第25回ESRI経済政策フォーラム
「グローバル戦略シリーズ1~目指すべきこの国のかたち~」(概要)

外国人人材の受入れと地域における多文化共生社会構築に向けた取組
~少子高齢化にも耐えうる強靱な経済構造の構築と対応すべき事項~

平成18年12月

経済社会総合研究所

本フォーラムの概要について、事務局の責任により以下の通りとりまとめましたので、ご参照ください。 また、議論の詳細については、議事録別ウィンドウで開きます。(PDF形式 413 KB) をご参照いただければ幸いです。

(開催日時)
平成18年8月23日(水) 14:30-17:00
(開催場所)
六本木アカデミーヒルズ40

(プログラム)

1.開会挨拶
黒田昌裕 内閣府経済社会総合研究所長
2.基調講演
井口 泰 関西学院大学経済学部教授

3.パネルディスカッション

パネリスト

  • 井口 泰 関西学院大学経済学部教授
  • 伊藤元重 東京大学大学院経済学研究科教授
  • 倉橋靖俊 財団法人豊田市国際交流協会理事兼事務局長
  • 山脇啓造 明治大学商学部教授

4.会場との質疑応答

(モデレーター)

  • 法專充男 内閣府経済社会総合研究所総括政策研究官
  • 冒頭で黒田所長から開会挨拶があり、モデレーターからの概要説明の後に、井口泰氏による基調講演が行われ、引き続いて4名の方々によるパネルディスカッションが行われた。最後に、会場参加者の方々とパネリストによる質疑応答が行われた。
(モデレーター) (資料参照:[1]PDF形式 324 KB別ウィンドウで開きます。・[2]PDF形式 319 KB別ウィンドウで開きます。・[3]PDF形式 149 KB別ウィンドウで開きます。・[4]PDF形式 307 KB別ウィンドウで開きます。
  • グローバル戦略のポイントの中の「選択と集中(比較優位の徹底)」では、ヒト・モノ・カネの制約の下で我が国の活力を有効に引き出すために、国内の人的資源を我が国が得意とする分野に集中させ、それを補完する形で海外の人的資源を最大限に活用することが鍵になるとしている。
  • 人材について、総論としては医療・介護などの分野で海外の人材を活用して、限られた国内人材を産業の国際競争力強化に振り向けることにより、少子高齢化にも耐えうる強靭な経済構造を構築することであり、各論としては「外国人人材の受入れ拡大と在留管理の強化」としての研究開発基盤の強化、留学生の受入れ支援策の充実や国内就職の促進など、アジアを始めとする諸外国からの留学生・研究者を含めた海外の優れた人材を国内に誘導する環境の整備などが求められている。
  • 「地域社会における共生」については、現に生じている生活者としての外国人労働者の問題に関して外国人労働者問題関係省庁連絡会議において総合的な対応策をまとめること、また、総務省が策定した「地域における多文化共生推進プラン」を踏まえ、全都道府県・政令指定都市において、それぞれの指針・計画等を策定するよう推進を図ることとしている。

1. 基調講演

「外国人人材の受入れと地域における多文化共生社会構築に向けた取組み」
(資料参照:[1]PDF形式 297 KB別ウィンドウで開きます。・[2]PDF形式 410 KB別ウィンドウで開きます。・[3]PDF形式 478 KB別ウィンドウで開きます。・[4]PDF形式 500 KB別ウィンドウで開きます。・[5]PDF形式 440 KB別ウィンドウで開きます。

(井口 泰)

