第9回ESRI経済政策フォーラム
「地方財政のあり方」(概要)

経済社会総合研究所

平成14年7月17日

本フォーラムの概要について、事務局の責任により以下の通りとりまとめましたので、ご参照下さい。なお、議論の正確な内容については、議事録(PDF形式 94 KB)別ウィンドウで開きます。を参照頂ければ幸いです。

  • (開催日時)
    平成14年7月17日(水)14:30~17:30
  • (パネリスト)
    • 木村 陽子
      地方財政審議会委員
    • 小西 砂千夫
      関西学院大学大学院経済学研究科/産業研究所教授
    • 齊藤 愼
      大阪大学大学院経済学研究科教授 (基調講演)
    • 神野 直彦
      東京大学大学院経済学研究科教授 (基調講演)
  • (モデレーター)
    • 井堀 利宏
      経済社会総合研究所総括政策研究官

冒頭、齊藤愼教授、神野直彦教授より基調講演をそれぞれ頂き(ホームページ掲載の基調講演をご参照下さい)、その後パネルディスカッションを行った(パネルディスカッションの後半は、パネリスト以外の参加者の方々からの質問、ご意見にパネリストが回答しつつ議論を行った)。

1.基調講演(齊藤愼大阪大学大学院経済学研究科教授)(PDF形式 34 KB)別ウィンドウで開きます。

(1)ポイントは以下の4点

  • 地方には自主財源となる地方税が必要。
  • 地方政府の歳出の削減、効率化が求められる。補完性の原則を踏まえ、国と地方、地方間の役割分担を考え直す必要あり。
  • 税源委譲を含めた歳入を地方政府がいかに適切に使うか。
  • 地方に税源を分けてもうまく行くのかという観点から、評価システムや情報開示が必要。

(2)地方財政の現状(付表1)

  • 地方財政のプライマリーバランス赤字をみると、国と比べてあまり大きくない。
  • 地方歳出はバブル崩壊後も減少してこなかった。平成12年度に初めて減少したが、これは主に国の景気対策と連動してきた普通建設事業費が落ち込んだことによる。
  • 地方税に比べ歳出が過大で、地方債への依存度が高い(平成12年度で11%程度)。
  • 税収が落ち込んでも歳出が減らない硬直的な構造となっている。これまで歳出の見直しは進んでこなかった。事務事業評価の導入をきっかけに、見直す動きが始まっているが、まだどの程度の効果があるかははっきりしていない。国からの規制が多かったことも、地方財政が硬直的であった理由の一つではないか。

(3)歳入の問題点(付表2,3)

  • 平成3年度から11年度の地方税額をみると、都道府県税では都市圏の落ち込みが大きい。市町村税をみると、東京、大阪以外は増加しているが、都市圏は伸びが小さい。
  • これらのことから、バブル崩壊による「意図せざる」税源の再配分がなされたと考えられる。

(4)国からの移転

  • 「地方財政計画」が地方財源を規定し、交付税、地方債などの地方財政対策の基礎となっている。地方財政計画で歳出の見積もりがどうなされているかが重要なポイントであり、これを見直す必要がある。国からの規制が多いので、規制緩和とのセットで見直すべきである。
  • 分権の時代には、「計画」の対象外である、いわば「枠外」と呼ぶ部分が重要。「枠外」とは超過課税、不交付団体の財源、課税自主権などである。
  • 国が総額を保証して地方を規制するという枠組みを少しでも変えたいならば、枠を小さくし、「枠外」を大きくすることが重要。
  • 地方交付税の歳入に占める割合は平成5年では16.2%であったのが、平成12年度には特例交付金を入れて23%近くになるなど、このところ急膨張しており、これは重要な問題だ。この要因としては、景気対策で動く部分が大きいこと、財政調整機能が強すぎるのではないかということがよく指摘されている。

