第6回ESRI経済政策フォーラム
「国内産業の空洞化と対アジア・中国経済関係」(概要)

経済社会総合研究所

平成14年3月13日

本フォーラムの概要について、事務局の責任により以下の通りとりまとめましたので、ご参照下さい。なお、議論の正確な内容については、議事録(PDF形式 113 KB)別ウィンドウで開きます。を参照頂ければ幸いです。

  • (開催日時)
    平成14年3月11日(月) 10時00分~12時30分
  • (パネリスト)
    • 伊藤 元重
      経済社会総合研究所客員主任研究官
      • 東京大学大学院経済学研究科教授 (基調講演)
    • 海老名 誠
      富士総合研究所理事
    • 関 志雄(かん しゆう)
      経済産業研究所上席研究員
    • 堺屋 太一
      内閣特別顧問 (基調講演)
  • (モデレーター)
    • 牛嶋 俊一郎
      経済社会総合研究所次長

冒頭、堺屋太一内閣特別顧問、伊藤元重教授より基調講演をそれぞれ頂き(詳細はホームページ掲載の基調講演をご参照下さい)、その後パネルディスカッションを行った(パネルディスカッションの後半は、パネリスト以外の参加者の方々からの質問、ご意見にパネリストが回答しつつ議論を行った)。

1. 基調講演(堺屋太一 内閣特別顧問、元経済企画庁長官)

  • 我が国では戦後、1) 日米同盟という形での安全保障体制、2) 規格大量生産で経済成長を図っていくという経済体制の2つの概念で経済社会が運営されてきた。
  • このうち、前者は90年代になり、冷戦終了で安全保障概念が変化してきたにもかかわらず、国内での認識変化や、新たな外交概念の形成につなげられていない。そもそも、日本は相手が一国でないと外交がうまく出来ないという歴史的特徴を持っていた。
  • 最近の日本では、80年代までは中国を需要市場として位置づけているものばかりであったが、90年代前半以降は供給市場・生産拠点として位置づけるものばかりになってきた。これは日本の中国(外国)に対する意識の扁平さを示したもの。
  • 問題提起したいのは、次の2つ。一つ目は、中国の生産拠点としての工業化は今後どこまで進んでいくか。二つ目は、中国経済のサービス経済化はどのように進んでいくかである。
  • 工業化進展については、かなりの期間発展するという意見と、近い将来没落するのではという二つの見方がある。しかし、これはどのような形で工業化が進むかにも依存する。例えば、これからの中国で20世紀型の工業発展(規格大量生産)を進めていけるのだろうか。
  • 中国経済のサービス化については、工業化を超えてサービス化し得るのか、工業化と並行したサービス化が可能かという問題である。また、中国独自のサービス産業が成立するのか、日本と同じようなサービス化なのかという問題もある。
  • これからの経済発展を考える際、中国の高齢化問題が制約になるのではないか。中国では一人っ子政策により、人工的な高齢化が進む。いつまで維持可能で、どのように乗り切るのか。また、環境・エネルギー・資源の問題なども制約要因になり得る。
  • 中国は今後、北京オリンピック、上海万博という2つの大きなイベントを迎え、日本がそうであったように大きく変わっていくことになる。日本はそうした中国の隣で暮らす国となるのか、アメリカの端の国となるのか。あるいは第5の独自の文明国となるのか。こうした観点は、皆さんも含めて考えていかなければならない。私の視点は幅広くなったが、最初の問題提起としたい。

2. 基調講演(伊藤元重 経済社会総合研究所客員主任研究官、東京大学大学院経済学研究科教授)

