第27回ESRI経済政策フォーラム
「新しい局面にあるわが国のM&A」(概要)

平成18年12月
経済社会総合研究所

本フォーラムの概要について、事務局の責任により以下の通りとりまとめましたので、ご参照ください。また、議論の詳細については、議事録別ウィンドウで開きます。(PDF形式 464 KB)をご参照いただければ幸いです。

  • (開催日時)
    平成18年10月17日(火)13:30-17:00
  • (プログラム)
    (1)開会挨拶

    黒田 昌裕
    内閣府経済社会総合研究所長
    (2)挨拶

    田村 耕太郎
    内閣府大臣政務官
    (3)基調講演

    香西 泰
    エコノミスト(前内閣府経済社会総合研究所長)
    (4)M&A研究会報告について

    藤岡 文七
    内閣府政策統括官(経済財政運営担当)
     
    (内閣府経済社会総合研究所特別研究員)
    (5)パネル・ディスカッション
    座長
    落合 誠一
    (東京大学大学院法学政治学研究科教授、M&A研究会座長)
    パネリスト
    岡 俊子
    (アビームM&Aコンサルティング株式会社代表取締役)
    笹沼 泰助
    (アドバンテッジパートナーズLLP共同代表パートナー)
    冨山 和彦
    (株式会社産業再生機構代表取締役専務)
    野澤 宏
    (富士ソフト株式会社代表取締役会長兼社長)
    森山 弘和
    (株式会社レコフ上席執行役員)
    (6)会場参加者の方との質疑応答

1. 開会挨拶

(黒田 昌裕 内閣府経済社会総合研究所所長)
  • ESRI経済フォーラムは今回が27回目、時々に応じて課題を紹介、政策決定に役立たせるのが趣旨で、M&Aについてのフォーラムは、今回が3回目になる。
  • 研究所のM&A研究会は、香西前所長が立ち上げ、東大の落合教授に全体の座長をお願いして議論を重ねてきた。昨日、研究会の報告を公表したが、ジャーナリズムの反響も大きかった。
  • 今日、研究の紹介と、パネル・ディスカッションやフロアとの討議を通じて、研究会の成果をさらなる今後の研究につなげていきたい。

2. 挨拶

(田村 耕太郎 内閣府大臣政務官)
  • 以前、証券会社で興味を持ってM&Aを担当していた。当時は案件が少なく、M&Aは日本の企業の戦略としてはなじまないという議論が多かった。その後、アメリカのロースクールで証券規制と会社法等を学んだが、日本もM&A関連の法整備が進み、活発になればと思っていた。去年の商法の大改正で大きくアメリカに近づいたと感じている。
  • その後家業を引継ぎ、経営者としてM&Aを経験した。これまで仲介業者として関わったM&Aと、事業会社で経営者としてやるM&Aは、全く違うものだと思った。仲介者としてのM&Aも大変であったが、M&Aの後の経営のほうが大変だと感じた。
  • M&Aの戦略としての有効性も広く認知されてきたと感じているが、今後ポストM&Aに対する研究がさらに期待される。
  • 経済財政諮問会議で、日本経済のさらなる成長のためにイノベーション、人材育成、経済のさらなるオープン化等7つの課題が挙げられたが、これらすべてにかかわるのが、M&A戦略であり、M&Aが日本経済を牽引することを祈念している。

3. 基調講演

(香西 泰エコノミスト(前内閣府経済社会総合研究所所長))
  • 研究所の所長時代にM&Aの研究会を開設したが、熱心な討議を聴いて非常に啓発された。M&Aはわが国にとって非常に大事なテーマで、その研究者だけでやるべきではないという印象を受けた。M&Aについて、なぜそれが今これだけ大きな問題になっているかということを、エコノミストの立場で二つの観点から話す。
  • 一つは、グローバリゼーションの観点。これまで国際化と言えば、輸出・輸入の話であったが、グローバリゼーションというのは資本や技術などが、別の国の国内に入っていくことである。そこで、直接投資が重要になるが、その直接投資のかなりの部分がM&Aと関係を持ってくる。
  • EUの通貨統合下でドイツ・フランス・イタリアといった大国の成長率が下がったが、最近新しい動きが出てきている。ヨーロッパの直接投資は、2000年から2004年までで、GDP総額に対して約14%から約24%に増えたとされている。世界のM&Aの数は、最近ヨーロッパで非常に多くなっているとの報道もある。通貨を統合している間に、直接投資が起きて、それはいろいろな形でM&Aを通じて起きているということがそこに窺える。そういう意味で、グローバリゼーションの波にどう乗っていくかということを考えるときには、やはりM&Aの問題を避けて通ることはできない。グローバリゼーションは、別な言い方をすると、世界でいちばん利潤率の高いところに投資をする、ロケーションの競争であると言える。
  • 二つ目は、日本における少子高齢化の観点。日本では、社会保障は若い人に負担をかけるのではなくて、若い人の負担を抑えざるをえないというところにきている。そこでは利益率、配当率のようなものを上げていくことが必要になる。その利益率を上げるには、資本の効率を上げなければならない。日本の今までの高度成長は、貯蓄をして、設備投資をして伸びてきたため、資本の生産性は下がってきたが、それ自体は非常に大事なことであった。これ以上負担ができない状況に近づいているということであれば、貯蓄や資本蓄積だけで、日本経済の将来の成長を考えることはできない。日本よりアメリカのほうが、成長率が高いのは、「生産性の高い産業、企業等、効率がいいところへ資本を配分渡しているからだ」という指摘もある。日本はもう少し資本の効率を上げることが必要。そのために、M&Aは非常に大きな手段になる。
  • 昔は、企業と言うと設備を持っているということだったが、今では必ずしも設備だけではなく、人材や組織、ある意味で知識、知識を生む組織といったもののほうが、新しい企業の姿としては大きくなってきている。そういう中でそのような新しい企業を強くしていくためにも、いろいろな試行錯誤があって、それがだんだんとM&A等を通じて吸収されていくという図柄が描けるのではないか。M&Aは、企業だけでなく、学校にも起こるかもしれない、企業だけでないところで、いろいろな形のM&Aがありうるかもしれない。皆様にもぜひ関心を持っていただき、ちゃんとしたM&Aで、日本経済の成長を高めていきたい。

