ESRI国際コンファレンス:「“失われた10年”における日本経済の変貌と回復」の議事概要

セッション1:<金融政策と金融市場>

  1. 1.報告者のプレゼンテーション
    1. 三平 剛:「量的緩和政策は効果があったのか」
  • 2001年3月に日本銀行によって導入された量的緩和政策は新しいマネタリーポリシーのフレームワークであり、
  1. 金融政策上のオペレーティングターゲットの量的指標(日銀当座預金)への変更、
  2. インフレーションレートが安定的にプラスになるまで政策を続行するというコミットメント、
  3. 国際の買切りオペレーションの増額により日銀当座預金の残高を円滑に供給するというもので、2006年3月まで実施された。
  • 量的緩和政策が実施された間、実際のコールレートはほとんどゼロであった。この間、政策の運営目標ターゲットは日銀当座預金という量的指標によって示されており、コールレートのターゲットは存在しなかった。
  • 量的緩和政策の期間中の量的ターゲット、日銀当座預金の推移を見ると、当初の5兆円が最終的には30~35兆円であった。
  • 量的緩和政策のマクロ経済的な効果について、マクロモデル、あるいは構造VARモデルで分析すると、経済の回復にプラスの効果を与えていたといえる。
  • 一方で、その波及経路について分析すると、期待効果、タイムラグ効果、シグナリング効果、ポートフォリオ・リバランシング効果のいずれも、量的緩和に固有の効果があったとは言えないというのが結論である。マクロでの効果が認められるが、波及効果においてはまだはっきりしていない状況である。
    (論文は「Was Quantitative Easing Policy Effective? An Empirical Analysis of the Monetary Policy in Japan during 2001-2006
    [ 1 (PDF形式 391 KB)別ウィンドウで開きます。 ] [ 2 (PDF形式 353 KB)別ウィンドウで開きます。 ] [ 3 (PDF形式 324 KB)別ウィンドウで開きます。 ]」)
  1. 2.討論者のコメント
    • Ken West (三平報告について)
      • 現在、日本は流動性の危機から抜け出そうとしているところであり、量的緩和政策が根本的な役割を果たしたのかについて注目している。
      • 過去の文献が量的緩和政策よりもアナウンス効果に注目したものであるのに対し、今回の論文は量的緩和政策が終了したことで政策の全実施期間を振り返ることができる点が重要なポイントであり、いろいろな波及効果のメカニズム等について慎重に分析がされている。
      • 新旧の論文で一貫性が見られる部分は量的緩和によって日銀の当座預金残高が大幅に伸びたという点であるが、今回はゼロ金利政策とは違った観点での説明であり、より明確となった。また、新しい要素としては量的緩和策が実質的な効果をアウトプットに与えたということである。
      • アウトプットギャップへの効果についての計算では、2001~2005年について仮説として量的緩和策が実現しなかった場合の計算もほしかった。
      • 構造VAR、二つのマクロの変数については、統計的な優位の差を経済面でのマグニチュードに置き換えることが必要である。
      • マクロと波及経路の根拠にギャップが見られるが、波及経路のほうが優位である。2001~2005年の間において根本的なところで何らかの原因があるようなので、2001年の前後で分けていただきたい。
      • 貨幣需要のレシジュアルと総需要の曲線は一緒にすべきではないと思われる。
      • 波及経路は以前の論文とも一貫性を持っているが、チャンネルについてはあまり明確ではない。量的緩和策が実質的にマクロの成果を上げていることをより詳細に分析することを期待している。
        (説明資料は「I.Summary II.Comments (PDF形式 19 KB別ウィンドウで開きます。)」)
  2. 3.質疑応答
    (Speaker)
    • 24頁のグラフではインプライド・フォワード・レートが見られるが、この図から量的緩和策の効果を見出すことは難しい。ダミー変数を用いる場合は、根拠のある継続的な変数が必要である。
    (Speaker)
    • 当座預金の残高については低調でないことが分かるが、マネーサプライについて何が起きているのかをマネタリーベースで見ることは有益である。
    • 過剰マネーについて先行きが不明ではあるが、当座預金残高が急激に下がっていることから予測がなければならない。
    (Speaker)
    • フォワードレートについては相対立する効果が見られる。コミットメントの期間中は低くつなぎとめることができたが、政策が有効に運べば適正なインフレ率になり、フォワードレートも上がる。8、9年先にはそうなると思うが、触れられていない。
    • 長期のインフレ期待ということであるが、日本にはそのようなデータが存在するのか。その中ではインフレ期待を5年先、10年先までさらに上げていくための何らかの方策が示されているのか。
    (Speaker)
    • 金融政策の経緯、そして当座預金残高の変化、ターゲットの変化から2003年4月以降、当座貯金残高が急激に増えたということが分かる
    • ゼロ金利政策と量的緩和政策には二つの目標があり、日本の経済がさらに下降し底が見えない状態の中で、野放しのデフレーション
    • 量的緩和政策の効果は株式市場あるいは為替に見られ、リバランシングに関しては特に家計部門の貯蓄が銀行預金から株に流れるようになった。
    (Speaker)
    • QEPについての波及経路を過去10年について見る場合には、銀行制度について非常に明確な分析を行う必要がある。マネーサプライは必ずしも量的緩和に直接反応するわけではないので、一層の分析が必要である。
    • 非常に長いデフレ、また「失われた10年」が長引いている最大の理由は、金融制度がうまく機能していないところにある。
    三平
    • 皆さんから有益なコメントと今後この研究プロジェクトを進めていく上での重要な示唆をいただいた。