(5)改革の方向性

  • イタリアの著名な財政学者TANZIは、公共支出はGDP比で10から20%減らすことが可能としている。
  • 地方政府は経済学的にみると地域独占でかつ規制された産業という面があり、おそらく独占に関する過去の研究成果を利用して分析することができる。
  • 平成13年11月2日の経済財政諮問会議では、交付税に関して段階補正の見直しが提起されている。
  • フロンティア関数を使ったごく最近の研究では、他の効果も入れて、歳出規模の20~30%が削減可能という試算もある。
  • 財源補償のやり方を変えていくべきである。これまでは平均レベルでの補償が中心だったが、努力していない自治体にまで補償する必要はない。
  • 財政収支のギャップ縮小を考える場合、歳出と歳入の両面から考える必要がある。
  • 景気対策は基本的には国の責任で行うべき。また、景気対策とは逆の意味で、経済活動水準と独立した政府活動はありえない。
  • 国による規制を再検討すべき。地方の説明責任を考える必要もあり、規制緩和されない業務は国への返上を考えてもいい。
  • 地方が「限界的財政責任」を果たせるシステムの構築が必要。そのためには、バブル崩壊による意図せざる財源再配分に関する部分を中心にして、税制改革と税源委譲が必要。なお、課税自主権も重要だが、今のやり方では金額的にはあまり期待できない。それよりも、既存の税目で税率を操作する方が重要である。地方債の発行については、地方団体の努力の度合いを市場で評価すべきである。
  • 行政評価と情報公開は改革に欠かせない。この点ではまだ不十分であり、もっと徹底した評価システムを作ること、予算システムとリンクさせることが必要である。

(6)最後に

  • 何らかの競争原理的なものを導入できないか、ということが大きな議題として残る。地方制度調査会では、都道府県が小規模団体の行政を行うなどのアイデアが出ている。
  • 英国のブレア首相は、地方政府が努力しない場合、政府はパートナーを代えるかもしれないと発言したことがある。NPOなど他の団体・機関による新規参入があるかもしれないといった状況を作ることが必須と述べたものと考えられる。

2.基調講演(神野直彦東京大学大学院経済学研究科教授)(PDF形式 159 KB)別ウィンドウで開きます。

(1)歴史的な経緯

  • 1928年の国会選挙時の政友会の選挙ポスターの中に、地方への税源委譲や地方分権等地方財政について記した標語(レジメ1.参照)がある。この経緯をみると、第1次世界大戦後、諸物価が高騰して1918年に米騒動がおきたが、地方財政もこのときに破綻し、その救済措置として、交付税(財政調整制度)の始まりである義務教育国庫負担制度が導入された。1921年の全国市町村会は第1回総会を開き、地租と営業税を国から地方に委譲すること(両税委譲)と、義務教育国庫負担制度を拡充することの2つの要求を決議した。この両税委譲運動を私たちは「大正デモクラシー」と呼んでいる。普通選挙法が成立し、その最初の選挙が1928年に実施された。政友会は当然、標語にあるように地方政府への税源委譲や地方分権を唱えることとなったわけである。
  • 両税委譲は結局第2次世界大戦前には実現しなかったが、戦後、シャウプ勧告により、国税であった地租が地方税である固定資産税になり、事業税も国税から地方税になった。それと同時に財政調整制度である平衡交付金の導入を提唱した。シャウプは大正デモクラシーを踏まえて勧告を出したといえる。

(2)財政調整制度

  • 財政調整は、垂直的財政調整と水平的財政調整に分けられる。なお、これはドイツの考え方であり、日本ではこの言葉の概念は統一されていない。
  • 財政調整制度はワイマール共和国(ドイツ)において1920年のエルツベルガーの改革で実現された。ポーピッツが制度の生みの親といわれている。ドイツは米国とは異なり協調的な連邦制をとっており、税は国と地方との共同税という形でとり、一定の割合で国と地方へ配分している。
  • 垂直的とは国と地方との調整を意味し、水平的とは地方間の調整を指す。考え方としては、国と地方で行政任務を配分するが、そのためには課税権も配分する必要がある(垂直的財政調整)。
  • 地方に配分された行政任務により地方政府で財政需要の調整が必要となり、そのために地方政府間の課税力の調整も必要となる(水平的財政調整)。(レジメ2.参照)
  • この考えによると、垂直的財政調整をしない限り、水平的財政調整もない。つまり、現在行われようとしているような交付税の改革を先にやろうという考えは議論が転倒している。
  • 垂直的財政調整を分権的にするには、行政任務を地方政府に多く割り当てたとしても、さらに決定と支出(執行)が対応しないといけない。機関委任事務が廃止されたことで、その外壁は壊されたといえるが、まだ柱は残っている。たとえば中央政府が法令に事細かに書き込んでしまうと、自治事務とはいってもその効果は少ない。介護保険がその例である。
  • もう一つの問題は、行政任務と課税権が対応していないことである。地方分権を進めるには、この2つの非対応を解消すべきである。地方分権推進委員会報告(諸井報告)の該当部分は私が担当したものであり、そのような考え方で書かれている(「地方の歳出規模と地方税収との乖離の縮小」、「住民の利益と負担の対応関係の明確化」)。
  • 諸井報告では、税源の変更についても「地方税のなかでも基幹税目の更なる充実」、「個人住民税のより比例的な税率構造の構築と課税ベースの拡大」などを唱えている。(配布資料参照)
  • 税源配分を見直すことなく新しい税目で税源を増やそうとする動きがあるが、戦後にも似たようなことがあった。シャウプ勧告では、これは歳入不足によるものであり、税源委譲におとし解決すると指摘し、実際に委譲を行った。
  • EUの統合に向けて、国民国家の役割が変貌するなか、1985年に定められたヨーロッパ自治憲章では、補完性の原理に基づき、地方自治の範囲や財源について定めている。現在多くの国が批准している(配布資料参照)。国連でも同じような憲章の案が練られたが、米国と中国の反対により実現しなかった。