4. M&A研究会報告「本格的展開期を迎えたわが国のM&A活動(平成18年10月)」について(資料参照:PDF形式 177 KB別ウィンドウで開きます。

(藤岡 文七 内閣府政策統括官(経済社会総合研究所特別研究員))
  • M&A研究会は、平成15年末に研究所で発足し、わが国の持続的成長のためにM&Aの機能は有効かということを目的に、落合先生を座長にお願いし様々な観点から議論していただいた。最終的に、「持続的成長に向けて、M&A機能はわが国の成長にとっては必要不可欠である」という結論になった。しかしながら、解決されるべき課題は少なくない。
  • わが国の現在のM&Aの特徴は5つ。1番目は企業価値を意識した企業経営がようやく浸透しつつあるということ。2番目に、不良債権処理の進展と「選択と集中」による再編・再生が本格化しつつあるということ。3番目が経済・産業構造変化の中で、M&Aが増えているという状況。4番目が新会社法の成立等の法制度改正が行われてきたということ。最後に、公的機関の活動が非常に色濃く出ているということ。M&Aという活動が、最近、従来の再編型から経営型に変わってきていることは歓迎すべき。
  • M&Aは、経営トップのリーダーシップが最も重要である。大企業においては、「経営者と社員の分離」がされておらず、サラリーマン社長は保身を優先しがちでリーダーシップが十分に果たされていないことが多い。中小企業においては、「所有と経営の分離」がされておらず、経営者の人生がそのまま従業員の人生になっている。政府も、高めの成長を達成するためには、経営と弱者保護ということを分離して考える必要がある。中小企業には、企業価値を意識した経営が求められる。地域の金融機関は、担保融資を考えがちだが、収益性等の企業価値をベースに判断すべき。
  • 経営者の資質により企業価値は変わってくる。企業価値は、短期的なマネーゲームではなく、中長期的観点から行われるべき。粉飾行為は市場の信頼性を損ねるものであり、経済成長の大きな妨げとなっている。企業価値は市場評価にあわせるべきで、ディスカウントキャッシュ・フロー法、すなわち将来の収益を見ながら企業価値を決めていくという考え方が望ましい。金融機関は、担保貸しではなく、企業経営に対する貸し出しの姿勢が大事。
  • 企業の支配権については、基本的には「企業は株主のもの」という意見だが、断定はできない。「株主権」を振りかざして、中長期的な企業価値を破壊するような行為に対する歯止めは必要。買収への対応について、取締役の責任の程度についての議論は分かれている。今後、実態を見ながら、わが国としてあるべきルールや考え方を決めていく必要がある。
  • 敵対的買収への防衛策は、基本的に買収防衛目的で導入するものであってはならない。EU諸国はポイズン・ピルに対して非常に否定的であり、米国でも買収阻止目的でポイズン・ピルを導入してはいない。取締役会や独立取締役の機能、株主と従業員の利益をどのように考えていくのかを明らかにし、しかるべき対応をとるという態度が必要。
  • M&Aでは、M&Aプロフェッショナルや企業で働く人々が重要。M&Aは、総合的な活動分野であり、M&Aプロフェッショナルとは、企業経営の専門家という意味で、経営を知らない法律・会計の専門家のことではない。今後日本社会は、新しい経営者として、M&Aプロフェッショナルをしっかり育てる必要がある。終身雇用制の下ではプロフェッショナルの育成が困難な面もある。企業の枠から横断的に飛び出すようなシステムと、そういう幅広い世界で働く人材社会が必要。M&Aの成否を握るのはポストM&Aで、それをできるような経営の専門家の育成が必要。
  • M&Aの社会では人材が利益の源泉。特に、中長期的な経営ではヒューマン・キャピタルが非常に重要。人材市場の創出は、ヒューマン・キャピタルへの投資市場を創出し、新たな活力源となる。働いている人がどういう価値を持っているかという話と、M&Aが行われた場合の賃金や処遇の問題について、どういう考え方で臨むべきか、ということを、わが国の文化として確立していく必要がある。政府は雇用対策・支援のルールについて、しっかり検討していくべきではないか。
  • 税制は、企業の活力・競争力の維持・強化に大きな役割を担う重要な政策手段で、M&A活動においては極めて重要な要素。政策手段として、国際的視点や活力の視点を踏まえて合理的に検討されるべき。
  • M&Aの活動は、再生・再編を中心に地域の中小企業で活発になっている。中堅・中小企業の課題は、インフラや情報の不足等、数限りなくある。また、地方には他地域から人間が入っていったりすることに対して拒否反応があり、それを変えないと、地域の活性化は難しい。「地域の価値」を上げていかなければ自らが危うくなるという認識が、地域の金融機関において十分に意識されていない。キャッシュ・フローを重視した価値評価によって、人々の活力や新たな事業を起こすというコンセプトは、地域活性化に非常に重要だが、経営者や地域で責任を持っている人々が、そういう価値を十分に意識していないのではないか。地域の金融機関やファンドにも改善の余地がある。地域の特性に応じ、インフラ整備や地域の人々が出資しその果実を受けるシステムを作るという方法もある。
  • クロスボーダー投資では、相手国の市場開放度が価値評価に究極的な影響を与える。市場が十分に開放されていない国への投資は、政治的な要素も絡み、リスクが大きいので十分に注意が必要。三角合併については、海外の企業による日本の企業の買収が懸念されているが、それは、株主総会での決議を経て、経営陣の承認の下で株式交換が行われるというもので危惧すべきではない。
  • 私的整理については、事業価値が毀損しない間に早くすべき。アメリカのChapter 11等を参考に、成熟モデルで先が見えているような企業については、早い段階で再編できるようなシステムが必要。民事再生については、雇用者の職を守る観点から、裁判所が、じっくり再生に取り組んでいこうという考えに一般的にはなりがちだが、企業責任、経営責任を追究して、ダイナミックな再編を時間をかけずにやるというのが本来のあるべき姿。
(結論)
  • M&Aは、社会的厚生を最大化する重要手段としての企業価値の最大化を目的に、経営革新等を推進する重要な手段であり、企業に対して新しい活力と新しい投資をもたらすためのエンジンである。M&A策や企業の再生策、新しい時代の経営者が出てこないと企業は再生しない。M&Aはわが国の持続的な発展、成長に不可欠である
  • M&A研究会としては、特に関連統計情報の整備や、その分析について引き続き検討していく。併せて、M&Aの今後を考えていくのは、本来、官ではなくて民であるという観点から、M&Aフォーラムが設立された。低成長経済から高成長経済にするためには、企業の収益率を上げ、その企業が継続的に投資をするという循環が、地域、国全体に起こってこなければいけない。そういう意味で、M&Aというのは、まさに持続的発展のためのエンジンである。今後の社会を作り上げていくために、わが国のM&Aの活動をご支援いただきたい。

