不良債権問題に関する国際フォーラム(概要)

2001年10月11日
経済社会総合研究所

I.開催の趣旨

我が国では、金融機関における不良債権問題の抜本的解決が喫緊の課題となっている。

こうした状況を受け、内閣府経済社会総合研究所では、去る7月17日に第3回目のESRI経済政策フォーラムにおいて、「不良債権問題をめぐって」と題して政策議論を行い、論点の明確化や広範な議論の喚起に努めたところである。

他方、不良債権問題に関しては、欧米の経験を踏まえて、分析手法や解決のための方策について検討を進めていくことも重要である。当研究所においては、これまでも1998年11月(当時は経済企画庁経済研究所)、ステファン・イングベス スウェーデン中央銀行副総裁(当時)らを迎えて不良債権問題セミナーを開催し、主として北欧の経験について学ぶ機会を持った。

今回は米国における過去の経験を活かすべく、米国より深い学識経験を有する専門家を招聘し、日本の学識者・有識者との間で活発な議論を行うことを目的として、当研究所主催により、下記要領にて国際フォーラムを開催したものである。

名称
:「不良債権問題に関する国際フォーラム」
開催日
:平成13年10月1日(月) (詳細日程は別紙1
招聘者
:ベン・ベルナンケ(プリンストン大学教授)Prof. Ben Bernanke
エイニル・カシャップ(シカゴ大学教授)Prof. Anil Kashyap
ランドール・クロズナー(CEAシニア・エコノミック・アドバイザー、シカゴ大学教授)Prof. Randall Kroszer
(主な出席者は別紙2

