第24回ESRI経済政策フォーラム
「わが国企業のM&A活動-地域活性化に向けて」(概要)

経済社会総合研究所
平成18年3月

本フォーラムの概要について、事務局の責任により以下の通りとりまとめましたので、ご参照ください。また、議論の詳細については、議事録別ウィンドウで開きます。(PDF形式 123 KB)をご参照いただければ幸いです。

  • (開催日時)
    平成18年1月24日(火)14:00~16:30
  • (プログラム)
    1.挨拶

    黒田昌裕
    内閣府経済社会総合研究所長
    2.基調講演

    藤岡文七
    内閣府経済社会総合研究所特別研究員(内閣府沖縄振興局長)
    3.パネルディスカッション
    司会
    落合 誠一
    (東京大学大学院法学政治学研究科教授、M&A研究会座長)
    パネリスト
    片山芳徳
    静銀経営コンサルティング株式会社取締役常務執行役員
    冨山和彦
    株式会社産業再生機構代表取締役専務(M&A研究会委員)
    中村廉平
    事業再生実務家協会専務理事、商工中金組織金融部・審査第一部担当部長兼法務室長
    西村 康
    日本政策投資銀行企業戦略部部長(M&A研究会委員)
    4.会場との質疑応答

冒頭で黒田所長から開会挨拶があり、次に藤岡特別研究員から基調講演が行われ、引き続いて5名の方々によるパネルディスカッションが行われた。最後に会場参加者の方との質疑応答が行われた。

1. 基調講演

「わが国企業のM&A活動-地域活性化に向けて」 (資料参照:[1]PDF形式 37 KB別ウィンドウで開きます。・[2]PDF形式 246 KB別ウィンドウで開きます。・[3]PDF形式 439 KB別ウィンドウで開きます。

(藤岡文七)
  • わが国は戦後の成長モデルが極めて成功したが、1990年代になって「失われた10年」といわれるように経済活動が沈滞し、社会を活性化するための変革が叫ばれ、現在の小泉改革に継がっている。その中で、官の改革は必要であるが民の分野にも問題があるのでは、という問題提起があり、持続的な経済社会を構築するために経済構造の変化を捉え活性化していく観点からM&Aの機能の必要性が注目され、15年12月に当研究所に「M&A研究会」が設置された。

  • 研究会では16年9月に最初の報告を出し、M&Aの意義やそれに対する理解、我が国の企業がM&A活動を展開するに当たっての課題などを検討し、企業経営のあり方、雇用の流動化への対応、M&A人材育成と人材市場の形成、法整備と税制度改革などについての提言を行った。

  • 続いて、昨年10月に中間報告として、地域活性化、クロスボーダー、企業価値の考え方、敵対的買収への防衛策の考え方などを中心にまとめた。

  • 最近のM&Aの状況を見ると、全体として活動がますます活発になっており、IN-IN、IN-OUT、OUT-INともに拡大の傾向にある。また、取引金額も公表された数字だけで年間10兆円規模であり、わが国の民間の年間投資規模が約70兆円であることからみてもかなりの規模になっている。

  • 地域におけるM&A活動も活発化してはいるが、まだ3大都市圏に集中(9割)しており、その中でも特に首都圏一極集中の傾向にある。また、具体的な内容も企業再生型や後継者対策型のM&Aが中心であり、地域におけるM&Aプレーヤーが少ないことから中央に集中している。

  • 地域活性化へのM&Aの貢献については、現実として、旅館、バス会社、地域商店街、既存のモデルの行き詰まりなどの場面で解決策を見出しており、今後は、広域連携、異業種連携や地域銀行の役割の積極化などによる活発な展開が期待できる。

  • クロスボーダーのM&Aでは、活発化が進み企業が社会圏の異なる国へ次々に進出していくが、非常にリスクの高い対外投資であることから、そのリスクをどう扱っていくのかという問題が残る。

