第3回ESRI経済政策フォーラム
「不良債権問題を巡る論点について」(概要)

経済社会総合研究所
平成13年7月19日

本フォーラムの概要について、事務局の責任により、以下の通りとりあえずの要約を行いましたので、ご参照下さい。なお、議論の正確な内容については、議事録(PDF形式 104 KB)別ウィンドウで開きます。を参照頂ければ幸いです。

  • (開催日時)
    平成13年7月17日(火) 13時00分~16時00分
  • (パネリスト)
    池尾 和人
    慶應義塾大学経済学部教授
    神田 秀樹
    東京大学大学院法学政治学研究科教授
    ポール・シェアード
    リーマン・ブラザース証券株式会社マネージング・ディレクター
     
    チーフエコノミスト・アジア (基調講演)
    堀内 昭義
    東京大学大学院経済学研究科教授 (基調講演)
  • (モデレーター)
    牛嶋 俊一郎
    経済社会総合研究所次長

冒頭、堀内昭義教授、ポール・シェアード マネージング・ディレクターより基調講演をそれぞれ頂き(詳細はホームページ掲載の基調講演をご参照下さい)、その後パネルディスッカションを行った(パネルディスッカションの後半は、パネリスト以外の参加者の方々からの質問、ご意見にパネリストが回答しつつ議論を行った)。

1.基調講演「日本の不良債権問題-いかに対処すべきか」別ウィンドウで開きます。(PDF形式 49 KB)(堀内昭義 東京大学大学院経済学研究科 教授)

  • 不良債権問題は、日本経済の低迷の原因というよりも、両者とも低生産性部門からの資源開放を妨げている諸要因がもたらした結果。不良債権を大急ぎでカーペットの下へ掃き込んでも、日本経済の低迷を解消する見通しは開けない。

  • 不良債権問題と日本経済低迷の両者に共通している要因は、非効率的な財政支出構造と非効率的な金融構造である。問題の根本的解決には、これらの早急な是正が必要。

  • わが国で不良債権問題が長引いている理由は、第一に、銀行が貸出先の内部情報を占有しているという銀行貸出の属性が外部からの評価を困難にする側面を持つこと。第二に銀行経営のガバナンス構造が不良債権処理のインセンティブを弱めていること。第三に、銀行、金融当局が責任回避のために不良債権処理を先送りしたというモラルハザード。第四に、景気を支えるために従来型の公共事業を中心とする財政支出政策を繰り返してきたことであり、これらが不良債権の処理を先送りさせてきた。

  • 不良債権の問題点は、銀行の資本を減耗させて銀行セクターの活力が失われること。不良債権問題の早期解決という名目で、不良債権の最終処理を銀行に強いる政策がとられようとしているが、最終処理によって銀行のバランスシートについてのダウンサイド・リスクからは脱却できるが、資本の減耗を生じ、銀行の持つ融資機能の良い側面を失うことにもなりかねない。最終処理を急ぐことにはこうしたダメージが伴うので、最終処理は銀行の判断に従って行うべき。

  • 銀行における自己資本の減耗は、銀行の生産性や収益性を毀損する可能性が高い。政府は、不良債権の最終処理よりも、銀行の自己資本増強対策に高い優先度を与えるべき。銀行資本をどう増強すべきかについて、皆に明確なシナリオを提示することが政府の役割。必要があれば、公的資金の注入をためらうべきではないが、これまでの大きな2回の資本注入が銀行行動に与えた効果を見ると、疑問の余地がないとは言えない。むしろ、銀行が自己資本を増強せざるを得ないように追い込むことが重要である。

  • 以上を要するに、不良債権問題は、日本経済を病気に例えると、熱が出たという症状に近い。熱を下げるだけで、日本経済の病気が解決するとは思えない。銀行の資本増強、金融仲介機能の強化が最も効果的。

2. 基調講演「不良債権問題を巡って」(ポール・シェアード リーマン・ブラザース証券株式会社 マネージング・ディレクター、チーフエコノミスト・アジア)