以上

II.議論の概要

フォーラムでは様々な論点について活発な議論が行われたが、以下は、政策に密接に関連する点を中心に議論の結果を事務局の責任で暫定的に取りまとめたものである。

1. 不良債権処理

  • (1)出席者の間でほぼ意見の一致がみられた点あるいは複数の出席者から共通に指摘された点
    • i.銀行システムの現状と問題点
      • 銀行業の実態はover bankingであり、中長期的に縮小せざるを得ない。
      • 現在の金融行政の問題点は、システミック・リスク条項を具体的にどのように適用するかが明確になっていない点にある。経営者の責任などを含め、公的資金の投入の条件についてきちんとした議論を行うべきである。
      • 銀行の与信構造をみると、90年代には生産性、収益力の低い分野への与信が増えている。こうした銀行による非効率な与信の配分が不良債権の背景にはあり、憂慮するべき問題である。銀行に任せておくだけでは効率的な与信の配分は達成できないであろう。
      • incentiveの問題が非常に重要である。いまのシステムの下では、銀行の責任者は企業の清算をできるだけ遅らせることが最適の行動となる。不良債権を銀行が進んで切り離すようなincentiveを付与することが大切である。また、銀行の与信構造についても、生産性の高い企業に貸出が増えるようなincentiveの付与が重要である。さらに、借り手企業にもリストラのincentiveを与える必要があり、リストラをしないと経営権を失うか、清算されてしまうというプレッシャーにさらす必要がある。
    • ii.政策対応の在り方
      • 資産査定の厳格化と引当・償却の強化が必要である。
      • ディスクロージャーの徹底が必要である。
      • 検査職員の増員など金融庁の機能の抜本的強化が必要である。
      • RCC(整理回収機構)の買取り価格は簿価ではなく、時価を基準とするべきである。簿価で買い取ることになると引当のincentiveが弱まり、銀行のモラル・ハザードの問題が発生する。(金融庁からは、買取りに際しては民間との競争もある一方、二次的損失を出しては困るので、その両者のバランスをとる必要があるとの発言があった。また、同じく金融庁から、現行の金融再生法ではRCCの買取が銀行の救済につながってはいけないということで、二次損失の出ないような価格で買い取っているが、これを弾力化する際には法律の改正も必要となり、国会での激しい議論が予想されるとの発言があった。)
      • 例えば、RCCが不良債権を購入するために債券を発行し、日銀が買い取るなど、不良債権処理のための公的支出を日銀がマネタイズするという方策も有効であろう。(これによって、財政への直接的悪影響が回避でき、また貨幣供給が増加する。)
  • (2)出席者の間で意見の相違がみられた点
    • 不良債権問題解決のスピードに関しては、短期間にスピーディーに処理するべき問題であるとの見方(香西、Bernanke、Sheard、Kashyap等)が多かったものの、現行の法体系の下でじっくりと対応するべき(拙速な対応をするべきではない)との意見(堀内)もあった。また、無理に急いで不良債権を処理しようとすると、経済を危機的状況に陥れる可能性が高いとの指摘(菊地)もあった。
    • 渡辺孝氏が関係省庁・日銀等の主導による「産業構造改善計画」の策定・実施が産業構造改革のために必要との提言をしたのに対し、香西氏は産業構造の変化は市場メカニズムに任せるべきとの観点から反対の意見を述べた。
    • Kashyap氏が不良債権は民間の銀行だけではなく、保険、政府系金融機関の問題でもあるとの指摘を行ったことに関連し、まず民間の問題に集中的に取り組むべきという意見(Sheard)と、民間銀行の収益性の問題には政府系金融機関のあり方が深く関連していることなどから、民間と政府系の両方の問題に同時に取り組むべきとの意見(堀内)とがあった。
    • 銀行が貸出先企業からリスクに応じた金利を取れない理由については、浜田所長がメインバンク制などの日本的特質を強調する見方を紹介したのに対し、Kroszner氏は、日本だけではなくアメリカでもかつて同様の現象がおきており、銀行へのincentiveの付与に問題があるとの意見であった。また、マクロ経済の改善がないかぎりは、銀行が貸出金利を上げることはいずれにしても難しいとの意見(Sheard)もあった。
    • 銀行の収益力を上げるための努力がまず必要であり、その後に金融政策の出番があるとの意見(白塚)があった一方で、景気が悪ければ、収益が上がらないのは当然であり、政策の順序は逆であるとの意見(浜田所長)があった。また、両者は同時に進めるべきであるという見方(Kroszner)も示された。
  • (3)アメリカの経験から明らかになった点
    • RTCによる資産の売却が行われた後、一時的に貸出債権及び不動産の価格は低下したが、その後市場が活発化し、価格は上昇した。日本では一般的に価格は下がると考えられているようであるが、アメリカでは逆のことが起こった(Kroszner)。
    • RTCでも80年代に公的資金を投入したが、これは破綻した銀行だけを対象としたものであり、預金者保護の観点から行われたので、国民の理解を得やすかった。日本のRCCは破綻していない銀行からも不良債権を購入するので、RCCへの公的資金投入はアメリカのRTCの場合とは事情が異なる。(Bernanke)。