    • 量的緩和のアウトプットギャップへの効果について、長期の係数ではなく、量的緩和があった場合となかった場合の比較でマクロの影響を見るという点については、過剰マネーをゼロに置いた場合とそうでない場合とのシミュレーションの差という形で出してみたい。マクロモデルでもダミー変数を使って試みてみる。
    • マクロで過剰マネーという特殊な変数を使い、波及経路の分析で(データが得られなかいため)別の変数を用いているのは確かに整合性が取れていないので、マクロの分析でもベースマネー等オーソドックスなメジャーを使ってみたい。過剰マネーという特殊な変数を用いていることがマクロの分析結果に影響している可能性は強いと思う。
    • フォワードレートの分析では、将来のインフレを織り込んだモデルをベースに推計しているので、将来のインフレ期待は考慮されているが、確かに明示的には推計式の中に入っていない。インフレ期待の変数としてサーベイのデータ等が利用できれば明示的に含めて推定できるかもしれない。
    • 株にプラスのリバラシングの効果が認められたか、量的緩和がデマンドのどこに効いたかは、はっきりした結果は得られていない。
    (Speaker)
    • 波及経路はあまり明白でないと結論づけてよいようである。分析に当たっては伝統的な変数、計量経済学的な変数ではないので定量化するのは困難であるし、特定のダミー変数を選択するのは難しいと思う。
  3. 4.報告者のプレゼンテーション
    岡田 靖:「なぜ小幅で頑固なデフレが問題なのか」
    • デフレーションのメカニズムは非常に単純なものであり、そこには特別な想定やメカニズムはない。流動性の罠は日本に限らず共通の現象であり、(すでに低いインフレ率からさらに)中央銀行が長期のターゲットインフレ率を下げた時に必ず起こるものである。
    • なぜ低率のデフレが持続するのかであるが、1930年代の大恐慌の時の米国や日本のデフレ率が10~20%であったのに対して今は1~2%にすぎないが、この小幅であることが長期の景気停滞を引き起こしてしまった。労働生産性、実質賃率を見ると1~2%のデフレ率で十分に実質賃金率を上げてしまい、それが企業収益を圧迫したことが2002年までの回復が弱かった理由である。
    • 実質賃金率が下がると企業収益は回復するが国内消費需要は弱くなり、むしろ長期的な不況を引き起こす可能性すらある。そこで必要になるのが外需のサポートである。政府・日銀が「デフレを終わらせ、経済を正常化する」と明確に宣言すれば輸出中心の回復を引き起こすことができる。しかし、現状は非常に脆弱な状況であり、長期的な調整プロセスはまだ終了していない。
    • 平均労働生産性を見ると大きな変化が生産サイドで起きているとは思えない。実質賃金率と労働生産性の間に非常に大きなギャップが生まれたことで日本企業は収益ベースを回復することができたが、それが本当に堅固な回復であるのかは分からない。
      (論文は「Is the Persistence of Japan’s Low Rate of Deflation a Problem ? [ 1 (PDF形式 53 KB)別ウィンドウで開きます。 ] [ 2 (PDF形式 93 KB)別ウィンドウで開きます。 ]」)
  4. 5.討論者のコメント
    Anil Kashyap (岡田報告について)
    • 岡田さんは強調されなかったが、経済の中にはコンスタントに実質の歳出レベルがあり、通貨供給量が伸び、また、コンスタントな生産があり、定常的な実質の変数につながっている。マネーサプライが均衡でもコンスタントでなければならず、それがインフレのトレンドを抑えた。
    • 1990年代と2000年になっての数年間、不況の折に非常に金融の刺激があったのになぜデフレが続いたのか。財政金融政策が緩和されているのになぜリセッションが続いたのか。ゾンビについての議論はいろいろあるが、破綻した会社を存続させ市場のシェアを維持しようとしたことが競争の構造などを歪曲したということである。
    • リセッションがいつ起きるか、財政と金融政策のスタンスの2点は、重要な点として理解されなければならない。二つのトレンドは、かなり帰属計算をしなければ一致しないので、もう少しメカニズムを導入して理解する必要がある。
    • 日本経済は完全に危機から脱出したわけではなく、通常のオペレーションをしているはずで、過去最も長い拡大期を脱却したのに銀行の名目金利1.5%ということから、いずれまた銀行が大きな問題を抱えることになる。
    • 過去15年を振り返って、日本は低インフレになじんでしまっているのか、日銀は低インフレ目標を設定すべきであるという人もいるが間違いであり、低インフレを目標として維持し続けることは懸命でない。
    • 今後は構造改革がより必要であり、日本が正常な状態に戻ったかどうかの結論は出ていない。銀行セクターが正常な行動を執らない限り、すべてが正常に戻ったと自信をもっては言えない。
      (説明資料は「Comments on “Is the Persistence of Japan’s Low Rate of Deflation a Problem?” (PDF形式 47 KB)別ウィンドウで開きます。」)
  5. 6.質疑応答
    (Speaker)
    • 実質賃金の問題が利益の危機を生み、利益の危機が投資に影響を及ぼすということで将来が暗い状況ということになるが、新しい投資が起こらないことがすべてに影響しているのか。
    Kashyap
    • リソースがゾンビ企業のような誤った方向に取り込まれてしまうようであるならば、人々は投資を控えるだろう。
    (Speaker)
    • ゾンビに関してだが、1.5%からどうやって脱却するのか。政策金利が変わる必要があるのではないのか。
    Kashyap
    • 期待インフレが上昇していくならば政策金利もそれに伴い変化し、銀行も間接金融をより正常な形で進めるだろう。問題はデフレから脱却したのか、なぜ長期の期待インフレがもっと上がらないのかである。
    • 輸出主導型の成長ということについては、生産の伸びの余地はまだ大きいと思う。ただ、成長を持続するためには内需・サービス部門が伸びなければならない。
    (Speaker)
    • 現行の経済のレートは内需によって回復しており、企業投資、設備投資が引き金になっているといえる。
    (Speaker)