  • 5月に政府の経済財政諮問会議が決定した「グローバル戦略」には、国際競争力という観点が強く前面に出ており、人材の面で今後とっていくべきイニシアチブ、また、今まで日本が積極的にこの分野でどこまでグローバルな視点からイニシアチブをとってきたかが問われている。
  • 2000年に欧州連合(EU)は「リスボン戦略」を立て、昨年3月には改訂リスボン戦略も出したが、人材の問題に集中した国際競争力強化の内容である。今回のグローバル戦略はリスボン戦略に似ているが、特色は、比較優位、選択と集中といったことが強く強調されている面で、比較優位がどの程度、現実の経済に効いているのか、人材の問題についてどのくらい比較優位の議論が成り立つのか、議論を必要とする。
  • 少子化については、我が国では少子化と外国人政策を一緒に議論することについてのアレルギーがあるが、グローバル戦略を行うときにはこれを一緒に議論せざるを得ない。グローバル化に積極的に対応するため、人口減少という制約の中で何ができるかが問題である。
  • 基本的には、政府の中では、内閣官房の犯罪対策閣僚会議の下にある在留管理に関するワーキンググループと内閣府の規制改革民間開放推進会議のワーキングチームが検討の中心で、受入れ拡大の前に、省庁横断的な制度的インフラの整備「在留管理の強化・改善」がコアになっている。
  • 我が国の外国人政策は、国の出入国管理と比べると自治体の役割や情報、財政、権限といった面での位置付けが非常に弱い。欧州では自治体レベルで外国人に滞在許可を出し、同時に就労の許可、社会保険の加入、子供の教育などが総合的にチェック可能な状況にある。この当然の仕組みが外国人政策を推進する上で重要であり、受入れのインフラ整備が、よい人材を受け入れる上で大きな基盤となる。
  • さらに、日本の人材戦略はアジア全体で考える必要がある。アジアは多くの人材を欧米に供給しており、そういう人たちをアジアに戻していかにこの地域を強くするか、帰ってくる場所、帰還の受け皿づくりも含めての議論となる。
  • EPAの問題でも要求された介護士、看護士についてばかり議論しているが、この地域の経済格差の縮小、技術移転、労働移動をいかに円滑に進めるか、トラフィッキングをいかに減らすか等、東アジア全体の人の移動スキームを考える必要がある。そうでないと、東アジアでのイニシアチブはとれない。
  • 90年代前半までは、いわゆる単純労働者は受入れないという日本の外国人政策と東アジア諸国への直接投資や雇用創出とは整合的な面があった。しかし、90年代後半になってこれが崩れ、若年層の人口の急減、就労とのミスマッチも大きくなって、今後、国内にどうやって付加価値を残すか、競争力を維持するかということが大きなテーマとなってきた。従来と同じような基本方針のままでは、限界がきている。
  • 多文化共生についての日本の現状は、80年代のヨーロッパと非常によく似ている。互いの文化、互いのことを理解し合えれば異なった民族が調和を持って生きていけるという認識であるが、ヨーロッパでは20年後にある意味で裏切られたという側面がある。まず、外国人の権利や義務に関しては、権利の行使だけでなくて義務の履行のサポートも必要である。また、子供の教育支援、第2世代の人たちが失敗すれば外国人の受入れ全体が失敗となる。日本人と全然コミュニケートできない外国人集団が知らないうちに社会の中で大きくなれば、社会不安を生み出す。
  • 結論として、第一に東アジア全体の人材開発や還流を視野に入れること、第二は地方自治体の外国人政策(多文化共生)を入管政策と並ぶ柱に据えること、第三に従来、専門的・技術的分野と認めてこなかった外国人労働者の受入れを慎重に拡大すること、これらの課題についての議論を深める必要がある。

2. パネルディスカッション

(1) パネリストによる冒頭発言

(伊藤元重)

  • 海外へ出て強く感じるのは、国内にいるときのグローバル化のスピード、意識、認識と海外で考えられているグローバル化のスピード、認識はかなり違っており、外から見た日本は非常に閉鎖的で、グローバル化の波に乗り遅れている、乗れない国ということである。
  • これから10年、20年後を考えたときに、グローバル化を抜きにしては日本の問題を考えられない。かつては、貿易、投資、金融ということであったが、これからは、人材、環境衛生、地球温暖化などあらゆる問題をグローバルな視点で考える必要がある。
  • グローバル戦略を考える時、これからの少子高齢化の中で日本が経済活力を持つためには三つのチャンネルが必要である。

    一つは日本国内にあるリソースであり、人が一番重要だが、それ以外のカネ、テクノロジー、不動産などを有効に活用すること、

    二つ目は国内のリソースそのものを増やすことで、設備投資で資本や土地を増やすという時代ではないので、鍵になるのは人材であり、頭数ではなく一人一人の能力を高めること、

