第29回ESRI経済政策フォーラム
「災害被害を軽減するために必要なこと-リスクを知り、備え、長続きさせる社会に向けて-」(概要)

平成19年7月
経済社会総合研究所

本フォーラムの概要について、事務局の責任により以下のとおり取りまとめましたので、ご参照ください。また、議論の詳細については、議事録別ウィンドウで開きます。(PDF形式 428 KB)をご参照いただければ幸いです。

  • (開催日時)
    平成19年2月27日(火) 14時00分~16時30分
  • (開催場所)
    東海大学交友会館(霞ヶ関ビル)
  • (プログラム)
    1.開会挨拶
    黒田 昌裕
    内閣府経済社会総合研究所長
    2.基調講演
    樋口 公啓
    中央防災会議 災害被害を軽減する国民運動の推進に関する専門調査会座長、
    東京海上日動火災保険株式会社相談役、
    日本経済団体連合会顧問
    3.パネルディスカッション
    プレゼンテーション
    自由討議
    4.会場との討議
    5.閉会
    (パネリスト)
    齊藤 誠
    一橋大学大学院 経済学研究科教授
    西川 智
    内閣府参事官(災害予防・広報・国際防災推進担当)
    野田 健太郎
    日本政策投資銀行 政策企画部課長
    福和 伸夫
    名古屋大学大学院 環境学研究科教授
    (モデレーター)
    荒井 信幸
    内閣府経済社会総合研究所上席主任研究官

1. 開会挨拶

(黒田所長)
  • 内閣府には防災担当部局があるが、研究所においても、防災は研究プロジェクトのテーマの一つである。リスクマネジメントは防災に限らず重要な分野であり、経済学でもこの分野への関心は高い。本日は、リスクに関して正しい認知をどう行うか、そしてその認知に基づいた防災対策への先行投資はどのような形で行われるべきか、持続性のある防災対策のあり方、の3点を中心的な課題として議論していただく。

2. 基調講演

(樋口 公啓) (資料参照:[1]PDF形式 240 KB別ウィンドウで開きます。[2]PDF形式 470 KB別ウィンドウで開きます。[3]PDF形式 431 KB別ウィンドウで開きます。[4]PDF形式 396 KB別ウィンドウで開きます。[5]PDF形式 379 KB別ウィンドウで開きます。[6]PDF形式 380 KB別ウィンドウで開きます。[7]PDF形式 476 KB別ウィンドウで開きます。[8]PDF形式 109 KB別ウィンドウで開きます。
  • 中央防災会議に災害被害を軽減する国民運動の推進に関する専門調査会が設置された。専門調査会では防災・減災に関する取り組みを推進するための基本方針案を取りまとめ、18年4月の中央防災会議で正式決定された。その内容は「安全・安心に価値を見いだし行動へ」という基本方針の下、5つの柱からなっている。

    5つの柱は、第1に防災活動へのより広い層の参加である。地域のさまざまな活動の中に防災の要素を加える、または強化するというもの。

    第2は正しい知識を魅力的な形でわかりやすく提供すること。例えば、防災教育または啓蒙活動で、漫画、映画、ゲームなどのさまざまな媒体を活用し関心を引くというもの。

    第3は安全への投資の促進である。例えば、家庭やコミュニティーでの防災意識の醸成、あるいは企業でのBCP(事業継続プラン:ビジネス・コンティニュー・プラン)に取り組ませるためのインセンティブを設けることなどである。言ってみれば守る防災から攻める防災へということである。

    第4はより幅広い連携の促進であり、地域コミュニティーでの個人個人の連携はもちろん、企業、PTA、公民館、ボランティア団体との間における厚みのある連携体制を作ろうというものである。

    第5は、具体的な活動の継続的な実践であり、このための推進母体、体制を都道府県および市町村レベルで整えようというものである。

    このような取り組みは既に全国各地域、各方面で具体的に実施されており、専門調査会に報告があったものだけでも合計43事例になる。

  • 幾つかを紹介すると、まず名古屋における大学からの地域防災の貢献がある。名古屋大学大学院福和教授が中心となった取り組みで、大学を中心にして地域住民、NPO、自治体、マスコミを巻き込んでの東海地震を念頭においた防災活動を推進している。官学協同の仕組み作り、防災交流の場の提供、体感型教材の作成といったユニークな手法で地域防災力の向上を図っている。

    続いて「かぐてんぼう隊」の取り組みで、「てんぼう」は転倒防止の略であり、福祉住環境コーディネーターの集まりが高齢者の住環境整備を進めるうちに地震の際の家具転倒防止に着目し、学生の研修と組織化を図り、さらには社会人の研修との組織化に発展させ、ついには建築のプロまで巻き込んだ家具の固定化運動を地域の壁を超えて進めている。

