第26回ESRI経済政策フォーラム
「グローバル戦略シリーズ2~目指すべきこの国のかたち~」(概要)

東アジア経済圏の構築に向けて
~国際社会における知的なリーダーシップの発揮~

平成18年12月

経済社会総合研究所

本フォーラムの概要について、事務局の責任により以下の通りとりまとめましたので、ご参照ください。 また、議論の詳細については、議事録別ウィンドウで開きます。(PDF形式 394 KB) をご参照いただければ幸いです。

(開催日時)
平成18年8月31日(水) 16:30-19:00
(開催場所)
六本木アカデミーヒルズ40

(プログラム)

1.開会挨拶
黒田 昌裕 内閣府経済社会総合研究所長
2.挨拶
与謝野 馨 内閣府特命担当大臣(金融、経済財政政策)
3.基調講演
伊藤 元重 東京大学大学院経済学研究科教授

4.パネルディスカッション

パネリスト

  • 伊藤 元重 東京大学大学院経済学研究科教授
  • 浦田秀次郎 早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授
  • 田中 明彦 東京大学大学院情報学環教授
  • 本間 正義 東京大学大学院農学生命科学研究科教授

5.会場との質疑応答

(モデレーター)

  • 法專 充男 内閣府経済社会総合研究所総括政策研究官
  • 冒頭で黒田所長からの開会挨拶、与謝野特命担当大臣からの挨拶があり、次に伊藤元重氏による基調講演が行われ、モデレーターからの概要説明の後に、4名の方々によるパネルディスカッションが行われた。最後に、会場参加者の方々とパネリストによる質疑応答が行われた。

1. 基調講演

「東アジア経済圏の構築に向けて」

(伊藤元重)

  • 日本にとって国際化、グローバル戦略は常に重要なテーマである。この20年ぐらいで非常に顕著になったグローバルな世界の動きには三つ重要な特徴があり、これが今回のFTAあるいはアジアのコミュニティと深く関わっている。
    (1) グローブ=地球だが、地球規模というよりも地域の重要性が増してきている。北米や欧州がそれぞれ一つの地域とすれば、日本はアジア、あるいはアジア太平洋という中に入っており、この地域の重要性が非常に増している。
    (2) ディーパー・インテグレーション、いわゆるインテグレーション(統合)がより深くなっている。国境を越えてモノや金の移動が自由になることで、それに関連していろいろと深い形でのグローバル化が起きており、旧来のアプローチだけではこのディーパー・インテグレーションに対応することが非常に難しい。国内の政策のあり方、アジアを中心とした地域の連携とも深く関わる課題である。
    (3) かつて途上国と呼んでいた国々の重要性が非常に高まっている。それらの国の存在そのものが重要であるだけではなくて、それらの国々(いわゆる途上国あるいは新興工業国)との関係が重要である。
  • 2000年に欧州連合(EU)は「リスボン戦略」を立て、昨年3月には改訂リスボン戦略も出したが、FTA、EPAという地域経済連携協定、あるいは自由貿易協定が非常に重要になってきていることには理由がある。WTOは非常に重要だが、先進国主導で長い間やってきた仕組みであって、地域という特徴を排除してできるだけ無差別に原則グローバルということから、必ずしもグローバルなディーパー・インテグレーションに対して適切・迅速に対応できない。
  • 問題が、単に国境で関税を下げるだけではなくて投資協定、サービス、協力、システムづくりにも及ぶとなると、単なる経済交渉を超えた外交戦略が必要であり、対アジアの戦略においても非常に重要な手段となる。そこを誤ると、アジアの中で日本の置かれているポジションが非常に弱くなる。
  • 日本との交渉では各分野ごとに多くの相手がいて、あたかも農業国、労働国、健康国といったような国々と交渉しているようで進まないことから、日本の自由化のプロセスに対しては外から大変厳しい批判がある。
  • グローバル戦略の難しい点は、海外と交渉することは新たな利害関係が生じるということであり、既存の秩序にとっては大きな変化となる。日本のグローバル戦略の最大のポイントは、国内の社会・経済システムというものを(世界全体の)グローバル化に、地域経済化にマッチした仕組みに変えていくことで、大変な構造変化のプロセスである。
  • これからの少子高齢化を始め非常に厳しい状況の中で日本の経済が活性化を続けていくための一つの重要な鍵は、国内にあるヒト、モノ、カネだけでは非常に難しいことから、いかに海外のリソースを有効に活用するかである。
  • 世界経済においては地域経済化あるいはディーパー・インテグレーションが進んでおり、地域の中では国境を越えていろいろな分業が進んでいる。政治的なバリア、言語のバリアなどの枠が外されて、かつては日本の国内で行われていた分業システムが国境を越えてアジアに出ていく。これが地域経済化の一つの大きな流れであり、ここにアジア全体が成長する大きな鍵がある。日本もその中に入っていくことで、初めて少子高齢化の中でもより高い経済活動を維持できる。
  • アジアのコミュニティ、アジア共同体についての今後の方向として、今は日本とASEAN、中国とASEAN、韓国とASEANというより広域の2国間、2つの地域間の協定だが、その先には日本、中国、韓国+ASEANというような、地域全体を巻き込む形の自由貿易協定あるいは経済連携協定といったような動きがある。さらには、日本と資源等々の関係も深く、デモクラシーの国であるインド、オーストラリア、ニュージーランドも考えられる。全体のこれからの工程のようなものを日本の国内、そしてアジアの国々の政策コミュニティに発信していくことが重要である。 

