第13回ESRI経済政策フォーラム
「日本企業の収益力はどうすれば持続的に回復するか」(概要)

経済社会総合研究所
平成15年6月17日

本フォーラムの概要について、事務局の責任により以下の通りとりまとめましたので、ご参照ください。また、議事録についても、近日中にホームページ上において公表する予定ですので、議論の詳細についてはそちらをご参照いただければ幸いです。

  • (開催日時)
    平成15年5月30日(金)14:00~16:30
  • (パネリスト)
    イェスパー・コール
    メリルリンチ日本証券(株)チーフエコノミスト
    伊丹 敬之
    一橋大学教授
    常盤 文克
    前花王(株)会長
    吉川 洋
    東京大学教授
  • (モデレーター)
    香西 泰
    経済社会総合研究所所長

冒頭、イェスパー・コール、伊丹敬之両氏よりそれぞれ資料に基づき基調講演をいただき(ホームページ掲載の基調講演資料をご参照下さい)、その後、パネルディスカッションを行った(パネルディスカッションの後半は、パネリスト以外の参加者の方々からの質問、ご意見にパネリストが回答しつつ議論を行った)。

1.基調講演(イェスパー・コール メリルリンチ日本証券チーフエコノミスト)([資料参照](PDF形式 122 KB)別ウィンドウで開きます。)

  • 世界経済全体を見ると、サプライサイド主導の回復が起こっている。つまり、供給曲線が右にシフトし、激しい競争の中で財・サービスの価格が低下している。このデフレ傾向はあと3~4年続くだろう。その原動力は、冷戦終了に伴うグローバライゼーション、ITを中心とする第3次産業革命、サービス業を含む貿易の自由化の3つである。いずれも、製造業だけでなくサービス産業も含めて進行している。

  • 日本経済にはパラドックスがある。マクロでは、財政赤字のため増税は不可避だという悲観があり、ミクロでは、過剰設備、過剰雇用、過剰債務の調整が進んできて、信頼できる経営戦略ができてきたという楽観がある。しかし、その結果として企業倒産と失業が増加し、セーフティネットが必要となっている。そのため、過去10年間で資金の流れが民から官へシフトし、非効率な企業を支援する金融社会主義が急速に拡大した。

  • 日本経済には2つのデフレショックがある。1つはグローバル化によるもので、もう1つは国内の非効率企業の温存によるものである。日本企業は、世界から資金調達できるグローバル企業と金融社会主義に依存するローカル企業とに二極分化しつつある。

  • 家計部門でも所得格差が広がっている。

  • 旧来の政策はマイホームやマイカーのような数値目標的なものだったが、現在では生活の質、感性が重要になってきている。具体的な提言としては、第1に、規制強化により新しい成長を生み出すことである。たとえば環境規制の強化と燃料電池車への免税により自動車の買換え需要を刺激するとともに、技術進歩を促進する。

  • 第2に、規制強化により日本ブランドを作ることである。パソコンやソフトウェアではアメリカに負けたが、環境対策の進んだ自動車では日本企業にグローバル・スタンダードを確立するチャンスがある。

2.基調講演(伊丹敬之 一橋大学教授)([資料参照](PDF形式 188 KB)別ウィンドウで開きます。)

  • 日本企業の売上高営業利益率(資料の3ページの表)は、高度成長期、オイルショック後の安定成長期、そしてバブル崩壊後の90年代と、長期にわたって、平行移動するように(階段状に)低下している。一方、資本の効率を総資本回転率で見ると、80年をピークに92年まで低下を続けたが、その後は下げ止まり、むしろ改善の兆しさえ見える。これらをさらに改善していくにはどうすればよいか、ということについてお話したい。

  • 上場企業の利益は2002年にV字回復したと言われているが、全企業ベースの経常利益の動向(4ページの表)を見ると、そうではない。産業別に見ると勝ち組と負け組の差がはっきりしているが、同じ産業でも企業によって差がついており、二極分化の傾向が見られる。2年連続で勝ち組(高収益で大幅増益)と言える企業は総資産の規模の大きい300社のうちわずか10社だけである。