    防災のためのネットワーク作りでは、神奈川県のNPO法人が自治体や地元の重機を使用する企業団体の協力を得てスタートした「安心重機ネットワーク」がある。これは重機とそのオペレーターの所在情報を登録しておくもので、予防から救助、復旧までのトータルな総合災害予防システムである。また盗難重機による犯罪の抑制といった効果も期待されている。

    地銀も防災活動に取り組んでおり、滋賀銀行が災害リスクのコンサルティング、BCPの策定、設備の耐震強化、情報システムの保全といったサポートを行い、また万が一の被災の後には対策資金の融資が優遇金利で受けられるという制度を導入している。

    地域との共生という点で企業の意識も変わってきており、行政からの支援が届くまでの間、自社施設を解放することを自治体や地域住民と防災協定を締結しているダイキンのような企業もある。

    メディアを使っての防災啓蒙活動も盛んになっている。小松左京氏原作の映画「日本沈没」や阪神・淡路大震災で被災しながらも、みずからのプロゴルファーへの夢を実現し、神戸・長田の町の再興に尽力した古市忠夫氏の実話とその映画「ありがとう」等のヒットは防災への関心が高まっていることのあらわれかもしれない。

    若い世代の防災への関心を呼び起こし防災力を高めてもらう取り組みとしては、「彼女を守る51の方法」という漫画や、NPO法人のいのちのポータルサイトが推進している「耐震補強フォーラム」というイベントがある。

    公民館も防災活動への取り組みをスタートしている。公民館の連合である全国公民館連合会では災害対策ハンドブックを作成し、地域の防災活動拠点の役割を果たそうとしている。

  • 国民運動として具体的に取り組むべき事項を7つにとりまとめた。まずは、国民運動の全国的な枠組み作りで、防災知識普及事業を行っている防災推進協議会に各地域で防災活動を担っている団体も加えてネットワーク化し、国民運動の全国的な枠組みを作ろうとしている。

    第2は、情報ライブラリーの整備である。防災活動に取り組む個人、団体が知りたい情報やノウハウを簡単に入手できるよう情報源の整備を進めるもの。内閣府の「みんなで防災」というホームページをベースにして国民運動の情報ライブラリーとなるホームページを作成する。さらに各企業、団体でも情報ライブラリーを整備し、リンクを張るなどして防災関連情報の迅速な普及に役立たせようとすること。

    第3は、防災活動に協賛している企業の商品、防災関連の商品、耐震性の高い安全な空間であること、等の情報を展示するロゴ・マークの制定と活用である。防災のための投資や備えと行動の促進に有効と考えている。

    第4は社会的課題として防災を取り上げる企業活動の促進である。CRM(コーズ・リレイテッド・マーケティング)の仕組みを企業の防災全般に応用していきたい。

    第5は、災害を具体的にイメージする能力を高めることである。防災力は災害を具体的にイメージし、効果的な対策を立てていくかにかかっている。情報ライブラリーの活用、各地の商業施設、社会施設、ビジネス街でのイベント開催、防災教材の開発などが考えられる。

    第6は、国民運動の推進における重点課題の設定の必要性である。当面の重点課題の例としては建築の耐震化、家具の固定化、企業組織の事業継続計画の策定などである。

    最後は、国民運動展開のためには、さまざまな防災活動への取り組み情報、ノウハウなどの蓄積と相互の活用が重要である。防災関連情報、ノウハウは通常の知的財産とは別の、すなわち共有財産と考えるべきである。内閣府のホームページには情報、ノウハウがたくさん詰まっており、ベストプラクティスである。防災に携わる人がこれを学び、よりよい形に進化させ、さらにその結果の共有を図り、さらにまた進化させていくべきものと思う。

  • 自助、共助、公助という言葉がある。一人一人がみずから生命、身体、財産を守るために行動する自助、地域コミュニティーや各種団体のメンバーがお互いに助け合う共助、国や自治体による公助、この3つのバランスがとれてこそ災害に強い社会が実現できる。

  • 我々の専門調査会の活動からわかったことは、良い取り組みの事例が日本のそこかしこであるということで、各々の団体が持っているノウハウを共有し、相互に連携協力すれば、自助や共助で防災の輪を広げることができるという可能性に改めて気づいた。平時の防災への取り組みは大変に地味ではあるが、国民一人一人、個々の企業一つ一つがその取り組みを積み重ねることによって災害被害を軽減していける。本日参加の皆様にも防災に継続して取り組む価値を国民運動的に感じ取って、身近で実践できる、例えば家具転倒防止といった細かな取り組みであっても、始めていただきたい。一人でも多くの仲間を増やして防災の輪を大きく広げていくことをお願いしたい。