    • (Kashyap教授に対して)かつて日本の金融危機の時期があり、1997、98年にかけて政府が公的資金を主要銀行に注入したことは過去10年で最も深刻な問題であり、マイナスの影響があったのは自然なことで数年しか回復しなかったのは当然だと思う。
    (Speaker)
    • 景気の回復には輸出の刺激が非常に重要であったが、中国の好景気が要因かもしれない。回復についての政策面、外政的な面での分析が必要である。
    • 多くのリストラが日本で行われたのなら、なぜ生産性という形で数字が改善しないのか。
    (Speaker)
    • ほとんどのゾンビ企業は死に絶えている。株式公開会社の損益分岐点は低い水準にあり、バブル以前の数字ということで企業も健全になってきている、リストラも進んでいるのだろう。さらに、銀行に注入された公的資金は、ほとんどのメガバンクが返済をしている。
    • 設備投資あるいは輸出から見て回復が実現しているというが、設備投資プラス輸出のGDP比は伸びても2002年から消費のGDP比は下がってきており、大幅な乖離がある。また、企業収益は日銀が期待したほど家計部門に流れ込んでいない。
    岡田
    • 金融システムの不安定も、現金通貨に対する需要を増加させるのでデフレの原因となる。
    • ゼロに近い金利政策が1995年後半に導入された時期、デフレは明らかであった。長期の金融政策に対する信任は重要だが、短期の金融政策の変動も非常に重要な要素であり、日銀の一貫性のない姿勢、場当たり的な金融政策は全く意味がない。
    • 日本の賃金率の硬直性は5~6年で見るなら大きくはないだろう。名目賃金が高いことが長期のリセッションの原因ではなく、長引いたのは名目企業収益が少なかったからである。1990年代の10年以上のリセッションの本当の理由は、デフレにより、実質賃金が上昇してしまい労働分配率が異常に高くなってしまったことなのである。

セッション2:<マクロ経済政策のポリシーミックス>

  1. 1.報告者のプレゼンテーション
    John Taylor:「日本の失われた10年からの回復で学んだマクロ政策上の教訓」
    • 景気回復の原因として、海外での強い成長があり、構造的な変化が起こっていること、公的資金の注入、ゼロ金利政策とそれによる期待効果が今日の席上で議論されたが、本当の理由が解明されるまでには時間を要する。加えて、マネタリーベースが急速に縮小しつつあるという状況がある。
    • ポイントの一つは、為替レート全体の動きである。1970、1980年代は円高が進み強い成長の時期だったが1980年代の後半から円はあまり動かず、円とドルのレートがかなり一定という状況が“失われた10年”の間に見られた。円とドルの為替があまり動かない中で景気の強い回復が見られることから、為替レートが大きな要因であるとは考えられない。
    • 2000年夏、当時の金利はゼロで日銀がゼロ金利政策からいかに抜け出すのかに焦点が集まり、私はマネーサプライを伸ばす必要があることを提唱し、GDPないしはインフレが起こるまでは金利をゼロより下回った状況にしておくべきであると主張したが、日銀はプラスの金利水準に入ってしまった。
    • 2番目のポイントは、今、政策を考える場合に大事だと思われるのは、ゼロ金利政策の体制か否かではなく、数字の動 きで政策が揺れ動くことからゼロ金利政策も含み、マネーサプライが増大することも考える必要がある。
    • 2003~2004年の初めまで3400億ドルという未曾有の規模の「大いなる介入」が行われた。マネタリーベースを増加させる意味で重要であったし、ほかにもいろいろな効果があったと思われるが、為替レートへの効果はあまり明確でない。
    • 介入は2004年3月、最終的に大々的な動きを見せて急激に終わった。ドル安とはならず逆に円安となってしまったが、大量の日銀の買いが入って為替レートを違った方向に動かしてしまったことで、為替外交が発揮され介入は収束した。
    • この「大いなる介入」は非常に異例で大規模なものであり、マネーサプライとの関連で非常に正確に時期を見据えて行われている。為替レートに関するオペレーション、回復を支えるということで円高を防ぎ、資金の注入がどこまでの兼ね合いで行われたのか、もっと研究しなければならない。
      (論文は「Lesson from the Recovery from the “Lost Decade” in Japan: The Case of the Great Intervention and Money Injection
      [ 1 (PDF形式 63 KB別ウィンドウで開きます。) ] [ 2 (PDF形式 50 KB別ウィンドウで開きます。) ]」)
  2. 2.討論者のコメント
    渡辺 努 (Taylor報告について)
    • 2001年から2006年3月の間、量的緩和の時期になるが、実施されたマネーサプライの大量供給が景気回復の鍵であり、また、大規模介入も重要な要素であり、重要なことはこの二つの政策が独立して行われたのではなく、お互いに非常に関連していたことで、介入は実は不胎化されていなかったというのが、Taylor教授の論文である。自分のコメントの目的は、この時期の大量のマネーサプライと大規模介入の間で特に具体的・明確な金融政策との関係があったのかである。
    • 米国と日本の介入については大きな違いがあり、米国は有意な介入はしていないが日本側は非常に多くの介入をしており、1999~2004年の間は非常に高く、この間に大規模介入がある。介入の量は全額で見ると50兆円を超える額である。
    • 次に、大規模介入の時期に注目してみると、この介入がポジティブということは日銀が米ドルを買う、日本円の売りをするということで、2002年の末に始まり2004年の3月に終わったが、この後は介入が全く行われていないことから非常に特殊な期間だったといえる。
    • 当座預金の残高は、大量介入の期間には15兆円から35兆円までに増大している。当座預金残高の上昇が大量介入の時期とちょうど一致していることは大変重要なことである。日銀の当座預金の変更と介入には非常に弱い相関しか見られないが、非常に大規模な介入のあった日には驚いたことに両者間に1対1のポジティブな関係が出てきている。
