ESRI通信 第125号

平成31年1月21日
内閣府経済社会総合研究所 発行
Cabinet Office, Government of Japan
Economic and Social Research Institute

【景気の局面を見る】

景気統計部では、景気の現状把握等のため、景気に敏感に反応する指標を選択・合成した景気動向指数を毎月作成・公表しています。また、景気の転換点を示す景気基準日付(山・谷)を、同指数の一致指数の採用系列から作成するヒストリカルDI等に基づき、事後的に設定しています。

指数の採用系列の見直しや景気の山・谷の設定等については、専門家からなる景気動向指数研究会(座長:吉川洋立正大学経済学部教授)の議論を踏まえて行っています。昨年12月13日に同研究会を開催したところ、「前回の景気の谷から明確な下降はみられず、直近の景気の谷である2012 年 11 月以降、 2017 年8月以前に景気の山はつかない」ことが合意されました。つまり、景気拡張期間が戦後第2位の57か月を超え、「いざなぎ景気」(1965年11月~1970年7月)を超える長さとなったとの結論が得られました。このことは、当方の予想以上にメディアで報道され、景気の局面に対しては、世の中の関心が高いことを実感しました。

こうした景気の局面の議論は、そもそも景気動向指数にどのような指標を採用するかが肝心となります。いざなぎ超えほど報道されていませんが、同日の研究会では、景気動向指数の改善についても、重要な合意がなされました。具体的には、一致指数に内閣府「輸出数量指数」(季節調整値)を新たに採用することが妥当との合意が得られました。また、系列変更のタイミングについて、これまでは景気の山・谷の確定時に行っていましたが、必要があれば、山・谷の暫定設定時にも行うとすることで合意が得られました。後者については、委員の間に活発な議論がある中で、吉川座長が、系列変更のタイミングは迅速化しつつ、統計の客観性を担保するという観点に基づき、意見をまとめられました。研究会の合意を受けて、経済社会総合研究所は、次(第 16 循環)の景気の山の暫定設定時には、「輸出数量指数」を新たに一致指数に加えることとしました。熱心な議論は、景気の局面の見方について、経済社会の変化に合わせた不断の検討が求められていることと共に、統計の信頼性の確保の観点から、ルールや条件等を事前に明確に示していくことの重要性について、改めて認識させられるものでした。

本年1月まで景気が拡張しているとすれば、いわゆる「いざなみ景気」(2002年2月~2008年2月)の73か月を超え、戦後最長となる可能性があります。景気拡張局面の判断は、景気動向指数の採用指標に移動平均を施して検討するため、半年から1年程度のデータの蓄積が必要で、その上で、研究会の審議を踏まえて行うこととしています。世の中の関心は高いですが、まずは、今後のデータの動きを注視してまいります。

平成31年1月

  • 内閣府 経済社会総合研究所
    景気統計部長 澤井 景子

【研究紹介】

AI等の技術が労働市場に与える影響に関する内外の研究動向について

  • 内閣府 経済社会総合研究所
    研究官 北原 聖子

近年、AIやIoT、ロボット等の革新的な技術の進展がめざましい。これらの技術は急速に進歩しながら多様な領域で実装されてきており、経済社会全体に大きく影響すると考えられる。昨年12月に、研究の起点として行った既存研究のレビューを、ESRI Research Note No.43「AI等の技術が労働市場に与える影響に関する内外の研究動向について」として公表した。この論文は、AIと労働需要の関係に焦点を当て、労働経済学における理論面、実証面での発展について概観し、残された課題を探索したものである。本稿ではその概要について紹介したい。

最近の理論面の進展として、「スキルモデル」から「タスクモデル」へのパラダイムシフトが起こった。1960年代以降の労働市場でみられる「大卒プレミアム」1について説明したスキルモデル2は学歴をスキルの代理指標としており、学歴が高い労働者ほどICT等の技術との補完性があると仮定している。スキルモデルは1980年代までは現実の賃金格差をよく説明したが、高学歴化が進んだ1990年代以降は乖離が大きくなっていた。そこで、スキルの代わりにタスク(業務)に着目したタスクモデル3が提唱された。このモデルでは、ICT等はルーティンタスクと代替的、ノンルーティンタスクと補完的であり、労働者の賃金は従事するタスクにより決まるとされ、スキルモデルよりも現実と整合的であった。さらに近年、観察されるようになってきた労働市場の「二極化」4の進行についても説明できる発展的なタスクモデル5も登場してきている。