3. パネルディスカッション

【プレゼンテーション】

(福和 伸夫) (資料参照:[1]PDF形式 426 KB別ウィンドウで開きます。[2]PDF形式 406 KB別ウィンドウで開きます。[3]PDF形式 488 KB別ウィンドウで開きます。[4]PDF形式 457 KB別ウィンドウで開きます。[5]PDF形式 450 KB別ウィンドウで開きます。
  • 災害リスクの認識に関わる話として、まず私たちを取り巻く状況について話したい。(首相官邸、霞ヶ関、溜池周辺の状況の変化を現代、明治時代、江戸時代の地図を用いて)江戸時代には溜池はまさしく「ため池」であった。このようなこと(現在の建物の場所が江戸時代にはどんな場所であったか)は多くの人には知られていない。また、例えば高層ビルはよく揺れるということも認識されておらず、この部屋でもシャンデリアの下に座る人が多い。現代社会はどこで何が起こるかということを実感していない。

  • 12年前に神戸の揺れを経験したが、この震度7の揺れを経験することはめったにはないと多くの人は思っている。しかし、多くの人は震度7の揺れを近い将来経験する。地面の揺れが震度7ということではなく、建物の中で震度7の揺れを受けるということである。

  • (62年前の東南海地震の時にどこがよく揺れたかという地図を示し)黒い箇所がよく揺れたが、ここには当時、人はあまり住んでおらず、農地として使われていた。今はこの揺れるところに火力発電所がある。また、自動車関連工場も揺れるところに集中している。

  • (地面と建物の揺れを比較する資料を用いて)地面の揺れが震度6とか震度5強であっても、室内では震度7を経験する可能性がある。平屋の1階ではなく、非常に高いところに住んでいるので、気象庁の震度階とは違う震度階を経験することになる。同じことは道路や鉄道でもいえる。道路や鉄道は今や地面の上だけでなく橋脚の上にある。地面が震度6でも震度7で揺れる。そういったことをイメージできているかどうかが防災上重要である。大事なものがよく揺れる場所にあり、そして高い建物の中はよく揺れ、車、電車も揺れる2階を走っている。こうしたことは過去の災害の時には無かったことだ。

    大阪や名古屋でも昔の人は建物を建てなかった場所にビルを建てている。神戸の地震から12年経っても耐震補強がされた跡がないビルが多い。また、BCPを率先して行っているトップ企業の経営層の人たちでも自宅の家具を留めている人はごく僅かというのが実態だ。

    本来助かるための3条件である、悪い地盤には建物を建てない、建てるのであれば耐震性のあるものにする、そして室内は安全に、ということを忘れて、そうではない命があることが前提の対策をしているような気がする。

  • 60年前と比較すると、かつては住んではいけないと言っていたところに住むようになった。また、かつてに比べ密集度が高まり、延焼危険度が増した。かつては平屋で簡単には壊れない建物であったが、今は高い建物が増えた。寝ている場所も1階で揺れない場所であったのが今はよく揺れる上の方の階で、家具も留めずに寝ている。建物規模も大きくなり、かつては隣の人が救えたのに、消防のようなプロでないと救えなくなってしまった。

    かつては電気、ガス、水道、何も頼らずに生きていおり、地震の後でも生活には困らなかった。現在は、通勤通学手段も遠距離となり、情報機器に頼り過ぎ、国民性も楽観主義、無責任、無関心、個人主義になった。家族も大家族から核家族になり弱者を救えなくなった。そして地域コミュニティーも失ってしまった。しかし、多くの人たちは現在の方がはるかに安全だと誤解している。今の方が遙かに危険だと認識を持つことが備えへの出発点だ。

  • (東京の地図で地名を示し)建物を建てない方がよい地名だらけである。谷、橋、川、堀、が付く地名で、これら埋め立てられた場所では関東地震で震度6強から7の揺れになった。他の場所では震度5であった。

    (東京の地図の赤い印の箇所を示し)赤いところは過去3度よく揺れる経験をした。このようなところ(赤い箇所)に気象庁や東京消防庁、大手町のビジネス街があるが、どうしてこのような大事なものをここに造るのだろうか。ここには(別の赤い箇所)背の高い建物が林立しており、ここに上場企業の12%が本社を置き、上場企業の売り上げの3割、100兆円が稼ぎ出されている。ただ、そこの揺れは大変なはずである。