    三つ目は国内だけで全てのことを行うのはほとんど不可能であり、近隣のアジアを始め海外のヒト・モノ・カネあるいは技術などを日本のために活用していくこと、これらが重要となる。

  • 比較優位の本質は選択と集中ということであり、資源を均等に分配するのではなくて、強いところ必要なところに移転し、手薄になるところでいかに国外のものを活用するかである。人材の比較優位というのも、日本で限られた人材を有効に使うときに、国内でどこまで可能か、外との関係でどうなのか、選択と集中が重要となる。
  • グローバル戦略の「戦略」には、三つの大きなポイントがある。

    第一は、スピード。20年、30年かけて議論することも必要だが、外の世界の変化は速い。タイムリーな対応、時間との競争が問われる。

    第二は、トータルなアプローチ。特定の省庁の問題、既存の政策の枠組みの問題としてではなく、日本全体として省庁の枠組みを超え、国と地方の問題も含めて考える。かつ、全部ではなくてメリ張りをつけ、ウエートを置いて実施することが大きな鍵である。

    第3に、戦略というのは外に向かって発信するもので、それによってことを運び易くする。今日のテーマで言えば、人の問題をより多くのコミュニティの中で議論し、国内だけでなく、海外に対してどのように提示していくかでもある。

  • グローバル戦略を考えるときに、人の問題は他の問題と非常に深く関わってきており、人だけを切り離して議論できなくなってきている。これからの日本の豊かな生活を支える産業を、日本国内の人材だけで可能なのか、議論しておかなければならない問題である。

(倉橋靖俊)

(資料参照:[1]PDF形式 106 KB別ウィンドウで開きます。・[2]PDF形式 122 KB別ウィンドウで開きます。・[3]PDF形式 153 KB別ウィンドウで開きます。
  • 南米の日系人が集住している地域で多文化共生に取り組んでいる立場での現状と課題、市の取組み等についての説明になる。豊田市在住のブラジル人の推移は平成元年に96人、平成2年(入管法改正の年)に1,179人、今年5月1日現在では7,378人に達している。また、中国人もここ3、4年でかなり増加の傾向にある。
  • 豊田市の町別の外国人数は、保見ケ丘(保見団地)の例では総人口が9,149人のうち外国人が4,110人で45%、そのうちブラジル人が3,838人である。保見団地は約55%が日本人、42%がブラジル人という日本で最大のブラジル人の集住団地である。
  • 集住のメリットは、同国人が多く居住しており各種の情報等の入手が容易、日本語が話せなくても生活が容易などではないかと言われている。反面、(1)地域生活面での摩擦(ごみ出し、夜遅くまで騒ぐなど)、(2)社会保険の低加入率、(3)不就学の児童・生徒の増、低進学率と就職の困難性など、いろいろな問題も生じている。
  • 全国一の集住団地を抱える豊田市は、自治体としては比較的早く多文化共生の施策を実施してきた。また、多文化共生推進協議会を通じて、(1)こどもの教育・青少年、(2)保険・労働、(3)外国人雇用、(4)コミュニティなどの分野において、各種の取組みを展開している。
  • 今後、不就学の実態調査をした結果に基づいてその解消に努めていきたい。また、コミュニティにおける一番重要なツールである日本語の学習、習得の機会については、市の国際交流協会だけでは限度があり、各企業の協力が不可欠である。

(山脇啓造)