  • 不良債権問題は日本経済にとって大きな問題。その理由は、三つ。第一に不良債権問題の存在は、その国の金融システムが正常に機能できないことを意味する。第二に、日本が不良債権をいつまでも抱えていると、国際経済社会での日本に対する信任が低下し、様々な副作用が生じてくる。第三に、不良債権問題を長く引きずっていると、本来進むべき金融改革のプロセスが遅くなり、機会費用が大きくなるため。

  • なぜ、今まで日本が不良債権問題を解決できなかったかについては、三つの説明要因がある。一つは不良債権問題の規模が世界にも例を見ないほど大きかったため。日本の場合、80年代後半のバブルの発生と、90年代から現在に至るまでのバブル崩壊の2つとも、規模が非常に大きかった。二つ目は、日本の金融システムにおける家計及び金融機関の主たる資産が、それぞれ銀行預金と銀行貸出債権であったこと。両者とも、元利が契約上保証されており、取引市場がないため、一般的に資産価格が存在していないという特性を有する。このため、「不良債権」の事後処理の際に、資産価値の目減りに対して、誰がどう補填するかという厄介な問題が生じた。三つ目は、政策対応が常に後手後手にまわるなど、まずい状況が続いたこと。

  • 政府は2,3年で不良債権問題を解決することを目指しているが、今のままでは問題の先送りを繰り返すことになる。そうしないための解決策として、個人的に三つの提言をしたい。第一は、政府が至急、新たな金融再生の枠組みを作り、不良債権問題の最終処理に向けて、主導権を取るべき。問題解決のためには、公的資金を有効かつ大々的に投入することも検討すべき。第二点は、政府が金融システムを建て直す際には、なるべく市場原理に則って政策を講じるべき。政府は、将来目指している市場立脚型の金融システムの確立につながるように、戦略的に過去の不良債権問題解決策を施すべき。第三点目は、デフレ圧力を緩和するためにも不良債権問題の解決に必要な一連のプロセスを側面支援する金融政策が必要。政府が金融システム建て直しのために積極的に動いた場合に、日本銀行も歩調を合わせて、3月に決定した量的緩和という新しい仕組みを積極的に動かすべきである。そうすれば、日本経済はこの長い閉塞のトンネルから、案外早い速度で出てくるかもしれない。

パネルディスカッション

I.コメント

(池尾和人 慶應義塾大学経済学部 教授)

二人の話に関し、基本的には同意。

不良債権問題があるから、わが国の金融が機能不全に陥っているという理解は正しくない。わが国の金融システムが上手くいっていないのは、日本の金融制度ないし金融構造が、1980年代の前半頃から決定的に時代遅れになってしまったため。80年代前半に、日本の金融はそれまでの資金不足状況という状態から、資金余剰の状態になり、それに伴って金融の機能不全の兆候が見られ始めていた。不良債権を処理するだけでは、単に80年代前半(オーバーバンキングの状態)に立ち戻るだけ。

真の意味で金融システムの機能回復を図るためには、日本の金融機関のビジネスモデルを現代化することが必要。そのためには、まず、セーフティーネットのあり方の根本的見直しが必要である。つまり、預金は絶対安全資産であるというセーフティーネットのあり方を見直すべき。銀行が、自主的に自己資本を充実するインセンティブは、こうしたセーフティーネットがあると、生まれない。

二人の基調報告にはマクロ経済的な影響の議論が少なかったので補足する。不良債権処理も含めて構造調整改革の効果は、いわゆるJカーブ的な動きを見せる。構造改革は、長期的には経済のパフォーマンスを高めるが、既存の構造を一旦破壊してしまうという時期があるので、短期的には失業などの悪いインパクトが発生する。従って、こうした短期のマイナスを乗り越えて構造改革を進めるためには、政府がリーダーシップをとる必要がある。90年代の政策で短期的な失業のリスクを避けるためにとってきた政策行動は、長期の雇用維持能力を失う結果になってしまったのではないか。