    (東京の標高の地図を示し)東京には沢山の谷がある。ここはかつての神田川である。他にも渋谷川、宇田川、目黒川もある。これに震度マップを重ねるとよく対応する。江東デルタ地帯では震度は真っ赤である。次の地震でもその場所の被害はひどくなるだろう。新橋~品川間の最初の鉄道は海岸線を走っていた。当時は火や煙をはく蒸気機関車は丘の上のまちに来てもらっては困るので、海岸線を走らせたのだろう。東京駅、名古屋駅、大阪駅も同じで、とても軟らかい地盤に作った。当然こうした場所はよく揺れる。(東京の路線図を示して)海、川、池、島、田んぼ、岬、谷などに関わる名前ばかりである。この60年間の開発というのは、本来私たちが住むべき所ではない所を開発してきたということがわかる。このことを前提に今の技術を使って安心できるようにできているかどうかが勝負である。現代社会の脆さを正しく認識し、それに負けないような備えを常にしておくことである。

(齊藤 誠) (資料参照:[1]PDF形式 273 KB別ウィンドウで開きます。[2]PDF形式 138 KB別ウィンドウで開きます。
  • 自然災害のリスクに対する防災のインセンティブをどのような基軸で、できれば数量的に把握するか。リスクに対してどう備えるか、そのインセンティブをどう引き出すか、を考えてみたい。この時、市場メカニズムを使うことが重要で、このメカニズムを壊すと防災のインセンティブを引き出せない。また、資産の最終的な保有者がリスクの最終的な引き受け手であるので、最終的な資産の保有者が自然災害リスクから自分の資産を守ることが防災の一番の根底になる。

  • 様々な仕組みで防災のインセンティブを引き出し、もしくは既存のインセンティブに働きかけをする、と同時に情報の開示をリスクに関して行って行くことが重要である。ハザードマップがさまざまなリスクについて作成されているが開示まではいかない。何故なら公開するとリスクが高いことが分かり、例えば土地の値段が下がるので、そんなことは勘弁してほしいいう強い理由がある。

  • 東京都が検討した地震の災害リスクの指標を用いて調べたところ、地価に地震リスクが非常に強く反映をしている。東京は他の都市に比べ表情が豊かで個性のある土地で、400年というような単位で人が住んできた歴史があり、これがいろんな尺度となって地価に反映していることはある。こうした面からリスクというものが市場メカニズムの中である程度手がかりを持って価格としてあらわれてくる。

  • リスクマネージメントにはいろんな側面があるが、もっとも簡略化して、企業と社会の間に緊張関係が生じた時に、その調和を保つために企業がなすべき諸手続きの集合体、と考えるとわかりやすい。リスクマネージメントの中は、リスク管理の手続きを明確にし、企業経営がその手続きに従っているかをわかるようにしておくこと、そしてリスクが顕在化した時、そのリスクに対して行う手続きを予め決めておくこと。 リスク要因に対して万が一の時に対応できる状態というのはリスクを管理可能な状態にしていることで、リスクマネージメントの根幹は企業がリスクを管理可能な状態にしていることを外部に説明できる状態まで持って行くこと。

    リスクマネージメントのシステムを作るには莫大なコストがかかるが、これは企業を取り巻く資本家、特に企業株主に評価される。株主は資産を守ってくれる企業に大きな評価を与え、それが株価を支える。もしくは金融機関から資金調達で有利な条件で調達できる。

  • 海外で日本企業が資金調達する時、自然災害リスクへの備え、BCPの状態等は説明の重要事項の一つになっている。企業が体制を作っていくことと、一方で市場がそれを評価してくれることとを上手くつなげていくと、リスクコントロールを進めるインセンティブが高まる。市場メカニズムの中ではリスクはうまく見えていて、リスクをうまく管理すると株価や地価が上がるという意味でポジティブになり、その価値の増分に比してコストをどれだけかければいいかということになり、防災投資が普通の設備投資と変わらないというところまで認識が高まる。

(野田 健太郎) (資料参照:PDF形式 293 KB別ウィンドウで開きます。
  • 企業には、防災投資のみならずリスクファイナンス、地域との連携、これらの取り組みを外部に開示する、等の取り組み全般を管理する必要が出てきている。そうした企業の取り組みに対して、格付け、融資、投資といった際に外部から評価するという動きが始まってきている。

  • リスクマネージメントの一つとしてBCPが注目を集めている。BCPが最初に注目されたのはアメリカの同時多発テロで、あの未曾有の事態でもBCPを持った企業は翌日から業務を再開し企業の評判を上げ、企業価値を高めたことから、BCPの重要性が認識された。