(資料参照:[1]PDF形式 83 KB別ウィンドウで開きます。・[2]PDF形式 33 KB別ウィンドウで開きます。・[3]PDF形式 295 KB別ウィンドウで開きます。・[4]PDF形式 458 KB別ウィンドウで開きます。
  • 今年3月の総務省の多文化共生の推進に関する研究会の報告書には、三つの意義がある。第一に、多文化共生施策は、国レベルでの取組みがほとんど進んでこなかった一方で、自治体レベルではこの10年、あるいは外国人住民施策ということでいえば30年近い取組みの蓄積があることを、取りまとめて体系化した。
  • 第二に、作成の過程で議論になった外国人支援と多文化共生の違いで、外国人支援ということならば、ニューカマーに関しては80年代後半ぐらいから主にNPOやボランティア団体によって行われ、90年代に入ってから全国の自治体が取り組んできたが、支援自体が目的化したことの反省があり、多文化共生社会を目指す手段としての支援の位置づけが大事であるなどの意見が出た。
  • 第三に、国と自治体の役割分担では、自治体任せの現状、国の制度が障害になっている一面など、自治体の取組みや役割を議論する前提として、当然に国がすべきこと、その上で国と自治体との役割分担など、問題意識の必要性が明確となった。
  • 報告書は、現行の制度的枠組みの中でできることの問題整理をする一方で、制度の改革・変革にも踏み込んだ。「多文化共生施策の推進体制の整備」の中の「国の役割、企業の役割の明確化」において、自治体の議論をする前提として国の議論が必要であること、さらに、実際に外国人を雇用している企業の役割にも触れている。
  • 地方自治体の多文化共生施策の現状であるが、市町村と都道府県では市町村の取組みが先行している。また、全国の集住地域と分散居住の地域では、集住地域の取組みが先行している。また、教育の問題がクローズアップされているが、教育委員会よりは市長部局、知事部局の取り組みが先行しているところが多い。
  • 「人権型」と「国際型」については、先ほど国に先行して30年近くの蓄積があると話したのが人権型の自治体である。1970年代以降、外国人の中でも韓国・朝鮮人、在日コリアンの多い大阪や川崎市のような自治体が住民としての外国人の受入れを人権施策の中で進めてきた。一方の国際型は、90年代以降、いわゆる国際化施策の推進の中で、特にニューカマー(ブラジル人中心だが)の外国人労働者の増えてきた自治体が取り組みをしてきている。
  • 多文化共生推進指針や計画の策定については、3月に総務省の研究会の報告書が出て直ぐに同省から全国の都道府県、政令市に対して多文化共生の指針や計画策定を要請する文書が出された。既に2005年3月に川崎市が「多文化共生社会推進基本指針」を、立川市が「多文化共生推進プラン」を、それぞれ全国に先駆けて策定しているし、多文化共生をうたった担当部署を設置している自治体もある。
  • 多文化共生という言葉自体は、90年代前半あるいは半ば頃から市民グループが使い始めた用語で、その後、自治体レベルに広がり、去年、国レベルでは総務省が初めて取り上げたが、これは草の根からボトムアップで出てきた用語であり、大事にしたい。 
  • 「多文化主義」と「多文化共生」を近い意味でとらえる者もいるが、私自身、そこは違う形でとらえており、必ずしも多文化主義を指すものとしては用いていない。日本の場合は、戦前の植民地支配の中で同化主義の政策をとってきたという歴史があり、同化主義とは違う道として多文化共生という用語には、大きな意義がある。「社会統合」とほぼ同じ意味で「多文化共生」をとらえていくのがいいのだろうと思う。
  • 今までは、外国人政策に関しては出入国についての政策議論が先行していた。出入国政策と社会統合政策の2本の柱があり、一方だけを議論しても生産的ではなく、両方の議論を同時並行で行わなければならない。

(2) 高度人材の受入れ拡大に向けた課題

(井口 泰)

  • ここでの人材には、科学技術人材に限らず、日本の場合、アジアを含めた海外法人のネットワークを維持するための外国人人材、また、日本国内の生産現場を堅持していく技能労働者を最小限確保していくための人材を含めて考えている。

    第一に、いわゆる専門的・技術的分野の外国人については、アジアに重点を置き、東アジアの人材を欧米から呼び戻し、また、東アジア域内で日本が軸になって人材開発をすることを戦略的に考える必要があり、この問題をEPA―経済連携交渉の課題の中に加える必要がある。

    第二は、介護・看護の分野であり、看護については既に規制緩和が進んでいる。介護についても受入れのインフラを整備し、就労場所を確認できるような仕組みを前提に、一定の資格、日本語能力、実務経験があれば日本で働ける仕組みに拡充して、内外人平等の原則を貫いていくべきである。