    • リサーチの結果では、この外貨介入は不胎化されていない。大規模介入は大量のマネーサプライの供給と関連しているからだ。非不胎化介入は2003年夏以降だけ行われていて、それは日本の経済が既に回復基調を示している時期になる。このエビデンスはTaylor教授の発表とは整合しない。今後、日本の経験について立証していくことが重要となる。
      (説明資料は「Comments to “Lessons from the Recover from the Lost Decade in Japan: The Case of the Great Intervention and Money Injection” by John Taylor (PDF形式 106 KB別ウィンドウで開きます。)」)
  3. 3.質疑応答
    (Speaker)
    • 為替レートが要因ではなかったということだが、ドルだけでなく他の通貨を使って為替レートの日本経済への影響を見ると違ってくるのか。また、それは意味があるのか。
    Taylor
    • 貿易加重された計算をしても変わらないと思うので、あまり大きな意味はもたないだろう。ドルを使ったのは一般的であるからである。
    (Speaker)
    • マネタリーベースの増大を強調されたが、どういうチャンネルを念頭に置いてのことなのか。明白なチャンネルとしては、将来の金利に関する期待だと思うが。
    • 不胎化と非不胎化の介入の違いを強調されたが、今回の場合、金利はすでにゼロであることから違いはあまり関係ないと思われるが。
    (Speaker)
    • 介入の効果については、そもそも日本の制度の下では、介入資金は政府証券の発行によってファイナンスされているので、介入は自動的に不胎化されるはずだという議論があるが、これについてはどう考えるか。
    • マネタリーベースの額を決定するのは、量的緩和政策の下では、日銀当座預金残高の目標値であると考えられる。もし介入に効果があったとするなら、それはこの目標値の引上げを伴った場合だが、そのような意味で財務省と日銀の間でコーディネーションがあったと考えているのか。
    (Speaker)
    • 通貨の介入は、どういうチャンネルをもってその影響をもたらしたのか。2003~2004年にこのラグによって実質輸出が顕著に伸びた(加速した)ということはあるのか。
    (Speaker)
    • 大規模な介入が行われた期間は非従来的な形でのマネタリー・サプライが必要とされていた時期であった。金融制度がうまく機能していない、銀行貸し出しもあまり伸びていない、逆に減っているという状況が見られた。
    Taylor
    • 多くの御指摘をいただいたが、情報へのアクセスがないことから、非常に伝統的な考え方でマネーサプライが経済にどういう影響を与えるかという観点から見ている。
    • 重要なのは日本が2004年の3月17日以降に為替市場に介入していないことで、これによって「大いなる介入」が非常に特別な時期にあったことを示している。G7の国はどこでも介入をしていない。介入を完全に除外するのではないが、市場が大きく崩壊しない限りはすべきではない。
    • 渡辺教授のチャートでは、大いなる介入期間を見ると1対1の関係がここにあるという非常に驚くべきスカッター・ダイアグラムである。非常に複雑な現象であり、不胎化との関係をいろいろな人に聴いたが答が様々なことから、多くのことは実際に政策の中では反映されていないと思う。
    • 日次のベースは自動的に不胎化されており、システムがそのように動いている。しかし、例えば、当座預金の残高ターゲットの決定は決して内因性のものではなく、いろいろな外の要因がある。一方の当事者が動くともう一方が反応する、基本的には日銀と財務省間の対話である。
    • チャートの中で介入は非常にある特定のところで起こっていると説明したが、介入政策は為替レベルだけのことではない。この席上での最大の問題はマネタリーベースのチャンネルの問題である。
    • 一連の長期的な経済におけるマネー・グロースの減少が「失われた10年」に関連していることも考慮に入れるべき点である。経済の中のマネー・グロースの理論が十分に解明されていないのは事実だが、銀行チャンネルも非常に大きい。
    • マネタリーターゲット、当座預金の残高は決してエグゾージャナスなものではなく、政府のオペレーションにおいていろいろな場面でプレッシャーとなる。
    • この期間の為替のレートは非常に安定しているが、大きな懸念は回復の早い時期に通貨が急激に上昇することで、戦略としてそれを避けることが重要である。

セッション3:<労働市場における構造変化>

  1. 1.報告者のプレゼンテーション
    中村二朗:中村二朗:「日本における外国人労働者の労働市場に与える影響:90年代の経験から」
    • 日本にいる外国人労働者は約70万人、労働力人口の1%であるが、我が国では外国人労働者に関する唯一のデータは厚生労働省の承認統計で、事業所が雇用している外国人数を把握したものが、ここ10年間整備されている。今後、外国人労働者問題については政策的に取組む必要があり、将来、外国人労働者が増えたときの分析手法、データの整備は重要である。
    • 今回は、外国人労働者の受入れが「日本人労働者の賃金に与える影響」、「日本人労働者の労働移動に与える影響」、「外国人労働者を雇用している事業所と雇用していない事業所における日本人労働者の雇用、賃金の相違」という3点について分析した。公表されている統計などから外国人労働者のデータを作成したが、外国人労働者と日本人労働者の関係を推定・把握するのは難しい状況であった。
    • 一般的には外国人の単純労働者の受入れにより一定条件の下では労働供給量が増えることから自国民の賃金が下がると考えられるが、米国などの移民の分析では必ずしも下がってはいない。背景として自国民のアウトフローが推測される。 また、外国人労働者を雇用している事業所ほど初任給が高く、かつ学卒者をより多く雇用している結果となった。
    • 分析の結果では、比較的低学歴・低技能の労働者が外国人労働者の影響を受けている可能性がある。また、アウトフローも見られる。一方、需要側から見た場合は、低学歴、低技能の労働者に対する需要は外国人労働者を雇用している方が強い。1990年代の前半と後半の比較では、前半では1991年に入国管理法の改正があり急速に外国人労働者が増加したが、後半は70万人程度で推移していることからその効果にも違いがある。
