「金融問題に関する国際フォーラム」の議事概要

2002年4月5日
経済社会総合研究所
情報研究交流部

以下は、内閣府経済社会総合研究所が、3月20日、22日に日米の専門家を集めて開催した「金融問題に関する国際フォーラム」の概要を、事務局の責任で取りまとめたものである(以下、敬称略)。

Part1 金融政策

金融政策では、1)デフレの要因(90年代の金融政策の評価)、2)ゼロ金利下の金融政策(量的緩和の有効性)、3)現在の量的緩和の充足度、4)量的緩和の方法、5)金融政策における期待の役割等について、議論が行われた。

1.デフレの要因(90年代の金融政策の評価)

デフレの要因として、90年代の金融政策が厳しすぎたことを指摘するもの(星、マッカラム、メルツァー、伊藤、河合等)と、供給面を重視するもの(堀内、吉川、賀来、香西)に意見が分かれた。

星、マッカラムは短期金利から見ても、ベースマネーから見ても金融政策は厳しすぎたとし、マッカラムはテーラールールに則った金融政策の運営がされていれば、ベースマネーの伸びは平均11.9%であり(実績5.4%)、名目GDPの伸びは平均3.1%になったという試算を示した。また、メルツァーは、アメリカの方が生産性が高かったのに、日銀が不胎化政策を取ったため、為替が減価せず物価が下落することになったと指摘した。

一方、香西は、要素価格であるGDPデフレータの下落が最も大きい点を指摘しつつ、デフレはグローバル化、自由化による賃金・地価の調整の影響が大きいとし、アジアの発展途上国の労働市場がまだ完全雇用に達していないため、為替による調整ができず、競争関係にある日本の物価は下がらざるを得ないと主張した。吉川は、19世紀の大恐慌でベースマネーの増加がデフレへの解決策にならなかったことと、中長期的成長力が弱いことを問題とした。

2.ゼロ金利下の金融政策(量的緩和の有効性)

多くの出席者(星、マッカラム、メルツァー、伊藤、林)は、ベースマネーの増加がマネーサプライ(M2CD)に与える効果が小さくなっており、金融政策の有効性が小さくなっているが、為替レートを通じた経路等により、理論的にはまだ量的緩和の余地があることで一致した。但し、渡辺努は金利と通貨供給量はコインの裏表であり、金利が効果を持たないなら量的緩和も効果を持たないと主張した。

星はゼロ金利導入以降、MBがM2CDに与える影響が弱まっているが、依然名目GDPにプラスの効果があるので、波及過程が弱いのなら日銀はもっと積極的な対策を取るべきと主張した。また、メルツァーは、アメリカで短期金利がゼロに近づいたのは1937-38年と‘48-49年しかなく、両期間とも物価下落が実質金利を上昇させたが、同時に金融政策が実質ベースマネーを上昇させ経済を回復に導いた経験を紹介した。

(貸出し機能の不全)

堀内、賀来は日本の製造業が過剰資本で借入れ需要がないことを強調した。しかし、多くの出席者は、銀行の機能不全等が金融政策の有効性を低下させていることに同意しつつも、貸出し機能が不全でも金融政策は他のルートを通じ機能すると論じた(メルツァー、星、林)。

(日銀のバランスシートの悪化)

多くの出席者は、日銀のバランスシ-トの健全性よりも、日本経済の回復の方が重要と述べた。

メルツァーは、中央銀行の健全性は既に陳腐化した議論であり、他の主体による通貨供給が不足する時、これを行うのは中央銀行の責務であると述べた。資産が赤字になって活動できなくなった中央銀行はないし、中央銀行の負債は金利がゼロであるため将来の収益で埋め合わせることができると主張した。林は、日銀のバランスシートは時価会計で見れば問題はないと述べた。

一方、白塚は、日銀法上、債務超過になった場合の規定が存在しないことは事実であり、日銀のバランスシートの悪化についての国民合意が必要である。日銀が損失を蒙った時の対応について、政府が明確にコミットメントを示す必要があると述べた。

(円安による近隣窮乏化)

ベースマネー増加による円安が海外諸国に与える影響について、吉川は国際的視野から検討する必要があり、アメリカの合意を得る必要があると指摘した。マッカラム、メルツァーは、所得効果により、日本の輸入が増えるので近隣窮乏化にならないとし、近隣諸国にこれを説明する必要があると述べた。