(モデレーター) (資料参照:[1]PDF形式 324 KB別ウィンドウで開きます。・[2]PDF形式 319 KB別ウィンドウで開きます。・[3]PDF形式 149 KB別ウィンドウで開きます。・[4]PDF形式 307 KB別ウィンドウで開きます。

  • グローバル戦略では、「I.策定の背景と基本的な考え方」としては「選択と集中(比較優位の徹底)」の考え方が重要視されている。また、「II.目指すべき姿としてのこの国のかたち」、「III.目標を実現するための基本方針」があって、「IV.戦略的に取り組むべき施策と目標」ということでの具体論として「1.人材」、「2.産業」、「3.地域」の国際競争力の強化、「4.対外政策のあり方と国際社会への貢献」の4項目がある。
  • 東アジア経済圏は基本的には4.に関連し、本日の議論と特に関連の深いのが(1)「EPA工程表に沿った交渉の加速」、(2)「東アジア経済圏の構築」、(3)「東アジアにおけるOECDのような国際的な体制の構築に向けた取組」である。
  • (1)は、EPA工程表に沿って東アジアとのEPA締結を加速化するとともに、経済安全保障上重要な資源産出国や潜在的な貿易量の拡大余地の大きい人口大国との交渉に積極的に取り組むことが重要ということである。
  • (2)は、ASEANプラス日中韓の3か国、さらにインド、豪州、ニュージーランドなど合計16か国についてのEPA構想を進めていくという考え方で、こうした構想も含めて東アジア共同体のあり方について我が国がとるべき外交・経済戦略上の観点から、政府内で十分議論をしていくというものである。
  • (3)は、東アジアにおいてもOECDのような、統計整備や貿易、投資・金融市場、産業政策、エネルギー・環境等に関する政策提言・調整機能を持つ国際的体制の構築に向け積極的に取り組むということである。

2. パネルディスカッション

(1) パネリストによる冒頭発言、EPA工程表に沿った交渉の加速について

(浦田秀次郎)

  • FTA、EPAの意義を考える上で念頭に置くべきことは、日本が置かれている立場、環境である。一つは日本国内、少子高齢化が進んで既に人口が減少し始めている中での我々の生活水準の維持あるいはダイナミズムの維持であり、手段としては既存の資源を有効活用すること、さらには国外の資源も有効に活用することである。もう一つは日本の外、特にアジアで起きていることで、東アジアは世界の成長センターとして経済危機を経験したものの回復も早く、現在、世界の中で最も高い成長率を記録している。
  •  こういう状況下で日本のダイナミズムの維持を考えると、国内では構造改革、対外的には開放である。この二つは車の両輪のようなもので、片方が進んでももう片方が進まなければ期待するような効果は出てこない。対外開放についても、WTOでの自由化交渉が順調に進んでいないことで世界の諸地域でFTAが増加している状況にあり、日本もFTAを有効に活用すべきである。
  • 貿易の自由化はさまざまな内容を含むものであるが、重要なことは各項目の相互の整合的な関係である。日本には農業部門の自由化の問題があり、東アジア諸国とのEPAの中には農業分野に関しての技術供与が既に入っているが、その成果として当該国が非常に安全性の高い食料品や農産物をつくることが可能になった場合に、日本側が購入するかという問題になってくる。ここでは経済協力と同時に日本市場の開放という政策の一貫性を保つ必要がある。
  • 研究者の関心として、日本のFTAは現在3つで、シンガポール、メキシコ、マレーシア間で発効したが、FTAの意義を考える場合に重要なのは、効果の測定である。メキシコとのFTAが発効してから1年数か月経つが、両国間の貿易は1年20%で拡大したという数字が出ている。数字を始め影響に関する詳細な検討をし、検討成果を持ち寄ってFTAのプラスマイナスを議論していくことが重要である。