3.パネルディスカッション

(1)コメント(木村陽子地方財政審議会委員)

  • 少子高齢化等により、行政需要が住民の身近なところで生じてきているので、住民に近いところで意思決定をするのが望ましい。
  • 今後人口が減っていく自治体が増える中、全部の自治体が同じように任務を果たせるのであろうか。さらに、現在の制度が持続可能なのか、考えてみる必要がある。
  • 限界的財政責任については、今の制度でも実行可能ではないか。これまで、地方の財源が不足する場合は交付税、地方債、歳出のカット、基金の取り崩し等で補ってきた。制度上は超過課税ができることになっているのに、実際にはあまり行われていない。法人税についてはできても、個人には増税できない。これは国についても同様である。限界的財政責任を曖昧にしてしまうような気質がある。これを変えていく必要がある。
  • 今の地方財政の赤字は、国の景気対策によって生じたと考えられる。国が地方にやらせるという今のようなやり方では有効需要の創出にも力不足だし、地方の競争を促すメリットも出てこない。国が地方と連携しながら集中的にやったほうがよい。
  • 財政調整については、支出補償をなくすわけにはいかないだろうが、大きな自治体は自立していけるし、小さな自治体は仕事を減らしてよいと思う。

(2)コメント(小西砂千夫関西学院大学大学院経済学研究科/産業研究所教授)

  • 地方は独自財源をもたないとムダをするというのは正しいが、新たに行うマージナルなサービスに対応する部分(追加額)についてなのか、平均として(全額)なのかを区別することが重要である。
  • 地方財政計画が大きすぎるということは、地方に国が仕事をさせすぎであるとも言い換えられる。3割自治といわれるが、問題は税収の3倍も仕事をさせていることにある。基本的に地方に仕事をさせすぎである。国が直轄事業を増やすか、負担金の形で業務委託するべきである。
  • 交付税収入がないと立ち行かない(償還財源を持たない)自治体が、地方債を起債するのは間違っている。
  • 「地方財政計画の縮小」については、誰が当事者なのかという問題がある。
  • 市町村の規模や独自財源の有無が異なるにもかかわらず全ての自治体で同じようなサービスを提供するのは間違っている。そう考えると交付税の議論を先にしても意味がない。
  • 分権とは国と地方を切り分けることだが、分権を進めると国の省庁の顔が立たなくなる。
  • 課税自主権に関して言えば、住民税のフラット化は地方税増税の意味付けをする上で意味がある。これによって、地域レベルで大きな政府あるいは小さな政府を選択できるような制度的枠組みに実質的な意味が与えられている。外形標準課税は、ほとんどの自治体が交付税によって税の変動から守られている中では、ほとんど意味がない。交付金が見直されるのであれば外形標準課税も選択肢を広げることになるので良い方向になると思う。

(3)齊藤

  • 地方財政計画を考え直すのが理想である。しかし、各省の反対が大きく、簡単ではないという指摘はそのとおりである。計画の枠外を増やしていくことが一つの考え方だが、そうして地方が自由に決められる部分を拡大することが、交付税が変わる契機になるのではないかと思う。
  • 基幹税の税率を上げられるのにやっていないというのも事実である。税目を増やすといったようなやり方は、契機としては良いことだと思うが、それで財政再建ができるわけではない。本命は基幹税だが、一般の認識としては、住民税等の税率を上げることは考えられていない。しかし、いくつかの自治体が成功すれば、追随する自治体が出てくるのではないか。
  • 地方団体が限界的財政責任を果たせる枠組みが重要である。そのためのコストと行政の努力が理解されれば個人に課税することもできるのではないかと思う。
  • 財政調整制度については国民が選択できることが重要である。