5. パネル・ディスカッション

(落合誠一(司会))
  • わが国のM&Aは新しい段階を迎えている。従来非常にアレルギーが強かったが、通常の経営手段として活用される時代が到来している。しかし、わが国の自由にM&Aを行うというインフラストラクチャーの整備状況という点から見ると、まだまだ不十分。こういう不十分な状況を分析し、M&Aをわが国でより活発に、少ないリスクで、予測可能性のあるルールのもとにどうやって実現したらいいかということについて、実務と学問とが手を携えて、今までM&A研究会では検討を続けてきた。実際上どういう問題を我々は抱えており、それをどういう形で克服していくかということについて、本日、この問題に関する専門家のかたがたにパネラーをお願いし、そのあたりの問題を大いにご議論していただくのがこのパネル・ディスカッションの目的。

M&Aについて(総論)

(野澤宏)(資料参照:[1]PDF形式 164 KB別ウィンドウで開きます。[2]PDF形式 113 KB別ウィンドウで開きます。
  • これまでM&Aをした会社は、買収と出資を合わせて26社すべて好調に今推移している。前半十数社は、バブル崩壊当時の頃で、救済、つきあいも含めてやってきた。劇的ではなかったが、再建を含めてじっくり立ち上げてきた。経営環境が改善されてきてからは、新たな、特異な技術を持ったベンチャー企業をどう手に入れるか、そういう技術をどう手に入れるか、そういう優秀な人材をどう我々の味方につけるのかという観点で資本参加をやってきた。後半は、生きのいい若手のベンチャー企業を中心に出資しているという状況で、今日まで推移してきた。
  • 当社は、制御系を中心としてやってきたが、業務系のアプリケーションのニーズの高まりを見せていたことから、ABCという当時業務系に強かった会社と合併した。業務系は金融機関の合併で需要が一気に拡大し、結果としてはいい合併となった。制御系のほうは携帯電話の需要が大きく、その波に乗って一気に拡大してきた。
  • ソフト開発は技術を中心とする人が財産の会社である。したがって、人を中心に、企業を買収・出資するが、人がいなくなってしまうと何のための買収か分からなくなってしまい、非常に難しい。うまく人が散らないように方繰り返して、今日まで順調にやってきた。
  • 敵対的買収の場合、高度な、法律的な、あるいは制度の裏をくぐったような、対応が必要になると思うが、これまでは友好的に話し合いで進めてきた関係上、そんな高度なテクニックは使っていない。結果としては、すべて順調な、いいM&Aを繰り返してきた。
(笹沼泰助)(資料参照:PDF形式 164 KB別ウィンドウで開きます。
  • 1997年からファンドを立ち上げ、企業買収投資をやってきた。総額で、これまで約1000億円、約20社に投資し、11社からは回収が済んでいる。売却も、上場もあった。資金を集め、案件を発掘して、買収投資を行って、その会社の価値を上げるべく活動を行い、投資を回収するという投資事業としての事業サイクルが回っている。中には、失敗だと思うような案件も1~2あるが、全体とすると価値が上がっている。
  • 97年から金融投資を目的とした買収が世の中に出てきた。いろいろなファンドがあるが、相当数は企業買収をしてその会社の価値を上げるという健全な動機に基づいて買収投資を行っており、案件も増えている。約15%が、こうした金融投資家による買収で、残りが事業会社による買収となっている。認識の変化では、M&Aを前向きな経済行為と受容する動きが出てきている。調査によれば、企業経営者が企業買収を一つの施策として考えているという回答は、1997年に25%であったものが、2004年には75%となっており、一つの経営手法、あるいはガバナンスの手法としてM&Aが非常に一般化しつつあるということがいえよう。
  • 1996年から、日本において金融投資を目的とした企業買収投資が可能となった。買収投資のファンドがさまざまな案件をやる中で、企業買収が一般化し、事業会社の中にも、一つの経営手法として広まってきた。9年の間に、いろいろな案件が出てきたが、それぞれの案件は、それ以前の案件を代替するのではなく、多様化し、市場が成長してきているというのが特徴。したがって、それぞれの規模の面とタイプの面でさまざまに多様化してきている案件に対応できるスキルを身につけなければいけない。
  • M&Aは、「ある企業・事業部門を既存所有者の持つ戦略的・能力的・経済的な制約から解放し、当該企業が本来的に持っている成長力、あるいは収益力を発揮させる企業価値創造のプロセス」である。現経営陣が課している制約から解放して、新しい株主に所有権が移ったときに、今まででは想定しえなかったような新たな可能性が見えてくることが非常に多く、新しい制約条件のもので、企業の価値創造がなされることになる。ある一定の期間がたち、その制約のもとではその会社の価値がもうこれ以上は上がらないというタイミングで、投資ファンドはその投資から撤退して、社会的公器としての企業の価値創造を新たな株主にゆだねることになる。
(冨山和彦)(資料参照:[1]PDF形式 87 KB別ウィンドウで開きます。[2]PDF形式 117 KB別ウィンドウで開きます。
  • 持続的な収益力を高めるために、経営資源(ヒト、モノ、カネ)、企業統治といったものを再編して、よりよいものにするというのがM&Aの中身であり、目的である。本当に会社の経済価値を上げるというのは、その会社の収益を上げることで、収益から雇用が生まれて、収益から配当が生まれて、収益から利払いが生まれるわけで、そこしかGDPには貢献していない。したがって、それをやるのが本来のM&Aであり、M&Aの目的であり、M&Aの中身である。逆にいうと、法律や金融の難しいスキームが必要な案件というのは、なかなか企業価値は上がらない。敵対的なことをやろうとすると、社会的な摩擦抗争ばかりが増えてしまって、実体的な経済成長にほとんど貢献しない。