  • 私の3つの論点は 1) 中国の産業発展の日本へのインパクト、2) 貿易収支や経常収支で捉えられる傾向、3) 日本の産業構造の方向について、である。
  • 中国からの輸入は日本のGDPの2%程度に過ぎない。中国の輸入が日本経済を揺るがすということは考えにくい。その前提のもとに、あえてという話で以下議論したい。
  • 貿易について、中国と日本の間では、中国の経済発展が進む中で、日本の工業の中で拮抗する加工食品や家電などで競争が起きている状況。しかし、産業内貿易や水平分業、財の質が異なるなどの場合には、中国の経済発展や産業競争力が伸びた場合に、日本のメリットになる場合がある。
  • 理論的には多くの貿易モデルがあり、完全雇用モデルでは価格面を通じてしか影響が出ないことになる。しかし、現実は理論のように静学的ではなく、産業調整のスピードや補助金を議論すべきということになる。
  • 汗水を流して働く分野は日本では行わず近隣諸国に任すという選択も良いのではないか。しかし、日本国内の先進工業地域は適応できるが、そうでない地域に大きな影響が出ることは考えられる。これは、最適通貨圏と同様の議論である。
  • 経常収支については、貿易・サービスの部分、貯蓄や財政収支の部分、海外向け債権の純増の三面が同時に進行している。これらは三面が複雑に絡んでいるので、安易に原因を決められないが。経常収支が国内貯蓄で決まるのなら、高齢化で貯蓄は減少することとなる。そのため、経常収支対GDP比率は少しずつ、減少する方向にあるだろう。そうした中で、所得収支は今後も増えると考えると、貿易・サービス収支ないし貿易収支の黒字が減少するのは、ある意味で必然である。いずれにせよ、これはマクロ経済の問題だ。
  • 産業構造については、規格大量生産で今後もいけるかは難しい。現実はそうした分野以外で成長している。製造業が、現在の欧米と競争するような、非常に高い技術で製造していける分野を伸ばす必要がある。欧米でも製造業で働く人数は減っているが、一人当たりの生産性は上がっており、生産量には変化がないという現象がある。それと同時に、サービス分野を伸ばす必要がある。
  • 日本の産業変化はそういう方向に向かっていくだろうし、現在、日本は産業構造変化がそうした方向で起こっているように思われる。規格大量生産の衰退は、産業構造の必然的な方向であり、中国の経済発展とは関係がない。結果的に中国要因のように見えるだけなのではないか。安く輸入できることは、日本にとって一つのチャンスと捉えるべき。
  • 日本の課題は収支ではなく、グロスの貿易をどうするか。米国はNAFTA設立以降、域内貿易が増えて発展しているように思われる。日本でも中国との相互貿易が経済発展につながっていくようにすべきであろう。

3. パネルディスカッション

(1) コメント

(海老名誠 富士総合研究所理事)

  • 堺屋さんの「日本という国は相手が一カ国でないとうまく対応できない」というのは、非常に興味深い示唆。日本はこれまで貿易関係では、WTO一辺倒できていたが、昨年の日-シンガポール経済連携協定以降、小泉総理による日ASEAN経済連携構想立ち上げなど、地域経済圏の動きが出ており、今後リージョナルな交渉がどのように進むか注目したい。
  • 堺屋さんは中国の工業化がどの程度のスピードで進むかを話されたが、2000年末ベースのラフな数字では、GDP比で一次産業が16%弱、二次産業で50%、三次産業で33%の付加価値を生んでいる。従業者数は一次産業が50%、残りを二次産業と三次産業とで半分づつで吸収しているという状況。これは二次産業がGDPを支え、三次産業がまだまだの状況であり、製造業を強くする段階だといえよう。
  • 理論上、伊藤先生は、中国は脅威ではないとおっしゃったが、産業界としては生き残りのために、生産拠点の移転や開発輸入を進めている状況。日本企業の海外現地生産比率は14.5%だが、既に海外に拠点を持っている企業では34.1%が海外で生産している。輸送機械・電気機械ではこの比率が高いが、繊維は7-8%で特に増えていない。繊維産業では、既に自社ブランドの海外生産をあきらめ、中国ブランドの製品を日本で売る時代になっている状態。
  • 我々も中国がWTOに入る影響を分析したが、結論は伊藤先生と同じで、日本が最大の受益国になるだろうというもの。日本は中国にとっての最大の輸入相手国である。WTO加盟による関税自由化後は、特に自動車完成品(現行80%または100%関税→25%に)、IC部品(平均13.3%→0%へ)など、資本財、中間財で恩恵が大きい。
  • 企業経営者の8割は海外現地生産を考えており、その8割は中国に進出していくとの回答がある。その理由を尋ねると、国内市場を狙うという回答が多い。中国の輸出依存度は、その他の東アジア諸国に比較して低い。米国景気減退で、アジア総崩れの中で、中国が比較的堅調であることが明らかになった。中国は経済成長を内需で支えている国である。WTO加盟による自由化は日本にとってのチャンス。
  • 日本は旅行収支が大幅な赤字である。投資バランスも出超状況であることからすれば、日本をもっと海外に開いていくことが経常収支の改善には必要である。