  2. 2.討論者のコメント
    Jennifer Corbett(中村報告について)
    • 予想としては、労働力の供給が増えると賃金が下がることから、外国人労働者の受入れが日本国内の労働市場において影響すると考えたがそうではないようである。賃金が下がるが、他の効果がそれをマスクしてしまうのかも知れず、予測が困難である。
    • 外国人労働者数が増加してはいるが、過去10年間での受入れが70万人ということでは、日本の労働人口全体に占める割合はまだ少ない。国連の報告では外国人の受入れが高齢化の解決になるということであるが、現在は年間60万人であれば日本の労働力を維持できることから、日本の労働市場に大きな影響を与えるのはまだ先である。
    • ある地域への外国人の受入れが低学歴の日本人労働者の流出を促すというが、実際にそういうことがあり得るのか。また、外国人の労働供給力の増加による賃金の低下はありうるのか。結論をまとめるのは非常に難しく、流入や賃金が本当に重要なアクションなのかという基本的な問題に立ち返ってしまうおそれもある。
    • 論文の内容は大いに評価されるが、さらに多方面の分析が必要である。日本における外国人の受入れは非常に微妙な問題であり、きちんとした見解、効果についての認識を持たないと受入政策は実施できない。今後、外国人労働者に関する多くのデータの収集が必要である。また、単に賃金や労働条件の影響だけでなく、政策の選択、厚生・福祉への効果、消費効果の分析も求められる。
      (説明資料は「Comments On“International Migration and Labour Markets”(PDF形式 75 KB別ウィンドウで開きます。)」)
  3. 3.質疑応答
    (Speaker)
    • 米国などと違って日本では外国人労働者数が非常に少ない。労働者全体に占める割合が低いことから賃金にはあまり影響しないのではないのか。
    • 在日朝鮮人については外国人ではあるが、何世代にもわたって長期に日本にいることから外国人労働者に含めるのか。
    (Speaker)
    • 日本には移民がほとんどいない。人口が伸び悩んでいることから積極的に外国人を受け入れるべきだという議論もあるが、移民の歴史がある国と比較して日本の労働市場の中には、そのような問題に答えられる情報がないと思う。そもそも外国人労働者が少ない中で、本当に賃金に差が出るのか。
    (Speaker)
    • 米国などでは移民についての研究がされているので、他国の研究成果も参考にすべきである。
    (Speaker)
    • 日本で生まれた外国系の人は、データ上で外国人として分類するのか。彼らは移民ではないので、違う尺度で見る必要がある。
    (Speaker)
    • 分析の目的は何かということが重要である。日本が開放して移民を受け入れて人口問題を解決しても、それは政策的な分析であり、受け入れによって短期的に賃金にマイナスの影響があっても、それは賃金が下がることとの関連性がなく、妥当ではない。
    中村
    • 日本で外国人労働者という場合、非常に厄介な問題がある。在日朝鮮人の人々は、ほとんど日本人と同じである。また、本来の外国人労働者の中にも、高度な技術や資格を有する者とそうでない者がいて、その点はかなり慎重にと考えている。ただ、分類を細かくすればするほど対象人数が少なくなるために、統計的に正確なのかという問題が生じる。
    • ストックでなくフローの問題で考えることも重要で、1990年代半ばから外国人が増加している地域とそうでない地域があり、双方の動きはかなり異なる。
    • マクロ的に見れば、国際間の比較を行ったうえで、外国人の出入りの形態によりどのような影響があるのかということも当然チェックしなければならないであろう。
  4. 4.報告者のプレゼンテーション
    Henry Farber:「日本とアメリカ合衆国における長期雇用」
    • グローバル化の中、アジアや南米の国々との低賃金競争が米日両国の経済に影響を及ぼし、それが労働市場にも及んできている。両国とも高賃金の国で労働力を需要の変化に適応させるため雇用調整が必要とされるが、両国間では企業の構造、労働市場の構造、社会慣習によって違いが見られる。
    • 米国では過去30年の間、雇用自体は増えており、日本に比べて雇用率が高いが、人口の伸び率が関連している。米国では移民もあり堅実に人口が増えてきているが、日本では人口減少、高齢化が急速に進んでいる。
    • レイオフに見られるように米国企業の雇用保障は低いが、日本の多くの企業では雇用保障が非常に強い。労働市場は硬直的で回転、離職率が低いため、レイオフではなく他企業への転籍や出向などが行われているが、最近は正規労働者が減り、代替的な非正規労働者が増えて労働力が分化されてきた。
    • 総雇用におけるパートタイム労働者の割合が日本では増加しているが、米国では変化がなかった。また、パートの女性についても急増している。両国とも長期のよい職に就ける割合は、非常に減ってきている。
    • 日米の労働市場が過去の形態に対して変化し始めている。日本の場合は核となる仕組みを維持しながらもそれが適用される労働者数が減少している。これに対し、必要ならば企業から追い出してしまうというのが米国の方法である。その結果、労働市場において両国とも同じように雇用の安定性が低下し、定期的な長期の雇用関係が減少している。日本は終身雇用制であるが、パートタイム労働者を多く雇用し始めるとともに他の形態の非正規労働者を雇用するようになってきた。
      (論文は「Labor Market Adjustment to Globalization: Long-Term Employment in the United States and Japan
      [ 1 (PDF形式 227 KB)別ウィンドウで開きます。 ] [ 2 (PDF形式 98 KB)別ウィンドウで開きます。 ]」)
  5. 5.討論者のコメント
    上野有子:(Farber報告について)
    • 日本の労働市場の特性については、長期雇用関係に入る年齢が米国に比べると若いこと、定年制、女性の非正規労働へのシフト傾向、転職の増加などが挙げられる。