  • 研究会では民主導のM&Aフォーラムの設立の必要性を提言した。今まではいろいろな場面で官が調整役を果たしてきたが、M&Aは基本的に民間の活動であり、M&Aの社会を大きく発展させるためには民主導であるべき。昨年12月、そのための人材育成を主な目的に民主導のフォーラムが立ち上がった。今後、日本的なM&Aの文化のあるべき姿を求めて検討を進めていく必要がある。 

2. パネルディスカッション

(司会:落合誠一)
  • 近年、わが国においてM&A活動は非常に注目を浴びてきており、我々の社会に新しい冨をもたらし、また、新しい企業を創造するということから大きな意味を持ってきている。 最近、残念な事件が起きたが、これによりM&A活動が悪影響を受けてはならない。新たな富を生み出すためのM&A活動が活発化しないかぎり、社会が繁栄するということもないが、活動を展開する中で何をしてもよいということではなく企業には社会的責任というものがあり、M&Aによる富の創造も法的ルール及び社会規範の枠内で行われる必要がある。

  • 「地域の活性化」というのは、地域社会も都会と同様に豊かさを共有できるような状態を実現するということであるという前提で、各パネリストにそれぞれの立場からM&A活動について事実認識のレベル、あるいは政策的なレベルから縦横に論じていただきたくのが、本日のフォーラムの目的である。 

総論~「わが国における最近のM&A活動の活発化をどのように捉えているか。また、その中でわが国はどのような課題を抱え、その課題に対応すべきか。」

(西村 康) (資料参照:PDF形式 188 KB別ウィンドウで開きます。
  • 日本政策投資銀行では、政府系金融機関の立場からM&Aを一つの金融ツール、政策課題を解決する一つの手段として手がけている。M&Aというとダーティーなイメージをもたれるが、政策課題解決に向けての有効なツールである。

  • 一として、産業再編の促進である。事業の経営環境が目まぐるしく変化し、事業戦略や事業の構造が直ぐに硬直化する中でこれに対応し、産業の競争力強化や事業の効率化を図り資源の最適配分に大きく寄与するとともに、新たな起業家精神を生み出すことから非常に有効である。 

  • 二として、地域経済の活性化である。以前、大企業の地方工場閉鎖により地元では雇用が大問題となった。手を尽くした結果、海外企業が買い取ったことで大企業は事業の効率化を達成でき、地域は雇用を確保し、さらには海外企業が技術革新に対応した経営を行い、ユーザーニーズに沿った製品開発で事業がより拡張され、双方にとっても非常に好結果となった事例もある。

  • 三として、対内直接投資の促進である。外資系企業の直接投資導入による地域経済の振興と国内経済の活性化ということで、海外とのM&A、グローバル化である。 

  • 多くの案件に携わった中で、M&Aが事業の刷新・経営の効率に寄与する、地域にも貢献する、対日投資も促進することから、非常に良いツールであるというのが実感である。

  • M&Aの変遷を見ると、1960~70年代にかけての国際競争力をつけるための産業政策的なM&A、1980年代にバブル景気を背景に海外に収益源を求め買収に走った第一次ブーム、現在の90年代後半から続く戦略型、事業再生型の第二次ブームとなるが、昨今の活発化の背景には経済的要因、制度的要因、社会的要因が大きく影響している。また、市場経済の成熟化も影響しており、企業の経営戦略というものが従来と現在では大きく変わってきている。

  • M&Aの今後の課題としては、大都市・大規模案件中心から地方の中小・中堅企業のサポート体制の整備、経営者の意識改革、M&Aプロフェッショナルの人材育成、PAM(Post Acquisition Management)がある。

(中村廉平)(資料参照:[1]PDF形式 47 KB別ウィンドウで開きます。・[2]PDF形式 34 KB別ウィンドウで開きます。・[3]PDF形式 111 KB別ウィンドウで開きます。・[4]PDF形式 17 KB別ウィンドウで開きます。
  • わが国における最近のM&A活動について指摘すると、
     第一は、M&Aが世間で大変認識され、普及してきている。敵対的な買収・友好的な買収であろうが、ジャーナリズムが関心を持って報道することで、今までは一部の経済人だけが戦略的な観点からとらえていたが、一般の人々にも徐々に理解されるようになってきた。
     また、従来から中小企業、中堅企業の成功体験を持つ経営者というのはある意味での戦略・戦術眼を持っていたわけで、これも実はM&Aであり、そのような人々がいることで根強い理解の基盤があった。また、MBO、EBO、あるいは事業承継の対応というようなことがだんだんと活発化してきている。

