第1回ESRI経済政策フォーラム
「金融政策の課題-更なる金融緩和を巡って」(概要)

経済社会総合研究所
平成13年3月8日

本フォーラムの概要について、事務局の責任により、以下の通りとりあえずの要約を行いましたので、ご参照下さい。なお、議論の正確な内容については、議事録(PDF形式 117 KB)別ウィンドウで開きます。を参照頂ければ幸いです。

  • 日時:
    平成13年3月1日14時~17時
  • パネリスト:
    岩田規久男
    学習院大学教授 (基調講演)
    賀来 景英
    大和総研副理事長
    香西 泰
    日本経済研究センター会長
    浜田 宏一
    経済社会総合研究所所長

冒頭、金融の量的緩和を主張する立場の岩田教授より基調講演を、量的緩和に慎重な立場の賀来副理事長より基調講演に対するコメントをそれぞれ頂き、その後パネル・ディスカッションを行った(パネル・ディスカッションの後半は、パネリスト以外の参加者の方からの質問、ご意見にパネリストがお答えしつつ議論を行った。)。

1. 岩田教授の基調講演「インフレ目標付長期国債買い切りオペの提案」の概要(詳細は当日配布メモ参照)1,2

1)最近の金融経済情勢
バブル崩壊後の日本経済は、フローとストックのデフレの悪循環にあり、資産価格の低下が民間需要を減少させ、それが物価の下落と景気の悪化をもたらし、それが資産価格を一層低下させるという「資産デフレのワナ」に陥っている詳細は当日配布メモ図6参照)。
2)金融政策の経路
資産デフレのワナから脱出するための金融政策の波及メカニズムとして、以下の経路が考えられる詳細は当日配布メモ図7~図11参照
  • 実質金利の低下による投資や消費の増加
  • 資産価格の上昇による投資や消費の増加
  • 貸し手と借り手のバランスシート改善による消費や投資の増加等
  • 円安による輸出の増加等
3)金融政策のオプション
現時点では、次の選択肢が考えられるが、特に(3)を提案する。いずれもインフレ目標付きとするのは、金融政策の目標の透明性と説得性が共に高まるため及び資産価格の変動を抑制することが可能になるためである。
  • (1) インフレ目標付きゼロ金利政策
  • (2) インフレ目標付き・一時的固定相場制(円売り・ドル買い介入)
  • (3) インフレ目標付き長期国債買い切りオペの増額
また、金融の量的緩和によりマイルドなインフレが生ずれば、銀行の名目業務純益が増加する一方、景気回復期待による株価・地価の上昇もあって、不良債権処理が容易になることが期待できる。更に、生保の逆ざや解消や、金融機関が資金運用を企業貸出へシフトさせることを通じて、量的緩和は、金融システムの安定化にも資すると考えられる詳細は図13参照

2. 岩田教授提案へのコメント(賀来 副理事長)の概要(詳細は当日配布メモ参照)

1) 基本的な考え方等
状況が一層悪化した場合、追加的金融緩和の必要性及び余地はあり得る。ただし、日本経済の長期停滞からの脱却には構造改革が重要であり、金融政策の役割は補助的なものと考える。金融政策自体に、日本経済転換の劇的効果を求めるのは筋違い。また、企業収益の増加基調などをみると、現在、日本経済がデフレの悪循環に陥っているかどうかは疑問。
2) 岩田教授提案へのコメント

あり得る更なる金融緩和のオプションとしては、(1) 政策金利の引き下げ、(2) 長期国債などのマネタリーベースと代替性の低い資産を対象とした買オペ、(3) 何らかの形での期待への働きかけが考えられる。

うち、(1)については、利下げ余地が極めて小さい。

(2)については、岩田教授の提案する買い切りオペは、その効果が予想し難い(不確実である)一方で、目に見える効果を発揮するためには相当の規模を必要とすることが考えられるが、規模を大きくすると日本銀行のバランスシート悪化や新発国債の日銀引受につながる懸念などのコスト、副作用の増大を伴う。

(3)については、インフレ目標設定による期待の変化が前提とされているが、インフレ目標を実現するための政策手段が極めて限定されている等の問題がある。

したがって、さらなる金融緩和の余地を全否定すべきではないが、日本経済の長期停滞の根因を見極めた上で、コストと効果を秤量しつつ限定的補助手段として検討すべきである。

3. パネルディスカッションの概要

1) 物価下落についての見方

資産価格や一般物価の下落については、基調講演において岩田教授がフローとストックのデフレの悪循環であると指摘したことを受け、以下の議論があった。

物価下落について金融政策の役割を限定的に捉える立場からは、例えば地価が収益還元価格に比べてまだ高いように、地価や株価が下落しているのは均衡値に向けての動きであり、(金融政策によって)下落を止められるか疑問であるとの指摘(香西会長)があった。

他方、むしろ物価を決めるのは貨幣や金融政策であり、したがって、物価下落には金融緩和によって対応すべき(浜田所長)との指摘があった。

なお、資産価格が下落していることについては、資産価格については複数均衡的なものがあり、バブル期の均衡値と金融仲介機能が不全な現在の均衡値が異なるためとも考えられるのではないか、との指摘もあった(一般参加者)。これに対しては、この議論はかなり言葉の問題の側面があるが、仮に複数均衡がありバブルの時の地価を均衡値と呼ぶとしてもそれは不安定な均衡値ではないか、現在の地価は、バブル期の地価と比べると低いが、金融仲介機能が不全な状態の均衡値はもとより、金融仲介機能が回復した時の均衡値と比べてもなお割高であるため、そうした均衡値に向けて下落していると理解しうるのではないかとの応答(香西会長)があった。

