第18回ESRI経済政策フォーラム
「出生率の回復をめざして-スウェーデン等の事例と日本への含意-」(概要)

経済社会総合研究所
平成16年6月25日

本フォーラムの概要について、事務局の責任により以下の通りとりまとめましたので、ご参照ください。また、議事録についても、近日中にホームページ上において公表する予定ですので、議論の詳細についてはそちらをご参照いただければ幸いです。

  • (開催日時)
    平成16年6月25日(金)13:00~15:30
  • (パネリスト)
    佐藤 博樹
    東京大学社会科学研究所教授
    高橋 美恵子
    大阪外国語大学助教授
    永井 暁子
    財団法人家計経済研究所次席研究員
    藤井 威
    地域振興整備公団総裁、元スウェーデン大使、
     
    元内閣内政審議室長
    ヤコブ・エドベリ
    在日本スウェーデン大使館経済貿易担当補佐官
    林 伴子
    内閣府経済社会総合研究所主任研究官
  • (モデレーター)
    中藤 泉
    内閣府経済社会総合研究所総括政策研究官

冒頭、内閣府林及び藤井威氏両氏の基調講演をいただき(ホームページ掲載の基調講演資料をご参照下さい)、その後、パネルディスカッションを行った。

1.基調講演: 家族政策と出生率 -スウェーデンの事例と日本への示唆-(林 伴子 内閣府経済社会総合研究所主任研究官)([資料参照](PPT-1599 KBPDF形式 186 KB別ウィンドウで開きます。PDF形式 326 KB別ウィンドウで開きます。))

  • OECD諸国をみると、女性労働力率の高い国の方が出生率の高い傾向が観察される。

  • OECD諸国では、女性の就業と出生率の関係は、80年代前半までは負の相関があったが、現在では正の相関にある。

  • スウェーデンでは高い女性労働力率と出生率が両立している。

  • 日本もスウェーデンも、有配偶女性は「子どもが小さいうちは、妻は育児に専念すべき」との意識を有している。

  • スウェーデンの育児休業制度は充実している。「両親保険」によって休業直前の8割の所得を390労働日保障している。また、2年半以内に次の子を産むと、先の子の出産時の休業前の所得の8割が再び保障される。

  • スウェーデンでは出産した7割以上の女性が1年以上の育児休業を取得している。一方、日本では取得率は64%にとどまり、取得期間も短い。

  • 日本では出産前に就業していた女性の7割弱が仕事を辞めている。日本とスウェーデンの出産期の女性の就業状況を比べると、全体に占める従業者の割合にはあまり差がないが、スウェーデンでは休業者が多い一方、日本は少ない。

  • スウェーデンは保育サービスが充実しているほか、児童手当は所得制限がなく16歳未満の子に支払われる。

  • スウェーデンでは、出産後6割の女性は勤務時間を短縮して職場復帰している。

  • 帰宅時間をみると、スウェーデンでは男性が午後5時頃、女性は3-5時頃が最も多い。一方、日本の男性の帰宅は午後9、10時頃が最も多い。

  • スウェーデンの出生率は手厚い家族政策が支えている。高負担になるが、子供にかかる費用を社会全体で支える仕組みとなっている。家族政策への財政支出の対GDP比は3.31%と高い水準になっている。一方、日本は0.47%と低い。

  • 先進国をみると、家族政策財政支出対GDP比と出生率の間には緩やかな正の相関が存在する。

  • フランスでは出産期にある女性の労働力率は、スウェーデンよりは低いものの日本よりは高い。また、フランスの出生率は1.88と先進国の中では高水準を維持している。

  • フランスでは、多子家庭に手厚い家族手当となっている。税制も子供の数が多いほど有利となっている。

  • 家族政策が手厚い国は、出生率が高いだけではなく、女性労働力も高い傾向にある。その結果、女性労働力率と出生率に正の相関がある。

  • 次世代を担う子どもたちは一種の「公共財」と考え、子供を産み、育てることに伴う負担やリスクは、社会全体で支えるべき。就業にかかるリスク、経済的負担、子供の病気やけが、配偶者との死別・離別による貧窮化リスク、妊娠・出産に伴う医学的リスクなどへの対応が必要であり、もちろん現在の日本にもこうしたリスクや負担に対応する制度があり、拡大しつつあるが、女性が安心して子どもを産むことができるほど十分なものかどうかという視点から、更に丁寧に見直していくことが必要。