(4)神野

  • 財政調整制度が浸透している欧州では、貧しい地域が独立すると財政調整制度を強める。豊かな地域が独立すると財政調整制度をゆるめる。これが財政再調整制度の原点である。
  • 補完性の原理の解釈として、地方には任務を引き受ける権利と同様に出来ないという権利がある。その場合は、上位の政府か近隣の町村にやってもらうのか、ということになる。
  • フランスでは、住民に対して標準税率以上に課税したら、外の住民が払うような税についても同率の課税ができるという制度がある。参考になるのではないか。地方に仕事をやらせすぎという問題をなんとかした上で、フランス方式を適用すればよい。
  • 市町村合併については、規模のメリットがある反面、住民の意思が反映されにくくなるというデメリットがある。

4.フロアー・オープン・ディスカッション

(フロアー1)

  • 補助金や交付税の仕組みがあまりにも全国一律のため、モラルハザードが生じ、非効率になっているのではないか。具体的にどのような改革をしていくべきか。

(神野)

  • ご指摘に関し、諸井報告に改革の青写真は記してあるので参照してほしい。各省と調整した結果のため、わかりにくい表現になっているところはあるが。

(小西)

  • 地方に行くと、交付税は絶対的に社会的正義である。しかし、財源補償の範囲が国民の権利として限定された水準を超えると、モラルハザードが生じる。

(フロアー2)

  • 「垂直的財政調整」、「水平的財政調整」と分けて考えることは非常に重要だと思う。
  • 地方財政を考えるにあたり、現状にとらわれず何が理想なのかという原則をまず考えてみる必要があるのではないか。さもないと、力のあるところが分け前を得るというゼロサムゲーム、「水争い」になってしまう。
  • 地方がある行政サービスを行う理由について、政府の持つ情報の観点からも考えてみる必要があるのではないか。
  • ソフトバジェットの国税のインセンティブの構造が悪いのは確かだが、そのメカニズムがもう少し議論されてもよかった。
  • 公共サービスの性質、外部性、漏れ(スピル・オーバー)等も考慮する必要があると指摘する学者もいる。

(齊藤)

  • 情報の観点は非常に重要だ。どのくらいの単位が意思決定に適しているのかということは、公共財の供給に関する規模の経済性とは違うのではないか。市町村合併だけでなく、府県の適正な大きさも考えてみる必要がある。

(木村)

  • 地方分権の意義に関して言えば、社会保障の分野では、いろいろな理由で、地方分権がもっとも効率的に機能するといえる。

(フロアー3)

  • 地方政府は国民に一番近いから分権が必要という原理を推し進めると、町内会が最適となってしまうのではないか。行政サービスによってきめ細かく考える必要があるのではないか。

(木村)

  • 行政サービスによって違うというのはそのとおりで、介護では5~10万人と言われている。
  • 行政サービスの最適規模を意思疎通しやすい範囲として考えた場合、30万人程度が適当という人もいる。

(小西)

  • 国は地方財政計画を縮小し、どうしてもやりたいことは国が直営ですればいい。1万人の自治体でもある程度の公務員は必要だが、フルセットのサービスをするには、公務員を更に増やすか、公務員が倍働くかしなければならず、これはお金の問題以前の問題である。合併する、しないという選択肢もある。10万人以上だと十分なスタッフを持つことができるので、この意味での合併は必要ない。

(神野)

  • 補完性の原理を補足すると、これは普遍原理ではない。カナダのように強い中央には強い地方が必要という考えもある。
  • 欧州では行政サービスごとに中央政府がやるのか、地方政府がやるのかという割り当て方をするが、日本のやり方は異なっている。しかし、日本でも出来ないことではないと思う。
  • 分権の発想の背景には、国民国家の枠組みが揺らぎ、国家のどの機能を地方に落としていくかを考えざるをえなくなったことがある。

(フロアー4)

  • 道州制についての議論は行われているのか。

(神野)

  • 地方制度調査会や日本自治学会で議論されており、いくつかの案が出てきている。国民的な議論を巻き起こしていくことが重要である。

(斎藤)

  • 現実の問題として、府県自体の仕事が少なくなり、広域的な行政にウェイトが移ってきている。特別市や課税自主権の議論が繰り返されている。
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