(田中明彦)

  • 冷戦後の1990年から21世紀の初頭にかけて世界では激変が起きたが、幸いなことにこの15年間、アジア地域では大規模な内戦、戦争は起こっていない。冷戦が終わったことで国交がなかった国々の間でも交流が始まり、人々やモノが自由に行き来できるようになり、地域間で物流が活発化し、次から次へと経済的な現象が発展しているというのが現状である。
  • 反面、この地域で大きな変化が起きて、バリアが減って活動が活発化する中で、残っているさまざまな制度面の障壁をどうやって取り除いていくかが非常に重要になってきている。現在、非常に重要な手段として出てきているのが、EPAのような自由貿易の推進あるいは経済的な調和をとっていくという方法である。
  • 急速な変化へのアジャストメントの手段がEPAであるならば、EPAの形勢に積極的に参画するのか、それとも消極的な対応をするかである。これは将来の日本の国益、国民の生活水準の維持、また、日本人に対する敬意、尊敬にも関係する。長期的に日本人が敬意をもってアジア地域で認められ、生活水準を維持するということであれば、アジャストメントに伴う制度化には積極的に関与していく必要がある。
  • EPAのタイミングが重要であって、最終的に2020年、30年頃に日本もやっと自由化をしたでは通らない。この地域の自由化を牽引していくのが最先進国としての使命である。

(本間正義)

  • グローバル戦略の中における農業については、経営効率化・高付加価値における農林水産業の国際競争力の強化が論点になる。まず、国内農業に対する強化のために新たな農業政策がスタートしており、方向付けも直接支払いという形で保護をしていく形に切り替わったが、構造改革につながる政策にはなっていないことが第1点である。
  • 第2点のポイントは攻めの農業である。農林水産物、食品の輸出額を5年で2倍の6,000億円にするとあり、あたかも農林水産物が輸出振興に回っていくような印象であるが、実際には食品の輸出の方が拡大するという状況である。
  • 農業問題の解決のためにFTAあるいはEPAを活用することは非常によいことで、今、WTOの世界において、日米間では凍結ということで交渉が進まない状況にある。EPAあるいはFTAの場合には個別の農業問題が見えてくるので、一つ一つ解決して行くことが可能ではないかという意味で、問題のソースが非常に明らかになる。
  • 対アジアのEPA、FTAにおいては、農業も含めるような努力はしているが米は初めから例外扱いであり、他のものも関税自由化とはいかず、100パーセントということではない。農業分野については、他のトラックを設けて時間をかけてコミットメントする、あるいは例外とするよりも別枠の中で議論するという方策がEPA、FTAの交渉の中で構築できるのではないのか。
  • 農業問題では技術協力、人の移動の問題が非常に重要になってくる。技術協力においては検疫制度、関税であり、検疫制度を初めとするいわゆるSPS、衛生基準制度等が、農業貿易の中で新たな解決困難な問題となる。また、相当数の外国人が外国人労働者としてではなく研修生の形で日本の農業の現場に入ってきているという実態がある。
  • アジアの中において農業にかかわる諸々の問題を議論する場、また、農業以外の分野からも参加して農業をグローバルに議論する農業フォーラムが必要で、それは東アジア共同体あるいは東アジア経済連携を考える場合には非常に重要な視点となってくる。

(伊藤元重)

  • 農業分野とトラックについては、交渉の中でも非常に重要なテーマである農業に関して、調整の難しい問題があるのであれば、その自由化を少し遅らせていくということも交渉を進める上での非常に大きな論点であろう。
  • 戦後の通商システムは、GATTという仕組みの中でできたものであり、GATTの基本理念は無差別原則である。FTA、EPAは、今のグローバルな通商システムの中では非常に特殊なポジションにあるが、世界中でFTAあるいはEPAの交渉が起ってきていることから、グローバルなWTOのようなところで、FTA、EPAをどういうルールの下で、国際的に承認していくかということを考えていく時期である。
  • 日本とタイが自由貿易協定交渉する上で、米の自由化は大変な問題になった。双方が交渉において自国のマーケットを守っているばかりでは、グローバル社会に対して偏狭である。世界有数の米の食文化を持っている日本とタイが相互に協力すべきであり、アジアという地域がグローバルな世界の中で繁栄するための視点が必要である。