  • BCPは、未曾有の事態に対して、企業が事業活動への影響をいかに少なく、復旧までの時間をいかに短く、どのレベルまで回復させるか等、を社会的な要請や取引先との関係の中で事前に考えておくというのが基幹である。アメリカ企業の6割がBCPを作成しているが、日本では始まったばかりで策定率は1割とか2割にとどまっている。

  • 日本でBCPのニーズが高まっている背景には、一つには昨今の地震、風水害、停電などの事故、コンピュータートラブルの多発などがある。第2は企業間の相互連携である。アウトソーシング、サプライチェーンマネージメント等で他社にいろいろ頼むことが増加し、事業継続には強い要求がある。第三に、ガイドラインやISOでも規格化の議論が進み、企業は対応を迫られている。第四はコンプライアンスとか社会的責任という中で事業を継続することが地域社会や雇用面でも重要になってきている。これ以外にも様々な理由でBCPは重要となっている。

  • アンケートによれば「防災投資を前年に比べ増やしますか」という問いには2割以上の企業が「増やします」と回答し、中長期的には「増やします」という企業がさらに多い。しかし、BCPの策定率は8%にとどまり、対外的な情報開示は2割程度と低い。また、大災害が起こったときの資金繰りでは、物的損害に加え資金繰りも含めた総合的な対策を行っている企業は4%にとどまっている。

  • 防災やBCPを行うメリットは、取引先の信頼度が増すことである。自治体の入札条件で事業継続を条件に入れているところもある。外部からの評価では、当行では「防災格付融資」で企業の取り組みを評価して融資の金利に差を設けている。金利以外にも企業の防災への備えができているとうPR,アナウンス効果がある。安田倉庫は「防災格付融資」を受けた後、株価は上昇し、TOPIXの倉庫業関連が弱含みの中でも株価を保っている。さらにメリットの一つとして、「防災格付融資」を受け、一番優れているというレベルの評価を受けた企業は融資の金利が下がることに加え、損保ジャパンの利益保険で10%割引が適用されるという制度もある。

  • 防災BCPの取り組みを行うことによって、市場面での融資の金利、保険、取引条件など目に見える形でメリットが出てきている。企業としては企業価値の向上や評価をあげる観点からもやった方が良いという状況になってきている。

(西川 智) (資料参照:[1]PDF形式 209 KB別ウィンドウで開きます。[2]PDF形式 316 KB別ウィンドウで開きます。[3]PDF形式 246 KB別ウィンドウで開きます。[4]PDF形式 351 KB別ウィンドウで開きます。[5]PDF形式 262 KB別ウィンドウで開きます。[6]PDF形式 262 KB別ウィンドウで開きます。[7]PDF形式 353 KB別ウィンドウで開きます。[8]PDF形式 395 KB別ウィンドウで開きます。[9]PDF形式 394 KB別ウィンドウで開きます。[10]PDF形式 447 KB別ウィンドウで開きます。[11]PDF形式 358 KB別ウィンドウで開きます。[12]PDF形式 170 KB別ウィンドウで開きます。[13]PDF形式 498 KB別ウィンドウで開きます。
  • 災害について振り返ってみると、平成16年には、新潟県中越地震、観測史上最多の台風の発生とその内10個の上陸、また、観測史上最多の30回の集中豪雨(日降水量400ミリ以上)が発生した。平成17年には、福岡県西方沖地震、千葉県北西部を震源とした東京で震度5の地震、宮城県沖を震源とした最大震度6弱の地震、台風14号による九州での大きな被害があった。18年は豪雪で152名の犠牲を出した。こうした災害から様々な教訓を学んで、国、自治体、民間部門、地域コミュニティー、国民一人一人まで備えを実践すれば大きな減災効果があると期待している。

  • (地図を示して)ここにプロットしたのは、活断層、今後大規模な地震が想定される場所、最近の大地震の震源であるが、日本列島のどこでもある程度の地震リスクがある。中越地震の時、防災に携わっている人はかつての新潟地震を思い浮かべたが、被災地では「新潟で地震があるわけがない」と県庁の人でさえ言っていた。かつて災害があった場所でさえも教訓や経験が風化してしまう。

  • 地震防災戦略では、住宅・建築部の耐震化、家具の固定化、密集市街地の整備、初期消防率の向上、等を具体的作業としているが、お金がかかる。行政がお金を出すこともあれば、個人や企業が出すこともあるが、誰かが行動し投資をしなければ物事は進まない。

