ESRI通信 第111号

平成29年11月20日
内閣府経済社会総合研究所 発行
Cabinet Office, Government of Japan
Economic and Social Research Institute

【変化する政府の役割】

最近は教育への財政支援に関する議論が盛んであり、社会保障制度は、高齢者も若年者も安心できる全世代型にするという方向性が示されている。本稿ではこれらの動きの中で変化しつつある政府の役割について考えてみたい。

自分の老親、そして子どもの面倒をみるのは、一義的には(少なくとも心情的には)自分たち家族の役割である。ただ、公的な年金・医療・介護制度があり、そして今度は義務教育に加えてさらに教育の負担が軽減されるということになると、その役割もかなりの程度政府によって軽減される。親だけでなく子まで面倒をみてくれる政府。こんなに親切(そして見方によってはおせっかい)な政府とは一体何なのだろう。政府がしているのは、これまで家族という「共同体」で行われていたことの肩代わりである。「市場の失敗」ならぬ「共同体の失敗」を補うものと解釈できる。そもそも大規模な治水を行うところから国家が生まれてきたことを想起すると、市場の失敗よりも共同体の失敗を補完する方が、政府の活動としては自然なのかもしれない。

親や子の面倒をみるということは、世代間の資源の配分に政府が介入しているということだ。世代間の資源配分では、例えば民間での学資ローンがほとんどないように市場はうまく機能しない。家族という共同体が世代間の資源を再配分していたが、その機能が低下してきたので、政府の出番が生まれた。こうした文脈で政府の役割を考えた嚆矢はベッカーだと思うが1、その前提には何か家父長的な政府観が必要なように思われる。そもそも公的な社会保障制度自体、何らかのパターナリズムを前提にしないと成立しないと指摘されていたものだった2

実はこうした政府観は、色々な局面で現れている。交通安全のためにバイクの運転手にヘルメット着用を義務付けるのも、消費者保護のためにクーリングオフを設けるのも、その一つのあらわれである。そして、最近では行動経済学者から、こうしたややおせっかいな政府は、リバタリアン・パターナリズムという言葉で正当化されている。こうした政府観は、そもそも福祉社会においては親和性が高いように思われ、今後高齢者の数が益々増えていく中で、広く受け入れられていくのかもしれない。

平成29年11月

  • 内閣府 経済社会総合研究所
    総括政策研究官 河越 正明

1Becker, Gary, and Kevin Murphy (1988) “Family and the State,” Journal of Law and Economics, 31: 1-18.

2八田達夫・小口登良(1999)『年金改革論:積立方式へ移行せよ』日本経済新聞社


【研究紹介】

家計のセミマクロ統計の充実について—国民経済計算の枠組みにおける家計勘定の詳細化に関する研究—

  • 内閣府 経済社会総合研究所
    研究官 山崎 朋宏

家計の経済活動の分析にあたっては、ミクロ統計とマクロ統計をつなぐ「セミマクロ」の統計を充実させることが重要である。ここでいう家計のセミマクロの統計とは、マクロ統計である国民経済計算(以下、「SNA」という)の家計の勘定を、家計を対象にしたミクロの統計調査の情報を用いて、世帯の属性別に推計した統計のことである。セミマクロの統計を用いることにより、SNAの包括的な記録体系を活かしながら、家計を細分化し詳細に分析することが可能となる。たとえば、家計を所得階層別に細分化し、社会負担や給付のデータをもとに政府による再分配の影響について分析することや、家計を年齢階級別に細分化し、世代別に消費や貯蓄の動向を把握することなどが可能となる。

このような、SNAの枠組みにおける家計勘定の詳細化に向けた取組みは、国際機関からの要請もあり、近年各国において進んでいる。OECDでは、2011年にユーロスタットと共同で、SNAの枠組みにおける格差に関する専門家会合(EG-DNA; Expert Group on Disparities in a National Accounts Framework)が立ち上げられた。この専門家会合には、我が国を含む20余りの国と機関が参加しており、SNAの枠組みで所得階層別のデータを整備し格差測定を行うための作業が行われている。また、IMFでは、統計整備のための指針の第2フェーズ(DGI-2; Second Phase of the G-20 Data Gaps Initiative)の中で、G20諸国が整備すべき指標の1つとして属性別の家計勘定のデータを掲げている。さらに、家計勘定の詳細化はSNAの国際基準においても取り上げられており、家計について、所得形態等に基づき属性別に記録することが勧告されている。