以上を踏まえ、ICT等の技術からさらに進化したAIが雇用に与える分析では、実際に社会で利活用され始めた段階であることから、実証データに基づく分析ではなく、機械学習による将来予測の手法がとられている。その端緒を開いたFrey and Osborne(2013)は、「職業」ごとの技術的な代替可能性を機械学習によりアルゴリズム化するというフレームワークを提唱し、今後10~20年の間の代替可能性が0.7以上とされる「高リスク」分類の職業の従事者は、米国の労働者数全体の47%を占めるとの試算結果(図1)を示した。これに対し、Arntz, Gregory and Zierahn(2016)は、職業ベースのアプローチを「タスク」ベースに変えることで、高リスクの割合はOECD加盟国21ヶ国平均で9%、我が国は約7%であるとの試算結果6(図2)を示した。これをさらに発展させたNedelkoska and Quintini(2018)は、OECD加盟国32ヶ国における高リスクの割合は14%であるとの試算結果(図3)7を示した。特に我が国においては、0.7以上のリスクがある「代替リスクが高い」職業の従事者は少ないが、0.5-0.7の代替リスクがある「代替リスクがやや高い」職業の従事者は多く、合計した代替リスクはOECD諸国の中でも高いことがわかる。この他、類似のさまざまな将来予測がなされ、AI等の進展は現在人間が担っている仕事の一部を代替する可能性があることでは一致しているが、影響の大きさについてはまだコンセンサスが得られていない。

AIのモデル化にあたっては、技術の要因のみを抽出しており、社会的な制度や風土の側面等、技術以外の諸要因を考慮していないといった課題が残されている。今後、理論面、実証面の双方のさらなる発展を通じ、より精緻なモデルの構築や実証データに基づく分析が期待される。

図1 Frey and Osborne(2013)による試算結果
(米国における職業ごとの代替可能性と雇用者数の分布)

(Frey and Osborne(2013)よりFigure3の一部を加工して引用)

図2 Arntz, Gregory and Zierahn(2016)による試算結果
(OECD加盟国21ヶ国における代替リスクが高い職業に就く雇用者の割合)

(Arntz, Gregory and Zierahn(2016)よりFigure3を引用)

図3 Nedelkoska and Quintini(2018)による試算結果
(OECD加盟国32ヶ国における代替リスクが高い~やや高い職業に就く雇用者の割合)

(Nedelkoska and Quintini(2018)よりFigure4.2.を引用)


1四年制大学以上の高等教育機関の卒業者とそれ以外の者との間の賃金格差の拡大

2Tinbergen(1974,1975)

3Autor, Levy and Murnane(2003)

4中賃金層においてみられる実質賃金および雇用量の減少

5例えばAcemoglu and Autor(2011)やAcemoglu and Restrepo(2018)

6Frey and Osborne(2013)の対象である米国においては9%である

7図2と図3では示している対象が異なり、単純比較ができない(図表2の帯は図表3の帯のうち白抜き部分に対応する)ことに留意が必要である


【経済社会総合研究所からのお知らせ】

  • 消費者マインドアンケート(試行)の2月分の実施

    内閣府経済社会総合研究所景気統計部では、消費者の皆さまの「暮らし向き」や「物価の見通し」について、「だれでも」「自由に」回答できるアンケート調査(試行)を行っております。当面毎月20日を締切として調査を行っています。初めてご回答される方も、2回目以上のご回答の方も大歓迎です。質問の数も少なく、ごく簡単なものですので、ぜひ毎月(1回)ご協力ください。

    (URL:https://www.esri.cao.go.jp/jp/stat/shouhi/open_chosa/open_chosa.html


【最新の研究発表】

  • 経済分析第198号(ジャーナル)を掲載しました。(平成30年12月)

    (論文)

    地方財政健全化指標における相互依存関係の実証分析(広田啓朗、湯之上英雄)

    地方基金の積立要因に関する計量経済分析—基金残高は自治体の効率化努力によって積み上がったのか—(前田出)

    夫の家事・育児参加と妻の就業決定—夫の働き方と役割分担意識を考慮した実証分析—(鶴光太郎、久米功一)

    得意科目がその後の労働時間・賃金に及ぼす影響のジェンダー差(参鍋篤司、垂見裕子)

    (資料)

    ESRI国際コンファレンス

    「より良い政策形成のためのより良い計測」(概要)

    および景気動向指数に関するセミナー(概要)

    (編集 経済社会総合研究所)


