ESRI通信 第128号

平成31年4月22日
内閣府経済社会総合研究所 発行
Cabinet Office, Government of Japan
Economic and Social Research Institute

【研究に当たって考えること】

公務員となってほぼ30年、これまでの仕事は、どちらかと申せば、政策策定過程での利害関係の調整など“泥臭い”ものが多く、知らず知らずのうちに『公務員の仕事なんて、こういうもの』との思いが染みついておりましたが、初めて、アカデミックな雰囲気の仕事に携わらせていただくことになり、知的興奮と、本音を申せば不安とを、覚えました。

私が担当させていただいておりますのが、少子高齢化ユニットの「AI・IoTと雇用・労働市場」であります。

AI等情報通信技術には、多様で柔軟な働き方の面で雇用に恩恵をもたらすことが期待される一方、多くの論者により様々な雇用を奪う懸念も指摘されており、雇用をはじめとした社会全体へのインパクトが非常に大きいものです。

当研究では、AI等の導入による雇用へのポジティブな面に着眼し、『AIやIoT等情報通信技術を活用すると、どのような年齢層の労働者によるものであっても、ほぼ同質かつ平準的なアウトプットが期待しうるのではないか』との問題意識に立ち、それらの技術の活用による労働の、いわゆるエイジレス化の可能性とその効果について分析を行おうとするものです。

平成28年に策定された、最も新しい科学技術基本計画である第5期科学技術基本計画では、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の新たな社会、Society5.0、を今後我が国が目指すべき未来社会としております。

Society5.0では、IoTで全ての人とモノがつながり、様々な知識や情報が共有され、今までにない新たな価値を生み出すことで、少子高齢化、地方の過疎化などの課題や困難を克服することが期待されております。

一方、安倍総理の「平成最後の施政方針演説」において、少子高齢化は「我が国の持続的な成長にとって最大の課題」と位置づけられております。さらに「世界で最も速いスピードで少子高齢化が進む我が国にあって、もはや、これまでの政策の延長線上では対応できない。次元の異なる政策が必要です。」と述べられております。

少子高齢化の深刻さが、これまでの想定をも超えて、その度合いを増しているように、思われます。

『「人口の減少=労働力人口の減少」ではない』、労働力人口の減少を、生産性の向上と、高齢者に意欲・能力に応じた力を発揮していただくことで補完し、今後も持続可能な経済社会を維持していく、このような見解をお示しになる識者の方がおられます。私には、このようなご見解は、深刻さを増す少子高齢化に差し込む希望の光明に思われます。

このようなことを念頭に置きつつ、かつ、本研究の本旨にかなう形で、これからも調査・分析を進め、研究を進めてまいりたいと考えています。

平成31年4月

  • 内閣府 経済社会総合研究所
    総括政策研究官 三浦 健太郎

【研究紹介】

インドの経済成長と産業構造

  • 内閣府 経済社会総合研究所
    研究官 藤本 知利

日本経済がアジア新興国のダイナミズムを享受し、ともに成長を目指す視点が重要であることから、アジア新興国経済の発展ポテンシャルに関する研究の一環として、インド経済を対象とし実証分析等を行い、結果をESRI Research Note No.44「インドの経済成長と産業構造」として3月に公表した。インドはIT等のサービス産業を中心とした独自の成長パターンを実現してきたが、雇用の創出や労働者のスキル向上の観点から、製造業の重要性が改めて注目されている。この論文は、いくつかの先行研究を参考に、インドの州別データを用いた回帰分析により成長に与える要因を調べるとともに、工業化のプロセスや高生産性セクターへの労働力シフトに関する国際比較を通じてインドの発展パターンの特徴を整理し、インド経済の課題を検討する上で得られた示唆をまとめたものである。本稿ではその概要について紹介したい。

インドの持続的な成長のため、インフラ整備、人材育成、税制行政手続きの改善など多くの課題が指摘されている。インドの発展に向けた課題を検討する上で、州別データによるGrowth Regressionを行った先行研究であるNagaraj et al.(1998)1を参考に分析した。具体的には、インフラが経済成長に与える影響に着目し、1970~2010年までの州別データを用いて分析した結果、電力、道路、金融、教育などインフラの改善が経済成長に貢献してきたことがある程度確かめられた。

サービス業が成長に貢献してきたインドの特徴は、発展途上国の新たな成長パターンを示したという評価がある一方、「未成熟の脱工業化」に陥っているのではないかという指摘もある。先進国における製造業のシェアは、経済発展に伴い一旦高まり、その後サービス経済化が進行して低下する「逆U字型」を描くことが一般的だが、Rodrik(2015)2は、発展途上国において、所得水準や製造業比率が十分高まらない段階でサービス経済化が始まる「未成熟の脱工業化」が広まっている可能性を指摘する。Rodrik(2015)の分析を再現し、「脱工業化」の世界的な傾向の中での状況について確認すると、インドは、これまではブラジルに近い動きをしてきたが、今後もブラジルの後を追うのか、中国のように先進国に近づく経路をたどるのか岐路に立っているように見える。製造業の発展に向けたインフラ整備やビジネス環境の改善が求められる(図表1)。