属性別の家計勘定の推計にあたっては、いくつかのプロセスが必要となる。まず、個別の世帯を対象にしたミクロの統計調査の個票データをもとに、マクロの統計であるSNAの各項目と対応するデータを世帯ごとに作成する。その際、社会負担や社会給付、租税などについては、カバレッジの違いなどによりミクロの統計調査の結果だけではSNAに対応する項目を十分に推計することができないため、様々な制度情報を整理し、ミクロの統計調査から得られる世帯属性等のデータと組み合わせて推計を行う。そのように作成した世帯ごとのデータを、様々な属性別に集計する。ミクロの統計を積み上げて作成した集計値は、概念の違いがあることなどからマクロの統計に必ずしも一致するものではなく、ミクロ統計とマクロ統計の差についても検証し、必要な修正を行っていくこととなる。

現在、国民経済計算の枠組みにおける家計勘定の詳細化に関する研究の中では、全国消費実態調査の調査票情報をはじめとする種々のデータを用いて、属性別の家計勘定の推計を試みている。この推計では、1984年から2014年まで(5年おき、計7か年)のデータを扱っており、30年間の家計の動向について属性別に検証することを目指している。こうした推計結果が、今後、家計に関する分析に活用されていくことが期待される。


【経済社会総合研究所からのお知らせ】

  • 消費者マインドアンケート(試行)の12月分の実施

    内閣府経済社会総合研究所景気統計部では、消費者の皆さまの「暮らし向き」や「物価の見通し」について、「だれでも」「自由に」回答できるアンケート調査(試行)を行っております。当面毎月20日を締切として調査を行っています。初めてご回答される方も、2回目以上のご回答の方も大歓迎です。質問の数も少なく、ごく簡単なものですので、ぜひ毎月(1回)ご協力ください。

    (URL:http://www.esri.cao.go.jp/jp/stat/shouhi/open_chosa/open_chosa.html

  • 消費動向調査 公表早期化します
    消費動向調査の公表早期化について(平成29年11月)

    消費動向調査については、統計改革の一環として、業務効率化によりユーザーの利活用を促進するため、平成30年1月調査以降、公表日を原則従来より早期化することとします。

    (URL:http://www.esri.cao.go.jp/jp/stat/shouhi/shouhi.html


【最新の研究発表】

  • 経済分析第195号(特別編集号)を掲載しました。(平成29年10月)

    (エディトリアル)

    日本の労働市場の変質と労働分配率・賃金格差・労働時間(樋口美雄)

    (論文)

    労働分配率の低下と企業財務(阿部正浩、Jess DIAMOND)

    景気変動と賃金格差(児玉直美、横山泉)

    所得格差と教育投資の経済学(田中隆一)

    通勤時間が夫婦の時間配分に与える影響(小原美紀、関島梢恵)

    若年者の東京移動に関する分析(太田聰一、梅溪健児、北島美雪、鈴木大地)


【最新の統計】

<SNA統計>

<景気動向指数>平成29年9月速報(平成29年11月8日)

9月のCI(速報値・平成22(2010)年=100)は、先行指数:106.6、一致指数:115.8、遅行指数:116.8となった。

  • 先行指数は、前月と比較して0.6ポイント下降し、2か月ぶりの下降となった。3か月後方移動平均は0.30ポイント上昇し、3か月連続の上昇となった。7か月後方移動平均は0.25ポイント上昇し、14か月連続の上昇となった。
  • 一致指数は、前月と比較して1.9ポイント下降し、2か月ぶりの下降となった。3か月後方移動平均は0.33ポイント下降し、2か月ぶりの下降となった。7か月後方移動平均は0.12ポイント上昇し、14か月連続の上昇となった。
  • 遅行指数は、前月と比較して0.6ポイント上昇し、2か月連続の上昇となった。3か月後方移動平均は0.03ポイント上昇し、2か月連続の上昇となった。7か月後方移動平均は0.12ポイント上昇し、10か月連続の上昇となった。