2) 構造改革と金融政策の関係

全ての参加者が構造政策の中長期的な重要性を指摘したが、以下の意見の相違があった。

金融政策の役割を重視する立場からは、構造政策はデフレ効果を持ち、資産デフレの下では担保価値が低下するため金融仲介機能が阻害される効果もあるので、構造政策の痛みを緩和する等のために金融政策が重要であり(岩田教授、浜田所長)、デフレ的環境下で不良債権問題を解決するのはいわば「重い荷物を付けて旅人と歩かせる」ようなもの(浜田所長)といった発言があった。

一方、金融政策の役割を補助的に捉える立場からは、構造問題は構造問題として解決すべきでそれをインフレで解決することはできない、不良債権問題の解決を徹底的に行うことが必要であり、構造問題が背景にある以上金融政策の役割は補助的・限定的であるなどの理由から、金融政策に頼ることによる構造調整の先延ばしを懸念する発言(賀来副理事長、香西会長等)があった。また、構造改革による摩擦的失業をマイルドなインフレで緩和することは困難であり、70年代の米国の経験から考えてもマイルドであってもインフレは歳出の拡大等により財政収支を悪化させる効果もある(香西会長)といった指摘もあった。

3) 金融政策の有効性・可能性(選択肢)
  • (1) 長期国債買い切りオペについては、
    • 慎重論の立場からは、買い切りオペをしても、資金(ハイパワードマネー)が銀行部門に滞留しマネーサプライの増加に結びつく効果は不確実かつそれほど大きくないこと(賀来副理事長他)、マーシャルのkがバブルの時に上昇しその後も更に上昇して相当に高い水準にあることを考慮すると金融緩和により更にマネーサプライを増加させるのは簡単ではないこと(香西会長)、銀行部門のいわゆるオーバーバンキング(貸し出しが大きすぎること)を解消するためには長期的にはむしろ貸し出しの圧縮が必要でありそれと当面の景気対策としての量的緩和との整合性について検討が必要であること(賀来副理事長)などが指摘された。

      なお、これらの発言者の中にも、更なる金融緩和が必要となった場合の選択肢としては、長期国債買い切りオペを否定はしないとの発言があった(香西会長)。

      これに対し、積極論の立場からは、コストやリスクはそれほど大きくはなく、効果等が定量的に示せなくても、現下の厳しい経済情勢では、早急に実施すべきとの指摘(岩田教授、浜田所長)があった。また、買い切りオペでマネーサプライを増やせるかどうかについては、定量的には示せないが、買いオペによりハイパワードマネーを供給された銀行は、バランスシート効果等から、まず一般の民間債やCPを買い、やがては貸し出しへシフトしていくのではないかとの意見(岩田教授)があった。

  • (2) 金融政策によりインフレ期待を高め実質金利を低下させられるかについては、
    • 懐疑的な立場から、仮にインフレ期待を高めたとしても、財の市場と比較して金融市場における期待形成が遅れなければ名目金利もインフレ期待と平行して高まるので実質金利は低下しない、要は金融市場と財市場のどちらが早く期待を変化させるかによって(金融緩和した場合に)実質金利が低下するか否かが決まるのではないか(香西会長)との指摘があった。

      これに対し、肯定的な立場からは、完全雇用の状況であればインフレ期待と平行して名目金利も上昇するが、現在のような不完全雇用の状況の場合インフレ期待ほどには名目金利は上昇せずしたがって実質金利は低下すると考えられるとの指摘(岩田教授)があった。

  • (3)為替レートに目標を定めたドル買い介入については、
    • 慎重論の立場からは、国際収支黒字、対外債権累積の現状では、介入による円安の人為的誘導は中期的には困難であるという指摘や(香西会長)、円安誘導による貿易摩擦のおそれ等が指摘された。

      積極論の立場からは、為替レートは実際に短期的に大きく変動していることからやり方次第で円安誘導は可能と考えられる、日本経済が回復することにより海外経済にも好影響を与えると考えられるといった指摘があった(岩田教授、浜田所長等)。

      なお、一定の為替レートを目指して金融政策を運営することは日銀法上の疑義があるので、政府が外国為替介入をするのも一案であるとの指摘(岩田教授)もあった。

4) 岩田教授の提案する金融政策運営におけるインフレ目標の設定については、
インフレ目標設定について懐疑的な立場から、金融政策は目標を固定的に考えるより、その時々の事態になるべく先手を打って対応することが重要であり、むしろショッキングな行動をして人々に影響を与えることが重要であるとする指摘(香西会長)があった。

1 国債買い切りオペ: 日本銀行が国債を取引先金融機関から一定期間後の売戻し条件を付けずに買い入れる金融調節のこと。本来の目的は、経済成長に伴って長期的に必要になる資金を供給することにある。
2 インフレ目標: 金融政策の目標として一定のインフレ率の達成を掲げること。NZ、カナダ、英国、豪州、フィンランド、スウェーデン等で採用。


(参考) 基調講演「インフレ目標付長期国債買い切りオペの提案」 学習院大学経済学部 岩田 規久男
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