(関志雄 経済産業研究所上席研究員)

  • 人の問題について3つ述べたい。まず、高齢化について、80年からの1人っ子政策の影響をみると、国連の人口推計によると2010年程度から労働力人口比率が下がってくる。2020年頃からは労働人口増加率もマイナスになっていく。また、高齢化による貯蓄率の減少も考えられる。中国の高度成長がいつまで続くかだが、労働力の観点からすれば、あと20年程度と考えられる。
  • 第二に、労働力移動の問題。日本の報道では、労働の大規模移動は社会不安につながるというマイナスの効果を強調する。しかし、私はプラスの効果があると思う。(中国省別の)GDPとしての経済成長は、労働移動によって格差は増加するが、出稼ぎ者の送金による(省別)GNPはむしろ平準化し、社会安定に寄与する効果がある。中国当局もこの点を理解し始め、戸籍法の変更をはじめている。沿海部の地価や賃金の上昇で投資が次第に内陸に向かうというのは、中国国内版の雁行形態発展論と捉えられるのではないか。政府は西部大開発を進めようとしている。
  • 三つ目は、指導部の世代交代の問題。文化大革命によって60年代に約10年間大学が閉鎖され、77-78年に再開された。このように、大学教育は分断されている。文革前の世代は共産党員としての資質が重視されたが、後の世代は実力が重視され、欧米や日本へ留学している。指導者世代に留学者など自由な発想の人物が入ってくる時期に大きく変化する可能性がある。今秋の共産党大会の人事では、まだ旧世代のままと予想されるが、ポスト文革世代が指導部に入ってくる5-10年後には大きな変化が予想される。
  • 中国でこの数年に急激に良くなってきているか、というとそうではない。日本の見方がくるくる変化しているのである。中国脅威論は、むしろ日本人の自信喪失のせいではないかと思われる。一人あたりGDPのレベルでは、日本人は中国人の40倍である。エンゲル係数、一人当たり電力消費量等で見ると、中国は日本の1960年代のレベルに過ぎない。
  • 中国と日本は、経済ではむしろ補完関係にあるように思われる。競合関係にあるというのはゼロサム的な見方であり、補完関係にあると捉えると、プラスサム的な見方が可能。中国の発展はむしろ日本のプラスになるというのが私の考え方。
  • もう一つ提起したいのは、中国が比較優位に沿って、世界経済に組み込まれつつあることである。中国の比較優位はハイテクではなく、労働集約的な産業である。中国は労働集約的な工業製品を輸出し、ハイテク製品を輸入している。もしも、中国の労働集約型製品の生産が世界的にも増大していけば、豊作貧困のように、むしろ中国の交易条件を悪化させ、日本の交易条件を改善することになる。
  • 伊藤先生にお聞きしたいが、今の日本の貿易黒字減少の大きな要因は、景気対策による財政赤字の拡大ではないか。

(2) ディスカッション

(堺屋)

  • 関さんが言うように日本と中国が補完的なら幸せだが、日本と中国がいつまでどの分野で補完的であり、どこで競合的になるのかということが問題である。最近、ネギと椎茸が競合的になったが、何かを放棄しないと補完的ではいられないのではないか。何が残るか、選別する仕組みをどうするかという問題だと理解している。

(伊藤)

  • 日本に残る最先端分野はバイオ、IT、燃料電池などが考えられるが、これらは中国と競争する分野ではなくて、日本が欧米と競争していく分野。
  • 90年代の景気後退という景気情勢の中で、財政支出が拡大した面もあるが、中長期的には高齢化要因が働いている。財政赤字の拡大が貿易黒字減少の主因といえるか難しい問題である。
  • 繊維産業の製造原価は、フリースや背広でも売値の中で大きな部分は占めてはいない。むしろ、流通や販売のコストが上昇しており、付加価値構造が下流に動いてきた。したがって、日本の繊維産業の悲劇は製造部門が外に出ていっていることではなく、アルマーニやラルフ・ローレンが育っていないこと。

(海老名)