3.現在の量的緩和の充足度

昨年3月に日銀が量的緩和に踏み切り、特に9月以降ベースマネーの伸びが高まっていることに対し、賀来は行き過ぎと述べ、白塚はさらなる緩和が刺激効果を持つかどうかは疑問とした。しかし、多くの出席者は金融緩和の状況が変化したことを評価し、マッカラム、シェアード、河合、星はさらなる緩和が必要と述べた。

4.量的緩和の方法

多くの出席者は、通貨との代替性から、政府短期証券といった通常の公開市場操作以外の資産の購入が重要と述べた。しかし、どの資産を購入するかについては意見が分かれた。

マッカラム等は、長期国債も短期証券同様通貨との代替性が強いため、外国為替の買入れを主張した。日銀に買入れ権限がないという批判については、当面は政府(財務省)の許可を得れば良いと述べた。

一方、伊藤は、外国為替の購入は、アメリカが気にして対抗する介入が行われたら効果はないとして、長期国債、CP、CB、投資信託、もし必要ならREIT(不動産投資信託)の購入を主張した。河合はこれに同調し、国際的な政策整合性が必要と述べるとともに(これに対し、マッカラムはゼロ金利の制約に陥っている国はほかにないと述べた)、外国為替購入により円が崩壊するのは避けるべきで、市場の動きに任せた方が良いと主張した。

このほかの方策として、星は日銀と政府が協調してヘリコプターから金をばら撒くように家計に現金を配ることも有効であると論じた。メルツァーは日銀による不良債権買取、シェアードはRCC(整理回収機構)が発行する債権の買取も方法のひとつだと述べた。

5.金融政策における期待の役割等

多くの参加者は、金融政策において期待が果たす役割が重要であることに同意し、日銀のコミットメント、そして市場対話能力を高めることが重要とした。

マッカラム、カシャップ、林は、日銀はこれ以上できることはないと言い続けてきたことは問題であるとした。メルツァーは、「日銀は説明を求められると言を左右し、あたかも自らの政策を信じるなと言っているようだった」と述べた。

これらに対し、白塚は、「日銀のコミットメントは、金融システム安定策としては成功したが、景気刺激効果は小さかった」と述べた。

(インフレ目標政策)

インフレ目標政策の採用については意見が分かれた。

マッカラム、メルツァー、伊藤、渡辺努、河合、浜田、星はその導入に賛成した。渡辺努、シェアードは、01年3月のCPIゼロ%以上というコミットは低すぎるとし、渡辺努は3~4%というもっと高めのインフレ率にコミットすべきと述べた。岩田は、CPIゼロ%以上は現在の金融緩和政策の終了条件になっているが、インフレ目標政策ということであれば、もっと高い数字を掲げるべきと述べた。

これに対し、白塚は、「インフレ目標政策は中長期的な政策と緊急時のリフレ政策を区別すべきであり、中長期的な金融政策運営の透明性を確保するという面では重要だが、最近の緊急政策として取るのはギャンブルである。インフレ目標政策の議論は、デフレを収束させるために、よりアグレッシブな政策をとるべきか、という議論と同じことである。」と主張した。また、吉川、賀来、堀内は、インフレ目標政策によってインフレ期待を高めるというロジックの波及過程がはっきりしないと、その採用に疑念を示した。但し、吉川は、インフレ目標政策は効果はないと思うが、他の政策と一緒に取られるなら問題はないと述べた。

Part2 不良債権問題

不良債権問題については、1)不良債権問題の進展状況の評価、2)今後の不良債権問題への対応方向、3)頑健な金融システムの形成、4)公的資金導入の現時点での必要性、5)公的資金導入の在り方等について議論が行われた。

1.不良債権問題の進展状況の評価

この半年間で不良債権が9.7%増加していることの理由として、1)不良債権処理の速度が遅いこと、2)デフレによる新規不良債権の発生、3)査定の厳格化が指摘された(渡辺孝ほか)。

不良債権問題が長引いている背景として、神田(論文のみ参加)等は、銀行経営者に悪いローンの継続インセンティブがあり不良債権処理のインセンティブがない一方、行政側は情報不足でなかなか処理のために必要な行動に移せないと指摘した。また、シェアードは、「政府が金融危機を回避することと公的資金の利用を最小限にすることの両立を図っていること」と、「日銀は不良債権問題を解決しないとデフレを止めることができないと主張する一方、政府はデフレが終息しないと不良債権問題は解決しないと主張している」という政策協調の失敗を指摘した。