(浦田秀次郎)

  • WTOでできる貿易自由化は当然として、それ以外の自由化、円滑化、協力というようなWTO+αのα部分についてFTAで対処していくことを強調したい。

(本間正義)

  • 東アジアという非常に大きな枠組みの中でFTAを考えることが重要である。日本の今のような戦略では、質の高いFTAを結べないということだけではなく、将来的には非常に問題のあるアプローチとなってしまう。

(田中明彦)

  • 政策決定システムの問題と関係するが、外からの日本は農業国や労働国というようで分かりづらいということだが、国内のことを総合的に見るような形の戦略中枢を形成していく必要がある。
  • 交渉はギブ・アンド・テイクであることから、日本としては、ネットでテイクするものが多くなることを目指すべきであり、そのためにはギブを一切しないとはいかないので、戦略的判断ができる中枢が必要である。
  • 農業別枠については、全く別にして農業は農業だけでということではなかなかギブ・アンド・テイクにならない。時期をずらし、枠組みとして違うものにするけれども、そちらとしてギブになっているという設定のできる枠組みをつくっていかなければいけない。

(本間正義)

  • テイクするためにはどういうギブの仕方があるかで、今の交渉の仕方というのは拒絶なので、農業で譲る部分、例えば技術協力をもっとするから時間を延ばすとか、農業という枠をつくりながら、その中でほかの部分と合わせてギブとテイクで何ができるかということを議論するようなフレームが欲しい。

(浦田秀次郎)

  • 農業を抜いてFTAをつくることが、日本にとって好ましいということではない。貿易自由化はFTAだけで終わるのではなく、最終的にはWTOにいくような貿易自由化でなければならない。FTAのメリットというのは貿易自由化以外に諸々のメリットもあり、それを追及したらいいのではということであり、農業を例外にしてFTAをつくるということには反対である。

(伊藤元重)

  • EPA工程表に沿った交渉をどうやって加速するか、政府の経済財政諮問委員会のグローバル戦略の中でEPAが語られるのは大変素晴らしいことである。政府の中で関心を持ってもらうというのは非常に難しいことで、成功するかどうかの最大のポイントは、政府の中枢の方々の意識、日本の政策の中でのプライオリティである。2年ぐらい前までは郵政民営化、財政構造改革が政策のプライオリティーであったが、最近は少し状況が変わってきた。
  • J・M・ケインズの「一般理論」の中では、世の中が変化するときにはメカニズムが三つある。一つは利害関係、市場メカニズムであり、どちらにいた方が得なのかという政治的、市場的に動くこと。二つ目は制度や仕組みをどう構築するかである。三つ目は理念であり、世の中の人たちが、何が重要なのか、どういうふうに思うのかということが非常に重要である。
  • 日本がグローバル戦略で成功するかどうかの最大の鍵は、国民全体のこの問題に対する関心あるいは日本のグローバル化にどれだけインパクトを持てるかである。変えていかなければとの理念がある程度広がってきた時に、マスコミや一般の政策コミュニティなどを通して理解を深めていくことである。

(2) 東アジア経済圏の構築について

(田中明彦)

  • 東アジア経済圏の議論は、日本国民がこの東アジアについてどう思うかによって、かなり差が出てくる。旧来の日本国民の外国観念は、ここから内側はみんな同じ日本人、そちらは外国人というものだった。日本の利益になるようなことは一生懸命手練手管で取ってくるが、外は所詮他人様のところであるという考えであれば、経済圏といっても意識はあまり変わらない。自分達の運命は周辺と一緒である、より広い範囲の我々だという意識が必要である。
  • 政治的には、日本人のアイデンティティの拡大がいいことをもたらす場合もあるが、反面、アジアでない地域からはある種の脅威感を持たれるかもしれない。アメリカからは、日本は同盟国だが中国寄りであるとなると、日米関係その他の問題も出てくるかもしれない。しかし、日本がアジアにおける経済圏を進めていくことは、日本人自身がアジア大でのある種の我々の意識を深めると同時に、それがアメリカやヨーロッパにとってもプラスになることだと思えるような仕組みを考えていく必要がある。

(浦田秀次郎)

