第4回ESRI経済政策フォーラム
「労働市場とセーフティーネット」(概要)

経済社会総合研究所
平成13年10月2日

本フォーラムの概要について、事務局の責任により、以下の通りとりあえずの要約を行いましたので、ご参照下さい。なお、議論の正確な内容については、議事録(PDF形式 114 KB)別ウィンドウで開きます。を参照頂ければ幸いです。

  • (開催日時)
    平成13年9月27日(木) 14時00分~17時00分
  • (パネリスト)
    玄田 有史
    経済社会総合研究所客員主任研究官
     
    ・学習院大学経済学部教授
    篠塚 英子
    日本経済研究センター客員研究委員
    清家 篤
    慶應義塾大学商学部教授 (基調講演)
    橘木 俊詔
    京都大学経済研究所教授 (基調講演)
  • (モデレーター)
    浜田宏一
    経済社会総合研究所所長

冒頭、橘木俊詔教授、清家篤教授より基調講演をそれぞれ頂き(詳細はホームページ掲載の基調講演をご参照下さい)、その後パネルディスッカションを行った(パネルディスッカションの後半は、パネリスト以外の参加者の方々からの質問、ご意見にパネリストが回答しつつ議論を行った)。

基調講演「労働のセーフティネットと失業削減策」(PDF形式 18 KB)別ウィンドウで開きます。(橘木俊詔 京都大学教授)

  • セーフティネット充実のため、失業保険制度の拡充を提言。
  • 日本の失業保険制度は、失業率が1~2%の時代のものであり、欧米と比べ、給付期間、給付額の双方とも見劣りする。また、短時間就業者、自営業者、公務員等、多くの企業が対象となっていない。これは、通常の保険が認めていない、逆選択を認めていることになるが、逆選択は認めるべきではない。
  • 失業削減のため、ワークシェアリングの導入を提言。ワークシェアリングについては、日本では石油危機後の雇用維持に大きな役割を果たしたが、今回提言するワークシェアリングは、新たな労働者を雇うために、現在の労働者の賃金、労働時間を削減するものであり、現在のところ、労使とも消極的であるが、政府が間に入る時期にきていると思う。海外ではオランダの成功例がある。
  • デフレ対策として、インフレターゲティングを導入する議論があるが、反対である。経済政策の目標が消費者の効用最大化とすれば、むしろインフレターゲティングを取った場合の、望ましからざる高いインフレ率の方が心配である。問題はデフレによる失業であるが、これにはワークシェアリングで対処するのが良い。
  • 企業は福祉から撤退し、社会保障は個人と公共部門が考えるべき問題だ。すなわち、企業が負担している非法定福利厚生費は、賃金の形で支払うべきである。また、社会保障の企業負担はやめ、その便益を受ける国民全体が負担するようにすべきだ。

基調講演「労働市場のセーフティネットについて」(PDF形式 57 KB)別ウィンドウで開きます。(清家篤 慶応義塾大学教授)

