緊急ESRI経済政策フォーラム
「年金制度改革を巡って-給付、負担の水準を中心に-」(概要)

経済社会総合研究所
平成15年11月18日

本フォーラムの概要について、事務局の責任により以下の通りとりまとめましたので、ご参照ください。また、議論の詳細については議事録をご参照いただければ幸いです。

  • (開催日時)
    平成15年11月5日(水)14時~17時
  • (パネリスト)
    跡田 直澄
    慶應義塾大学教授 (関連:報告)
    西沢 和彦
    日本総合研究所主任研究員
    本間 正明
    大阪大学教授 (基調講演)
    宮島 洋
    早稲田大学特任教授
    八代 尚宏
    日本経済研究センター理事長
  • (モデレーター)
    香西 泰
    経済社会総合研究所所長

冒頭、本間正明、跡田直澄両氏の基調講演をいただき(ホームページ掲載の基調講演資料をご参照下さい)、その後、パネルディスカッションを行った。

1.基調講演:年金制度改革を巡って(本間正明 大阪大学教授)([資料参照](PDF形式 9 KB)別ウィンドウで開きます。)

  • 年金制度改革については、活力、安心、持続可能性を考えて構想する必要がある。すでに過去、世代間不公平を計るメジャーとして内部収益率を計算し、人口減少、経済成長低下の環境下では持続可能性も欠損するという問題指摘を行ったことがある。改革は急務だ。活力と安心、持続の3つの点で給付見直しも避けて通れない。

  • 負担率について国民経済でどの程度許容されるのかの議論も必要。現状の延長では潜在的国民負担率は6割を超え、これが活力にどう影響するか。財政経済白書の分析では負担と経済成長の間にはある程度の相関が認められる。

  • 国民負担率の中身である、国税、地方税、社会保険料の構成をどうするか、保険料の中で年金、医療、介護、雇用の組み合わせについても議論が必要。基礎年金の財源とも関連。基礎年金にどのような形で税を投入するかも大きな論点。年金の保険料の水準を議論する前に、総合的な保険料を全体としてどのくらいに設定するかという観点も重要。

  • 年金の保険料はいくつかの選択肢の中で持続可能性、労働供給や貯蓄、企業の行動様式への影響もみながら早く移行期の姿を明らかにしていくことが必要。

  • 年金給付については、既に年金を受け取っている世代についても改革に参加いただけるかどうか検討が必要。例えば、高所得層について基礎年金の充当率の引き下げや税金の控除の見直しによって、税引き後の所得の形で協力していただくことが考えられる。高齢世代に貯蓄がたまっており、フローのレベルだけで調整するのはむずかしく、ストックの問題が残る。

  • 保険料上限だけ設定して給付との結びつきを弱める亜流スウェーデン方式でいけるかどうかいささか疑問。受給と給付をビルトインした形で調整、ある程度積立金を利用することも大きな要素になる。

  • 基礎年金については生活保護的性格を強めつつ見直して、その果たす理念を問い直すべきである。

  • 年金という限定された領域でなく、経済全体の中で、保険、税をどうまとめていくかの視点が重要。また、年金制度で税はフリーランチのように言われるが、税も保険料も国民負担であることに変わりはない。

  • 国民年金の4割未徴収は大きな問題。世代間不公平の問題がモラルハザードの主因。ペナルティーが小さいシステムであれば当然の結果。徴収事務を自治体から国に移管したことも影響しているのではないか。徴収についても総合的観点から当局間で協力していくこも必要ではないか。

  • 医療、年金も含めた総合保険として制度を組み立て、受益の面でペナルティーを受けるシステム作り、そのため社会保障の個人会計を整備し、個人レベルで情報を知らせることが重要だ。

2.関連:報告「年金制度改革シミュレーションについて」(跡田直澄 慶應義塾大学教授)([資料参照](PDF形式 28 KB)別ウィンドウで開きます。)

  • 厚生労働省の坂口大臣試案に示された改革案をベースにシミュレーションを実施。活力の観点からは少子高齢化に伴って保険料を引き上げていく際、その上限について20%、18%、16%とした時にどういうことがおこるか。安心の観点からは、出来るだけ給付水準の低下を抑える方法として、支給開始年齢引上げ、高所得層の年金カットを想定した。また、持続可能性については世代間格差を計測できるシミュレーションを実施。