  • 東アジア経済圏の先には東アジア共同体があり、ASEAN+3、つまりASEANと日中韓を念頭に置いているが、さまざまな協力の枠組みが構築されていて一部では活発に活動も行われているという実態がある。よく知られているのが金融協力で、チェンマイ・イニシアティブという外貨の融通であり、また、アジア・ボンド構想が動き出している。この二つの金融分野の協力が進んだのは、アジア通貨危機があったために通貨危機の再来を防止するという目的で金融協力が始まったことと、金融協力に参加することで利益を得る可能性が高いということが理由である。
  • 協力にもいろいろな形態があって、すべての参加者がメリットを受けるような協力というのはかなり進んでいる。次第に難しい問題に対しても協力という形で解決をし、進めていくということが重要である。その場合に、各国の置かれている環境、経済だけではなくて文化、歴史等もあるが、そういったことに関する相互理解を深めなければ協力体制を作れないし、問題が起きたときの解決も難しい。

(伊藤元重)

  • かつてインドシナ半島では共産主義との戦争があり、ベトナムに対抗するために周辺のタイ、インドネシアなどがASEANをつくったが、今はベトナムも含んだASEANという一つの枠組みができている。この枠組みが、あの地域のインテグレーションを進め、政治的な安定を維持する上で大きな貢献をしている。
  • 今後、アジアのコミュニティという非常に難しい目標ではあるが、1つの大きな目標を掲げて各国が努力していくということのもっている意味は、長い目で見ると非常に大きなインパクトがあるわけで、まさに理念にかかわる部分であり価値がある。

(本間正義)

  • 尊敬される日本人はキーワードであり、アジアの中での日本の位置付けをもう少し尊敬される地位に上げていくこと、経済的なコストベネフィットだけではない部分で長期的に考える必要がある。日本人が何を犠牲にしながらアジアの共同体を目指してできるのかというところの理念的な整理をする必要がある。
  • アジアの農業はモンスーンアジアにおける農業で米作を中心としており、欧米とは大変に違う。欧米では大規模化、農業革命という形で農業の近代化を図っているが、日本を含めアジアでは本当の意味での近代化がされていない。非常に小さい規模の家族経営の農業であり、これを大規模化、近代化により改革していくことにおいてリーダーシップを果たすのは日本だと思っている。
  • 日本が農業改革、構造改革を果たすことなくして、アジアにおける共通農業政策というものはなかなか構築できない。日本が範を垂れてアジアの農業改革のモデルを実践し、東南アジア各国が構造改革を果たしていく。今日のパネリストが言うような形の開放の仕方、農産物を開放し、その中でなおかつ規模拡大を図っていくという構造改革の方向をきちんと打ち出さないと、なかなか尊敬される日本人にはなっていかない。

(田中明彦)

  • 自己認識の問題で言うと、尊敬される日本人ということが出たけれども、難しいことであるかのように思う必要はない。日本人が相当謙虚なものだから、日本人自身が世界からどのくらいよく思われているかということについてあまり認識がない。
  • 世界的に行われる最近の世論調査では、日本は本当にトップクラスである。東南アジアやその他のアジアのいろいろなところで聞いても大体日本はよろしいと言ってくれる。有識者ではなく普通の人に聴いている世論調査においてである。
  • 「日本はこのごろ影響力が伸びていると思いますか」ということについても、日本人とアジアの人との間では認識ギャップがある。日本人に聞くと大体日本はこのごろ影響力が落ちているというふうに答える人が多いが、多くのアジアの国では日本の影響力はこのごろ増えていると答える人が多い。これは日本人が今までやってきたことがそんなに間違っていないという面である。ただ、中国と韓国においてはそうではないので、よくよく考えて直していかないといけない。

(浦田秀次郎)

  • 東アジアの定義、東アジアに属する国ということでは、候補としてはASEAN+日中韓、プラス3でインド、オーストラリア、ニュージーランドを含めたASEAN+6というのが上がっているが、台湾が少なくとも経済では非常に重要な地域である。最終的にはグローバルな自由化、グローバルな世界ということになるが、順番としてはASEAN+3、またASEAN+6で、ASEAN+香港や台湾、さらにはモンゴルと、柔軟に東アジアの定義を考えていくべきである。
  • 東アジアのプラス6については、ASEAN+3のメカニズム、プロセスがかなり動いている。協力に関しても17分野で48協議体、そういう数の枠組みが既にできておりそれを否定する必要は全くない。これから先は、多くの国にも開放する、あるいは参加させるような道をつくることを考えながら構想をつくっていくのがよいのではないか。