  • M&Aの成功のかぎは、「モノ」から「ヒト」に移っている。かつては、企業収益の源泉は設備集約であったため、モノをどう集約するかがM&Aのポイントであり、資本の論理だけでやるM&Aで企業価値が上げられた。しかし、知識集約の時代に変わり、付加価値の源泉は人となっている。したがって、その人材市場現象、人的現象としてM&Aをどう見るかというのは極めて重要で、M&Aの成立要件として、ディールの成否さえそこで決まっているケースが多い。売り手の側から見て、新しい統治権者をよしとするかよしとしないか。人的資源を担っているコアの人材は事実上の拒否権を持っており、経営者が嫌われてしまうとM&Aはうまくいかない。そういった問題を越えていかない限り、M&Aをやっても企業価値は上がらない。
  • 日本はアメリカ等と違い、高い人材流動性の社会にはなかなかならず、それをいきなり目指すのはナンセンス。一方で、事業のライフサイクルは短くなっており、無理に終身雇用の枠の中で一つの会社に勤め続けることは、その人自身の持っている生産力、あるいは生産性を非常に不効率に社会の中で配分する結果になり、経済社会全体が非常に非効率になる。会社の枠を越えて、その人的資源をどう再配分していくか、どうやって日本社会の中で効率的に人的資源を配分していくかは、非常に重要な問題である。M&Aというのは集団で移動できるため日本人にフィットした転職、あるいは、違う企業統治権者の下に入る方法であり、積極的な意味合いでM&Aは、むしろ日本でこそとらえ直すべき時期に来ている。
(岡俊子)(資料参照:[1]PDF形式 150 KB別ウィンドウで開きます。[2]PDF形式 150 KB別ウィンドウで開きます。
  • M&Aのディールの中で、利益相反の問題が最近現実的な問題として顕在化しつつある。これまでの取引関係や系列、親密先など閉ざされた社会の中で、うまくやっていこうという意識が働いているようだ。その結果、取引先に対するディールの建て付けが、利益相反ではないかという案件も散見され、非効率が生まれている。最近でも、同じグループに属する金融機関が売りと買いの両方に入っているようなことがあった。MBOのケースにおける取締役の利益相反の問題は大きい問題だ。解決策の一つは、ディールに市場性を持ち込むことであるが、MBOのディールに市場性を持ち込むと、経営者以外の人がビットに勝つという事態になりかねなく、そうなってしまうとMBOにならないというMBO独特の構造的な問題もある。だが、例えばプライベートエクイティファンドの選択の仕方や、ディールの建て付け方によっては、市場性をある程度持ち込むことができるのではないか。
  • 情報開示についても課題がある。第三者割当増資を実施する際、デューデリでの発見事項を表明保証として契約の中に入れることが多い。この契約の内容は、ほかの既存株主には開示されない。これが、ほかの株主、あるいは将来の株主に対して著しく不利益になるような状況が生み出されている。
  • 最近は情報開示のレベルが若干上がってきていると思うが、買収提案の際、当事者である対象会社がそのディールによって、具体的に何が変わって、将来どのようなことが期待できるのかをもっと株主やその他のステークホルダーに対して合理的に説明されるべきという点で、改善の余地はある。
  • M&Aによって企業価値が上がったかを定量的に調査したが、総じてみると、M&Aをやると企業価値が全体としては上がっているという結果になった。バイヤー別と市場別に見ると全般的にM&Aは企業価値向上に貢献しているが、フィナンシャルバイヤーのIN-INは、下げているという結果になっている。これは、フィナンシャルバイヤーのIN-IN案件は、閉ざされた金融機関グループの中で処理された再生ディールが多かったという背景があり、注目すべき点である。
(森山弘和)(資料参照:PDF形式 220 KB別ウィンドウで開きます。
  • 今年1-9月までのM&A件数は2069件で、前年同期比4.9%増ということで、拡大基調にある。月次の動向については、今年の前半は昨年の勢いを引き継ぎ、高い伸びを示していたが、6月以降については小幅な減少に転じてきている。息切れの主な理由としては、売りニーズの減少、アクティビスト経営や値上がり目的の投資ファンドのM&A件数の減少、金融緩和の解除により資金調達が厳しくなってきたことが挙げられる。
  • 1-9月の特徴を見ていくと、マーケット別M&A件数では、IN-IN、IN-OUT両方とも増加している。公表金額ベースで見ると、8.1%増となったが、IN-IN、は約半減、IN-OUTは、4.3倍ということで、金額的には大きく変わってきている。IN-INについては、昨年、第一、三共、ヨーカドーとセブンイレブンといった大型案件があったが、今年はそういった大型案件がなくなっている。一方、IN-OUTのほうは、海外投資が非常に大型化したということで、金額が4.3倍となっている。
  • TOBについては、件数はやや減っているが、金額ベースでは3兆円弱ということで、大幅増となり、大型化が目立っている。これはMBOの増加、それからバイアウト系ファンドの台頭ということで、資金面の大型化が背景にある。そうした中で、王子、北越のケースが、わが国で初めての市場提案型のM&Aとして登場し、この1-9月の非常に大きな特徴の一つとなっている。
  • 都道府県別では、件数は大都市圏に集中しているという状況だが、一方で地方の伸び率も著しい。後継者対策や地方再生に向けてということで増加しているが、今後ともこの増加傾向は続くのではないか。「バーゼルII」という負債規律のプレッシャーが地方に及んでいくだろうという考えからである。このほかにM&Aというと大きな企業が利用すると思われがちが、実は未上場企業が当事者になった案件数は全体の73.3%で、前年比で3.3ポイント増大している。1-9月のM&Aの解消件数は28件で、前年の23件をすでに上回っている。