<報告書の掲載>


【最新のシンポジウム・フォーラム】

<開催案内>

  • 参加者募集:第56回ESRI–経済政策フォーラム「世界的な対外経済不均衡の趨勢と今後の展望」(平成31年2月5日開催)を掲載しました。(平成31年1月)

【最新の統計】

<SNA統計>

<景気動向指数>平成30年11月速報(平成31年1月10日)

11月のCI(速報値・平成27(2015)年=100)は、先行指数:99.3、一致指数:103.0、遅行指数:104.0となった。

  • 先行指数は、前月と比較して0.3ポイント下降し、2か月ぶりの下降となった。3か月後方移動平均は0.23ポイント下降し、5か月連続の下降となった。7か月後方移動平均は0.35ポイント下降し、6か月連続の下降となった。
  • 一致指数は、前月と比較して1.9ポイント下降し、2か月ぶりの下降となった。3か月後方移動平均は0.10ポイント上昇し、2か月連続の上昇となった。7か月後方移動平均は0.17ポイント下降し、2か月ぶりの下降となった。
  • 遅行指数は、前月と比較して0.4ポイント上昇し、3か月ぶりの上昇となった。3か月後方移動平均は0.20ポイント下降し、6か月連続の下降となった。7か月後方移動平均は0.04ポイント下降し、3か月連続の下降となった。

一致指数の基調判断

  • 景気動向指数(CI一致指数)は、足踏みを示している。

<機械受注統計調査報告>平成30年11月実績(平成31年1月16日)

  • 機械受注総額の動向をみると、2018(平成30)年10月前月比19.5%増の後、11月は同8.3%増の2兆8,506億円となった。
  • 民間設備投資の先行指標である「船舶・電力を除く民需」の動向をみると、2018(平成30)年10月前月比7.6%増の後、11月は同0.0%減の8,631億円となった。このうち、製造業は同6.4%減の3,957億円、非製造業(除く船舶・電力)は同2.5%増の4,650億円となった。

<消費動向調査>平成30年12月調査(平成31年1月8日)

  • 平成30年12月の消費者態度指数(二人以上の世帯、季節調整値)は、11月の42.9から0.2ポイント低下して42.7となり、3か月連続で前月を下回った。消費者態度指数を構成する4項目のうち、「耐久消費財の買い時判断」が前月から上昇、それ以外の3項目「雇用環境」、「暮らし向き」及び「収入の増え方」が前月から低下した。
  • 「日頃よく購入する品物」の1年後の価格の予想(二人以上の世帯)は、「低下する」が4.0%(前月差 +0.3%)、「変わらない」が10.8%(同 +1.0%)、「上昇する」が83.2%(同 -1.3%)となった。

【参考】<月例経済報告>平成30年12月(平成30年12月20日)

景気は、緩やかに回復している。

    • 個人消費は、持ち直している。
    • 設備投資は、増加している。
    • 輸出は、おおむね横ばいとなっている。
    • 生産は、緩やかに増加している。
    • 企業収益は、改善している。企業の業況判断は、おおむね横ばいとなっている。
    • 雇用情勢は、着実に改善している。
    • 消費者物価は、このところ上昇テンポが鈍化している。

先行きについては、雇用・所得環境の改善が続くなかで、各種政策の効果もあって、緩やかな回復が続くことが期待される。ただし、通商問題の動向が世界経済に与える影響や、海外経済の不確実性、金融資本市場の変動の影響に留意する必要がある。

<統計調査公表予定一覧>

<統計調査公表予定一覧>
景気動向指数
速報
景気動向指数
改訂状況
機械受注統計
調査
消費動向調査
(全国・月次)
法人企業景気
予測調査(四半期)
平成31年 2月 7日
(12月分)
平成31年 1月24日
(11月分)
平成31年 2月18日
(12月分)
平成31年 1月30日
(1月分)
平成31年 3月12日
(1–3月期)
3月 7日
(1月分)
2月25日
(12月分)
3月13日
(1月分)
3月 1日
(2月分)
6月13日
(4–6月期)
4月 5日
(2月分)
3月下旬
(1月分)
4月10日
(2月分)
4月 8日
(3月分)
9月11日
(7–9月期)
5月上旬
(3月分)
4月下旬
(2月分)
  5月 9日
(4月分)
 

「企業行動に関するアンケート調査」は例年2月下旬~3月上旬に公表

 (平成29年度調査の公表日: 平成30年3月2日)

国民経済計算(GDP統計)公表予定はこちらから


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