  • 第二は、M&A手法の多様化である。結構、柔軟にあるいは自由な活動が可能になり、新会社法等であれば、完全な支配株の取得、会社分割の方法による選択と集中の一環であるとか、さらに事業譲渡などいろいろできるようになる。

  • 第三は、対価の評価方法の発展であり、EBITDA、DCF、さらには純資産法というような形の評価方法がだんだんと普及してきている。従来は、金融機関のガバナンス等が効かないと、簿価という極めて形だけのバランスシート、あるいはPLにとらわれがちであった。

  • 第四は、M&Aの過程の透明性であり、オークション、ビット、あるいはストーキングホース、ブレークアップフィー、プロポーザルビットなど、いろいろと手法が出てきたことで透明性が向上してきている。

  • 最後に、M&Aアドバイザーの成長である。ファンド、サービサー、金融機関などがあり、政策投資銀行のような活発な展開をしているところから、ビジネスマッチングというような細かいところを展開しているところもあるが、仲介人というような立場のところが徐々に出てきている。

(片山芳徳)(資料参照:PDF形式 41 KB別ウィンドウで開きます。
  • 5年半前に地域の金融機関初のコンサルティング会社としてスタートし、M&Aアドバイザー業務、事業承継のコンサルティング、経営計画の策定支援など、経営に直結するコンサルティング業務を行っている。年々コンサルティングニーズが増加し、受付案件、受託案件が増えてきており、M&Aが半分以上を占める。

  • 受託案件のうち13年度以降の4年9か月間の企業の売買案件の成約は17件で、売り手の理由は、第一が後継者不在7件、あとは経営資源の集中6件、業績不振4件という状況であった。地域の中小企業の多くが世代交代期にあるが、後継者に継ぐ意思がないというのが主なところであった。なお、買い手の方は、いずれも売り手企業と同業種ないしは関連の業種であった。

  • 地域の中小・中堅企業の間でも、売り手にとっては非常に身近な一般的な出口対策、買い手にとっても有効な業容拡大策となってきており、非常に活発化している。アドバイザー活動の中で、企業経営の手法の一つとして非常に有効である。

  • 後継者不在や業績不振などで廃業あるいは会社清算をしていた企業が、新たなスポンサーを得てそのシナジー効果等により新しいビジネスネットワークを構築することなどで業績を発展させていく構図が、企業の生き残りという意味合い以上に地域の活性化に果たす役割は極めて大きい。また、地域の雇用を守るという側面もあり、都市圏に比べて雇用の流動性が低いという地域の実情からも地域経済に貢献している。

  • 活動の中で課題は幾つかある。一番大きいのが都市圏との違いであり、地方の場合は株式公開会社の案件が非常に少ないこと、また、M&Aに関する情報量も格段に少なく、都市圏の情報を地域の企業に提供することも自分たちの役割かと感じている。ただし、現実的には、地域金融機関を初めとする地域のプレーヤー単独では限界があり、全国ブランドの大手M&A専門機関と提携して地域を超えたM&A案件について実績を出している。

  • 都市圏から地理的に離れた地方では、都市圏からの投資がしにくいということもあり、地域によってはどうしても相手先が同じ地域あるいは近隣の地域に限定されるようなケースが多くなる傾向がある。

(冨山和彦)(資料参照:[1]PDF形式 38 KB別ウィンドウで開きます。・[2]PDF形式 43 KB別ウィンドウで開きます。
  • 産業再生機構においては41件のM&Aを行い、会社を機構の管理下に置いて経営の中身を改善して再び市場に戻すという経営改革を実施してきた。