各論1「企業経営者のM&Aに対する意識は変わっているか」

(野澤)
  • 個人的には、M&Aに対する考え方が大幅に変わってきた。36年前に創業したころはM&Aという言葉もあまり聞かず、なじみがなかった。創業して5-6年ぐらいで、ベンチャー・キャピタルというものが出てきて、私たちの株を高値で買いに来るということがあり、経営上の重要な戦略の一環として考えていかなければいけないと思った。上場するに際し、ベンチャー・キャピタルのお世話になったが、外部の資本が入るということで、改めて意識した。バブル崩壊後にM&Aが一般化したという印象をうけた。当時、弱った会社がかなり売りに出て、その中の1社を私どもは買収したが、それと同時に仲介会社の存在というものに初めて接触した。その後案件を重ねて言った。
  • 今では、知りうる範囲では、M&Aをやったことのない経営者のほうが少数で、M&Aに積極的に取り組んでいこうという意識が強い。そういうことで、以前は考えにもなかったのが、今や我々にとっては、これからの重要な経営上の大きな戦略の選択肢の一つであると考えている。本業を強化するだけでなく、人やマーケット、技術・ノウハウ、時間も買うことができるという観点で、重要な経営の戦略上の選択肢として重要視している。
  • 余剰資金の運用として従来、上場の株式を買ったり、債権を買ったりして運用していたが、今はもうからない。それをやるのであれば、このM&Aで弱った会社を買って、それをうまく育てたほうがよい。しっかりしたノウハウを持っている者に任せていくと、上場させることができ、現在3社がIPOして公開している。それによる含み益が、評価額だけで今170-180億ぐらいある。今まで26社に出資した、総投資額が約187億なので、高効率の財務的な運用が可能である。
(笹沼)
  • 買収された企業の経営者は、そのあとの経営なり、ガバナンスに対する期待は、不安より圧倒的に大きい。買収した当初は不安感が大きいが、短期間でその不安は払拭されて、「既存の株主ができなかった、大胆な改革をしてくれるだろう」という大きな期待に変わる。そしてもう少したつと、「もっと大胆にやってくれると思ったけど、意外と慎重だな」となる。もっとドラスティックなことをやってほしいというような、若干の不満に変わるということもある。M&Aに対しては、最近の経営陣、あるいは従業員は、不安よりもそれをきっかけにして起こるダイナミズムのほうに期待している。
  • M&Aについて肯定的な見方が多いが、欧米と比較するとまだ少ない。プライベートエクイティファンドの市場規模を、各先進国のGDPの比率で比較すると、日本は、アメリカやイギリスの7分の1から10分の1程度しか案件が出ていない。ドイツ、フランス、台湾、韓国と比較しても、まだ5分の1、4分の1という規模でしかない。
  • 経営者の気持ちとしては、M&Aを経営の一つの手法として使いたいと思っているようだが、市場自体は、先進国の水準には達していない。好事例を積み上げて、経営者の意識を変えていく必要がある。大企業の中には、オーバーキャパシティになっているようなところがあり、事業分野の見直しを行って、再生に取り組むべき会社もあるが、なかなか動きが鈍い。M&Aに関して肯定的だというのも会社を買収したいという意識はあるが、事業の売却買収を併せた事業ポートフォリオの最適化という経営行為にはまだまだ至っていない。
(森山)
  • 意識は大きく変わったが、行動面という点ではまだ遅れている。例えば、ネットキャッシュ比率と買収後リターン分の実質買収コストで日本企業の買収魅力度というものを試算すると、株式の時価総額1000億円以上の企業では85社、1000億円未満の会社では832社ということで、合わせて917社ある。対象は金融業等を除いた3508社で、約3.8社に1社が50%超の株が取れれば、買っただけで儲かるという状況にある。企業価値を高めなければいけないという意識は当然あるが、まだ行動面で現れていないのではないか。