  • そこで「災害被害を軽減する国民運動の推進に関する基本方針」がとりまとめられた。具体的には、地震に備えるために既存不適格住宅、事務所ビル、工場、商業施設の改修、補強、建て替えが必要であるが、そのために今ある制度をどう使ってもらうか。2番目に経済被害の最小化あるいはリスク分散のために、企業でのBCPの導入やリスクファイナンス、世帯では地震保険加入の促進がある。次に、地震による被害は直接的な物理的被害だけでなく、その後の社会的な混乱による被害もある。家族安否確認システムや安全情報を出し、例えば首都直下型地震があっても東京全部がやられたわけでなく、一部の地域ではビジネス・アズ・ユージュアルということを発信するだけで、日本の国際企業の中での損失は減らせる。帰宅困難者のためのマップがベストセラーであるが、あの地図片手に皆が歩き出したら、幹線道路はすし詰めで歩ける状態ではない。むしろ歩かずにすむ人は歩かないようにするのが大事。

  • 日本の幾つかの地震のうち、阪神・淡路大震災、中越地震、福岡県西方沖地震はたまたまビジネスアワーではなかった。ウィークデイの昼間であったらオフィスはどうであったろうか。また、企業は多くの空間・土地を持っているがこれは地域に溶け込んでいる。企業はコーポレイトシチズンシップとして防災に取り組んで頂きたい。財・サービスの円滑な提供が無ければそれだけで経済被害をもたらす。中越地震の時、おせんべいやお餅を作っている地元企業は相当な努力をされ、臨時雇用までした。企業の復活は地域の雇用の下支えになる。

  • 人間は、自分が直面しているリスクと自分が頭で認識しているリスクには大きなギャップがある。このギャップの所を自然災害が直撃すると大変なことになる。このギャップをできるだけ小さくするように認識すべきリスクをちゃんと認識するように、わかりやすくて現実的な災害シナリオのようなものを見ておいてもらう必要がある。内閣府のホームページ「みんなで防災」を見ていただきたい。

【自由討議】

災害リスク

(モデレーター)
  • 最初に「災害リスク」という点でご議論願います。

(福和)
  • どのくらい災害リスクを認識できるかはまず歴史から相当学ぶことができる。例えば関東地震と金融恐慌、満州事変、2.26事変などは相関がある。安政の地震、宝永の地震でもそうであった。大きな地震が起これば社会的な変動も起きやすいので大きく歴史が変わることを学べる。

  • 次に町の広がりである。大阪でも名古屋でも軟弱な地盤に駅ができてそこを中心とした町に変わり、災害危険度は高くなった。静岡市清水の中心市街地は、川が堆積させた一番良く揺れるところで、液状化し、津波も来る。これらは被害想定で十分わかっていること。

  • 想定される被害のボリュームに比べ救助に来てくれる人数は決定的に不足している。企業の方々は自立して対処していただかなければ困る。

  • 建物は法律を守って造られているが高さによって本当の耐震性は違う。建築基準法は震度7で大丈夫とは言っていない。建物によって実力は違っているのにもかかわらず、法律を守る、守らないというだけの議論になっていることを企業は知っておくべき。

  • 災害時にどのくらい人がビルからあふれ出るかを試算してみると、都心4区のビルから人間が全部溢れ、歩道と空き地に出たとすると、1平方1人くらい、背の高い容積率2,000%くらいの建物にいる人が下におりると1平方2~3人くらいで、満員電車並となる。こうしたときは怖くてもビルの中にいてくださいということになる。こうした単純な数字を私たちは知っておくべき。

  • 今世紀前半に東海、東南海、南海、首都直下が起こると最悪全部で200兆円ぐらい失うことになる。これに対して、耐震性がない建物は1,000万棟程度で、1軒150万で直すと15兆円で直ってしまう。一人あたりでは十数万円。10年間で実施すると考えれば、一日一人30円。自分の国を守るために自分たちのお金を使うべきかどうかという議論をすべき。

(西川)
  • 家具固定化は100円ショップで金具を買い、ネジ回しとトンカチを使って2時間程度でできる。それだけのお金と手間をかけるか、それだけのリスク認識をするかどうかで行動が決まる。運転免許更新で交通事故の映像とか交通事故のシミュレーション映像を見せられると少しは真剣になるが、それと同じことが災害についても言えよう。これは台風の場合も同じで、16年の台風18号は北大のポプラ並木を倒した。気象庁からは暴風警報などもでていたが警報をまじめに聞いている人はほとんどいない。災害に関する情報等についてどれだけ我がものと思ってもらえるかがポイントではないか。

防災投資

(モデレーター)
  • 次に防災投資についてお願いします。

(齊藤)
  • 構造物の耐震補強の投資について話したい。姉歯事件で耐震強度不足の建物の補強に国や自治体が補助金を出すということがあったが、密集市街地の中の古い安いアパートに対しても耐震補強のための補助を出す等、うまくやるべき。メカニズムとして考えれば、地盤が弱い地域の賃貸物件ほど、構造物の強度を改善すると家賃が上昇する。現在から将来にかけての家賃が改善するので、このメリットを耐震補強のコストと比較すると、とんとんかコストが若干上回る。そこで国が少し耐震補強の手当をしてあげるとベネフィットが上回り、脆弱な構造物を持っている大家さんの耐震補強を促す。