2. 財政金融政策

  • (1)出席者の間でほぼ意見の一致がみられた点あるいは複数の出席者から共通に指摘された点
    • 政府と日銀の間に緊密な協力関係を構築するべきである。
    • デフレの解消が不良債権処理にとって極めて重要である。いまのようなデフレの下では、不良債権額も膨らみ、結局何らかの形で公的資金を注入しなくては、現行の銀行システムは維持できなくなる可能性が高い。
    • 不良債権処理による痛み、より一般的には経済構造改革による痛みを和らげるためにも、失業対策などのセーフティネットの拡充が重要である。
  • (2)出席者の間で意見の相違がみられた点
    • 財政金融政策の基本的スタンスについては、不良債権処理をスムースに行うためにも、できうるかぎり拡張的な財政・金融政策をとるべきとの見方(菊地、Bernanke)や、不良債権処理にかかる財政支出は国債発行枠30兆円の枠外とするべき(Bernanke)、さらにはアメリカ同時多発テロ以降の状況を鑑みれば、30兆円の上限については柔軟に考えるべきとの見方(Kroszner)があった一方、今日の財政状況はこのまま悪化を続けるならばキャピタル・フライトを招くような段階にあり、基本的には財政赤字を減らしていく政策をとるべきとの意見(深尾、伊藤)もあった。また、この点に関連し、不良債権処理のための支出を除外して考えれば、30兆円の上限は必ずしも緊縮的でないとの指摘(岩田)があった。
    • かなりの数のアメリカ人・日本人参加者は、金融政策がデフレを克服する上で有効であるという意見を表明した。これに対して、一部の日本人参加者は、デフレ解消策の意味と有効性について疑念を表明した。
    • 円安のための為替介入・誘導については、輸入産業に対してマイナスのサプライ・ショックになることも考慮すべきとの見方(宮尾)や政治的に実現性が低いとの見方(深尾)が示された一方、日本経済が良くなることによる所得効果が価格効果を上回ることも十分考えられることから、外国にとってもマイナスとはかぎらないとの見方(Bernanke)もあった。
  • (3)アメリカの経験から明らかになった点
    • 30年代のアメリカの大恐慌の主犯はFRB(連邦準備制度理事会)であり、FRBが自らの独立性に過度にこだわり、自らのバランスシートばかり気にして、デフレの問題を看過したことが大きな原因であった。大恐慌から脱出できたのは、基本的にはRooseveltがリフレ政策をとったからである(Bernanke)。
  • (4)インフレ・ターゲティングについて
    • 日銀は0%ないしそれよりやや上のインフレ・ターゲティングを導入し、1年半ぐらいの目標期間を設定して、金融政策を運営するのがよい、また、日銀がインフレ・ターゲットを導入しないのであれば、政府が目標を設定することになるかもしれないとの個人的見解(中原)が示された。
    • インフレ・ターゲティングではなく、物価水準ターゲティング(例えば、今回のデフレが始まる前の水準を当面の目標とする)の方が望ましいとの意見(宮尾、Bernanke等)もあったが、両者の実質的違いはほとんどないのではないかとの意見(伊藤)もあった。
  • (参考) 会議全体を通じての主要論点 (内閣府経済社会総合研究所 浜田宏一所長)
  • 大変刺激的で、多くの論点を含む本日の議論を簡単にまとめることは困難であるが、次のような座標軸が提起されたと思う。
    • (1)不良債権処理の議論は、ミクロ経済、マクロ経済を問わず国民経済全体とかかわっている。そして単に金融の側面を考察するだけではだめで、保険、証券等の広い意味での金融システム全体に関する問題である。したがってその分析は,包括的(comprehensive)であり、各部門の協調(coordnation)を考慮に入れるものでなくてはならない。
    • (2)同時に、貸し出しの分布、物価指数の構成要素などの動きが示すように、経済の構成(composition)に対する注意も必要である。
    • (3)不良債権処理にあたっては、動機づけ(incentive)の活用が必要となる。経済主体に望ましいインセンチヴを与えるには価格メカニズム、市場メカニズムの活用が極めて有効である。この点から考えると、RCCによる不良債権の簿価による買い上げなどは原則として望ましくない。(不良債権処理の痛みを和らげるために時価でなく「時価プラスアルファ」でという意見もあり。)いわゆる債権の流動化を軸とするRTC方式と、資本注入によるRFC方式との差もインセンチヴ機能の比較から判断しなければならない。
    • (4)経済政策の施行されるプロセスも、それが実現されるようなインセンチヴを持たねばならない。さもないと、せっかくの良い政策案も絵に書いた餅となる。
    • (5)現在の不良債権処理に最も重要なことは、それを指導力(leadership)をもって迅速に行うこと(speed)と、望ましい順序(sequencing)で行うことである。
    • (6)不良債権処理には、政府が資金を投入しても問題を解決するという意図をはっきり表明することが最も重要である。
    • (7)銀行が、正常な利ざやを確保できるようになることが必要であるが、そのためには、資本の充実、旧来の慣習からの離脱、人件費の節約、そして経営能力の開発が望ましい。
    • (8)民間にも,政府にも不良債権処理に関する人的資本(human capital)が不足している。
    • (9)不良債権の存在は金融政策を働きにくくし、逆に金融政策がデフレを克服できないと不良債権が増加する。このように、ミクロとマクロ、実体面と金融面は密接に関係しているのでcomprehensiveにみなければならない。財政政策と金融政策にかかわる当事者間のcoordnationが必要とされる所以である。
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