(モデレーター)

  • この東アジア版OECDについては、先般のASEANプラス3、あるいは日ASEANの会合において、経済産業大臣から東アジア版OECDの提案がされたというものである。それと同時にもう一つそれを補完するような形で、外務省主導での東アジア版OECD(アジア太平洋経済研究メカニズム)の動きというのがあり、このメカニズムにおいては、アジアにおける統計の整備、環境、エネルギー面における協力というようなことも含め、日本を中心にして各国の研究機関とのネットワークというようなものを構築していくというようなことを考えている。経産省を中心とした東アジア版OECDと外務省を中心としたものとが、今、補完的な形で進みつつある。
  • 1つの大きな違いは、どこまでの範囲をメンバーとするかであり、外務省版の方はアジアのみならず太平洋の主要諸国も含むということで、例えばアメリカ等も含んでいくというようなことを基本的には考えているようである。それに対して、経産省版の方ではASEANを中心として、ASEAN+6、あるいはASEAN+3というようなことを中心に考えているということである。

(田中明彦)

  • アイデアが経産省と外務省からも出ていると聞いていかにも日本だなという感じがするが、いずれにしてもアイデアとして見ると大変いい。東アジアがどんどん変わりつつある中で、日本のような能力を持つ国が最もしなければならないことは、知識なインフラをできる限り提供していくことである。
  • 知的なインフラを整備するということは、原則的に言えば多くの国にとってプラスサムであり、現実的には出したくないデータだとか、国家秘密だとかをいう国もあるだろうが、原理として見れば拒む理由があまりない分野であり、進めなければいけない。
  • 知的なインフラは継続性が大事であり、データを取り始めても2年たったら取れなくなったのでは困る。政策の継続性において優る日本のような国こそがイニシアティブをとってデータを整理・分析する枠組みをつくっていく、このOECDのような形の枠組みをつくることに日本が努力するというのは、得意技に近いのではないか。

(伊藤元重)

  • 戦後の通商の実際の中身というのは、常に先進国が中心だった。GATTから東京ラウンドと、基本的なスタンスはアメリカ、欧州、日本のような先進国が交渉して決めて、途上国はそれの恩恵を受けるというものであった。GATTのメンバーであれば同じように関税を下げるが、途上国の方に無理して自由化しなくてもよいということが、少なくとも東京ラウンドぐらいまではあった
  • 現時点で世界のGDPの75%というのは、日本、アメリカ、西ヨーロッパ+カナダ、オーストラリアなどの先進国であるが、今後の世界経済を見たときに、旧途上国の国々が25%のままでとはならない。GATT、WTOの枠組みの中でも途上国の持つ役割は非常に大きくなってきているわけで、今はそこには遅れて入ってきているという事情がある。したがって、アメリカにとって一番重要なメキシコの自由化を進めるときはNAFTAが優れた枠組みだろうし、欧州にとっての東欧、あるいは日本にとってのアジアの国ということで見ると、旧途上国が非常に重要になってきている情勢において、国境越えた枠組みの中に取り組む上でFTA、EPAは非常に有益である。
  • OECDは先進国クラブに近いようなところで非常に重要な役割を果たしているが、途上国も加わることで東アジアあるいはアジアという枠組みの中でそういう知的なものをつくっていくことが必要である。国境を越えていろいろな問題について対応するときに、各国が議論してつくったマニュアル、仕組みというのは重要であり、統計を始め、いろいろな制度等が加盟国の中で統一してあることは非常に有益である。この東アジアの中でこれから国境を越えて出てくるような問題に対応するためのインフラなどを整備するということができれば、素晴らしいことである。

(浦田秀次郎)

  • 東アジア版OECDの意義を非常に強く感じる。特に、東アジア地域でのOECDの加盟国は日本と韓国だけなので、それ以外の国々との調整、意見交換、さらにはいろいろな分野でのベストプラクティス、モデルケースをつくり、それを広めていくということが東アジア版OECDでは多分できる。
  • 情報の収集やある程度の調査を行っている機関としては、アジア開発銀行がある。日本ではアジ研が統計なども整備し、きちんとした研究をしている。そういう既存の機関があるわけだが、私が知る限り、東アジア版OECDの話の中にそういうような機関との連携、それを基盤として東アジア版OECDをつくるというような話は聞こえてこないので、準備不足という印象を持つ。アイデアには非常に賛成だけれども、存続していくのかという気もしないではない。