Amirapu and Subramanian(2015)3は、インドでは製造業、サービス業を通じて生産性の高いセクターが技能の高い労働者しか受け入れていないため、豊富な労働力というインドの特徴が生かされず、包摂的成長(inclusive growth)に結びついていないことを指摘し、非熟練労働者を活用するような産業の育成や熟練労働者の育成が必要としている。こうした先行研究を参考に、成長への貢献が期待できる高生産性セクターへの労働力のシフトについて国際比較を行うと、インドは、先進国と比べれば距離はあるものの、例えば中国と比較して、製造業への労働力シフトは十分ではないが、運輸・通信業、金融・保険・不動産・事業者向けサービス業ではある程度進んできている(図表2)。インド経済全体の生産性を高めていくためには、生産性の高い産業への労働力シフトがより進むよう、教育等によりスキルの高い労働力を増やしていくことが重要である。

図表1 「脱工業化」の傾向線と各国の推移

(備考)太い実線は「脱工業化」の傾向線、各点は推計に用いたデータ。

図表2 セクター別生産性と就業者シェア(運輸・通信業)


1 Nagaraj, Rayaprolu, Varoudakis, Aristomène and Véganzonès, Marie-Ange (1998) "Long-run Growth Trends and Convergence Across Indian States" OECD DEVELOPMENT CENTRE Working Paper No.131

2 Rodrik, Dani (2015) "Premature deindustrialization" NBER Working Paper Series No.20935

3 Amirapu, Armit and Subramanian, Arvind (2015) "Manufacturing or services? An Indian illustration of a development dilemma" Center for Global Development Working Paper 409


【経済社会総合研究所からのお知らせ】


【最新の統計】

<SNA統計>

<景気動向指数>平成31年2月速報(平成31年4月5日)

2月のCI(速報値・平成27(2015)年=100)は、先行指数:97.4、一致指数:98.8、遅行指数:104.3となった。

  • 先行指数は、前月と比較して0.9ポイント上昇し、6か月ぶりの上昇となった。3か月後方移動平均は0.47ポイント下降し、8か月連続の下降となった。7か月後方移動平均は0.33ポイント下降し、9か月連続の下降となった。
  • 一致指数は、前月と比較して0.7ポイント上昇し、4か月ぶりの上昇となった。3か月後方移動平均は1.03ポイント下降し、4か月連続の下降となった。7か月後方移動平均は0.47ポイント下降し、4か月連続の下降となった。
  • 遅行指数は、前月と比較して0.5ポイント下降し、2か月ぶりの下降となった。3か月後方移動平均は0.04ポイント上昇し、3か月連続の上昇となった。7か月後方移動平均は0.07ポイント上昇し、2か月連続の上昇となった。

一致指数の基調判断

  • 景気動向指数(CI一致指数)は、下方への局面変化を示している。

<機械受注統計調査報告>平成31年2月実績(平成31年4月10日)

  • 機械受注総額の動向をみると、2019(平成31)年1月前月比7.9%減の後、2月は同5.4%増の2兆3,558億円となった。
  • 民間設備投資の先行指標である「船舶・電力を除く民需」の動向をみると、2019(平成31)年1月前月比5.4%減の後、2月は同1.8%増の8,367億円となった。このうち、製造業は同3.5%増の3,881億円、非製造業(除く船舶・電力)は同0.8%減の4,510億円となった。

<消費動向調査>平成31年3月調査(平成31年4月8日)

  • 平成31年3月の消費者態度指数(二人以上の世帯、季節調整値)は、2月の41.5から1.0ポイント低下して40.5となり、6か月連続で前月を下回った。消費者態度指数を構成する4項目全てが前月から低下した。
  • 「日頃よく購入する品物」の1年後の価格の予想(二人以上の世帯)は、「低下する」が3.7%(前月差 +0.3)、「変わらない」が8.0%(同 -0.9%)、「上昇する」が86.4%(同 +0.4%)となった。
  • なお、3月調査では、主要耐久消費財の普及・保有状況及び主要耐久消費財の買替え状況についても調査(年に一度の調査)を行った。

<企業行動に関するアンケート調査>平成30年度(平成31年3月29日)

東京、名古屋の証券取引所第一部及び第二部に上場する企業(以下「上場企業」という。)及び資本金1億円以上10億円未満の企業(注)(以下「中堅・中小企業」という。)に対し、本年1月にアンケート調査を実施したところ、以下の結果となった。