  • 不良債権問題が減っていく過程でM&Aの件数が増えているという数字があり、M&Aが増えたことと不良債権が減ったということとの関連は必ずしも明確ではないが、少なくともM&Aが増えていくということは、不良債権の処理にはマイナスではなかったということである。

  • 再生機構的な不良債権処理状況においては、銀行側から見れば不良債権だが、企業(債務者)の側から見れば過剰債務である。従来の考え方では会社が再生しているというのは会計上の資産価値と過剰債務のバランスであったが、ここ15年くらい実質企業価値(収益力)は傷んできており過剰債務を幾ら減らしても追いつかないことから、本来の収益力を改善して実質企業価値を上げる必要がある。

  • 日本の不良債権処理で陥る典型的な失敗パターンは、中途半端な処理をして肝心の事業が立ち直らないことでますます企業収益力が落ち、企業価値が下がってだんだんバランスシートが悪くなることにある。これから脱却するというのが、再生機構型のスキームである。

  • M&Aで大事なのは、金融現象としてのM&Aよりも経営現象あるいは人材現象としてのM&Aが極めて重要な役割を果たすことである。知的集約産業化が進んでいる今日、金融現象でだけとらえて資金・設備を再配置するだけでは、ほとんど生産性や効率性を変えない。双方の組織能力の組合せ、経営人材の組替えによって経営効率を上げることの方が、はるかに価値を生む。必死な経営努力、経営行為、組織更生のための自助努力があって、初めて価値も生まれる。

  • 地域活性化の解も人の問題であり、経営者人材の流動性の低さ、そこで働いている人たちの流動性の低さが経営上の問題であり、金融現象にだけ目を向けては本質から外れる。

各論1~「活発化する地域のM&Aについてどのように考えているか」

(落合)
  • わが国のM&Aの活発化という現状を今後どのように生かしていくのか、また、M&Aの課題とは何か、それにどう対応していくのかであり、

    (1)  日本全体で見た場合、首都圏あるいは三大都市圏に極端な形で集中しており、比べて地方圏の方は不活発であるという現状にある。
    (2)  M&Aのタイプにも、企業価値が毀損するのを防ぐという意味での消極的な形のM&Aと現状から飛躍してさらにプラスを増やしていくという積極的な形のM&Aとの両方がある。
    (3)  M&Aの成功には人の要素というのが非常に重要であり、銀行、商工会議所などいろいろな主体があり、単に自然人ということではなく組織レベルでとらえる必要がある。

    など課題は多い。

(西村)
  • 地方のM&Aで一番大きな問題は、情報が大都市中心になっていてなかなか地方にまで行き渡っていかないことである。ただ、最近の傾向を見ると、地域でもM&Aというのは増加してきており、件数的にはまだまだ少ないが、1999年と2004年で比較すると非常に伸びている地域もある。

  • 今までのように経済情勢が厳しい中では、企業の再生型のM&Aが地域の中で伸びてきたが、最近は事業拡張の手段としての買いニーズが増加してきており、また、後継者難ということで売りニーズも増加してきている。

  • 最近、政府が主導しているリレーションシップバンキング、機能強化計画では、担保・保証に頼らずに事業性を見極めて融資機能を強化しようということから、ここ3、4年、地域銀行の会社へのコンサルティング機能が充実してきている。

(片山)
  • 情報については年間200件ほどあるが、潜在的なニーズはまだまだ隠れている。例えば、後継者問題に関しては企業の3割から4割が抱えているという中小企業庁の調査結果もあり、ニーズは見込める。しかし、企業の(業務の選択と集中による)経営資源の集中について取引先に提案営業の形で投げるが、なかなか案件化されないというのが現状である。

  • 再生案件への対応の難しさもある。実際の現場において、法的整理、私的整理が絡んだ企業の再生案件では、当社と親銀行との利益相反問題、他の取引銀行との調整などもあり、高いノウハウを持つ提携先の大手M&A専門機関と連携しつつ対応している。

  • 地域の株式公開企業に対する買収防衛策の提案についても、M&Aアドバイザーとして、県内のキャッシュリッチな優良企業に対してM&Aの買いを活用した買収防衛策の提案を活発化させていく必要がある。