  • 失業率が全体として上昇している中で、非自発的失業が増えている。非自発的失業は、これまでは景気が悪い時期には、非労働力化により減っていたが、今回は増えている。70年代後半は賃金の調整が柔軟に働いたが、バブル後は、名目賃金が高止まりしているためだ。
  • 雇用政策の効果は、生産が伸びない限り限定的であり、失業対策の本道はマクロの景気回復だ。
  • 雇用政策は、雇用者のための対策から、失業者のための対策に転換する必要がある。企業内で抱え込む政策から、失業者に目を向けた対策への転換が重要だ。セーフティネットには、失業者の所得保障と再就職の環境整備がある。
  • 失業給付の重要性はもっと強調されるべきだ。給付期間は現在、最長330日になっているが、1年以上という長期失業が増えていいることを考えれば、延長すべきだ。もっとも、給付水準は、それまで勤めていた企業の年功序列賃金によって決まっており、再就職した時の賃金が大きく下落することなどを考慮すると高すぎるので、抑制する必要がある。
  • 市場経済の下でのセーフティーネットとして保険制度は優れており、最近の情勢からみて保険料の上昇は受益者負担からいって当然である。
  • 中高年の再就職を制約している最も大きな要因は、募集・採用の年齢制限である。政府は、年齢制限をなくすよう企業に努力義務を課すとしているが、その際の指針を見ると、どれだけ実効があるか心配だ。これまでの中高年を雇った場合に助成金を給付するという政策は、市場介入により、他の人の雇用に悪影響をもたらす可能性があり、やめた方が良い。
  • 能力開発については、量と質を今後いかに確保していくかが課題である。量の面では、今後民間企業が実施するプログラムへの拡大が重要である。質的な面では、費用援助の方法を、政府認定によるプログラム実施者への助成金から、受講者への貸付けに転換することを提案する。これにより役に立たないプログラムは淘汰され、役にたつプログラムが発展していくことが期待できる。また、貸付ならばより多額の資金援助をホワイトカラー失業者の大学院教育といったより多額の資金援助も可能になる。
  • 規制緩和の関係では、民間職業紹介についての求職者からの料金徴収の制限、労働者派遣事業、有期雇用契約に関する規制の緩和が重要である。

パネルディスカッション

(1) コメント

(篠塚英子 日本経済研究センター客員研究委員)
 失業対策として、生活保護をもっと使いやすくすることを提案する。生活保護の受給者数が低くなっているのは、捕捉率が低いためである。イギリスのように、給付を就業に結び付けるように変えていったら良いと思う。
 ワークシェアリングは検討すべき課題であるが、80年代のオランダの成功は、インフレと赤字に悩む中で、その対策として労使が協調して導入し、政府は減税という形で支援したものである。オランダのような労使の合意が出来るかどうかが1番のポイントだ。
 デフレについて、昨日の物価安定政策会議で、竹中大臣もインフレターゲティングには拘らないが、デフレを阻止するという目標というは重要と発言されていた。

(玄田有史 経済社会総合研究所客員主任研究官、学習院大学教授)
 ワークシェアリングは、国民の考え方では実質的には賃金引下げと同じであり、人件費の高騰を抑制するという発想と同じである。そもそもJobという概念が明確にない日本には人的資源管理の認識などが必要である。
 年齢制限の撤廃は、必要であると認識している。そのためには、高齢者の合理的行動が必要である。
 中高年の失業対策として、これまでの情報提供や能力開発は効果がなく、「孤独な転職」(失業者が個人の問題として就職活動を行うこと)を避けることが重要だ。これまでの雇用調整で出向が大きな役割を果たしてきたが、98年以降はそれが機能しなくなってきている。自己責任の労働移動は非常に困難であり、企業レベルの労働移動(firm to firm)を進めることを提案する。この関係で、アウトプレイスメント(Outplacement)ビジネスを積極的に評価したい。
 人的ネットワークがないと、中高年の転職は困難であり、能力開発の問題ではない。失業手当の給付期間を1.5年程度に延長しても、たいした効果はない。この関係で、最近、政府が打ち出した公的雇用という対策は注目に値する。

(2) ディスカッション

(橘木)生活保護については、捕捉率が低いのは、日本では困窮したら家族・親戚が先ず助けろという考え方が根幹にあり、適用を難しくしており、法律改正が必要だ。しかし、生活保護は、病気やハンディキャップによる生活困難を対象にしており、失業対策とは性質が違う。

(清家)雇用安定4事業は専ら雇主負担であるが、教育訓練給付は労働者も負担する。これを雇用保険で行うのはどうかと思う。
 年功賃金を変えないなら、年齢差別はなくならないというのはそのりだ。定年制度は、労働者への教育訓練投資を過小にし、問題だ。