各論2 「M&A活動は日本経済にどのような影響を与えるか」

(冨山)
  • 今の経済産業構造全体で見たときに、非常に「モノ」と「ヒト」の配分の効率が悪い。効率の悪さの根源は、会社という単位を越えて、資源配分がやりにくくなっていることにある。それをやるのに重要な方法が、M&Aであり、倒産法制的な仕組みである。日本の今の状態は、似たようなメーカーが、同じような分野で同じ方向で研究開発をやっており、国益からみると非効率。M&Aが、市場機能として、再編を促していくという方向性が一つの重大な役割を担っている。
  • 地方の中小企業は、人材不足の問題を抱えており、特にミドルマネジメント人材が非常に少ない。他方、東京では、マネジメント能力がありながら、その仕事についていない人材も多い。そういった人材をヘッドハンティングし、地方案件に派遣し、マネジメントを担当させると活躍した例も多い。お金を中央から地方に流すだけではだめで、人と組み合わさらないとうまくいかない。したがって、人材をどう再配置させていくかといううえで、M&Aは、中央企業のものと違った意味で、非常に重要。
  • 売り手としてのM&Aの活用方法、洗練度が大事。M&Aは全部情報を持っている売り手のほうが有利。まともな買い手であればあるほど、気を遣ってくれるので、まっとうな統治権者に買ってもらったほうがいい。そういった意味合いで、売り手がこのあとM&Aをどううまく使っていくかというのは、これからの課題である。
  • 資本市場、人材市場は、買い手になった会社がポストマージャーインテグレーションをどう上手にやったかを見ており、その中で最も重要な情報は、人事である。日本のポストマージャーインテグレーションの人事においては、二つの傾向に陥りがち。一つは、非常に何も頭を使わずに、たすきがけ人事を繰り返すパターンで、対等合併型に非常に多い。この場合、ほぼ永久的にインテグレーションしないことになる。もう一つは、優位劣位がはっきりしていて、片方が片方を駆逐してしまうパターン。そういう人事をやっていると、売り手側から見たらそういう会社に買収されることに嫌悪感が生じ、買えなくなってしまう。うまく買収をやってきている企業というのは、被買収企業のヒューマンリソースマネジメントに関して、フェアにやっている。
(岡)
  • 今後M&Aはさらに増加していく。2007年5月に三角合併が解禁になると、クロスボーダーのM&Aは益々活発化すると予想される。ここのところ、M&A案件は、再生から成長へと舵が切られている。成長戦略を実現するために、業界を越えた再編が起きており、旧来の業界構造から、新しい業界構造へと変化する予兆がみられる。大企業のグループ再編や集中と選択もこれまで随分と進んだかに見えるが、根強いしがらみを断ち切ることができず、手がつけられていない部分も残っている。グループ再編はいまだに大きな課題であり、今後も第二段、第三段の再編は続くだろう。さらに、プレイヤー側の状況として、プライベート・エクイティファンドは、数も投資額も増加しているが、彼らは買わないと仕事にならないので、M&Aを促進する強力なドライバーとなりえる。今後少なくとも2010年ぐらいまでの間は、業界環境が変化する中、M&Aをドライブする人もいるし、ドライブされなければいけない会社もあるし、M&Aは増加するだろうと予見される。
  • ? 経営者には、二種類の経営者がいる。一種類目は、従業員から出世してきた経営者。歴史のある伝統的な会社の経営者がこれにあたる。もう一つは、いわゆるプロの経営者。ベンチャー企業経営者や、従業員でいた期間が比較的短かった経営者がこれにあたる。この二つの種類の経営者は、M&Aに対して全く異なる姿勢をみせている。プロに近い経営者は、経営のツールとしてM&Aを使おうとM&Aに対して能動的に考えている。伝統的な会社の経営者は、自分たちが属している社会でどこまでが許容されるのか、敵対的買収においてもどこまで踏み込んでいいのかを手探りしている状況にある。
(笹沼)
  • 先ほど国内ファンドによる価値創造はなされていないというデータがあったが、トピックス等と比較すると、投資ファンドの手掛けた案件は、非常にアウトパフォームしているというデータもある。投資ファンドは、真の意味で企業価値を上げなければいけないという究極の目標のために、執りうるすべてのアクションを執るということを旨としており、その企業が本当に長期的に価値を上げていくような企業となるためのすべての施策を行っていく。その中でキャッシュ・フローを最大化していき、それを使って、また新しい分野への取り組みを行っていくというような、いわば健全なバランスの活動をしている。
  • 事業会社による企業買収とファンドによる企業買収は、若干異なる性格を持っている。事業会社の戦略的な強化のための買収は、基本的には何らかの経営要素を買収することであり、何らかのアセットを特定して買う。したがって、それ以外のものは不要なアセットになってしまうので、排除され、それに伴って人が解雇されることがある。一方、投資ファンドは、安定性を重視する。買収をする前、過程、あとも、企業の組織の安定的維持を最大の要素にする。外部からの借り入れも利用することがあり、キャッシュ・フローの安定性が求められる。したがって、部門を全部カットしてしまうというような、ドラスティックな行動はあまり執らない。会社の従業員の雇用の維持、その会社自体の独立性の維持を、ファンドはうまく果たしているといえるだろう。
  • 日本のビジネスキャリアを単純化して大別すると、大企業に入り経営者を目指すというタイプ、もう一つは、起業家を目指すというタイプがある。投資ファンドは第3の領域を作ってきた。役員になることを期待し、ずっと大企業で働くのではなく、会社を出て、知識、経験を生かして、経営者として活動し、一定の株式やストックオプション等を持ちながら、一定の期間経過後、自分の成功というものが、自分に経済的な対価としてもたらされるという新しいキャリアタイプである。それを、ファンドが提供してきたと自負している。またそうした中で、そうした人材を発掘していくことも一つの機能だと思っている。そうしたことで、所有権の流動化、事業の流動化、そして人材の流動化といった機能を触媒として果たしていくことで日本の経済自体が活性化してきただろうし、今後もしていくだろう。
  • 世界中の投資家は、この2~3年で、約2~3兆円の資金を日本に対して投資してきた。機関投資家は、日本を含めた、それぞれの国の市政の人々の税金や、年金の掛け金、退職金などという資金であり、ファンドを通して、日本の経済も今後また発展するというビジョンを持ちながら、日本に投資している。会社を再生し、いい会社をより伸ばして、そのリターンを世界中に返すことで、投資の正の循環が、グローバルなスケールで起こり、日本の経済が活性化していくという流れになる。これは、金融投資を目的とした投資ファンドならではの機能だろうと思っている。