    • 最近の長期雇用の状況は、1990年代の初めから男性の正規労働者の平均勤続年数が全体で上昇している。しかし、若年層では低下し、パートタイム労働者は横ばいである。背景は企業が長期雇用を選択することにある。要因は日本企業特有のスキルの要請・維持、労働組合との取引コスト、転籍や出向の制度、また、労働者側にも年功序列制が基本にあり、転職はかなり不利となる。さらに、忠誠心・愛社精神の重視も考えられる。
    • 今後、グローバリゼーションによる競争・圧力など、日本の長期雇用制を変化させる要因がある。また、未だ日本の企業で顕著とまではいえないが動きとして見えるのがICT化による非正規労働者の増加と、正規労働者との代替効果が指摘できる。さらに、産業構造の変化により、製造業より離職率が高いサービス業部門のシェアが高まる傾向にある。
    • 最近の日本の若者は活発に適職を探す傾向にある。高学歴化もありキャリアを変えるための転職も多く、終身雇用に就くのは先のこととなる。正規労働者の比率については新卒者の間で急激に下がっており、特に高卒者の場合は10年間で80%超から64%まで低下した。
    • 最近の企業動向については、転籍や出向を活用しての解雇の回避が限界のため雇用調整が必要ということで、以前より解雇が活発に行われるようになったが、企業は終身雇用制をある程度まで維持したがっている。
    • 終身雇用制は変わらないが、一部において短期雇用に振れてきており、女性のパートにかぎらず若い低学歴者にもその傾向が見られる。また、雇用調整手段としての解雇もあるが、多くの労働者、特に新卒は安定した職に就き、長期雇用者となる。
      (説明資料は「Comments on “Labor Market Adjustment to Globalization: Long-Term Employment in the United States and Japan”
      (PDF形式 108 KB)別ウィンドウで開きます。」)
  6. 6.質疑応答
    (Speaker)
    • 若い世代が過去10年間の債務を背負うことになるが、人口減少、世代の変化に対する対応と世代間の不公平の調整について、政府の取組みを知りたい。
    (Speaker)
    • パートタイム労働者の増加は雇用の悪化なのか、あるいは労働市場の柔軟性の改善なのかという見方もできる。終身雇用も以前とは状況が変わってきており、日本の特性でのマッチングということを考えると、選択肢が増えたということになる。
    (Speaker)
    • 長期的な人口動態への対応として、60歳以上の年齢層のプールに注目すべきである。平均寿命が延びている中で、定年制の廃止、年齢引き上げなど、現在の60歳定年制についての検討が必要である。社会保障給付問題への寄与、労働年数が増えることによる税収増加、また、労働供給力のメリット、労働市場における回転率、転職という問題にも対処できる。
    (Speaker)
    • 雇用の安定や労働期間については、労働市場のグローバライゼーションが進み、それとの因果関係で多方向に向かうことになるのか。
    (Speaker)
    • 戦前の日本の労働市場では高い回転率、離職率が特徴であったことから、終身雇用制を文化的・伝統的な現象とは考えにくい。変化をもたらしたのは労働基準法であり、解雇を回避する努力を求めるなど、解雇に関して最も制約的な法律であると理解している。
    Farber
    • パートタイム労働が良いのか悪いのかは状況による。米国の場合、小さな子供を持つ母親などはパートタイム労働を好むので無くすということにはならないが、正規労働者とパートタイム労働者の間で大きな賃金格差が出ている。日本の場合は格差がより大きいが、日本経済も国際競争や軋轢の中で、パートタイム労働を導入することで雇用調整をしているのであろう。
    • 雇用の安定性の低下、在職期間の短期化はグローバル化とともに、労働需要の不確実性が原因である。不確実性が高まっている環境の中ではリスクも一層高まり、コストも高くつくため、企業側も容易に解雇できない正規労働者は雇用しないという傾向があり、今後このような傾向はさらに強まる。
    • 日本の終身雇用制についての指摘は非常に興味深いもので、終身雇用制はある種の経済の特殊な活動の中に当てはまるので、そのような経済情勢が無くなると終身雇用制も無くなるというのが自分の見解である。なお、日本の労働基準法については詳しく承知していない。
    上野
    • グローバリゼーションに対する日本企業の対応について、90年代に海外生産比率が高い業種ほど雇用調整速度が速いという結果が出ており、グローバリゼーションの進展により日本企業が長期雇用制から少しずつシフトしてきている。また、労働市場全体でパートタイム労働者の占める役割が高まってきており、雇用調整の際にパートタイム労働者を雇用しているのかも知れない。
    • 労働基準法については詳しくないが、以前は労働者の解雇訴訟が殆ど無かったが、90年代後半になると頻繁とはいかないまでも起きており、企業にとってもハイコストであるという状況は変わらないようである。
    (Speaker)
    • 人口減少、労働力の高齢化は、日本の産業にとって非常に大きな問題である。内閣府でも労働について需給の両面から議論している。供給側からは、労働力不足解消のための高齢化した人口の取り込み、女性の労働参加率の向上、外部からの労働者の移動がポイントであるが、これらについては需要側からも見ていかなければならない。
    • 若年層と高齢層の意識の相違は政策上の大きな問題である。若者は最初から終身雇用を求めず、10年以内に転職し、可能ならばそこで長期の雇用を求める傾向が強い。一方、高齢労働層では退職年齢が65歳に引き上げられた人たちもアクティブで、定年年齢の引き上げ、あるいは別の会社で仕事を続けたいと考えている。このギャップは年金制度や医療問題にも関連し、また、世代間での給付にも不平等が存在している。
    • 移民の問題も大いに議論が必要で、外から安易に人を受け入れても労働力の解決にはならず、受入国の多くは移民による問題を抱えている。

パネルディスカッション:<最近の日本経済の動向>

  1. 1.報告者のプレゼンテーション.