(篠塚)失業保険料は低すぎる。日本は欧米と比べ、雇用政策にかける費用が低すぎる。失業率が上昇する中でセーフティネットを構築するのだから、保険料率の引上げは当然だ。
 今度、これまであった助成金が整理され、労働移動支援助成金制度ができる。これまで制度がいろいろと変わってきたが、変えるための情報は提示されてこなかった。制度を作ったら、政策効果をきちんと情報開示し、効果がないものは廃止していくことが重要だ。
 生活保護については、今まで住宅や働く能力といった要件で、対象を絞り込んでいる。最近のホームレスは、雇用者が突然失業し、ホームレスになるというケースが増えており、これらの人は支援すれば就労にたどり着ける。

(玄田)firm to firmは、単なる理想ではなく事実である。送り出す企業が退職者の能力をもっともわかっており、転職先企業を見つけ出しやすい。
 日本の雇用政策は複雑過ぎて、個人が分かりにくいことが問題である。
 政策評価の関係では、セーフティネットで、どういう状況を実現するのかを示すことが重要だ。530万人の雇用創出と言うが、今でも毎年そのくらいの雇用は生まれている。
 労働力人口は減りつつあり、失業者だけでなく、就労意欲の喪失等により非労働力化した不完全失業者に目を向けることも重要だ。

(3) オーディエンスとの質疑

(Q)失業率5%のうち、非自発的失業は1.5%としかないというが、デフレ対策で減らせるのは1.5%しかないということか。ワークシェアリングはJobが定義されていないから駄目というが、介護サービスのような単純な作業の分野では定義できるのではないか。成長分野でのトレーニングは有効ではないか。

(清家)ミスマッチも景気回復で減る部分はある。但し、地域間ミスマッチについては、これまでの製造業の場合には、工場が移転すれば良かったが、最近のサービス業の場合にはそうはいかないという問題がある。

(玄田)ミスマッチと需要不足は、厳密に分けることは困難だ。最近の若年者失業の場合、就職氷河期で希望しない仕事について、その後失業してしまうというケースが多い。
 政府がこの産業が伸びそうだからと誘導するいうのは、あまり当たらないし、もうやめた方が良い。個人に対する情報提供が重要である。(清家、賛成)

(篠塚)ミスマッチと需要不足は、厳密に分けることは困難としても、大雑把に見て、90年代に入ってミスマッチが増えているのは事実だろう。


(Q)オランダのワークシェアリングでは、常用雇用、パートタイマー等の賃金格差是正策を取ったが、橘木氏は、この点どう考えているか。firm to firmは、新たな企業再編の動きが出ている中で困難ではないか。

(橘木)ワークシェアリングでは、常用雇用、パートタイマー等の賃金格差是正策を取ることが重要だ。このため、私の提案では常用雇用の賃金引下げが重要な鍵になっている。

(玄田)出向が難しくなっていいるとしても、個人が転職先を探すほうがさらに困難と言うことだ。企業内にJobの概念はあっても、企業間に共通なJobの概念がないということが問題だ。


(Q)構造改革を進めれば、少なくとも一時的には失業の増加は避けられない。雇用政策の目標をどう置くべきか。雇用調整のコストはどうしたら良いのか。どのようなセーフティネットを築いたらよいのか。10兆円の5年国債を出すという提案もあるがどうか。

(橘木)失業率を下げるにはワークシェアリングしかない。失業保険の保険料引上げもやむを得ない。

(清家)構造調整という供給面の政策は、需要サイドの政策をやりながら進めることが重要だ。目標として、やはり失業率は低いほど良い。働く意欲がある人を活用することが大事だ。雇用調整のコストを国債発行で負担するのは乱暴だ。先ず重要なのは保険料の引上げだ。

(篠塚)雇用政策の目標として、「失業なき労働移動」を掲げるのは、お題目に過ぎず、不良債権処理もあるので失業は発生せざるを得ない。但し、その対応として、財政が駄目だから金融でというのは、飛躍がある。インフレターゲティングは国民も納得しない。


(Q)ホームレスは大都市の問題であり、地方政府が対応するべきで、法改正の難しい生活保護という中央政府の政策で対応すべきではないと思うがどうか。

(篠塚)ホームレスの問題は、かって高度成長期に都市への人口集中を進めた国の責任もある。東京都、大阪府が対策を進めているが、国も補助金を入れている。

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