    第三は、技能実習制度の改革である。技能実習生の中には高い日本語能力を持ち、日本に対して非常に理解があり、日本企業からも推薦が受けられる人たちがいるが、その人材を活用できないでいる。一定の条件を付した上で技能実習生のOB、OGが日本で堂々と就労の在留資格を得て働ける道を開いていかなければ、せっかくのチャンネルが生きてこない。

(伊藤元重)

  • 受入れと統合政策を分けて議論するのは難しい。日本の外国人受入れの問題と欧州の問題を全く同列には議論できないが、アムステルダムでは、4人に1人ぐらいはイスラムのバックグラウンドを持っており、大半は、いわゆる移民の1世、2世、3世で、そういう中で彼らは悩んでいる。また、1970年代にスイスは外国人労働者を沢山入れたことで、最盛期には労働者の5人に1人ぐらいが外国人労働者であった。日本の状況もそちらに近づくのかもしれないが、現状で我々が議論すべき問題は、若干違う。
  • 今の状況は日本にとって非常に大きなプラスであり、非常にローカルな問題として取り組める。ある意味では、特定の地域、特定の分野として集中的に議論できるということと、そこでの経験から成功した部分を広げていくという、斬新的なアプローチが可能になる。豊田市、浜松市、群馬県などには外国人が非常に集中しており、現地では取り組みに非常に苦労しているが、その制度を他の場所でも使う。自治体の役割が非常に重要であり、自治体でないとこの問題にトータルにアプローチできない。
  • 日本全体での受入れを議論する前に、どれだけ優秀な人材を引っ張ってこれるかというレベルでローカルに考えると、おそらく間口を広げなければならない。医療、介護の問題について少子化で議論され、最後にはトータルな在留外国人のこととして議論されなければならないが、その前に、どの分野で具体的に受入れが可能かということをローカルな中で議論していくことが、現実的である。

(倉橋靖俊)

  • 地域で係わっている立場からだが、外国人労働者は、現状では必要な存在になっている。特に自動車産業は国際競争力のために低コストを追求しており、外国人労働者がいなければ潰れてしまう下請企業がたくさんある。商工会議所が外国人の受入れ問題について取り組みを始めたことにはそういう経緯もある。
  • また、研修・技能実習生が増えており、豊田市で中国人が増えていると説明したが、現実に中国人の研修生が増えていることを実感している。日系人から中国人に職場を変えている企業も多々あると聞いている。
  • 出入国管理の問題では、現状は納税チェックだけだが、社会保険の加入、子供の就学などもチェックできるようにして、外国人労働者が日本でうまく働けるシステムをつくるべきである。また、高度人材だけでなく、単純労働者、グレーゾーンに当たる労働者もいるので、全体の受入れ体制の見直しをぜひとも進めてほしい。

(山脇啓造)

  • 基調報告の中での東アジアという大きな枠組みの中での人材育成あるいは人材還流のスキームを考えるという点には、賛成である。優秀な人材が来るほどの魅力が日本になければ、むしろ日本国内あるいは東アジアで人材を育てていく、そして活用していくという発想が必要である。
  • 政府の基本方針に対する評価だが、本音と建前がこれだけ乖離した制度はない。「単純労働者」は受け入れないという中で日系人の受入れが進み、それが自治体レベルにおいて非常に大きな負担になっている。研修・技能実習制度、あるいは超過滞在者が何十万人も働いている中でさまざまな問題が起きており、基本方針が破綻していることは明らかである。
  • 在留期間、在留資格取得要件のあり方についても、有期滞在―期限を区切った滞在(1年、3年という在留資格)から永住資格、さらに日本国籍の付与という、三つの段階を含めた上でのトータルな外国人政策の観点から、段階的に受入れを行う検討をすべき時期にきている。
  • 受入れ範囲の見直しについては、看護・介護というところに注目が集まっているが、日系人、研修・技能実習生、超過滞在者というすでに受け入れが進んでいる職場、あるいは就労の分野について、先ずそこをどうするのかを考えるべきである。
  • 研修制度には企業単独型と団体監理型の2つがあり、企業単独型には問題がないが、団体監理型の場合には問題が起きており、団体管理型での技能実習生の受入れはやめてそれにかわる新たな条件での在留資格を設置し、正面から労働者としての受入れを考えるべきである。
  • 在留管理システムの構築は、外国人登録制度と密接に関わってくる。管理の視点からの議論が多いが、外国人登録の問題は、地域における多文化共生社会の構築にとっても非常に大きなテーマである。一つの大きなデータベースをつくって外国人だけを管理するというのは、多文化共生の観点からは外国人だけを特別扱いにした好ましくない制度ではないのか。