    増淵勝彦:「国民経済計算から見た日本経済の最近の動向」
    • 日本経済の変化について、最近基準改定された国民経済計算のデータに基づき、家計部門の貯蓄率について触れたい。日本の貯蓄率は非常に高いことで知られていたが、状況は一変し、2004年度は2.7%で米国と同水準、ヨーロッパ諸国よりも低くなっている。2000年以降の雇用者報酬の改定の影響が大きいが、それだけではなく高齢化と人口動態的な変化による影響が考えられ、さらに帰属計算も重要な役割を果たしている。
    • そうした変化を数量的に見るため、1999年から2004年までの変化を要因分析してみると、2004年において帰属計算の寄与は1.9%ポイントの低下、高齢化は3.7%ポイントの低下と推計される。ほかの要素の貢献度は比較的小さく、0.9%ポイントである。最近の家計貯蓄率の下落のほとんどは、この三つの要因によって説明が可能である。
    • 公的年金受給資格年齢の引き上げや退職金の一時的な低下など、家計貯蓄率の変化については複雑な要因が考えられ、景気回復による可処分所得の増加、若年世代の貯蓄率の上昇が急速な下落をある程度軽減すると思われるが、高齢化が進むことで長期的な下落の趨勢は不可避である。
      (論文は「Recent Developments of the Japanese Economy Seen from the National Accounts
      [ 1 (PDF形式 434 KB)別ウィンドウで開きます。 ] [ 2 (PDF形式 168 KB)別ウィンドウで開きます。 ] [ 3 (PDF形式 134 KB)別ウィンドウで開きます。 ]」)
  2. 2.報告者のプレゼンテーション
    丸山雅章:「国民経済計算から見た日本経済の最近の動向」
    • 1990年度以降の日本の財政収支の動向について触れたい。以下では特殊要因除くベースの計数で説明する。1990年度の一般政府の財政収支は11.9兆円の黒字でGDP比2.6%であったが、バブル崩壊以降、財政収支は急速に悪化した。財政赤字は増え続け、1999年度に35.7兆円(GDP比7.2%)、2003年度には41.2兆円(GDP比8.3%)となった。2004年度に財政赤字は33.8兆円(GDP比6.8%)と減少したが、まだまだ高水準である。
    • 財政収支は1990年度から1999年度にかけて47.3兆円悪化した。これは、高齢化の進行による社会保障給付と負担の差の拡大(12.1兆円)、税収の減少(11.4兆円)、政府最終消費支出(現物社会給付、減耗除く、以下同)の増加(10.3兆円)、政府固定資本形成・土地純購入の増加(6.5兆円)が主たる要因である。政府固定資本形成が増加したのは、バブル崩壊以降の内需喚起対策による。
    • 一方、財政収支の改善についてみると、2003年度から2004年度にかけて7.4兆円改善している。これには、主に、財政改革による政府固定資本形成・土地純購入の減少(3.6兆円)及び政府最終消費支出の減少(8千億円)、税収の増(3.3兆円)の三つの要因が考えられる。税収の伸びの主な内訳は所得税、消費税だが、民間企業からの税収も増えており、民間企業の所得が増加したということで景気の回復を反映している。
      (論文は「Recent Developments of the Japanese Economy Seen from the National Accounts
      [ 1 (PDF形式 434 KB)別ウィンドウで開きます。 ] [ 2 (PDF形式 168 KB)別ウィンドウで開きます。 ] [ 3 (PDF形式 134 KB)別ウィンドウで開きます。 ]」)
  3. 3.報告者のプレゼンテーション
    齋藤 潤:「2001年以降の日本における経済政策 その教訓と残された課題」
    • 2001年以降の日本における経済政策は、経済構造を改革することにより、バブル崩壊後の長期低迷から脱却し、頑健な経済成長を実現することを目的として実施された。しかし、同時に、それらは前例のない政策パッケージであり、多くの論争を引き起こした。過去5年間にわたる政策の実行と経済状況は、こうした論争をレビューし、教訓を引き出すとともに、残された研究課題を整理する機会を提供してくれる。このペーパーでの議論を通じて、以下のような暫定的な結論が得られた。
    • 長期の経済低迷とデフレは、供給サイドの要因と需要サイドの要因の双方によってもたらされたが、その克服あたっては、構造政策、特に不良債権処理のための金融行政の役割が大きかった。
    • 金融行政はレジームの変化をみたが、これは銀行に対して不良債権処理に向けた強いインセンティブをもたらした。困難を抱えた企業の再生に向けた努力は、不良債権処理の社会的な費用を最小限のものにするのに寄与した。
    • 新しい金融政策の枠組みは、長期の経済低迷とデフレからの回復をサポートするのに効果があった。特に、ゼロ金利政策は低金利を維持することに効果的であった。また、量的緩和政策は、金融システムを安定化させるのに十分な流動性を供給した。
    • 財政状況は、グロスの政府長期債務残高によって表される。プライマリーバランスはこれまで改善を示してきたが、財政の持続性を回復するためには一層の努力が必要とされている。
    • 最後に、今後、研究されるべき課題について整理した。
      (論文は「Economic Policies in Japan since 2001: Stocktaking of Lessons and Outstanding Issues
      [ 1 (PDF形式 285 KB)別ウィンドウで開きます。 ] [ 2 (PDF形式 89 KB)別ウィンドウで開きます。 ]」)
  4. 4.報告者のプレゼンテーション
    Matt Slaughter:「日本の回復:世界経済への影響の観点から」
    • 日本経済の動きが世界経済にどのような影響を与えるかは、大きな課題である。日本の昨年のGDP比の伸びは過去10年間の平均を上回っている。ただ、内需は加速してきてはいるが、水準は他の先進諸国と比べてまだ低い。また、特筆すべきは15年連続の日本の生産性の減速であり、対照的に米国の生産性は10年で加速してきている。これは日本の資本市場、労働市場あるいは製品市場にまだ規制が残っていることによるものである。
    • グローバルな経済、不均衡の中において、日本の経常収支は黒字であり、貿易収支についても長年にわたり対外的に黒字の状況が続いており、逆に米国は大きな赤字を抱えている。日本は経常黒字を誇っており、今後、日本が持続的な景気回復を続けるならば、貿易収支、経常収支の黒字はどうなるのかが注目される。