  • 関さんが、東だけを見て全体を語るのは間違いという指摘には賛成。しかし、逆にマクロで見て、中国を捉えるというのも間違っていると指摘したい。何を話すか、何を見るかによって使う材料は異なってくる。

(関)

  • 日本と中国の間に悲劇があるとすれば、それは潜在的な補完関係が活用されていないこと。例えば、日本の対外直接投資のうち、年間1000億円程度しか中国に投資されていない。これは日本の対外直接投資の2%、GDP比では0.02%程度に過ぎない。むしろ直接投資が少ない事が日本の問題である。中国は法律が良く変わる、地域差がある、知的所有権がないとの批判もあるが、欧米企業はうまくやっている。日本企業の現地化が重要だ。

(3) 会場参加者との質疑応答

(Q)
巨大な中国が、いつまで今のまま存続するのか。これまでは中国共産党が巨大な官僚組織でつなぎとめてきた。しかし、現状をみると、地域格差、腐敗、暴動、宗教問題など、危機的状況で押さえ込みが効かなくなっている。ばらばらになれば、不安定要因になろう。10億もの人民がまとまっていた状況が続くことは、歴史的にもなかったのではないか。
(堺屋)
世界の歴史を見ると、アラブやヨーロッパと異なり、中国だけが巨大な政治的まとまりがあったということが示されている。緩やかか強いかは別にして、中国のまとまりは続いていくと私は考える。
生産効率が高い分野に従事する労働者の比率は大きくは変化していないように思われる。その意味では、格差は昔から存在していたし、その格差を抱えながら統一してきたのが中国。したがって、私は、中国は統一したままでいくだろうと思っている。
(Q)
日本人の消費者は日本製品に非常に大きな自信を持っている。同一価格であれば、日本人は日本製品を購入する意識があると思う。そうした状況では、細かく見ていけば、日本で生き残る産業はあるのではないか。闇雲に製品が入ってくると、安全、表示などの点で消費者にマイナスになりかねない。
(Q)
冷戦終了とおっしゃったが、中国は共産党支配である。共産党支配がまだ続いている状況では、冷戦は終了していないのではないか。
(Q)
本日の議論では出なかったが、日本を市場と捉えた場合に、日本への直接投資が少なすぎるのではないか。その意味でも、消費を喚起する政策が必要なのではないか。
(Q)
海外進出企業への投融資業務を行っている者だが、空洞化に政策的に手を貸しているとの批判がある。中国に日本企業が投資すべきという意見があったが、政策的に日本企業の中国投資を金融面で支援するべきかどうか、皆さんの考え方を知りたい。
(海老名)
輸入促進の話だが、同質のものが同一価格で、日本の中で生産できれば問題はないが、同一価格で同一製品がうまく出来なくなってきているのが現状。我々はためらってしまうが、我々の子供たちは、ためらいなく中国製製品を買うだろうと思う。
(堺屋)
品質-価格代替線という概念がある。日本市場の特徴は品質が高ければ、価格が高くても購入してきたということ。ここ数年、日本人の美意識が崩壊してきて、価格志向になってきている。例えば、食肉の虚偽表示では、味が違うという指摘はなかった。そうした品質と価格の意識の変化は米国や英国でも過去に発生している。
社会主義・共産党という政治組織については、一つの統治団体になっているが、厳密な意味では思想とは分かれているのではないか。私は、誤解を恐れずに言えば、思想支配ではなく、人脈支配になっていると捉えている。冷戦構造の継続とは考えていない。
(伊藤)
日本の消費者の国産神話は崩壊してきていると思う。日本製か中国製かというよりも、消費者は何を使って、どういう作り方をしているかに興味があるのではないか。
国内投資について、JETROで調査を座長として行ってきているが、海外企業が日本になぜ投資しないかは、土地制度、税制、年金制度、外国人にとっての学校整備など多くの分野が絡んでいることがわかる。こうした点を考慮して対内投資の促進に取り組んでいくべきである。
(関)
海外への投資の政策的支援については、個人的には、市場の出来ることは市場に任せるべきだと考えている。さらにODAをどうすべきかという問題になるが、環境など市場の失敗分野、所得格差の是正、民間では出来ないインフラや制度づくりに専念すべきではないかと思っている。
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