態がより包括的に捉えられるようになった。

私が役所に入って間もない時期に(もう30年以上前になるが)、個人的に興味をもったテーマが「研究開発投資の経済効果」であり、某財団の助成資金を頂いて、関係省庁・機関・大学の方々と勉強会を行ったことを懐かしく思い出す。(その後、私個人は業務では離れてしまったが、)今回、研究開発の資本化について、国際的な議論、国内での実装に向けた種々の取組みを経て、ようやく国民経済計算に反映されたことは、担当ではないものの、大変感慨深く聞いていた。一方で、その工程の長さと作業の大変さを感じずにいられない。

教育に関する上記の研究も今後鋭意進めて行きたいと思っているが、利用可能なデータの収集・整備等課題も数多くある。研究開発の資本化の事例及び統計改革に関する他分野の動きも踏まえ、長期的視点に立ちつつ、国民経済計算への反映を見据え、着実に研究を進めて参りたい。

平成29年9月

  • 内閣府 経済社会総合研究所
    総括政策研究官 米倉 実

【研究紹介】

我が国における近年のインバウンド客増加の背景

  • 内閣府 経済社会総合研究所
    総務部総務課 課長補佐 浦沢 聡士

日本政府観光局によれば、2017年7月の訪日外客数(推計値)は、前年同月比16.8%増の268万2千人となり、単月として過去最高となった。

いわゆるインバウンド客の増加は、世界的な傾向であるが、我が国についてみると、特に近年の増加が著しく、2013年に過去最高である1000万人に達した後も、わずか2年程度のうちに倍となり、現在でも増加傾向が続いている(2015年1974万人、2016年2404万人)。

なぜ、近年、日本を訪れる外国人旅行者がこれほどまでに上昇したのだろうか。インバウンド客の増加は、国内の宿泊・飲食業や小売業等の売上の増加や景況感の改善にも寄与し、今後の成長分野としての期待も高いため、政府は、訪日外国人旅行者数を2020年に4000万人まで増加させるといった目標を掲げ様々な取組を進めているが、インバウンド客の増加は日本経済にプラスの影響を与えているのだろうか。

現在、政府では、統計改革の一環として「証拠に基づく政策立案(EBPM)」の更なる推進に取り組んでいるが、インバウンド推進の根拠となる客観的な証拠を示すことを目的として、この度、我が国を主眼に訪問外客数の動向を分析し、その結果を、この7月末に発表した。1

本研究では、近年著しいインバウンド客の増加の背景や要因、また、我が国経済への影響を明らかにすべく実証的な分析を行っているが、前者の背景・要因分析に際しては、26の国・地域からなる国際パネルデータを構築し、従来、財貿易や直接投資の分析を中心に用いられてきたグラビティ・モデルを推計することにより、我が国を含む各国・地域へのインバウンド客の流れの決定要因を検証した。

検証の結果、インバウンド客の動向には、他の要因と比べても、出発国の所得(例えば、中国(出発国)から我が国(目的国)へのインバウンド客を考える場合、中国の一人当たりGDP)の影響が大きいこと、加えて、出発国と目的国の距離が離れることは、インバウンド客にマイナスの影響を与えることが示された。こうした結果を踏まえると、我が国については、中間所得者層を中心に所得の増加が著しいアジア地域に近接することが、インバウンド客の増加に寄与してきたことが示唆される(アジア地域からのインバウンド客は、全体の8割程度を占める)。

物価や為替といった経済環境の影響については、出発国に比べ、目的国の物価が高まる場合、また、目的国の為替が増価する場合には、旅行者にとってみれば実質的な購買力が低下し、目的国で提供される旅行サービスが割高となるため、インバウンド客の動向にマイナスの影響があることが示された。さらに、経済的な結びつきがインバウンド客に与える影響を見るために、出発国と目的国における自由貿易協定の締結状況との関係をみると、両者の間にはプラスの関係がみられた。インバウンド客にはビジネス客も含まれるが、例えば、経済連携が進むことにより、両国間でのビジネス機会が拡大する等の場合には、インバウンド客を押し上げる効果も期待できる。