査定の厳格化については、渡辺孝は、「金融庁が漸く現実を直視し始めていることや一部都銀の動きに他の銀行が徐々に追随していることは、ある程度評価できるが、いずれもそのテンポはきわめて遅い」とするとともに、甘い再建計画が正常債権等の不良債権化をもたらしている問題点を指摘した。

一方、いくつかの進捗として、1)不良債権の時価による買取の進捗(河合)、2)主要銀行の統合(河合)、3)流通・建設業の大型倒産等に見られるリストラの進捗(河合、渡辺等)を指摘する意見があった。

2.今後の不良債権問題への対応方向

クロズナーは北欧とアメリカの経験を説明し、「政策担当者が銀行問題を過小評価し政策対応が遅れるとともに不充分なものとなったが、やがて問題の深刻さが認識され積極的な確固たる対応が取られると問題は解決に向かった」と述べた。「日本の場合、問題は金融二法制定等が行われた98年を確固たる措置の始まりといって良いかどうかだ」と問題提起を行った。

多くの出席者は、不良債権問題の先送りが解決の費用を大きくしているとし、政府と民間の不良債権問題解決への確固たる行動が極めて重要であることに同意した。

また、クロズナーは、各国ともに金融緩和が行われ、確固たる措置により景気にマイナスの影響が出なかったことを指摘するとともに、アメリカでは確固たる措置が取られるようになると、不良債権のオークションが資産価格を下落させるどころか上昇させるようになったことを紹介した。そして、日本でも銀行が資金供給を断ったことによる最近の大型倒産が前向きの動きと受け止められ、全般的な株価を引き上げるようになっているのに注目した。

(政府の対応の重要性)

シェアードはペイオフ解禁が先ず重要と強調するのに対し、神田、星、カシャップ等は政府の行動が重要とした。シェアード、カシャップは、NPL問題解決のため政府は十分な資金を供給することが重要と述べ、シェアードは日銀の支援も重要と指摘した。カシャップは政府に十分な資源がなく、銀行を監督する職員も不充分とし金融庁の予算の増額を主張した。

(銀行の自己資本比率の水増し問題等)

銀行の自己資本比率が繰延べ税金資産、公的資金により水増しされている(カシャップ、翁、岩田)、特別検査の結果が出ても主要銀行の自己資本比率は10%以上で健全というふりをし続ける心配がある(星、カシャップ)。これに対し、実質自己資本比率ということで繰延べ税金資産を除くことは、現在の金融庁の会計基準を離れるというルールの変更であり、それで経営責任を問えるかという問題が残るという指摘があった(上田)。

(整理回収機構)

整理回収機構による不良債権売却が重要であり、市場を通じた処理を実現するためのインセンティブメカニズムを形成することが必要である(浜田、カシャップ、星)。整理回収機構による不良債権の高額の買取が、その市場の発達を阻害することに懸念がある(星)。クロズナーはアメリカのRTCが売却とともに再建の役割を果たしたことを重視し、北欧では公的資金を使ったが、市場が破綻企業のリストラを評価し、株式売却益が大きかったため、その資金を回収できた事例がある(翁)。

3.頑健な金融システムの形成

より根本的に、銀行の低収益体質への対応が重要であり、銀行が収益をあげられるようにする必要がある(多数)。

預金が完全に保証されていることがオーバーバンキングの要因になっている(シェアード)。補助金を得て活動している公的金融機関が銀行の競争力を阻害していることが問題であり、不良債権問題悪化要因となっている公的金融機関は閉鎖すべきである(カシャップ)。

(銀行のコーポレートガバナンス)

シェアードは、オーバーバンキングは銀行の数が多すぎることと銀行の過小資本の問題を区別するべきであり、後者は合併で解決する問題ではなく、コーポレートガバナンスが重要と述べた。上田は収益力の増強、リストラで自力で資本増強を進めていくことが重要とし、カシャップ等は収益をあげられない銀行経営者は交替すべきとした。

(借り手企業の低収益性)

銀行の低収益体質の背後にある借り手企業の低収益体質が問題であり、これら企業のリストラや経営者の交替、企業の退出が重要である(香西、翁、カシャップ、林)。不採算企業の温存が、新規企業がそうした補助金漬けの企業と競争を嫌がる効果を生み、新規参入に悪影響を与える(カシャップ)。

また、中小企業について善良な貸出し先として保護するよう政治的な圧力がかかる(神田論文)、これまでの資本注入で中小企業への貸出しを義務付けたことは、銀行の収益改善を困難にし問題であった(星、賀来、翁)。