    • 日本の家計貯蓄率は劇的に低下してきている。米国においても家計貯蓄率が低下しているが、背景には人口動態の変化、家計所得の伸び悩みなどがある。課題は、家計貯蓄率の低下が日本の経常収支黒字の減少に影響を及ぼすかである。
    • 国全体の貯蓄率では、日本政府の貯蓄がマイナスになっているが、要因は企業部門である。米国と同じように企業の貯蓄が最近では強くなっているが、国全体の貯蓄においては減少している。
    • 外国への直接投資について、日本の米国へのFDIの伸びは1995年から2004年までGDP比で倍になっており、ストックはイギリスに次いで2番目である。日本企業が国内における投資を代替する形で対外投資を行ったかどうかについては、企業の国外投資が増えれば国内投資が減るという議論があるが、答えは出ていない。また、対内的な外国直接投資が生産性の伸びを支える要因になることについては、他の国ではミクロの証拠がある。
    • 現在の日本の景気回復は非常に有望であり、日本の対外的な位置付けはあまり明白ではないが、世界の不均衡に与える影響は変わっていく。
      (論文は「The Japanese Recovery: How Will It Affect the Global Economy? (PDF形式 53 KB別ウィンドウで開きます。)」)
  5. 5.報告者のプレゼンテーション
    David Weinstein:「日本における物価安定性の検証」
    • 日本の政策上、CPIは非常に重要な数字である。量的緩和解除の際に、日銀は日本のCPIに関してバイアスはないというステートメントを出したが、金融あるいは政策上のバイアスがあるのではないかという大きな懸念がある。
    • 日米のCPIの違いについては、米国のCPIには二つのレベルがあり、上位のレベルでは211の層のレベルに38地域の物価指数が入っており、これらに対してラスパイレス指数のフォーミュラか、あるいはTornqvist指数の算式を使う。CPI改定に関してのほとんどのアクションはローレベルで行い、これは項目・地域ごとに7-10の物価のクォーテーション、全部で85,000のプライスクォーテーションになる。それに対し、日本のCPIはより純粋なラスパイレスのものであり、598品目の価格を167の市町村で調べている。
    • サンプリングも非常に大きな問題である。BLSはより広い定義を用いており、家計調査を行って品目を決めているのに対して、総務省のほうは統計サンプリングなしで行うために非常に奇妙な品目が残ることになる。2000年まで日本のCPIにコンピュータは入っていなかったが、そろばん受講料は入っていた。ローテーションレートも、米国では1年で25%が入れ替わるのに、日本では5年ごとに10%ずつ入れ替わる。
    • 輸入物価指数はバイアスを見るのには理想的であり、いくつかのバイアスをこれで推定しているが、日銀も同じ方法によっている。我々は90,000のすべての輸入についての価格を持っているが、日銀は約1,000についてである。
    • バイアスは一定ではなく、毎年同じということではない。ラスパイレス指数の標準偏差は大体0.2%あるということで、非常に大きな不確定要素がある。
    • 米国のCPIのイノベーションは日本においては実施されていないことから、日本のCPIは非常に慎重に扱わなければならないが、物価の安定性は輸入に関してはインフレ率1%といえる。
      (論文は「Defining Price Stability in Japan [ 1 (PDF形式 41 KB)別ウィンドウで開きます。 ] [ 2 (PDF形式 56 KB)別ウィンドウで開きます。 ]」)
  6. 6.質疑応答
    (Speaker)
    • 2005年には日本の所得収支の黒字が貿易収支を初めて上回ったということで、新しい特徴が見られる。貿易収支が黒字である限り、累積的な外国資産は大きくなり、所得収支にはポジティブな効果が見られる。
    • 2002年以降の回復の理由として、供給サイドでは不良債権処理と企業部門のリストラの努力であり、需要サイドは国外からのもので、日本以外(中国、米国、エマージング諸国)での経済の堅調な伸びと円安が要因である。
    (Speaker)
    • CPIの改訂については、量的緩和を止めたときに当然予想されていたことから、金融政策にあまり深刻な影響はない。
    (Speaker)
    • 日本のCPIの正確性に関しての最大の問題は、統計を作る組織の問題である。それぞれの省庁の中に分散していることから、内閣府の中に省庁横断的に統計を調整する司令塔としての委員会を設置することが決定された。また、統計法は1946年作られてから手が加えられていないので、改正が必要である。
    (Speaker)
    • 統計をまとめるということは非常にエキサイティングなことであり、統計のPhDが非常に少ないということならば予算を増やし、PhDを大勢雇用するべきである。
    Weinstein
    • CPIに関して非常に大きな測定エラーがあることは明白である。
    • 統計の問題は省庁の人々の能力にあるのではなく、適当な仕事をする上でのスタッフ不足、リソース不足にあるのではないのか。
    Slaughter
    • 米国での国際的な貿易ポジションの動きを見ると、為替のパススルーが大きく下がっている。米国のパススルーのレートについては実際に何が起こっているのか分からないが、時間がたてば日本のパススルーも下がっていくのかもしれない。
    (Speaker)
    • 統計のバイアスの違い、指数の計算については米国でも問題を抱えている。日本では複数の機関が統計調査を行っているというが、相互協力が必要であり、情報交換によりデータを有効に活用すべきである。
    Weinstein
    • 米国のCPIと日本のCPIのプライスクォートの数は非常に類似するが、米国は選んだ都市での指数で、日本では広い地域での指数であり情報のプロセスが違う。例えば異なる都市の価格、物価を知るだけならば日本のCPIの方が優れているかもしれない。
    • 地域的に縮小し、同じ項目について複数サンプリングをやれば、プライスクォートを増やさずに済む。クォートの数ではなく、活用方法、情報処理、プロセスの在り方の問題である。

プレスとの質疑応答

(問)
今回のCPI改定でも金融政策への深刻な影響はないということであるが。
(答)
政策運営上、現在の物価指数を基準として考えていかざるを得ない。
(問)
見通しの数字についても影響しないのか。
(答)
改定による変化は予想の範囲内であり、政策上の大きな変更はない。

以上

  • 〒100-8914
    東京都千代田区永田町1-6-1 中央合同庁舎第8号館
  • 電話 03-5253-2111(代表)