(3) 生活者としての外国人の問題への対応と地域における多文化共生社会構築に向けた課題

(井口 泰)

  • 受入れ政策についての政府の方針が破綻したという見方には、ある意味で現実の複雑さが影響しているところがある。日系人の受入れでいえば、南米の経済危機が大きな背景にあり、かつて日本人であった方々の子孫に対する大きな支援だったと思う。外国人の受入れには就労目的ばかりではなく、他に家族の呼寄せ、難民などいろいろなチャネルがある。
  • データベースについては、外国人登録を住民基本台帳に近づけるという議論をしている。住基システムの改善の中で、例えば住基システムの一部を仕切って、日本人の住民基本台帳と共通する部分と、プラスアルファで外国人についてデータを入れる部分、行政目的によって必要なデータをそこに集めておくこと等が大事であり、外国人の管理を目的とするものではない。
  • 今までは受入れにおいて義務を軽視してきたが、義務を果たして初めて権利が行使できるということでないと多文化共生の実現は無理である。守りやすい義務に変え、それを守るという双方向性、日本人にも外国人にもフレンドリーな制度である。それを怠ったことが、現在のヨーロッパである。また、宗教の違い、言語の違いがあって、別の集団、クローズドなコミュニティが一杯できてしまった。ヨーロッパと同じに考えることではないが、レッスンとして何をするのか考えていく必要がある。
  • 多文化共生においては、第2世代、第3世代と子供たちのことを考えないで外国人の受入れをしては駄目である。しっかりした教育を受けられるような仕組みをつくらなければ、優秀な外国人が来ないどころか、外国人の子供たちがどんどん底辺に落ちていってしまう。

(山脇啓造)

  • 日系人に関する受入れ政策については、国としての受入れ政策や社会統合政策がない中で、労働者として全く制限のない形で無条件に受け入れが行われ、自治体側が一方的に大きな負担を強いられるという面で非常に問題があった。
  • データベースについては、外国人登録と住民基本台帳との関係が重要であり、住民基本台帳と切り離した形で外国人だけのものをつくるのであれば問題である。外国人も住民である以上は住民基本台帳の中に含めることを出発点に、在留管理の議論を進めるべきである。
  • ローカルな枠組みでの取り組みの有効性については、仮に市町村レベルでどんどん受入れ体制をつくっていくということになると、ますますそこに外国人が集中する可能性が高く、現場は限界に達してしまう。2001年以来、外国人集住都市会議が国に対して基本的な外国人政策の基本方針や省庁横断的な体制整備を求めてきており、国としての基本方針や、最低限の体制整備が欠かせない段階に来ている。
  • 具体的な日本語教育、不就学児童解消等の課題について、今後、日本語教育をどのように進めていくのか、政府が基本的な方針をつくる必要がある。また、学校教育の問題でも、都道府県レベルではかなりの自治体が外国人児童生徒教育の基本方針をつくっている。学習指導要領の中では外国人児童生徒のことが触れられていない。国としても基本方針を作るべき時期に来ている。また、教員養成では、日本語教育のトレーニングを積んだ教員が日本語を教えるべきで、大学の教員養成の中に日本語教育や多文化共生に関する学習を入れていくべきである。
  • 国と自治体の推進体制だが、国レベルでの社会統合の基本方針の策定や担当する組織の設置が必要であり、体制整備を進めてほしい。さらには、外国人あるいは民族差別を禁止する法的な仕組み、地方参政権、国籍付与についての検討も必要である。
  • 最後に、社会費用に関しては定義が大事であり、企業の負担が非常に大きなテーマとなる。