最後に、インバウンド客の増加に対し、より直接的に働きかける手段であるビザ免除措置の影響をみると、その影響は統計的にも有意にプラスとなり、インバウンド客の増加に向けた取組としての有効性が示唆された。推計結果は、ビザ免除を実施した年には、前年に比べ、インバウンド客が3割程度増加することを表している。我が国について、タイ(2013年7月)、マレーシア(2013年7月)、インドネシア(2014年12月)のケースを例に、ビザ免除の実施前後1年間の伸び率の実績をみると、それぞれ80%、62%、35%と数十パーセントの伸びとなっており(図表)、今回の推計結果はこうした経験とも概ね合致していることが確認できる。

我が国については、2013年以降、積極的にビザ発給の緩和措置等の取組を進めてきたが、本研究では、所得の増加が著しいアジア地域に近接するといった地理的要件に加え、こうした誘致政策が今日における訪日外客数の増加に貢献している可能性が示された。

図表 ビザ免除の実施前後1年間の訪日外客数の動き


1「経常収支にみられる構造的な変化:インバウンドの実証分析」(浦沢聡士,笠原滝平)一橋大学経済研究所『経済研究』第68巻第3号,2017年7月,pp.250–263.


【経済社会総合研究所からのお知らせ】

  • 消費者マインドアンケート(試行)の9月分の実施(平成29年8月)

    内閣府経済社会総合研究所景気統計部では、消費者の皆さまの「暮らし向き」や「物価の見通し」について、「だれでも」「自由に」回答できるアンケート調査(試行)を行っております。当面毎月20日を締切として調査を行っています。初めてご回答される方も、2回目以上のご回答の方も大歓迎です。質問の数も少なく、ごく簡単なものですので、ぜひ毎月(1回)ご協力ください。

    (URL:http://www.esri.cao.go.jp/jp/stat/shouhi/open_chosa/open_chosa.html


【最新の統計】

<SNA統計>

  • 四半期別GDP速報(2017(平成29)年4–6月期・2次速報)(平成29年9月8日)
    1. 平成29年9月8日に公表した29年4–6月期四半期別GDP速報(2次速報)では実質GDP成長率が0.6%(年率2.5%)と、1次速報値の1.0%(年率4.0%)から下方改定となった。
    2. 実質GDP成長率が下方改定となったのは、需要項目別の前期比寄与度でみて、民間企業設備などが改定されたためである。

<景気動向指数>平成29年7月速報(平成29年9月7日)

7月のCI(速報値・平成 22(2010)年=100)は、先行指数:105.0、一致指数:115.6、遅行指数:115.8となった。

  • 先行指数は、前月と比較して0.7ポイント下降し、3か月ぶりの下降となった。3か月後方移動平均は0.20ポイント上昇し、4か月ぶりの上昇となった。7か月後方移動平均は0.03ポイント上昇し、12か月連続の上昇となった。
  • 一致指数は、前月と比較して1.2ポイント下降し、2か月ぶりの下降となった。3か月後方移動平均は0.36ポイント下降し、4か月ぶりの下降となった。7か月後方移動平均は0.16ポイント上昇し、12か月連続の上昇となった。
  • 遅行指数は、前月と比較して0.8ポイント下降し、2か月ぶりの下降となった。3か月後方移動平均は0.34ポイント下降し、2か月連続の下降となった。7か月後方移動平均は0.12ポイント上昇し、8か月連続の上昇となった。

一致指数の基調判断

  • 景気動向指数(CI一致指数)は、改善を示している。

<機械受注統計調査報告>平成29年7月実績(平成29年9月11日)

  • 機械受注総額の動向をみると、2017(平成29)年6月前月比2.1%増の後、7月は同4.9%増の2兆3,822億円となった。
  • 民間設備投資の先行指標である「船舶・電力を除く民需」の動向をみると、2017(平成29)年6月前月比1.9%減の後、7月は同8.0%増の8,533億円となった。このうち、製造業は同2.9%増の3,557億円、非製造業(除く船舶・電力)は同4.8%増の4,723億円となった。

<消費動向調査>平成29年8月調査(平成29年9月1日)