(神田秀樹 東京大学大学院法学政治学研究科 教授)

これまでの論点について基本的には賛成。

なぜ不良債権問題の解決が遅れたかの理由について、私が感じていることは、日本の場合は一部ではなく、殆ど全ての金融機関が不良債権を抱えたからということ。

不良債権は、これまでは法的処理のコストが大きいために、処理してこなかったという問題があった。何らかの法的手段に訴えて解決する、または破産させて回収するには、多くのコストが必要であった。そこで、バランスシートにそのままに残される場合が多かった。

これからの不良債権処理の進め方については、堀内先生の指摘のように、基本的には金融機関が自主的に実施すべき。しかし、現在でも残っている債権は何らかの理由があって処理しにくい側面があるものと捉えるべき。したがって、政府が不良債権を処理する方向でインセンティブを与える施策をとることが必要だが、具体的に何をすべきかということになるとなかなか妙案はない。なぜなら、不良債権問題はもともとは民対民の問題で、政府が用意できる範囲は、倒産法制の整備程度。

セーフティーネットの見直し等によるガバナンスの改善は、危機に備えるために平時に実施することは重要だが、危機に陥っている現段階で実施するのは、いかにもタイミングが悪い。

一方、金融システムを現代型にしていくことは重要であり、新規参入を許すような法制度、そもそも銀行がやれる業務範囲を拡大する方向での法整備は重要。

II.ディスカッション

(1)不良債権処理に対する政府の関与

不良債権処理を最も適確に判断できるのは銀行であり、やはり処理は銀行に任せるべきという意見(堀内)があった。また、本来、民間同士の関係であるから、政府が出来ることは少ないという意見もあった(神田)。これに対して、政府は実態として預金の全額保護といった保護的な措置をとっており、それが市場原理の阻止を促している。こうした前提がある以上、政府が不良債権処理を主導する役割を担うべきという意見(シェアード)、日本の金融機関の財務格付けは政府のサポートがなければすべてEランクであり、政府のセーフティーネットがあることで財務格付けが保たれているのでこうした状況を是正することが基本的課題であるという意見(池尾)もあった。

(2)銀行の資本増強について

銀行の自己資本増強については、不良債権の最終処理を何年以内にするという公約よりも、自己資本増強の明確なシナリオを示すことが政府にとって、より重要である。政府は銀行に自己資本増強せざるを得ない状況を強いるようにするべきという意見(堀内)があった。また、銀行の自己資本の増強は当然、問題であり、金融当局が不良債権処理と同時に実施するように仕向ける方法もあるのでは(シェアード)という意見もあった。日本の銀行のビジネスモデルが非効率であるとするならば、民間部門による資本(増強のための)調達は出来ず、必然的に銀行部門は縮小せざるを得ないのではないかという意見がある(池尾)一方、市場のテストを受けた資本増強がアイディアの基本であり、銀行部門全体での資本増強ではないという補足(堀内)もあった。

(3) 不良債権処理における公的資金投入の必要性、規模について

不良債権処理にあたっての公的資金投入の必要性については、かなりの大きさが必要になるという意見(シェアード)、必要性には懐疑的だという意見(堀内)と、政府が何をするかという条件によって必要額はかわってくるという意見(池尾、神田)にわかれた。公的資金投入の規模については、政府が何をすべきか、これから金融機関がどれだけ破綻していくか等、まだ明らかになっていない点が多く、その条件次第で大きな幅を持ち得るという意見が大半を占めた。

(4) 現代型の金融システムについて

現代型の金融システムについて、日本やドイツの銀行は、後発資本主義国の銀行であり、英国のような純粋商業銀行とは異なり、いわば産業銀行とでも呼ぶべき形態からスタートした。わが国では、70年代半ばまでの経済発展が進む過程では産業銀行モデルは意味があったが、そこからの脱却が求められている。そのビジネスモデルになるのは商業銀行や、投資銀行ではないか、という意見があった(池尾)。

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