各論3 「M&Aの課題と対応策」

(野澤)
  • インサイダー上の問題が難しい。買収でも合併でも、トップどうしが極秘裏に、そして数限られた人間で話を進めていき、長い期間経過して、合意に達して、いざ具体的になるときに初めて発表になるが、そのときに双方の社員は初めて分かるわけで、社員を裏切るような、後ろめたい感じを何回か経験した。インサイダー上の問題だからしかたがないが、心情的には何とかならないのかと思う。
  • 焦土化された企業を買収した際に、そこにいる社員のやるせなさを感じた。社員にも、そこに働く人たちの権利があるはずで、取引先のあらゆるそういう面のステークホルダーが持つ権利はあるはずなので、ただ単に資本の論理で動くような買収は、疑問に感じる。
(冨山)
  • 制度的な議論でいうと、情報の非対称の問題がある。法制度の整備が進んできたが、情報の非対称性ができるだけ小さいことが取引の大前提で、そこは引き続き厳しく律していくべき。
  • 情報の開示が適切であるという前提をおけば、今の日本では、一般投資家の保護に重点が置かれすぎている流れにある。3分の1超の株式を保有する場合TOBが義務付けられているが、現実問題としてM&Aがやりにくくなっている。アメリカはこの手のTOB規制を制度としては採っていない。情報開示が適切であるという大前提が満たされている限りにおいて、株式投資は自己責任である。株主は経営者を選ぶ権利を持っているので、会社がつぶれようが何しようが、経営者が暴走しようが、それは全部株主の責任になる。したがって、TOB規制に関しても、代表訴訟の問題に関しても、株主を一般消費者保護法のような感覚でとらえてしまうと、企業統治は機能しなくなる。そうなると経営者はエクスキューズのため行動するようになる。
  • 企業価値や株価について裁判所が判決に書いたことがあったが、立法の裁量や行政の裁量に任せるべきことに関しては、裁判所は介入しないという三権分立の大原則があり、経営者の裁量に属する問題に原則としては裁判所という司法権が介入する問題ではない。いろいろな事件があったので、いったん一般投資家保護のほうに振れているが、制度整備がなされて以降は、本来は株主が自己責任ですから、M&Aの障害となっている、障害になりうるその手の問題はもう一度見直すべき。
  • 倒産ないしは擬似倒産の状態では、会社法上まっとうなM&Aは成立しない。普通は、株主が統治権を持っているという前提で、株の移動でM&Aが起きるが、株主価値がなくなっている状態で、株主統治を原則とした経営形態で、M&Aをやるというのは無理がある。結果的、法的整理に持ち込む以外ないが、法的整理に持ち込むと、通常信用毀損が起きて、企業価値そのものが下がるのでだれも持ち込みたくない。したがって、M&Aが起きないまま、スタックした状態で、本当に悪くなったから法的整理に入るという状況が起きるわけで、経営資源の配分、再配分をもっとスムーズに行うという意味では非常にロスが大きい。そういう擬似倒産状態の会社のM&Aをどのようにスムーズに行っていくかという役割を、国民の税金をリスクにさらさない方法で、会社法なり、私的整理の改良なりで、どのようにスムーズにやっていくかという問題が残っている。
(岡)
  • 日本企業は、アセットディールに対しては、これまで比較的抵抗が少なかった。アセットディールとは、ヒト、モノ、カネ、情報という4つの経営資源のうち、モノやカネが買収の対象となっているM&Aである。モノやカネ、さらに情報のうち形式知がコアコンピタンスである場合は、比較的PMIもやりやすい。しかしながら、ここのところ増加しているのはヒトや情報のうち暗黙知を買収の目的としたM&A。これらが買収の対象となるM&Aは、あまりうまくいっていないことも多い。PMIが非常に難しい。今後のM&Aディールの成否は、いかに新たな買い手がヒトや暗黙知から形作られている組織をバリューアップさせていくことができるかであろう。
(森山)
  • これまでM&Aの促進や、国の政府のほうで対日投資促進といったことが国益にかなうという見方が大勢であるようだが、規制・監視強化すべき分野がある。軍事転用技術を持っている企業の監視強化を政府としてはやるべき。現在、外為法の第27条第3項の一にいわゆる国家安全保障条項があり、外資が10パーセント超の株を保有するときに、こういった国家安全保障条項に引っかかる技術を持っている企業については事前申請という形になっている。しかし、実際の運用面は当該会社にヒアリングをしているという状況ではないか。軍事転用技術を保有している企業の実態調査と管理強化が必要。