  • 70年代から90年代初めにかけての収益率低下の原因は、企業戦略の機能不全による資源の無駄遣いが起きたことである。そして、90年代における横ばいの原因は、1つにはデフレ下の人件費の上昇である。90年代の10年間、名目賃金が上昇し、実質賃金はさらに上昇し続けた。この時期、日本の平均的な労働者の実質賃金は約1割増えたが、アメリカの同じようなワーカーの実質賃金はむしろ減っている。労働分配率は、90年前後には65%とか67%程度だったが、93年には80%にハネ上がり、その後はほぼ一定となっている。これは、人本主義を主張する私から見ても、経済原則に反する高い分配率である。横ばいのもう1つの原因は、高付加価値製品が出るような新市場を創造することに、おおむね失敗してきたことである。これも経営戦略の問題と言える。

  • 企業戦略の機能不全に関して言えば、1:効率化は当たり前で、さらにその力を使って収益性の高いビジネスをやるというポジショニングを上乗せする必要がある。2:90年代には、資金制約の強まりの中で、全社横並びのような硬直的な予算配分が行われ、戦略的に必要な投資を柔軟に行うことができなかった。3:能動的な事業再構築ができていない。雇用のためといえば聞こえは良いが、子会社(社長)の数が異常に増えるなど、無駄なことをしている。産業の地図を塗り替えるような再構築が行われないと国全体の資源の有効利用はおぼつかない。4:外国企業との積極的な競争を避け、敗退する傾向がある。これは中国に進出した企業にも見られる。一方、デジカメのような望ましい競争の例もある。

  • 日本企業の収益率が長期的に回復していくための抜本的対策は次の3つである。1:賃下げをする。企業の利潤獲得メカニズムを機能させるには、10%程度の賃下げは当然である。雇用は減らさず、労働節約的でない技術革新を起こしていく。2:企業の経営改革を行う。戦略のわかる経営者を育成するとともに、部門別の収益を明確に把握できる管理会計システムを導入し、予算の重点配分ができるようにする。また、事業の再構築を行い、重複投資や非効率な投資を解消する。同時に、企業の枠を越えた雇用の移動を起こす。3:創業を希望する人は多いが、実際に操業できている人は少ない。これを増やす余地はある。制度的な創業支援も大切だろうが、実際に成功しているベンチャー企業は、食い詰め型であることが多い。あまり優遇して甘えが生じると失敗する。

3.パネルディスカッション

(常盤)
  • 企業の業績について、悪い面が強調されすぎている。これはマスコミや政府にも問題がある。積極的に明るく見ていくことが大切である。

  • 同じ業種でも企業によって大きな違いがあるので、業種別の議論は意味がない。伸びている企業の特徴は、1:独自のビジネスモデルを持っており、それに基づいてマネージメントが行われていること、2:メーカーでは、独自の技術を持っていて、MOTを実践していること、3:以上をベースにして、量よりも質を求めていることである。量を求めている企業は下を向いているが、質を求めている企業は結果として量も増えている。

  • 質を追求するには、選択と集中が必要だが、問題は言うだけでなく実行できるかどうかである。選ぶためには、一方で捨てることが必要になる。それができないところに問題がある。

  • 今の仕組みで、今の発想で未来を見ると暗いが、新しい仕組みで、新しい発想で未来を見ると明るい。仕組みと発想を変えない限り、現状を打破できない。実行するかどうかの差だが、それは政府に頼らなくてもできることである。

(吉川)
  • マクロとミクロは違うというお話があった。そのとおりだと思うが、一方で、倒産した企業の社長さんの話を聞くと、ほとんどの人は不況が原因だと言っている。言い訳もあるだろうが、不可抗力の面があることも事実だろう。伊丹先生の、売上高営業利益率が階段状に落ちていくグラフを見ても、利潤率は長期的には経済成長率とほとんどパラレルに動いていることがわかる。これは決して偶然ではなく、成長率が原因で利潤率は結果だというのが経済学の教えるところである。

  • 成長率を規定するものの1つは労働力人口の成長率だが、利潤率の階段状の変化を説明するには不十分だ。もう1つは技術進歩に伴う生産性(全要素生産性:TFP)の上昇であり、おおいに関係がありそうだが、これだけですべてを説明することは難しい。

  • キーワードはシュンペーターのイノベーションだ。選択と集中の結果として、消費者が喜んで受け入れるような商品がどんどん生まれてきて、新しいセクターが誕生する。そのとき、多くの場合TFPが伸びているのかもしれないが、そうでなくても成長の結果として利潤率が高くなっているはずである。