(注)中堅・中小企業は平成28年度より調査開始。

  • 【経済成長率見通し】
  • <上場企業>
    • 我が国の実質経済成長率見通しは、「次年度」(平成31年度)では1.1%、「今後3年間」(平成31~33年度平均)、「今後5年間」(平成31~35年度平均)はそれぞれ1.1%、1.0%となった。
    • 名目経済成長率見通しは、「次年度」では1.6%、「今後3年間」では1.5%、「今後5年間」では1.4%となった。
    • 「次年度」、「今後3年間」及び「今後5年間」の名目経済成長率見通しは、いずれも実質経済成長率見通しを6年連続で上回り、企業が物価上昇を見込んでいることが示唆される。
  • <中堅・中小企業>
    • 我が国の実質経済成長率見通しは、「次年度」では1.2%、「今後3年間」では1.2%、「今後5年間」では1.1%となった。
    • 名目経済成長率見通しは、「次年度」では1.5%、「今後3年間」では1.5%、「今後5年間」では1.4%となった。
  • 【採算円レート】(輸出を行っている企業のみ調査)
  • <上場企業>
    • 現在の時点で採算のとれる円レートは、99.8円/ドルと、前年度調査(100.6円/ドル)から0.8円の円高の水準で、2年ぶりの円高方向となった。
    • 採算円レートは、調査直前月(平成30年12月)の円レートの112.5円/ドルと比べて12.7円の円高となった。
  • <中堅・中小企業>
    • 現在の時点で採算のとれる円レートは、107.0円/ドルと、前年度調査(106.4円/ドル)から0.6円の円安の水準となった。
  • 【海外現地生産】(製造業のみ調査)
  • <上場企業>
    • 海外現地生産比率は、「平成29度実績」では22.9%と、前年度調査(23.0%)に比べて低下した。「平成30年度実績見込み」では22.7%、「平成35年度見通し」では23.8%となる見通しとなった。
    • 「平成35年度見通し」において「平成30年度実績見込み」よりも海外現地生産比率が上昇する見通しの企業の割合は、前年度調査45.7%から今年度調査43.7%と減少した。
    • 海外に生産拠点を置く理由(主な理由+その他該当理由)では、「現地・進出先近隣国の需要が旺盛又は今後の拡大が見込まれる」、「現地の顧客ニーズに応じた対応が可能」などを回答する企業の割合が高い。前年度調査と比べると、「資材・原材料、製造工程全体、物流、土地・建物等のコストが低い」、「現地・進出先近隣国の需要が旺盛又は今後の拡大が見込まれる」などの構成比が低下した。
  • <中堅・中小企業>
    • 海外現地生産比率は、「平成29度実績」では3.7%となった。「平成30年度実績見込み」は3.7%、「平成35年度見通し」は4.1%となる見通しとなった。
    • 「平成35年度見通し」において「平成30年度実績見込み」よりも海外現地生産比率が上昇する見通しの企業の割合は、7.5%となった。
    • 海外に生産拠点を置く理由(主な理由+その他該当理由)では、「労働力コストが低い」、「現地・進出先近隣国の需要が旺盛又は今後の拡大が見込まれる」などを回答する企業の割合が高い。

【参考】<月例経済報告>平成31年4月(平成31年4月18日)

景気は、このところ輸出や生産の一部に弱さもみられるが、緩やかに回復している。

    • 個人消費は、持ち直している。
    • 設備投資は、増加している。
    • 輸出は、このところ弱含んでいる。
    • 生産は、一部に弱さがみられ、おおむね横ばいとなっている。
    • 企業収益は、高い水準にあるものの、改善に足踏みがみられる。企業の業況判断は、製造業を中心に慎重さがみられる。
    • 雇用情勢は、着実に改善している。
    • 消費者物価は、このところ緩やかに上昇している。

先行きについては、当面、一部に弱さが残るものの、雇用・所得環境の改善が続くなかで、各種政策の効果もあって、緩やかな回復が続くことが期待される。ただし、通商問題の動向が世界経済に与える影響や、中国経済の先行き、海外経済の動向と政策に関する不確実性、金融資本市場の変動の影響に留意する必要がある。

<統計調査公表予定一覧>

<統計調査公表予定一覧>
景気動向指数
速報
景気動向指数
改訂状況
機械受注統計
調査
消費動向調査
(全国・月次)
法人企業景気
予測調査(四半期)
平成31年 5月13日
(3月分)
平成31年 4月24日
(2月分)
平成31年 5月22日
(3月分)
平成31年 5月 9日
(4月分)
平成31年 6月13日
(4–6月期)
6月 7日
(4月分)
5月27日
(3月分)
6月12日
(4月分)
5月31日
(5月分)
9月11日
(7–9月期)
7月 5日
(5月分)
6月24日
(4月分)
7月 8日
(5月分)
7月 1日
(6月分)
12月11日
(10–12月期)
8月 6日
(6月分)
7月24日
(5月分)
8月14日
(6月分)
7月31日
(7月分)
 

「企業行動に関するアンケート調査」は例年2月下旬~3月上旬に公表

 (平成30年度調査の公表日: 平成31年3月29日)

国民経済計算(GDP統計)公表予定はこちらから


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