  • リフォームと耐震とを同時に行おうとすると高額な金額になるが、耐震補強だけでは過大な投資ということにならない。耐震補強のノウハウについて情報を共有し、コストパフォーマンスの良い耐震補強の技術を共有し、その合理的な範囲内で回収していくことは家計にとっても重要。

  • 地価は安いものの危険な地域の土地しか買えない、またはそういう地域の劣悪な構造の賃貸アパートにしか住めないということがある。防災政策を展開していくとき、こうした部分については個人、家計、企業の各レベルの努力を後押ししつつ、都市計画のような広い枠組みで地域全体を補強するような政策を展開しなければならない。

(野田)
  • 私どもは防災対策の融資を行っているが、いろいろな対策をとっている企業は経営層にやる気があるケースがほとんど。この場合、格付け融資や先端的なリスクファイナンスまでやろうという動きとなっている。

  • 企業に適切に防災対策をやってもらう必要が生じた場合、中越地震のようなある種のケーススタディーを示して、担当から順次経営層まで説得していくという必要がある。さらに数字を用いて定量的にも説得できれば経営層の理解を得やすい。また、防災格付け融資では目に見える形でメリットを示すとやりやすい。

  • 目に見えるという意味では、防災の格付け融資を受けた倉庫会社には、その後いろいろな荷主から問い合わせがあり、自分の預けた荷物が安全に管理されているのがわかったと、非常に良かったという声が寄せられた。企業にはこのようなメリットもある。

(モデレーター)
  • 防災投資について補足は

(西川)
  • 企業にどのような防災投資をしているかを聞くと、ここだけの話にしてくれという社が多い。災害の後で、これをやったから我が社はうまくいった、ということを公表してほしい。うまくいった情報が企業社会で流通するようになれば世の中の環境はよくなる。

(福和)
  • 会社としては防災対策をしっかりやっていても個人としては自宅の安全対策ができていない。対策を誰かに委ねて、自分たちが災害に対するイメージを持っていない。

(野田)
  • 日本の企業の人事制度では2~3年で異動するので、ノウハウが引き継がれにくい。マニュアルを引き継ぎ、それをベースに膨らますが、実際には使われるようになっていない。

(モデレーター)
  • 防災を業務の中に取り込み、備えを持続させていくには

(福和)
  • 日頃の延長線上で何ができるかである。昔に比べ自然に関して不勉強になり、日常の生活の延長上でやってきたことを放棄し、忘れてしまったことに問題がある。1,000年以上続けてきた自然災害との闘い方が失われている。いかに日常生活の中で自然災害に関わるかを思い出すよう工夫することが大事。

(齊藤)
  • 実物資産、金融資産は蓄積されてきた。これから日本人が考えるべき側面は、企業であれば本社、工場を持つ時、立地構造を真剣に考えるべき。また、姉歯事件では価格がシグナルを出している。周辺の類似物件に比べ安かったことはその分のリスクを取っている面もある。家計は購入時に十分注意する必要がある。

  • 企業はBCPやBCMを突き詰めた時、東京のようなコストの高い所にヘッドクォーターを持つのか、それとも名古屋に三分の一、東京に三分の一、残りを大阪、というようなことを考えることが防災に強い日本社会を造ることではないか。

  • 首都移転、東京・大阪の両方への取引所の設置、第二東名などは、それだけを考えると変な公共投資だが、日本全体の地域の分散を考えるべき。

(野田)
  • 防災とかBCPの取り組みを持続させていくことは難しいが、こうした取り組みを企業、組織の文化として根付くぐらいまでやることが重要で、ホームページ、ディスクロージャ誌、社会環境報告書で開示するのも一つの手である。

(西川)
  • 習慣を作るのが必要で、例えば、引っ越しシーズンの際に家具の異動に併せて固定するとか、配置を見直すとか、習慣の行事の中に防災予防に関わる行動を組み込めれば良い。最近オフィス家具の業界がこれから防災をやるといっていたが、日常的な生活をしている空間の安全性をビジネスとしてセールスしてくれる人が現れると、役所が言うよりも格好良いので成功してくれるのではと期待している。