(モデレーター)

  • アジ研は経産省の構想に絡んでおり、全く連携がないわけではない。アジア開発銀行との関係は今のところ明示的にはないが、政府、内閣府の中での議論の場では、アジア開発銀行などの既存のデータやさまざまな蓄積については生かしていくべきではないかということが常に出てきている。いまの指摘のような点を踏まえながら、進めていくべきだと考えている。

(本間正義)

  • 構想自体に反対ではないが、東アジア共同体とか経済連携に向けた形で、もう少し統一的な組織づくりというものができないかという気がする。東アジア版OECDは大変結構だが、OECD自体も個人的には非常に政治的な組織だと思っている。農業の分野でもOECDはその昔は農業に全然タッチしていなかった。しかしながら、FAOという国連の組織においてあまりにも利害が絡んでいたことから、OECDの中で農業政策、農業の方の計測ということにコミットしてきたという経緯があった。
  • アジアの中であまりにも分野ごとにいろいろなものが立上ったり、統計整備だけといいながらいろいろな政治的圧力、あるいはコミットメントが出てきてしまうといったことを懸念する。あまりハイラーキーをつくるのではなく、組織だって東アジア共同体なら共同体に向けてどういう統計、協力、情報が必要であるという整理をしていかないと継続性が保てない。
  • APECの問題が残ってくる。APECはもう放っておく、なしにして全く別枠でやっていくのか。あるいはAPECの中で統計情報の整備ということも考えられる。そういうところの整備等、あるいは組織のスクラップ・アンド・ビルトを念頭において進めないと、中途で終わってしまって継続したものが何も残っていないという結果になってしまう。

3. 質疑応答

(聴衆A) 

  • 日本では石油、ガソリン価格が上がってからどうも原因は中国だと気づき始めた。数年ぐらいすると今度はトウモロコシや穀物類が上がって、どうも中国だとなるのではないかと思っている。その時、日本はエネルギー源、食料源を確保できるのか、非常に心配である。
  • 中国は東アジア共同体について考えているのだろうか、中国共産党が考えるはずがないと思っている。中国共産党は中華圏の中に日本を吸収するようなことが目的なのだから、中国と日本はヨーロッパ共同体の中のドイツとフランスのような関係になれるのだろうか。

(聴衆B)

  • 東アジアという範疇に、なぜロシアの極東が入ってこないのか。エネルギー的にも食料支援的にも、まずロシア、それからモンゴルあたりが最初の検討の中に入ってこなければおかしいというのが1点目である。
  • 次に、この東アジアの経済圏は、エリアの取り方が戦前の大東亜共栄圏の範疇とほぼ一致するような感じがする。この経済圏の中で中心となるのはやはり日中間であって、連携が必要である。過去の日本が提唱した大東亜共栄圏とは違うということがはっきり出ていないと、話が前進しないのではないか。

(聴衆C)

  • (東アジア経済圏について)国と国のギブ・アンド・テイクというやり取りの中でのことを考えるよりも、より広い権益の中での効率的なリソース(ヒューマン、ナチュラル、フィナンシャルなど)の活用をもう少し前面に出せないのか。日本は少ないリソースの中で発展してきたことから、主導的な立場についての助言などもできるのではないか。

(伊藤元重)

  • エネルギーと食糧の問題は非常に重要であり、恐らくFTAとか、アジアとかを超えた問題として日本は取り組まなければならない。石油価格の上昇については、中国の需要増も一つの大きな要因ではあるが、アメリカやインドの需要も大きい。石油は世界全体のマーケット、あるいは資源の中で動いていることから違った視点で考えなければいけない。そういう意味では、食糧も多分同じであろう。そういう中で、FTAとかEPAというのが全く無関係かというと、多分そうではない。
  • 石油を例にとると、中国の石油の消費量は日本よりも多いが、GDPでみれば中国はまだ日本の半分である。日本のレベル程でなくともよいが中国で省エネが進めばエネルギー効率化のインパクトは非常に大きいわけで、単に省エネというだけではなくて、緊急の課題としてのいわゆる環境問題との関わりもある。
  • 食糧についても、国内だけで全てを確保することは不可能に近いので、グローバルに考えなければならない。オーストラリアやニュージーランドについては、日本の国内でいろいろな反対はあるけれども、非常に重要な国である。

(浦田秀次郎)