  • 保険料を16%に抑えると20%の時より10%ポイントモデル年金の給付水準が下がる結果。さらに支給開始年齢を67歳に引上げた際の結果はあまり大差ないものの、高所得層の年金をカットするとモデル世帯では現役世代賃金水準の50%レベルに近い給付水準が可能との結果。こうした改革を行えば、16%保険料上限も視野に入る。

  • 潜在的国民負担率上昇抑制については財政改革も併せて行う必要がある。

  • 世代間比較では、事業主負担を含めた生涯の保険料支払いに対してどれほどの割合の給付が得られるか、割引率を3%として試算。現行制度での世代間格差にくらべ保険料負担抑制でほんのわずかだが格差は縮小。しかし支給開始年齢引上げケースではかえって格差は拡大。高所得層の給付カットのケースでは、70年代以降生まれの世代も1を上回るところを維持。ただし、世代間格差という意味ではそれほど大きな改善にはならない。

3.パネルディスカッション

(八代)
  • 年金については制度の持続性がもっとも大事で、そのためには世代間格差の是正がポイント。後の世代ほど損をする制度は受給者にとって危険。格差を極力減らす必要がある。

  • 国庫負担引上げは税金としての国民負担の増大を意味。税、保険料合わせた問題としてみるべき。

  • モデル世帯となっている専業主婦世帯の全就業世帯に占める比率は下がっている。高齢化のピーク時の年金は、就業行動への中立性からも共働き世帯をベースとした議論が必要。

  • 少子・高齢化、低成長の時代では、生涯の給付と負担を世代別に比較してすべての世代が得することはありえない。さらに現実では、税や企業負担という形での国民負担もある。それらを含めた情報公開が必要。

  • 持続可能性の観点からは世代間所得移転ではなく、豊かな高齢者が貧しい高齢者を支えるという視点も重要。その手段として総合的課税により高所得者からの税収を貧しい高齢者向けの補足年金に振り向けることで、貧しい高齢者を世代間格差に依らず保障できる。

  • (跡田教授に対して)世代間比較は必ずしも戦前の30年代生まれとの比較ではなく、高度成長の恩恵を受けた50年生まれ以降の世代と比較するので十分ではないか。団塊世代の収益率を生涯の給付が生涯の負担に対する比率を下げて1に近づけていくことが現実的な目標となるのではないか。50年生まれの人をみると跡田試算における各ケースに有意な差がみられる。

(宮島)
  • 税と一体的に議論すべきというが、いつ、誰がいくら払ったという記録が残るのは保険料の方。税だとむしろ損得論がわからなくなるので、不透明にするのが望ましいという議論になってしまう。

  • 年金に国民全員が加入するには一定の政策コストが必要。国庫負担に税をというのは賦課のベースを賃金以外に広げるという効果があるが、歯止めは必要。

  • 年金課税は重視。給付水準は税込み、税抜き双方をはっきりさせることが必要だ。年金の枠内だけで給付水準を調整することは無理。税だと他の所得と一緒に調整の対象にし得る。

  • 年金部会が提案しているマクロ経済スライド(労働力人口の変動も加味した年金の調整方式)の意味がほとんど取り上げられていないのは残念。年金部会では、これから先の変動は不確実ゆえ、スタビライザーを組み込むべきとの問題意識で提案しており、ここできちんと議論して制度を維持していくという強いメッセージを送ったつもりだった。

  • 内部収益率は積立型年金の発想だ。現在はほぼ賦課方式で、賃金上昇率で換算する方式をとっている。年金財政でどういう割引率を用いるかの議論が必要。事業主負担をいれるべきかどうかについても、負担の帰着にはさまざまな場合があり、慎重な議論を望む。

  • 日本の社会保障制度の癖として、大きなリスクを持っている集団を切り離そうとするきらいがある。医療保険でも年金保険でもこうした保険集団分離の考え方をひっくりかえせるか実現可能性を検討する必要がある。

  • 年金部会では議論の半分が女性の扱いだった。就業形態多様化のなか、いろいろなパターンが想定され、固定化したものについてモデルをつくるのは難しい。現在は動きつつある時期。

(西沢)
  • 保険料をどれくらいにするかなどの議論の前に、どれだけの事業所が厚生年金から離れて国民年金になだれこんで来ているかなどのミクロの統計整備がまず重要。