2.基調講演: 高福祉高負担の枠組みの下での育児の社会化 -スウェーデンの挑戦-(藤井 威 地域振興整備公団総裁、元スウェーデン大使、元内閣内政審議室長)([資料参照](PDF形式 166 KB)別ウィンドウで開きます。)

  • スウェーデンは初めから高負担高福祉の国であったのではない。第2次世界大戦中は爆撃にあわず工場が無傷で残ったため、欧州の戦後復興により高度成長期を迎え、5%成長を15年続け、世界一の高所得国に変身した。当時の負担率は27%前後と今の日本と同じであった。

  • 1960年を境に、それまでのマーケットメカニズム重視政策から高福祉政策に転じ、付加価値税を導入した。高福祉高負担、政治行政の民主化、地方分権という三位一体ビジョンを採った。70年後半まで増税路線を採用し、付加価値税は当初の4%から今は25%へ、地方税は14.63%から31%強へと、国民負担は約27%から50%強になった。70年後半以降の負担率の変動は景気変動によるものである。

  • 日本とスウェーデンの国民負担率を比べると、租税・社会保障負担率に一般政府財政収支を加味した修正国民負担率をみると、日本は32.2%に比べ、スウェーデンは49.5%となっている。社会保障給付費はGDP比日本が14.7%、スウェーデンが31.0%となっており、修正国民負担率から社会保障負担率を除くと、日本は17.6%、スウェーデンは18.5%と両国に差はない。(図2)

  • 両国の社会保障給付費水準を比べると、年金や保険医療費GDP比は、スウェーデンはやや高いものの、日本も国際並であるが、育児等家族政策支出(育児手当や保育所の充実等)は日本の7倍、高齢者障害者サービス(老人ホームの充実等)は日本の10倍と大きな差がある。スウェーデンの保育所は、公営民営にかかわらずコストの9割が税によって負担している。職業訓練も、他の職に転換できるよう、長期間無料で質の高い訓練を行っている。(図3)

  • スウェーデンの出生率は景気の遅行指標のため、景気に遅れながら大きく変動しているが、78年の1.60から90年の2.14にかけて大きく上昇した理由は、バブル経済であったこと、明確な育児の社会化がなされたことがあげられる。その後は99年に1.50まで下がったが、その背景にはそれまでの出産ブームが過ぎたこともある。高福祉高負担政策が育児の社会化をもたらした。(図4)

  • スウェーデンの実質成長率は70年代後半、90年代前半にマイナスを記録した(図6)し、一般政府財政収支GDP比も、82年にマイナス7%のボトム、93年にはマイナス11.9%のボトムとなったが(図7)、ケインズ政策を採用せず、日本と異なり大幅な財政赤字の累積を生み出さなかった。(図8)

  • スウェーデンの就業構造をみると、製造業や農林水産業従事者の割合は60年代以降減少してきているが、その減少分は公共部門が吸収しており、公共部門は65年の15%から2000年には32%になっている。就業者数でみると、民間部門は30万人減少した一方、公共部門は70万人増加し、高負担高福祉政策により40万人の雇用を生み出したことになる(図10)。育児の社会化により女性を育児から解放し、女性が働くようになった。また、高福祉高負担政策でないと選挙に勝てなかった。

  • スウェーデンは年金改革を成功させているが、その背景は、もともと給付に見合う高い負担であったため、負担を今にも固定することができ、また改革の前提となる実質成長率2%も実現可能と思われていたことと、高負担高福祉政策が出生率を押し上げ、前提となる出生率1.8が信認されていたことが挙げられる。

3.パネルディスカッション

(永井)
  • スウェーデンはサムボ(同棲・事実婚)が今は社会に定着しており、法律婚までのお試し期間としての位置付けとなっている。このサムボにはサムボ法もあり、これにより子供への養育義務が両親に課されている。なお、サムボは昔からあったのではなく、60-70年代以降定着してきた。

  • 家族政策とサムボ制によって、カップル形成が女性にとっての人生のリスクになりにくくなっている。

  • 事実婚は西欧でも多くみられ、事実婚の制度化で、子供や、経済的に弱いパートナーを保護している。

(高橋)([資料参照](PDF形式 21 KB)別ウィンドウで開きます。)
  • 家族をめぐる社会システムのスウェーデンの理念は、性に中立・平等であることだ。1971年に所得税の個人別課税制度、1974年に両親保険制度を導入するなど、女性の社会進出政策を採用した。