  • 新しい商品、セクターが出てくるという状況では、ビジョンが非常に大切だ。そういう意味で、常盤さんの「明るいことを考えろ」という指摘に賛成する。

  • 伊丹先生が、分配率が高すぎるという問題を指摘されたが、そのとおりである。故橋本寿朗先生の著書『デフレの進行をどう考えるか』でも、労働分配率が高くなりすぎたことが日本企業の収益を圧迫し、日本経済低迷の原因になったという指摘がされている。賃金を引き下げる必要があるが、デフレ下では、名目賃金は据え置きで物価が上昇するのが一番良いとエコノミストは皆思っているだろう。

(コール)
  • 実質賃金を下げることには反対である。それによって資本の所有者が勝ち組になり、株価は上がるかもしれないが、社内のインセンティブが変わらないと会社は良くならない。また、中国の労働コストは日本の8倍から10倍低いが、そこまで下げたら競争できるということなのだろうか。

(吉川)
  • 日本の労働分配率が持続不可能なくらい高すぎるので、それを下げようということであって、中国とは関係のない話である。

(伊丹)
  • 実質賃金が下がって浮いた分がそのまま株主に分配されるとは思えない。そのお金で将来の賃金上昇が期待できるような基盤に対する投資を行うのが正しい行動だろう。

  • 中国とは賃金水準が違いすぎるので、分配率を下げることは中国に対する競争力を高める方法とはなりえない。その目的は、企業が投資を行うお金を最低限確保できるようにしようということである。

(常盤)
  • 伊丹先生のご意見に賛成である。企業が次の発展のために必要なリソースを確保できる仕組みを作ることが大切である。そういう意味で、労働分配率が高いことが大きな壁になっていることは間違いない。

  • 吉川先生は、名目賃金は据え置いて物価で調整すると言われるが、それでは甘いと思う。もっとドラスティックにやってよい。労働側も今はその雰囲気にある。ちょっと上向くとチャンスを逸するかもしれないので、今やらなければならない。

(吉川)
  • 分配率に関してはおっしゃるとおりだが、問題はデフレ下で名目賃金まで下げるかどうかである。そこまでやると回りまわって悪影響が出る可能性もある。しかし、常盤さんのおっしゃることもわかる。経営者としては、そういう遠回りした配慮をするよりも、いま手元に残るものが少なければ投資を抑制するということになるのだろう。

(コール)
  • 分配率に関してはそういうことかもしれないが、成長していくためには、どうやってインセンティブを生むかが重要だ。

(香西)
  • 分配率についてはいろいろ問題が残っている。たとえば、雇用者所得の名目国民総生産に占める比率はあまり変化していないが、法人企業統計で見ると大きく変化している。減価償却の取り扱い、つまりネットかグロスかの違いなどがある。

  • ミクロとマクロの違い、勝ち組と負け組の違いについてのお話が合ったが、では、ミクロでうまくいっていて、なぜマクロでうまくいかないのか、ミクロでの勝ち組の成果をマクロに広げられないのはなぜか。あるいは、それはもうできつつあるのか。この点について議論していただきたい。

(伊丹)
  • 良い企業はいつの時代にもあるが、良い時代と悪い時代とではその波及効果が違うのではないか。悪い時代には、良い企業のまねをしようと思ってもお金を借りられないなどの制約が大きい、ということかもしれない。現在は特に金融システムが不安定なので、その連結部分が壊れたような状態になっている。

(吉川)
  • たとえば、アマゾン・ドット・コムは新しいビジネスモデルで、成功例と考えてよいのだろうが、その一方で町の本屋さんがつぶれるのであれば、経済全体ではゼロサム状況になってしまう。

  • プラスサムにするためには、社会のルールを変える必要があるかもしれない。日本は40年以上前に石炭から石油にエネルギー転換し、その後の発展の礎を築いたが、このようなことは1企業の努力ではできない。マーケットに任せておけばできるかというと、少なくとも5、6年で成し遂げるようなことはできなかっただろう。プラスサムの状況を生み出すために、政策の役割がある。

  • シュンペーターは、好況期にはイノベーションが群生して出てくると書いている。それは企業家精神であり、常盤さんが協調されたオプティミズム、積極的態度だ。ケインズのアニマル・スピリットもそれに近いかもしれない。

(コール)
  • パッションの問題だと思う。日本のサラリーマン方式には問題があるのではないか。

(香西)
  • シュンペーターは創造的破壊ということも言っている。選択と集中と言い換えてもよい。その破壊は、マイナスサムにもなり得る。

  • 資本の効率が低下したという話があったが、資本の使い方が悪いといっても、かなりの程度は投資の決断が間違っていたかどうかという問題になる。それは既に発生してしまったコスト(サンクコスト)であり、実際問題としては大きいにしても、新しい投資をするときのコストと収益の見込みは別途、前向きに考える必要があるのではないか。