  • 課題の最後は、M&Aに関する人材育成と人材確保であり、当社の営業部門は親銀行からの出向者で対応しているが、早急な手当が必要とされている。

  • 地域の場合、都市圏と比べてまだまだM&A活動の拡大の余地が十分にあり、M&A活動をサポートする環境づくりも、アドバイザーの立場から見た大きなテーマである。

(中村)
  • M&Aについて東京一極集中現象が指摘されているが、東京や大阪は企業数が多くまたアドバイザーも活発に動いているので当然ということになる。一方、地方においてM&A活動が不活発かというといろいろ活躍の場はある。

  • 全国的に見ると非常に売りニーズが低く、逆に買いニーズが結構あり、3対7ぐらいの比率になる。ただ、買いニーズがあっても実際のところ売ってくれないということが大いにある。売り手サイドの側の問題になるが、経営者意識が非常に低くて自分で始末がつけられないことがあり、自分の会社を何で売るのだという見栄もあって売りニーズが出てこないこともある。

  • また、ガバナンスの不足がある。危機に際して、自分の会社なのだということに固執するあまり、客観的な立場で判断できる株主がいなく、(ほとんどが同族なため)個人商店の色彩が強いところがある。ワンマン会社とか中小企業ではここが難しいので、金融機関等が的確にM&Aを勧めるとかのガバナンスが必要となる。また、情報の非対称性、会計の不透明性なども影響している。

  • 買い手側の問題としては、プロポーザルビットが曖昧なことである。経済合理性だけではなく、地域に根付いた雇用、産業についての事業性を考える必要があり、地域にコミットしているかぎり、地域金融機関などとのリレーションシップバンキングが必要である。

各論2~「地域の企業のM&A活動上の課題をどのように克服するか」

(中村)
  • 売り手サイドは、財務内容、会計の透明性を確保する必要がある。会計が不透明、隠れた負債があると買い手側としてデューデリジェンスが難しい。簿外負債は連帯保証を会社がしているケースもあり、表に出ていないことがある。自らの資産と負債というものを明らかにすることが必要である。

  • また、売りニーズの率直な表明である。本当に困ったら後継者難であろうと事業再生だろうが企業価値を維持しつつ売るわけであり、見栄などの意識は捨てることである。会社は誰のものか、取引先、債権者、従業員、地域の人々など、そういったことを十分考えるべきで、じり貧で最終的に破産してしまった場合に地域はどうなるのかという認識を持つべきである。

  • 経営革新という意味では、売った資金で次に別の事業を展開することにより第2創業、第3創業の機会もあり、そのためのセッティングアドバイザーも考えられる。

  • 買い手サイドは経済合理性だけではなく、事業性、雇用、取引先、地域の消費者、金融機関への対応を明確にする。売り手と買い手に共通の問題だが、そういう配慮が必要である。

  • 事業会社が戦略を持って買い取る場合はよいが、ファンドが乗り出してくると事業性というものの提示がない場合もあるので、特に出口については方向性だけでも示すことが望まれる。

(冨山)
  • 再生機構では地方案件が非常に多く、かつ中小企業が半分以上ほどを占めている。零細企業から名門まで地域の会社の再生のため相当苦戦しながら解決しているが、支援対象になっていない会社も非常に多くある。裏返して言うと、まだまだ地域経済が浮揚する要素はたくさん残っている。経営者の意識のなさ、多くの名門企業も含めて地方企業においては効率的な経営が行われていないのも事実である。

  • 根本にあるのは会社は誰のものかである。一部に会社は株主のものであるという議論があるが、商法には書いてない。株主は、会社の配当請求権と解散するときの劣後の配分権、総会決議事項における決議権を表章する株式を所有している者である。所有権というのは排他的に直接的に使用・収益・処分する権利であることから、株主が会社に対して持っていると権利と所有権とではほど遠い。