  • マザーズ・インデックスでは、2003年、2004年ともスウェーデンは1位だった(日本は対象外)。

  • スウェーデンで1990年代後半に出生率が低下した際、政府はプロジェクトチームをつくり、なぜ出生率が下がったか、なぜ上がらないかを国を挙げて調べた。

  • スウェーデンの若年女性の一般的なライフコースは、学校教育や職業訓練を経て労働市場に参加し、安定した職を確保し(臨時雇用ではない。出産後も復帰できる職業)、子を産み、育児休業に入るというものである。女性の高学歴化、晩婚化、初産年齢の上昇が出生率低下に拍車をかけた。

  • 男女双方にとって子を産むための安定した職と収入が必須条件である。また、正規雇用を得るまで、出産計画をたてない傾向がある。最近は女性の臨時雇用が増えており、出生率に影響を与えている。87-98年の雇用形態別第1子出生の確率をみると、男女とも正規雇用と比べ臨時・契約雇用は3割近く低い。学生等の非就労者では5割程度低い。女性の20-29歳では、臨時・契約雇用は正規雇用と比べ2割、30-44歳では3割強低い。

(エドベリ)
  • 休業しても収入が減らない、手厚い手当があるからこそ安心できる。

  • 社会的にも、雇う側の態度が重要ではないか。出産によってキャリアが悪化しないことが大切。スウェーデンは知識集約産業が多いが、創造力が大切であり、そのためには休むことも必要で、雇う側にもプラスになる。こういう考えが子を産みやすくする。

  • この20年くらいで、男性が育児休暇をとることを評価するようになってきた。子供のためにも休むことはいいこと、とされる。

(佐藤)
  • 育児休業取得は労働者の権利とされ、育児休業時の所得保障の仕組みも導入され、短時間勤務も3歳まで取得できるようになるなど、子育て支援の仕組みがいろいろと講じられてきている。にもかかわらず、出生率が下がり続けている。これは、働き方に問題があるためではないのか。

  • 子育て支援は重要だが、スウェーデンがうまくいっているのは、子を産みやすい働き方があるためではないか。日本がスウェーデンを見習う場合、いくつかの疑問点がわく。社員が育児休業をとった場合、当該社員が従事していた業務を企業はどのように処理しているのか。勤務時間短縮をした場合は、その業務をどのようにやりくりするのか。また、長期の休業を取得するとキャリア形成には一般的にマイナスとなるが、それでも女性管理職が多いのはなぜか。男性の育児休業が増えるにはスウェーデンでもかなりの時間がかかったようだが、どのようにして男性の子育て参加を推進してきたのか。

  • 事実婚を許容しても、日本では出生率は上がらないだろう。というのも、日本ではそもそもパートナーと出会うことが難しいからだ。企業内における職場外の人とのつきあいが減少し、企業内や地域にパートナーを世話する人も減少したが、女性が多かった一般職の採用の減少から、企業内における出会いの機会が減っている。未婚率上昇に関する政策は何も行われておらず、結婚支援はタブーとなっている。しかし、出会いの機会の減少が社会構造の変化に起因するとすれば、何らかの政策を考えるべき。

  • 少子化大綱が出来たが、これで本当に出生率が上がるかは疑問である。少子化対策は、希望が持てる社会であることが基本であるが、社会の明るい見通しがこれでもてるとは思えない。

(エドベリ)
  • スウェーデンでは、働いている時間ではなく、好きなことをしている時にパートナーを見つけている。

  • また、日本人は自己犠牲で、残業が多いほどよくやったと思うのだろうが、スウェーデンでは、自分の仕事はここまでということで、隣の人を助けるようなことはしない。

(永井)
  • 日本でも正規雇用の女性の方が結婚できる。正規雇用の職につくと、自分自身の生活が安定するという理由に加えて、正規雇用の男性にめぐり合えるからだ。フリーターの女性はフリーターの男性に巡り合うので、経済的に安定できないため結婚できない。所得が低くサムボにもなれない。

  • 日本では、結婚して子を産むと、女性の夫婦関係満足度が著しく低下する。幸せなカップルでいるためには、子を産まないことになる。子を産むと負担が増え、幸せなカップルが壊れるという不安があるのではないか。安心してカップル関係を築くことが出来る環境整備が重要。