一致指数の基調判断

  • 景気動向指数(CI一致指数)は、改善を示している。

<機械受注統計調査報告>平成29年9月実績および平成29年10~12月見通し(平成29年11月9日)

  • 機械受注総額の動向をみると、2017(平成29)年8月前月比8.5%増の後、9月は同10.2%減の2兆3,198億円となった。
  • 民間設備投資の先行指標である「船舶・電力を除く民需」の動向をみると、2017(平成29)年8月前月比3.4%増の後、9月は同8.1%減の8,105億円となった。このうち、製造業は同5.1%減の3,921億円、非製造業(除く船舶・電力)は同11.1%減の4,329億円となった。
  • 7~9月をみると、受注総額は前期比7.3%増の7兆2,859億円となった。また、「船舶・電力を除く民需」は同4.7%増の2兆5,462億円、製造業は同8.2%増の1兆1,607億円、非製造業(除く船舶・電力)は同1.6%増の1兆3,921億円となった。
  • 2017(平成29)年10~12月見通しをみると、受注総額は前期比1.9%減の7兆1,471億円の見通しになっている。また、「船舶・電力を除く民需」は同3.5%減の2兆4,561億円、製造業は同9.4%減の1兆520億円、非製造業(除く船舶・電力)は同0.9%増の1兆4,045億円の見通しになっている。

<消費動向調査>平成29年10月調査(平成29年11月2日)

  • 平成29年10月の消費者態度指数(二人以上の世帯、季節調整値)は、9月の43.9から0.6ポイント上昇して44.5となり、2か月連続で前月を上回った。消費者態度指数を構成する4項目全てが前月から上昇した。
  • 「日頃よく購入する品物」の1年後の価格の予想(二人以上の世帯)は、「低下する」が3.7%(前月差 -1.2%)、「変わらない」が15.8%(同±0.0%)、「上昇する」が77.5%(同 +1.3%)となった。

【参考】<月例経済報告>平成29年10月(平成29年10月25日)

景気は、緩やかな回復基調が続いている。

    • 個人消費は、緩やかに持ち直している。
    • 設備投資は、持ち直している。
    • 輸出は、持ち直している。
    • 生産は、持ち直している。
    • 企業収益は、改善している。企業の業況判断は、改善している。
    • 雇用情勢は、改善している。
    • 消費者物価は、横ばいとなっている。

先行きについては、雇用・所得環境の改善が続くなかで、各種政策の効果もあって、緩やかに回復していくことが期待される。ただし、海外経済の不確実性や金融資本市場の変動の影響に留意する必要がある。

<統計調査公表予定一覧>

<統計調査公表予定一覧>
景気動向指数
速報
景気動向指数
改訂状況
機械受注統計
調査
消費動向調査
(全国・月次)
法人企業景気
予測調査(四半期)
平成29年 12月7日
(10月分)
平成29年 11月24日
(9月分)
平成29年 12月13日
(10月分)
平成29年 12月4日
(11月分)
平成29年 12月11日
(10–12月期)
平成30年 1月11日
(11月分)
12月25日
(10月分)
平成30年 1月17日
(11月分)
平成30年 1月9日
(12月分)
平成30年 3月12日
(1–3月期)
2月7日
(12月分)
平成30年 1月24日
(11月分)
2月15日
(12月分)
1月31日
(1月分)
6月12日
(4–6月期)
3月7日
(1月分)
2月26日
(12月分)
3月14日
(1月分)
3月1日
(2月分)

「企業行動に関するアンケート調査」は例年2月下旬~3月上旬に公表

 (平成28年度調査の公表日: 平成29年2月28日)

国民経済計算(GDP統計)公表予定はこちらから


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