6. 質疑応答

(聴衆)
  • 裁判所は経営のビジネスジャッジメントルールに介入すべきではないとのことだが、ライブドアとニッポン放送の判決の賛否について、根拠もあわせて伺いたい。
  • ファンドの投機化の傾向と資金源の情報開示の整備化はどうなっているか。
(冨山)
  • 当該判決の賛否は言えないが、判決に関して、裁判所は結論を導くのに最低限のことだけ言えばいいわけで、ビジネスジャッジメントに近いところに踏み込まずに、手続き上の問題や、法律の枠組みにいちばんなじむ世界で結論を出すべき。会社法上の訴訟に関しては、裁判所は、そういうスタンスを維持すべき。
  • ファンドの投機化の問題に関しては、日本の今の証券市場では、ファンド以上に、デイトレーダーの問題のほうが深刻。また日本の機関投資家も、短期的なものが多い。外資のファンドでは、意外に長期保有しているものが多い。
  • 上場市場に関していえば、株式会社の企業統治の仕組みは、今日のように一瞬のうちに株主が入れ替わることを想定してない。東京証券取引所の回転速度は、世界でいちばん高いかもしれない。欧米のほうがむしろ遅いとの専門家の話もある。そうすると、問題の根本は、ファンドが悪いとかいいとかという問題以上に、これだけ回転スピードが上がっている株主たちに企業統治権者としての的確性があるかどうかという問いである。バイアウトファンドのほうが今の証券取引所の大半の株主より長期思考で企業のことを考えている。短期売買者は投機家としてはまじめにやっているためだが、他方で企業統治に対してはふまじめにならざるをえない。
  • 企業経営戦略問題は、長い年月がたって初めて結果が出るもので、企業統治権を行使した責任として、自分が影響を与えたことに対する成果が出るまでの期間、株を持っているべき。この問題は特に証券市場、上場企業投資に関しては、ほぼ共通に出てきている問題で、人的資本がメインになってくればくるほど、資本市場のスピードが、回転がどんどん上がっていくこととのミスマッチが深刻な軋轢を生む。統治能力の源泉は、投資される側から見た説得力なので、短期的な株主の言うことを聞かなくなる。そうすると、企業統治は機能しなくなるから、企業価値は下がる。その問題は、世界の資本主義が全部潜在的に抱えている問題で、それをファンドに矮小化して議論しないほうがいい。
  • 市場で企業どうしが戦う状況において、多くの場合対等ではない。また、国の許可がないとM&Aができないような国がある。そういった国の会社が、TOBをかけたときに、TOBにおける最大の相互のディシプリンである逆TOBをかけられない。従来のガットやFTAの発想は、製品市場だけでものを考えており、資本市場の世界における対等は、議論されていない。というのは、まだそういう問題にあまり世界の資本市場が直面していないから。そういった意味では非常にアンフェアな仕組みが残っており、これをどうすべきか、ということを一度議論する必要がある。
(聴衆)
  • 地方では、会社が悪くなり、債務超過に陥った際に、会社の再生の提案をしても、オーナー経営者は、自分がその責任を執ることを嫌がり、株主をやめることを拒否することからうまくいかないことが多い。債務超過になったときに、株主としての権利行使が行われるべきなのか。債務超過に陥った会社の債務超過を負担しているのは金融機関で、実質経営しているにもかかわらず、金融機関は地域の問題もあるし、自分がそれを再生していくだけの自信もない積極的に関与しようとしない。それを進めるためには、2期も3期も債務超過に陥っているような会社については、その議決権行使の問題について、経営者の責任を執らせるなど、何らかのルールが必要なのではないか?
(冨山)
  • ディストレスト会社の統治の問題はまさにそのポイントで、一つはオーナー会社の場合には、所有と経営が一致しているため、本来株主によるガバナンスというのはもともとナンセンス。地方企業のほとんどはIPOモデルではないので、企業統治の問題と、危なくなったときの処理をどうしていくかは、会社法上穴が開いている。
  • 忠実義務の問題もある。経営者は株主ではなく企業価値全体に対して忠実義務を負っている。株主に対して忠実義務を負っているとすれば、ディストレストになっている危ない会社の経営者が会社更生法を申し立てて100%減資を行なったら、株主代表訴訟が起こることになる。そう考えてくると、本来会社法上は、これはちゃんと明記されていないが、そうでない解釈をする必要がある以上、明記すべき。
  • 会社法の中で、社債権者集会という仕組みがあるので、ディストレストになったときに、裁判所の法的整理の手続きを介在せずに、ガバナンスを株主から、債権者に移管させる仕組みは、あっていい。現状に株主がガバナンスを持っている状態と、法的整理に入り、急に債権者が持つ間にものすごい不連続があり、そこをなだらかにしていかないと、その辺ですごくスタックしてしまう。閉鎖会社の仕組みというのは会社法に盛りこまれているが、今回の閉鎖会社の会社法改正はどちらかというと、オーナーを守る方向になっている。一方で理解できなくはないが、ただおかしいときには逆効果になるわけで、そこをどうしていくかという問題は、地方の再生を考えるときに非常に大きなテーマになる。
(落合)
  • 債務超過の状態になったら、真のコントロールを持つべきものは株主から債権者に移るということだと思うが、それを手続き的に実現しようとすると、倒産法あるいは会社更生法という枠組みに移行していく方法、会社法の支配領域に移転させる方法、中間的なものとしては任意整理という方法がある。任意整理の場合でも、支配権を失った株主ではなくて、債権者のために経営が行われていくという法的な論理をとり得る。経営者、取締役は株主に対して中立義務を負っているというのを、取締役は債権者に対して中立義務を負っているという法的解釈をそこに持ち込んで、債権者が主役ということを解釈論上導入するという手法としては、あながち株主に対して善管注意義務、あるいは中立義務を負っているという構成が全然役に立たないこともない。

(以上)

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