  • 保険料は政府に対する信頼が高いほど、貯蓄性が高いほど、負担が高くても受容可能なのではないか。したがって、保険料率抑制の議論と同じに、政府の信頼性や社会保障の制度設計の視点が必要。

  • (跡田教授に対して)跡田試算における高所得層年金カット時に達成されている所得代替率の水準は意味深い数字であり、これは厚生労働省試算の低位推計よりも高い数字となっている。

  • 社会保険と税については、国庫負担引き上げは基礎年金の維持のためのコストという宮島教授の指摘があったが、これとて国民年金の空洞化という問題に対しては効果ない。基礎年金財源の消費税化も真剣な議論が必要なのではないか。

  • 年金部会提案のマクロ経済スライドについては、スウェーデン方式とは異なる。スウェーデンではそれは万一の場合に発動されるものなのに対し、今提案されているのは給付を一方的に切り下げ、その効果が25年から30年後に集中的に現れる不確実な抑制策ではないか。世代間格差の計算の際に賃金上昇率で評価することについては意味がないことはないが、どういう利回りで評価するかはっきりと約定してほしい。

  • 年金制度改革については、結論半分、プロセス半分という感じ。年金部会の意見は両論併記的だが、多様な考え方があったことを示した点で意義がある。ただ部会委員の顔ぶれ、部会その他年金関係部会の位置付けについては疑問がある。諮問会議においてもよりプロフェッショナルな議論必要。フェアな議論を尽くしていくこと、そのための政府の体制の見直しも必要だ。

  • 年金用語の統一も必要。マクロスライドという言葉もわかりやすくする必要がある。

(跡田)
  • 活力維持が最重要課題。将来的に国民にある程度の負担は求めていかなければならないが、年金保険料20%ということでいいのか。今、税負担は減税等で低下する一方、社会保険料は医療等を含めすでに20%を超えている。個人の負担としては10%を超えていることになる。まだ重税感にまでは到っていないが、今後所得控除が見直され、税負担が着々とあがることが予想される中、出来るだけ負担を上げないことが必要。

  • 公的保険料について上昇を抑えれば潜在的国民負担率も50%台の低いところで収まる可能性がある。できれば16%くらいの保険料で賄える範囲という考え方が必要。出来るだけ低い負担で、必要な人にはまわせるようにするのが理想。

  • 割引率を毎回変えるのはフェアではない。賃金率で割り引くのであれば過去もそうすべきであった。

  • (八代理事長に対して)30年代生まれの世代も高度成長の恩恵に浴している。既裁定者についても調整していかないと、世代間公平は是正されない。

  • 女性の問題についてはシミュレーションでは考慮されていない。世帯の属性を考える必要ある。共働きが現行制度で必ず損するのはおかしい。

(本間)
  • 世代間公平の問題は活力に影響する。積立金、賃金にかかる保険料、税を財源とする国庫負という3者の組み合わせをどうするかの問題は、公平、活力の問題と深くかかわる。

  • (西沢主任研究員に対して)政府信頼が高くとも、企業が課税後の賃金コストを見て行動すると、国内に投資するか、外国で生産するかの選択に影響し、マクロレベルでも国内設備投資で成長するか、経常収支の投資収益で成長するかの姿に影響する。

  • (宮島教授に対して)企業負担の転嫁については、技術代替可能なら全面転嫁可能であるが、短期的には跡田推計はあっている。企業負担が法人税負担と逆転するのは不自然な状況とみる。

  • (八代理事長に対して)連続線上で議論した場合の解と、初期値を大きく変える改革のやり方では帰結は異なる。変化をどれほど許容しながら進めていくか、国民が決定する問題であり、国民が判断できる材料を継続的に示していくことが重要だ。

(八代)
  • (宮島教授に対して)年金は自助努力しないともらえないというが、社会保障という範囲でものをみると、自助努力しなくとも生活保護はもらえる。社会保険料を確実にとる強制貯蓄が公的年金の本来の意味であるが、これが空洞化している。このままで、年金の徴収方式がどこまで維持できるか疑問。確実に負担をとれる仕組みとしては税方式しかないのではないか。

  • 税といっても一般税ではなく、年金給付は年金目的税で賄うということでなぜいけないのか。社会保険料は本来社会保障目的税。その場合、消費税が捕足面でより公平な税となる。