(常盤)
  • これまでは他社と横並びの量の投資を行ってきた。それがまだ残存していて尾を引いているが、これからは自社の独自の価値を作りだして市場に提供するという、質の投資が重要である。そう変わらなければいけないし、そうなってきていると思う。

(伊丹)
  • サンクコストが本当にサンクになっているかというと、実際には、それを多少とも生かそうとしてまた馬鹿な投資をするということもある。本当にサンクコストなら、それを完全に切り捨てたところで生まれる、新しい合理的な投資があるはずだろう。そこが問題だ。

  • 規制の問題ではなく歴史的な事情で発生してしまった現在の産業構造が、個々の経営者の意思決定のスコープを決めてしまうという問題もある。医薬品産業を例に挙げると、ほとんどの企業が国際競争をするには小さすぎるが、それでもバイオテクノロジーの投資に駆り立てられる。個々の経営者の判断としてはベストでも、国全体で見れば重複投資になる。

(香西)
  • サンクコストの典型は不良債権である。その追い貸しや引き伸ばしは、まだサンクコストが沈みきっていないということで、大きな問題である。

  • 日本企業は国内のコストが高いので中国に対抗できないと聞かされていたが、その中国に出て行ってもうまくいっていないとなると、そこに何か大きな問題があるのではないか。賃金の差についてはいずれ為替レート等による調整が起こるのだろうが、それまでどうするのかという問題が残っている。

(コール)
  • アメリカや日本がイギリスやアメリカに取って代わって世界の工場になったとき、新旧のコストの差は1.2倍、1.4倍だった。中国と日本のコストの差はマクロ統計で見て30倍、ミクロデータで見て10倍程度ある。その意味するところは、コスト競争では太刀打ちできないということである。

  • コストの追及よりも、ブランドの付加価値を生み出すことが重要だ。中国で、ブランド戦略で成功している化粧品メーカーもある。大都市のキャリア女性にターゲットを絞り、アジアの肌がわかるということで、ヨーロッパのメーカーと差別化している。

(常盤)
  • 中国企業を一緒に仕事をする仲間と考えた方がよい。特に、中国の広大なマーケットを開拓するのには中国企業と連携する方が得策であり、そのように発想が変わってきている。日本対中国という比較はもう意味がないと思う。

(伊丹)
  • 日本企業の多くは、2002年には常盤さんのおっしゃったような方向に視点を転換したと思う。私の心配は、まさにその中国国内市場での競争の現場で起こっていることに関連している。

  • 第1に、日本企業は、中国市場でたとえば韓国やヨーロッパの企業と競争が始まると、すぐに上級移行してしまう傾向がある。高付加価値製品への移行というと良さそうに聞こえるが、これは間違った戦略である。効率化の努力をしないでニッチに逃げ込むと、結局は負けてしまう。家電市場で代表的な日本企業が敗退していくプロセスはこのようなものであったと思う。さきほどの化粧品メーカーも、最近は少し事情が変わってきているようだ。ブランドも大事だが、効率化とポジショニングの両方を同時に追求する必要がある。

  • もう1つの問題は、日本政府の関与の仕方が生ぬる過ぎるということである。日本企業は中国でのビジネス環境について苦情を言うことが多いが、アメリカ企業はあまり言わずにうまくやっている。それは政府の関与の仕方が違うことが原因であると思う。政府は、中国市場に限らず、これから発展していく市場における日本企業の活動を積極的に支援すべきである。

(香西)
  • 中国の発展は大きなチャンスでもあるが、こちらも適応しなければならない。スペインやイギリスが後発国に追い抜かれた後の停滞ぶりを見ても、相当の覚悟が必要と思われる。賃金格差の問題は時間がたてば調整されてくるだろうが、過渡期をどう乗り切るかという難しい問題がある。アメリカは日本に産業を明け渡しながら新しい産業にシフトしていった、つまりポジションニングをうまくやった。これら3つの組み合わせをどういうタイミングでやっていくかが重要だ。

(吉川)
  • 中国とのコスト差はどうしようもないが、逆に、所得格差がこれだけ大きいということは、環境や高齢化といったフロンティアの問題では日本市場が実験場になり、中国市場はならないということだろう。中国はこれから豊かになり、高齢化も進んでいくので、プロダクト・サイフサイクルの観点からはうまくいく状況にある。それにきちんと対応すればよい。