(高橋)
  • 日本とスウェーデンの違いは親子関係にもある。福祉が発達すると家族が崩壊するという人が米国学者にいたが、スウェーデンではそうなっていない。

  • 日本では親は子を「かわいい子」「やさしい子」になってほしいというが、スウェーデンでは「自立した子」「責任感ある子」に育てたいとする。スウェーデンでは子は18歳の時に自立し、一般的に親元から離れる。カップルにとっても自立し共同生活している方が、家賃が半分となり、会うための交通費や経費が不要となり、経済的メリットがある。

  • スウェーデンでも男性の育児休業取得日数増加は課題であり、まだ目標に達していない。男性の方が休業に伴いリスクを負う傾向がある。

(藤井)
  • 日本の社会保障支出はスウェーデンの半分にもかかわらず、毎年GDP比7-8%の財政赤字が累積しており、破滅的である。どうして日本人はそのことに立ち向かわないのか。日本人には危機感がない。

  • スウェーデンをみていると、出生率はマネジブルであると強く感じる。しかし、対策を打つにも、その前に、できるだけ早く財政赤字がこれ以上増えない体制にすべき。政策によって出生率は必ず上がる。ただし、財政が危機的な今、まず赤字削減をすべき。

(林)
  • 人生80年時代における結婚では、子を育て上げたあとも20~30年の夫婦だけの時間がある。それを考えると、若い人が長い人生のパートナー選びである結婚に対して慎重になるのは当然である。サムボは、人生80年時代の結婚における一種の試行期間として機能しており、スウェーデンなりの現実的な対応の仕方といえる。離婚や同棲を一方的に否定するだけでは、晩婚化、非婚化の流れは止まらない。

  • 我が国の財政状況は非常に厳しく、財政の持続可能性に疑問符が付されている一方、社会としての持続可能性である人口をみると、現在の出生率が続けば2100年には人口がほぼ半減する。財政の持続可能性と社会(人口)の持続可能性の両立が課題である。年金など高齢者向けの財政支出が対GDP比約6%に達する一方、子どもへの支出である家族政策は0.47%しかない。高齢者向けの財政支出の一部を子どもへ回す、あるいは子どもは将来への投資と考えて社会資本を削るなど、いろいろな形で少子化対策費用を捻出していく余地はあるのではないか。育児休業保障を8割にすると、単純な試算では1.5~2兆円の財源が必要だが、これは消費税1%分に相当する。負担を増やすことも一つの選択肢になるのではないか。

(佐藤)
  • 30歳前後の人が1年間休業を取得すると、普通の企業の職場では大変なことになるが、スウェーデンではどうやりくりしているのだろうか。

(エドベリ)
  • ポストが1年空いていることは他の人にはチャンスである。空いた席には必ず別の人が代替する。休業が5週間といった短期であっても同様である。

(佐藤)
  • 働き方が大切であるが、働き方を変えるのは難しい。

(高橋)
  • 何のために生きているか、考え直す必要がある。

  • 男性が稼ぎ手であるという考えを根本的に見直すべきである。

(永井)
  • 日本は性別分業意識が強いが、現在の男性は失業の恐れもあり、一家の稼ぎ手としての自信もない一方、女性はさらに稼ぎ手としての自信はない。男女双方の安定した職が、安定的なカップル形成の土台となる。

(藤井)
  • まず女性を家庭から解放すれば、働き方は自動的に変わる。スウェーデンが高負担高福祉を打ち出した頃は、女性は5割しか仕事に就いていなかった。

  • 育児費用、精神負担、仕事をしないことによる機会費用を軽減する必要がある。そのためには、育児の社会化をする必要があり、そうなると働き方も変わってくる。今の財政では1兆円もひねり出せないので、まずは債務を減らすことが先決である。

(エドベリ)
  • 休業しても8割保障されれば、生む、生まないを選択する行動は変わってくる。休業が取れる方が、会社はいきいきしてくるのではないか。

  • 子育てが無理なくできるような法的枠組みを整備すべき。

(林)
  • 働き方の見直しは重要なポイントである。

  • 少子化は、この国のありよう、人々の意識を反映しているのではないか。子どもを皆で育てる、次世代を育てることを社会全体で支えていくという意識が欠けているのではないか。

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