  • (本間教授に対して)基礎年金の目的税化の場合、制度改革前の個人の保険料払込分は残しておいて、改革後から全員が消費税という形で確実にとれる保険料負担したとみなせばいい。現状では、サラリーマンが基礎年金への拠出分を通じて国民年金のつけを負っている。こういう実情もごく一部の専門家しか知らなかったことも問題。

  • 負担を消費税とすると保険の一元化も進みやすい。記録が残らないからといってその選択肢を排除するのはいかがなものか。

  • 政策の連続性については、10年後の理想を考えてそこへ持っていくというのが透明なやり方ではないか。連続性は大事だが、経過措置で対応できる話。

  • 専業主婦だから払えないというのではなく、広いベースで負担をもとめるべき。夫が結婚費用の一部として支払うべきもの。

  • 税か保険か、歳入、歳出の総合的な議論が重要。年金だけの世界で議論するのは難しい。

(宮島)
  • (跡田教授に対して)そもそも税負担を裁量的な減税で下げるべきだったのかどうか。景気にも影響受けている。保険料と税負担の逆転例は諸外国でもある。これは政府の仕事を財政の枠内で行うか、特別会計という仕組みを使って行うか、アメリカのように民間にゆだねるかという大きな議論にかかわる問題。この数字だけをみて危険かどうか判断できないのではないか。

  • (八代理事長に対して)税なら完全に徴収できると考えるのは楽観的過ぎる。

(西沢)
  • 年金改革では、すぐやるべきことと、より長期的に議論すべきこと(理想の社会保障制度)を分ける必要。

  • すぐ対応すべきは給付抑制で、その方法としては、既裁定者に対してはマクロスライドも使えるのではないか。

(本間)
  • 消費税を年金の特定財源にすることには留保が必要。近年、財源不足が生じると全て消費税で解決しようとする安易な議論が見られるが危険。

  • 賃金所得税と消費税は公共経済学では同値。むしろストック課税をどうするかが重要。

  • 税と社会保険の徴収能力比較の議論は不毛、どういう徴収体制を作るべきかの議論が必要。

(八代)
  • 少なくとも国民からの徴収業務を2重体制で行っているのがおかしいのは明らか。一元化を考えるべきだ。これは行革の問題。

(宮島)
  • 徴収業務については個人的には徴収について統合するとか、社会保険料徴収を英国のように委託するべきといってきた。その第一歩としては情報を相互に交換することが重要。

  • 問題をフローだけで議論するのには限界がある。ストックとの関係も含め考えることが重要。相続税についてもストックの問題と関連してずいぶん議論してきたところ。

  • 跡田論文の試算には二つの枠(社会保険料率16%、潜在的国民負担率50%)が嵌められているが、その枠自体の詰めが必要。

  • 50%は社会が活力を失う臨界点なのか疑問(今年の白書でも、国民負担率と経済活力の分析があるが、高負担率が経済活力を弱めるという結果は十分に証明されたといえるのか)。

4.フロアー・オープン・ディスカッション

(フロアー1)
  • 近年の足下の経済状態が悪いから保険料引上げはできないという議論により、年金制度の持続可能性は大きく損なわれ、年金不安が生じた。保険料を払えないなら給付抑えるという原則が必要。

  • 税方式で積立金を作るというのは不可能。税方式は完全賦課方式で議論が先送りにならないか。

(フロア2)
  • 跡田提案の既に年金をもらっている人の給付カットは労働意欲を損ない、活力低下につながらないか。

  • 子育て費用が少子化を招いている現状を考えると、子育てした個人は賦課方式、子育てしていない個人は自己積み立て方式といった区分も考えるべきではないか。

(跡田)
  • 保険料凍結の際、給付の削減を議論すべきであった。今すべきことは給付抑制の議論、故意に年金財政を悪化させるようなことは避けるべき。

  • 既裁定者に手をつけることでカットされるのは、上位数%の高額所得者(会社役員クラス)。既裁定者のカットでそうした人たちの労働意欲を削ぐかと言われれば疑問。

(八代)
  • 税方式は基礎年金だけに関する話。2階部分は積み立て方式。

  • 年金はできるだけ簡素なものがよく、子供の有無等プライベートな問題と結びつけるのは疑問。女性の就業と子育ての両立は年金よりも男女共同参画社会の課題。

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