  • 平成29年8月の消費者態度指数(二人以上の世帯、季節調整値)は、7月の43.8から0.5ポイント低下して43.3となり、2か月ぶりに前月を下回った。消費者態度指数を構成する4項目全てが前月から低下した。
  • 「日頃よく購入する品物」の1年後の価格の予想(二人以上の世帯)は、「低下する」が3.5%(前月差 -0.7%)、「変わらない」が17.3%(同 +0.4%)、「上昇する」が76.1%(同 +0.3%)となった。

<法人企業景気予測調査>平成29年7–9月期調査(平成29年9月13日)

「貴社の景況判断」BSIの平成29年7–9月期(現状判断)をみると、大企業(全産業)は5.1%ポイントで2期ぶりの「上昇」超、中堅企業(全産業)は5.1%ポイントで3期ぶりの「上昇」超、中小企業(全産業)は▲6.5%ポイントで14期連続の「下降」超。なお、前回(4–6月期の現状判断:大企業▲2.0%ポイント、中堅企業▲3.1%ポイント、中小企業▲9.9%ポイント)と比較して、大企業及び中堅企業は「上昇」超に転化、中小企業は「下降」超幅が縮小。

先行きについてみると、大企業及び中堅企業は10–12月期、30年1–3月期とも「上昇」超で推移する見通し。中小企業は10–12月期「上昇」超に転化の後、1–3月期は「下降」超に転化する見通し。

「国内の景況判断」BSIの平成29年7–9月期(現状判断)をみると、大企業(全産業)は6.9%ポイントで、4期連続の「上昇」超、前回(4–6月期の現状判断:4.8%ポイント)と比較して、「上昇」超幅が拡大。

「従業員数判断」BSIの平成29年9月末(現状判断)をみると、大企業(全産業)は17.0%ポイントで25期連続の「不足気味」超で、前回(6月末の現状判断:15.4%ポイント)と比較して、「不足気味」超幅が拡大。

平成29年度の売上高(全規模・全産業)は前年度比2.1%の増収見通し、経常利益(全規模・全産業)は同0.6%の増益見通し、設備投資(ソフトウェア含む、土地除く:全規模・全産業)は同3.9%の増加見通し。

【参考】<月例経済報告>平成29年8月(平成29年8月28日)

景気は、緩やかな回復基調が続いている。

    • 個人消費は、緩やかに持ち直している。
    • 設備投資は、持ち直している。
    • 輸出は、持ち直している。
    • 生産は、持ち直している。
    • 企業収益は、改善している。企業の業況判断は、改善している。
    • 雇用情勢は、改善している。
    • 消費者物価は、横ばいとなっている。

先行きについては、雇用・所得環境の改善が続くなかで、各種政策の効果もあって、緩やかに回復していくことが期待される。ただし、海外経済の不確実性や金融資本市場の変動の影響に留意する必要がある。

<統計調査公表予定一覧>

<統計調査公表予定一覧>
景気動向指数
速報
景気動向指数
改訂状況
機械受注統計
調査
消費動向調査
(全国・月次)
法人企業景気
予測調査(四半期)
平成29年 10月6日
(8月分)
平成29年 9月25日
(7月分)
平成29年 10月11日
(8月分)
平成29年 10月3日
(9月分)
平成29年 12月11日
(10–12月期)
11月8日
(9月分)
10月23日
(8月分)
11月9日
(9月分)
11月2日
(10月分)
平成30年 3月12日
(1–3月期)
12月7日
(10月分)
11月24日
(9月分)
12月13日
(10月分)
12月4日
(11月分)
6月12日
(4–6月期)
平成30年 1月11日
(11月分)
12月25日
(10月分)
平成30年 1月17日
(11月分)
平成30年 1月9日
(12月分)
2月7日
(12月分)
平成30年 1月24日
(11月分)
2月15日
(12月分)
2月2日
(1月分)
3月7日
(1月分)
2月26日
(12月分)
3月14日
(1月分)
3月5日
(2月分)

「企業行動に関するアンケート調査」は例年2月下旬~3月上旬に公表

 (平成28年度調査の公表日: 平成29年2月28日)

国民経済計算(GDP統計)公表予定はこちらから


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