  • 会社は「人の集団である」という観点から経営されなければいけないわけで、地方企業にありがちなのは、要は自分のものだからどうしようと勝手ではないか、死なばもろともみたいなことが結構ある。そのジレンマからどう地方経済が脱却していくかというのが非常に重要であり、そこを脱却しないと、本来のM&Aの役割、経営者そのものも含めた人的資源の再配置ができないことになる。

  • 逆にファンドは違った意味で所有権を濫用するようなことを言うわけで、どこで売り払おうと勝手ではないかということになる。会社というのは中長期的な収益力を上げることが仕事なので、長期的な事業に対するコミットメントというのは極めて重要になる。従業員、取引先というのは、この先、5年、10年、15年と、地域であればその地域の中でかかわっていくわけであり、直ぐに売り払ってしまう者がガバナンスの主体では困ることになる。

各論3~「M&Aにおいて地域の銀行が果たす役割はどのようなものか」

(落合)
  • M&A活動が展開される中で、地方の場合には債権者としてあるいは金融を提供する主体としての銀行が大きな役割を果たしている。地域でのM&A活動において地域銀行が、課題の克服という状況において果たすべき役割、あるいはどういう方向に役割を担っていくべきなのかという課題がある。

(片山)
  • 扱うM&Aのほとんどが仲介型で、売り手と買い手双方のアドバイザーとして公平に案件をまとめるニュートラルな立場にあることが、一部情報の非対峙、売り手と買い手の非対称の解決にも役立っている。

  • 地域経済への影響、地域における風評リスク発生防止などを常に考えるのも、都市圏にはない特徴であり、地域金融機関やアドバイザーが一番念頭に置く必要がある点である。

  • 地域金融機関として、特に売り手企業の経営者の決断を促すべく背中を押してあげることも役割の一つであるが、まだまだ難しい課題である。

  • 資料では、過去6年間に(静岡)県内の企業が買い手となった案件で、相手の39%が同じ県内の企業という統計がある。地域内の銀行やアドバイザーが地域でのM&A活動にかかわっていく場は、今後大いにある。

(西村)
  • 政策投資銀行は、M&Aのネットワークを地方銀行と繋ぐ立場で各地の銀行と情報を交換し合いながらM&Aを行っている。地域金融機関だけでなく金融機関全体の問題であるが、金融機関は企業の課題を踏まえた上で企業に戦略を提案していくが、一方では企業側からの情報開示が不足しているなどは非常に苦労する点である。また、金融機関側にも評価技術不足があり、情報の非対称性としてなかなか立ち入った信用情報が届かずに把握できない面もあり、金融機関としての戦略が立てにくい状況が散見される。 

  • 地方銀行はその地域に密着していることから、地域企業の特色に合わせた経営戦略、提言を行うべきであり、結果として企業の発展は銀行の発展にもつながる。その中ではM&Aもツールとしては重要であり、また、経営者の背中を押してあげるという役割なども重要である。

  • グローバル化では、大手企業が海外に出て行くことで地域企業も海外に出て行く必要性に迫られてくるケースが多くなっているが、地方銀行単独では海外投資のノウハウがない場合には、政策投資銀行として情報の提供を行っている。

  • 地場産業の活性化では、大企業の撤退後に(下請けであった)地域企業が集合して擬似大企業をつくって事業を展開していく例も出ており、一種のM&Aであり、地方銀行の協力が期待できる。

  • また、地域の振興面でも、多くの地方自治体が財政難で困っており、第三セクターの再編にもM&Aの手法が応用はできることから、然りである。

(中村)
  • 金融機関にあっては、従来のような過度の不動産担保や第三者保証に依存する融資慣行から脱却し、債務者のキャッシュフローモニタリング重視という視点から、M&Aを契機として事業価値の向上や再生に眼を向けたガバナンスが重要である。

  • M&Aビジネスについては、金融機関内部で専門に扱う会社を持つとか、本支店間で業績評価にM&Aビジネスを導入するなど経営上の問題として認識し、企業の相談機能を充実すべきである。