(倉橋靖俊)

  • 地域における課題としては、生活上の摩擦、健康保険の未加入、青少年の教育、それから外国人登録、居住地と登録住所の不一致、雇用問題などが山ほどある。対応策としては、外国人集住都市会議を立ち上げた立場からは、浜松宣言、豊田宣言、昨年の規制改革要望書にすべて集約されている。集住都市会議の規制改革要望は、
    (1) 外国人の健康保険と年金のセット加入の見直し
    (2) 業務請負会社による従業員の社会保険加入の促進、元請会社による下請会社への指導
    (3) 外国人を雇用する事業者の実態把握、外国人就労管理の改善
    (4) 外国人登録制度の改善、国・自治体における外国人に関する情報の共有
    (5) 外国人に関する総合的な政策推進体制の整備、将来的に外国人庁、多文化共生庁の創設
    (6) 外国人の子供をめぐる教育環境の整備、教育の義務化、専任教員の充実
    (7) 外国人の子供の不就学対策
    (8) 外国人学校に対する支援措
    等であるが、特に強調したいのは、日本語教育の充実、不就学児童の解消、体制の課題である。体制については、集住都市の多くが国際課、国際交流課などの総合調整できる部署を設置している。国においても多文化共生庁などの組織を設置して、早急に縦割り行政を解消してほしい。

(伊藤元重)

  • 縦割り行政廃止のニーズは多文化共生に限らずいろいろな分野であり、国の対応には何年も時間がかかる。全体の体制を整えてからなのか、現に出来ることを優先するかである。ローカルな問題だから扱いやすいということは、決してやさしいという意味ではなくて、どちらも大事ではあるけれど問題が起きているところをピンポイントで集中的に行う方が、現実的であるということである。
  • 長年、国の行政に関わっていて思うのは、国の制度を変える、仕組みを変えるのには、大変に時間がかかる。地方分権や国を超えた官と民の住み分けの問題など、日本において今まさに非常にスピーディに対応して、しかもその中で知見を積み上げなければいけないことをどういう仕組みでやっていくのか、ローカルという意味は、決して国が関与せず地方に任せるということではなくて、ピンポイントでやるような仕組みを我々がつくれるかどうかである。
  • もう一点は、グローバル戦略の中で医療、介護の問題を取上げたが、今後の日本にとって社会保障が極めて重要となる。今までの政権は医療保険、診療報酬、あるいは年金負担、年金支払いだとか金の話だけでやってきた。金の話だけで診療報酬を下げて個人負担が増えていったときに何が起こるか、もう既に起こっているが、医療の現場の疲弊である。
  • 日本の次の政権で重要なことは、社会保障、特に医療、介護、福祉の部分であり、単に金の問題ではない。人の配分や産業の再配置ということが非常に重要になったときに、今の人材、今の方法の延長線上にそれがあるのかどうかであり、日本の大きな課題である。

3. 質疑応答

(聴衆A) 

  • 以前にフランスにおいて、教室でスカーフをつけることが宗教的なものかどうかで大きな問題になったが、生活スタイル、言語をそのまま日本に持ち込んでくれば、日本独自の社会的な基盤、さらには参政権、権利・義務、住民票の問題などが根本から壊れてしまう。日本に来る以上は日本の法制度や慣習に従うべきで「郷に入っては郷に従え」であり、基本的な考え方として全面的に打ち出していく必要がある。
  • 日本語教育についても、日本に来る前に母国において国家的なレベルできちんと教育をする必要がある。
  • 少子高齢化に対する対策として見れば、日本人と結婚して日本の家庭に入ってくる。最終的には日本人との混血までもきちんと認めていくのかということと、「郷に入っては郷に従え」を貫徹するのかどうかを国家的なレベルで方針として打ち出すべきではないのか。

(聴衆B)