このほか、株式保有の関係で銀行問題は保険業の問題とも密接につながっており、同時的な対応が必要である(カシャップ)。

4.公的資金導入の現時点での必要性

金融システム危機を招くことなくペイオフ解禁を行うため十分な公的資金の導入が必要である(シェアード)。また、銀行問題は97年のような差し迫った脅威はなくなっているが、銀行の資本増強を加速させる観点が必要である(河合)。

一方、「現時点での強制注入は枠組みを変える必要があるため、もっと議論が必要であり、ある程度特別検査を続け、銀行が自ら資本増強を図っていくのが第1である」、「銀行が評価を失っている中で大量の資金注入が与える効果は疑問であり、むしろビジネスモデルを変えるインセンティブを与えた方が効果があるかもしれない」、「良い銀行と悪い銀行を区別するため、整理回収機構をもっとドラスティックに使ったらどうかと思う」(堀内)。なお、「銀行が巨額の赤字を垂れ流している状況下での公的資金投入は、不採算行の延命やモラルハザード発生の恐れが大きいので、極力慎重に対処すべき」という指摘もあった(渡辺孝)。

5.公的資金導入の在り方

企業の再建インセンティブを重視し、これまでのような一律の注入は行われるべきではない(全員)。

(債務超過前の選別的資金投入)

債務超過後のシステムリスクを起こさないための資金投入に加え、債務超過前に勝ち組み銀行を残す観点から選別した資金投入が必要である(翁)。資産査定や引当金の厳格化により残すべき銀行を絞り選別的に注入する(渡辺孝)。現行の預金保険法はこうしたケースをほとんど想定していないので、法改正か別の立法措置を早急に練るべきである(渡辺孝、翁)。これに対し、上田は、金融危機は金融システムに関わる市場の失敗ということで、公的資金注入が正当化されるが、特定銀行の体質強化は市場の失敗の問題ではないので、議論を深める必要があると述べた。

(経営責任の追及等)

過去の早期健全化による注入は、銀行が健全であることを前提とした貸し渋り対策としての性格を持っており、1)銀行の健全性が前提であるため株主責任は問えず、2)自己資本ではあるが負債的性格を持っていたため、不良債権償却に充てられず、配当負担により銀行の体質を弱めることになった(翁)。選別の条件として、経営陣の総退陣、リストラの強化、減資による株主責任の追及等により、リスクに見合った収益があげられるよう銀行経営の刷新が行われることが必要である(渡辺孝、翁、カシャップ等)。

(選別方法)

多くの出席者は、選別に当たって株式市場等の市場シグナルを活用することが重要と述べた。

注入の目安は自己資本比率になろうが自己資本比率の質が問題であり、特別検査の結果どの程度必要かを公開し、市場の反応を見てどの程度国際的に通用するか検討すべきである(翁)。

Part3 政策協調とその他の政策

多くの出席者は、デフレ問題と不良債権問題には、双方向の因果関係があり、政府による不良債権対策を含む構造改革と、日銀の金融緩和による、政策協調が重要であると考えた。

短期的には財政政策による需要創出も必要である(翁)。これに対し、財政刺激は不採算企業を永らえさせ逆効果(渡辺孝)。また、財政赤字をこれ以上増やさないというのはコンセンサスとして、需要創造型の技術革新を提唱し(吉川)、財政赤字をふやすことなく総需要を刺激するような財政支出と税の見直しが必要である(伊藤、河合)。

<参考>

フォーラムの席上、ベネット・マッカラム教授、エイニル・カシャップ教授より、以下のような提言がなされた。出席者の間では、大方、好意的な反応が多かったが、細部に至っては異論もあった。両提言は以下の通りである。

マッカラム提言

日銀がインフレ率を1~2%に設定するインフレターゲット政策をとり、ベースマネーを外国為替など通常保有する以外の資産で供給すべきである。その際、為替レートについては自由変動させ、目標を持つべきではない。ただひとつ必要な協調は財務省と日銀法がこの政策を妨げないことである。

カシャップ提言

政府は必要な場合には、不良債権問題を解消するために十分な規模の公的資本注入をすべきである。資金の配分には市場シグナルを活用する。不良債権問題に貢献している政府関係機関は廃止すべきである。銀行の経営陣は入れ替える。不採算企業にこれ以上の資金供与はしない。日銀はこの政策変更を支持する。金融庁の予算を大規模に増額すべきである。不良債権について、市場を通じて売却できるようになることが重要である。

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