(落合)
  • 地方においても企業の売りニーズと買いニーズは多く、潜在的な需要も極めて旺盛であるとの指摘があったが、潜在的な需要を掘り起して成功に導くことが重要であり、マッチングさせるための公開市場が存在していない状況においては、売り手・買い手の双方の需要を適確に結び続ける仲介者が非常に重要となる。まさに産業再生機構が仲介者としての役割を果たしてきたわけであり、また地方の銀行などの金融機関もそういう役割を果たしてきた。地域のM&Aに置いて、金融機関等の仲介者の役割は重要だが、銀行などの金融機関の場合は、M&Aの対象となる企業との関係において大口の債権者の場合がある。自らの債権を回収したいという部分があり、また企業の売りと買いをうまくマッチングさせてM&Aを成功させる場合にある意味での利害相反状況というものが生じてくることから、利害相反状況を的確に除去する仕組が必要となってくる。 

  • 産業再生機構は公的機関ということから公平性、中立性への期待に応えてきたが、機構のような組織がなくなるとM&Aは民主導による仲介ということになり、仲介者としての公平中立性をどう確保するかである。現在、銀行をはじめとする地域金融機関が努力し成果を上げているが、今後とも信頼に足る仲介者が多く出てくることで、地方におけるM&A活動が活発化していくことに期待したい。

3.質疑応答

(聴衆)
  • M&Aの歴史において80年代の第1次ブームと90年代の第2次ブームがあるとのことだが、学問的な分類なのか。あるいは、政策投資銀行の見解によるものなのか。

  • ファンドは社会で話題になっており、再生ファンドや買収ファンドなどがあるが、効率的なファンドの定義とはどのようなものなのか。また買収ファンドについてはどう考えるべきなのか。

(西村)
  • 一般的には1次、2次と分けるのが通例のようであるが、学者によっては細分化をしてM&Aの性格によって時期を分けるというケースもある。学術とか、決まった定型はない。

(中村)
  • ファンドはバイアウト、ヘッジ、不良債権の3つに分かれる。

  • バイアウトファンド(買収ファンド)は、企業を買収して企業価値を向上させ、その上で利益を獲得するものである。不良債権の増加の状況下にあって、ここ数年ほど、バイアウトファンドによる再生案件が現象として多かったので、イコールで再生ファンドと言われているが、扱っている業態いかんで表現が変化するにすぎない。

  • ヘッジファンドは、当然アービトラージで、金融技術を駆使して株式投資などを業務としている。

  • 不良債権ファンドは、エクイティのアプローチではなくデットアプローチで、金融機関の不良債権を買い取り、その上で、その貸出金に関して若干放棄をしつつも相当額で改めて転売をするというようなことである。

(落合)
  • 従来、日本では資金を供給するだけというファンドが多く、経営にも踏み込むというタイプのファンドは必ずしも顕著ではなかったが、近時、そうしたファンドの活動が相当見られるようなってきた。

  • わが国の法規制は、投資信託のようなタイプのファンドが圧倒的であったため、基本的にそのようなファンドを念頭に置いたものとなっている。今後、多様なファンドが活動するとなると、それぞれのファンドがねらっている機能に応じた法規制が必要となるが、現状では整備が遅れていて、的確な対応がなされていない部分がある。これからの課題として積極的に法的ルールが必要な部分については、迅速かつ的確に対応していくことが重要である。

(冨山)
  • 経済現象として見ると、ファンドが実質企業価値と過剰債務がバランスしていない会社を買収する場合には再生ファンド的な現象となり、バランスしている場合は再生でないことになるが、実質的企業価値を買収する点では同じである。ただ、再生案件というのは債務の方が大きいので、債務を圧縮するという作業が必要になり、単純なバイアウトとは違うところがある。

  • バランスが不明という情報の非対称性に乗じて、実質企業価値があるのに買いたたいて儲けるというアセットアービトラージは、本来、市場が効率的であればできないはずである。資本主義において大事な機能というのは、本来の実質企業価値を上げる仕事の方であり、あえて価値判断をさしはさむから、アセットアービトラージだけのファンドはなくなっても困らない。

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