  • 日本の入国管理制度、在留資格制度は、イミグレーションで在留資格を与えられれば、入国後どこででも働けるようになる。例えれば、一つの部署で入場券と乗物券の二つをやっているようなもので、ヨーロッパの場合は部署が分かれている。労働許可の問題と入国の問題を別に考えた方がいいのではないか。
  • 研修・技能実習制度、質の低下とその改善について、現在の在留資格の枠組みの中でその仕組みを変えることが難しいならば、現在の制度の中で日本の技術を海外にトランスファーするという役割は残したまま、優秀な者については3年以降にも道を残すべきであり、バイパスをつくるべきである。

(黒田所長)

  • なぜ今、グローバル戦略の中での外国人人材の受入れなのか。大学が高度人材を育成して国際貢献をすることが視野なのか、あるいは、産業の労働力としての外国人労働者の受入れなのか。それらがグローバル戦略の中でどういうふうに位置付けられているのかをクリアにしておかないと、議論が混乱する。

(井口 泰)

  • スカーフの問題ついては、背景だけの説明になる。フランスでは、多民族、多文化になってしまったので特定の宗教を前面に出すことを厳しく禁止しているが、そういう考え方とは別に、小学校などでスカーフをかぶっている女の子がいると体操の授業ができないという問題などがあって、長年の教師の側からの不満、現場的な要請の部分もある。同化的な考え方から出てきたことではない。むしろ特定の宗教や特定の民族だけが前面に出ないようにするというルールを公的な場でつくってしまったためで、イスラムについてだけ起こることではない。
  • 滞在の許可と就労の許可、二つの機能について、ヨーロッパでは20世紀前半の時点では完全に分かれていた。1970年代以降、二つの機能は残しながらもできるだけワンストップ化するという流れになり、フランスでは1984年頃に滞在許可証の上にサラリエという判を押すだけで労働許可が出せる仕組みに全部変えてしまった。昨年、ドイツも同じシステムに変えている。
  • 今から屋上屋を架すような許可制度をつくるのではなくて、同じシステムの中で各行政が連携していくことがポイントで、就労場所あるいは労働条件をチェックする役所と就労の許可を出す役所が情報を共有することが重要になってきている。
  • バイパスについては、外国人研修・技能実習制度の最大の欠陥は、終わってしまったらもう二度と来られないことである。一時的に受け入れた人たちの中で人材を選別して能力を伸ばし、さらに受け入れることが本人たちの励みにもなり、受入れ側にもプラスになる。段階を踏めば安定した在留資格が得られ、さらには永住までもという道筋をつくることで、段階的定住についての議論が必要である。

(伊藤元重)

  • グローバル戦略の中で人を考えなければいけないことについては、二つ理由がある。
  • グローバル化については、この30年ぐらいの間に浅いグローバル化から深いリージョナル化が起こっている。浅いグローバル化は、地球レベルでモノやお金が動くということで、深いリージョナル化というのは、地球全体で活動は起こっているのだが、その重要な部分がどんどんローカライズしている。単にモノの完成品が流れるだけではなく中間材が流れて企業が海外展開し、人が動き、社会的な慣行のようなものが重要になったりする。ヒト・モノ・カネ、企業というグローバル化で、最初に進んだのがモノである。最後の部分がヒトであり、今、取り組まなければならない問題である。

    もう一つは、気が付かないうちに想像以上の形で、ローカルではあるけれども、いわゆる外国人在留者の問題が大きくなってきている。豊田市の例が紹介されたが、既にいろいろなところにヒトのグローバル化的な要素が出てきており、集中的に取り組むことが非常に重要である。

(山脇啓造)

  • 「郷に入れば郷に従え」に一般論としては賛成ではあるが、これまでの日本の外国人、特に韓国・朝鮮人の問題を考えた場合に、政府として同化主義をとることには反対である。
  • 国の制度がなかなか変わらないということは、ご指摘のとおりである。今後、国と地方自治体が定期的に政策協議をするような場が必要である。外国人集住都市会議でも2年に1回、国に声を掛けて開催するが、実質的な議論になっていない。
  • 東アジア地域における人の移動、あるいは受入れの問題について、東アジア諸国の協議の場を設けることも今後は有益である。

(以上)

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