  • 政府の関与については同感だが、最近ようやく知的財産権等の問題で動き始めている。

(香西)
  • 最後に、日本全体を勝ち組にするための政策について考えたい。コールさんから環境規制の強化等をブランド価値に結び付けるという話があり、伊丹さんからは世界の市場で日本企業を支援すべきだという話があった。知的財産権の話も出た。最後に一言ずつお願いしたい。

(コール)
  • 日本は負け組天国だ。ゼロ金利政策は非効率的な企業を支援している。そうすると、負け組が全体の足を引っ張ることになる。利上げ、金融庁検査の厳格化、規制強化が必要だ。

  • 日本政府は、国内では甘いのに、海外では日本企業を支援しない。アメリカやヨーロッパの政府は違う。

(伊丹)
  • 最も重要なのは金融の問題だ。金融システムの不安定性が、国際的な投機の対象になったり、多くの経済主体が不必要な保険をかけるという行動をとらざるを得ない原因となっている。思い切って整理整頓して欲しい。

(常盤)
  • 企業に元気が出てきた今こそ国の出番だ。税制、規制緩和、起業、金融システムの安定性といった問題で企業を支援する必要がある。また、企業の淘汰が起きるのを邪魔しないようにすることも重要だ。

(吉川)
  • 政策については、常盤さんの意見と基本的に同感である。

  • 日本人は目の前のことで情緒的に考えてしまう傾向がある。これでは選択と集中はできない。もっと理屈で考えるべきである。

4.フロアー・オープン・ディスカッション

(フロアー1)
  • シュンペーターは、創造的破壊のためには資金が必要であり、目利きの能力を持った銀行家が収益の見込めるところにお金を貸すことが重要であると指摘している。現在の日本にはそのような銀行は存在しないが、株式形態でない信用金庫等に重点を置けば、地域の経済からそういう方向がでてくるのではないか。

(吉川)
  • ご指摘のとおり、シュンペーターは銀行家を起業家と同じくらい重視している。日本の銀行はこの10年くらいそうした前向きのことができなかったが、これから「りそな」のように不良債権の桎梏から解放された銀行が前向きの仕事をやっていけるかどうか注意してみていく必要がある。

(フロアー2)
  • 伊丹先生は、ベンチャーは食い詰めだと言われたが、それには反対である。日本でもシリコンバレーと同じようにスピンオフはあった。なかったのはエクイティである。OECDのランキングではアメリカが1位、韓国が3位で、日本は最下位である。リスクマネーをどうするかが重要ではないか。

  • 日本企業の国際競争力が強いところはインテグラル・アーキテクチャーの分野で、モジュラー・アーキテクチャーの場合は外から取り込むという仕方がある。そういうイノベーションの進め方がまだあまり理解されていないのではないか。

(伊丹)
  • 起業に関して一番不足しているのが、真剣にやる気のある人たちである。起業しようという理由はいろいろあるが、量的に支えるのは食い詰めだろうと思う。シリコンバレーはAT&TとIBMのレイオフがなければ成立しなかったという笑い話があるくらいだ。真剣味のある人の数をどれだけ確保できるかが問題で、お金の問題は二の次、三の次ではないかと思う。

(常盤)
  • ベンチャーは、本来は冒険である。いろんなリスクがあり、誰も面倒を見てくれない中で這い上がっていくというのが本当の意味だと思う。かつての松下、ソニー、ホンダがそうだった。アメリカのビジネススクール的な発想で議論していると強いものが出てこないと思う。応援するのは良いが、それに値するかどうかをよく見極めていただきたい。

  • ベンチャーが日本経済に貢献してくるまでには長い時間がかかる。即効的にベンチャーを育成しようという発想は甘いし、間違っている。

(フロアー3)
  • インフレにより実質賃金を下げるべきだという議論があったが、日銀はいつになったら動くのか。経済学者のチームで提言をされたり、経済財政諮問会議でいろいろ発言されているお立場で、吉川先生にお答えいただきたい。

(吉川)
  • それは日銀に直接訊いていただく方がよいのだが、あえてお答えするならば、私は内部情報をもっているわけではないが、日銀の人たちも中では真剣に議論していると思う。総裁、副総裁が代わって、日銀も変わってきたのではないか。

(常盤)
  • 金融システムや不良債権、デフレの対策は必要だが、新しい価値を生み出していかなければ日本経済は良くならない。仕組みづくりはいいが、仕組みの上で何を生み出していくのかという議論に移っていくことが重要だ。

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