  • FTAを用いてエネルギーや食糧の確保を追及するという方法がある。食糧に関して言えば、GATT、WTOのルールでは、輸出禁止に対しての方策がある。1973年にアメリカが日本に対して大豆の輸出を禁止したという苦い経験があったが、そのような輸出禁止に関してそれはできないという内容のFTAをつくるということは可能であると思う。
  • 東アジア経済圏を構築することによってこの地域における人材、資本、資源等を効率的に使うことが可能になるが、この地域における難しい問題は、各国間の経済格差が非常に大きいことで、シンガポールのような先進国もあればそうでない国もある。単なる自由化での経済共同体づくりは難しいことから、日本のような先進国が途上国に協力をしていく、底上げをするということが重要である。将来すべての国々が経済的繁栄、また政治・社会の安定を実現できるようにしていくことが重要である。

(田中明彦)

  • 中国の今後というのは、地域的に、世界的にも、また日本にとっても相当な関心事である。しかし、中国の政治体制の中には大変不透明なところがあり、指導者たちには世界全体よりも中国共産党の統治の継続が優先するようである。ただ、中国共産党の統治者も中国共産党の強権体制だけで中国を維持できるとは思っておらず、統治体制を維持するためには経済的に繁栄し、国民に豊かさを与えなければならず、そのためには平和的な環境が必要だと考えている。
  • それから先の不確定性というのはよくわからない面があるが、現在の世界においては、エネルギーとか食料のようなものも含めて戦争が起こる、あるいは武力による封鎖などが起こるということさえ防げれば、ある程度までは市場のコントロールで動く。
  • しかし、戦争が起こってしまうと、市場だけでは駄目である。そのためには、東アジアにおいて戦争を起こすことがどの国にとっても利益にならない、あるいは起こそうと思ったものが必ず損をするという体制をつくっておかなければいけない。これは経済の問題というよりは安全保障の問題であり、個人的な見解でいえば、やはり東アジア共同体の構想も着々と進めるが、その基盤として日米安全保障条約による安全保障体制を安定的なものにする必要がある。
  • 大東亜共栄圏と重なっているのは確かだが、ASEAN+3が大東亜共栄圏だからけしからんと言っている人々は、アジア含めてほとんどいない。要は、現在出されている東アジアの協力のメカニズムが多くの国の人にとって利益になるということであれば、それがたまたま戦前の日本が言っていたことと地域が同じだということであり、それのみをもって懸念することはあまりない。

(本間正義)

  • 確かに中国では所得が上がって畜産物の消費が増える。それによって爆発的に穀物の需要が増えて地球規模の食料不足が起るかというと、そういう予測をしている学者はほとんどいない。日本も含めて、先進国ではいわゆる生産調整を行っており、キャパシティがある。新たに開発する耕地は少ないとは言われているが、これもある種の価格の関数であり、市場がかなりの程度解決してくれる。
  • 問題は、7億、8億人いるという途上国の栄養不足人口、俗にいう飢餓人口である。いわばマーケットにアクセスできない人たちであり、マーケットの失敗、市場の失敗が起きているところに対して日本は何ができるかであり、二段構えで食料の問題を議論していかなければいけない。
  • 広域的リソースの活用がFTAの非常に重要な点であり、水産物に関しては非常に大きな問題がある。特に日韓でFTAを考える場合に水産物について、住み分けも含めて、あるいは水産資源、海の活用、これは領土問題が関わってくるが、非常に重要な問題を含んでいる。全体的な意味でのリソースの活用というのは、FTAの中できちんと議論し、解決していかなければならない重要な課題である。

(聴衆A)

  • 中国では数年もすれば北京での水不足、黄河が干上がって揚子江からどうやって水を引くかという事態も予想される。環境問題について、日本の技術への期待が非常に大きいことから、日本の経験が中国では十分生かされるわけで、中国は日本を必要とするし、また日本からの提案も山ほどある。
  • 現在のプルトニウムサイクルの原子力発電では放射線問題があるが、トリウムサイクルでは問題が生じない。安定した原子力を考えて新しい技術を取り入れるべきで、日本がトリウムサイクルの原発をつくれば世界中が恩恵を受ける。また、推進中の核融合エネルギーの開発もレーザー光線による核融合に切り換えるべきである。
  • こういうことも、東アジア共同体という大きな戦略目標が立てば、日本がどういう点で貢献できるかであり、日本の総力を発揮すれば出来ることは一杯ある。

(以上)

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