(モデレーター)
  • あえて防災というのではなく、何かが防災になっているのは

(福和)
  • たくさんあると思われるが、我が家ではハイブリッド車に乗っている。ガソリン代が節約できるだけでなく、いざという時に15アンペアの電気がとれる。広域の災害であれば何月も電気が止まることも考えられ、電気がないと困るのでハイブリッド車にした。水割りが好きな人であれば、たくさんの水を貯めて古い水から順番に飲む、通勤では1両目を避ける、等習慣にすれば普通にできる。ちょっとした習慣が安全度を高める。

(齊藤)
  • ある状況になった時に価値が発生するようなものをリアルオプションというが、BCPをやったり防災格付が上ると企業価値、株価の上昇がみられるというのは、防災というリアルオプションをマーケットが評価しているから。こうしたものを目に見えるような形で工夫していくことが重要。

4. 会場との討議

(聴衆A)
  • 長周期地震について教えてほしい

(福和)
  • 地震の揺れには長周期の揺れがあまりないことを前提に超高層の建物を造り始めたのは確か。昔思っていた地震の揺れはガタガタ揺れるもので、この揺れに対して超高層は軽くいなす。最近になって地面の動き方にはゆったり揺れる成分もあることがわかってきた。ゆったり動いているだけで揺れがどんどん大きくなっていく。これは共振現象だが、こういうことが起きることが分かってきた。

  • その揺れによって建物が壊れるか、壊れないかはよく分かっていないが、少なくともよく揺れることは分かっている。今の設計では、建物の高さの100分の1ぐらいは揺れても大丈夫なように設計してある。200メートルの高さの建物であれば左右各2メートルで、これはものすごい揺れである。ただ、気を配って造ってあるので、設計にあるクライテリアで造っていても実際の実力はもっとあるものが多い。最近の超高層建物はダンパーを付けて過度な揺れを抑制している。

  • では、昔の建物はどうするか。日本人は過去のものに蓋をしようとするが、私は直すものは直した方がいいと思う。あえて、問題をあぶり出し、世論を作ることによって表に出て議論できるようになる。神戸に活断層があることは一部の人は知っていたが、市民は震災前まで知らなかった。これと同じ状況になってはいけない。ここ数年前から一部の人間だけでなく、みんなで話をしようという方向に変わってきている。

  • 林立している超高層マンションは買う人が一杯いるから造られている。安全性の確保についてはみんなで議論する必要があると思う。倒壊して危険だとは誰も明確に言っていないが、よく揺れるということまでは明確に言っている。よく分からないというのが正しい答えだと思う。

(聴衆B)
  • 防災関連で投資家が何を考えているかの情報が得られない。例えば、豪雪・暖冬債みたいなデリバティブを発行し、豪雪であれば豪雪対策の予算に使い、暖冬であれば暖冬の人に5%位の利回りで払うような形の、投資家にアピールするような例は。

(野田)
  • デリバティブのような例は広がっている。サッカー・ワールドカップ大会ではテロのリスク等で開催されなかった場合には損害がでるためデリバティブを使ってそれに備えた。

  • 一方、リスクファイナンスはまだ伸びていない。踊り場的な所から次の飛躍に向かう状況にある。

(齊藤)
  • 温度や気候に関しては、リスクを取った人はリターンを、リスクヘッジをする人はリスクから自分を守る、というマーケットはできている。

  • 自然災害に関しては、自然災害のリスクや環境リスクがリスク移転の対象になっているかだと思うが、日本の資本市場はまだそこまでは認識していない。契機は国際化である。世界のマーケットは既にリスクを認識しているので、海外の投資家が入ってきた時に、リスクを手当しないと商売をやっていけない。今後、日本でもさまざまなリスクをマーケットの中でうまく処理していく方向になるとは思う。

(聴衆C)
  • 長周期地震、東南海、東海地震が連動して起こる状況のとき、特に長周期の地震の中で、東京湾の根岸、京浜工業地帯、市原の石油タンクはどうなるだろうか。苫小牧の地震の時は油量を下げたと思うが。

(福和)
  • それぞれの場所には揺れやすい周期がある。液面の高さが決まると、どういう周期だったらタンク内の液面がよく揺れるか分かるので、揺れやすい周期をチェックし、その周期でも揺れにくい液面の高さにしておけば余り問題はないと思う。今まではこうしたことに無頓着であったが、真正面に向かい合えば解決する手段はある。

  • 東海、東南海、南海地震は大きな地震であるが、首都圏は震源から離れているのでガタガタという揺れよりもゆったりした揺れが残るので長周期地震の問題が相対的に大事だ。一方、震源に近い静岡から西では、長周期地震への対策だけでなく、本当に強い揺れに対しても対策を取らなければいけない。

(モデレーター)
  • 本日の議論を整理します。1つは、昔からの知恵、情報、生活習慣の中に貴重な情報があるので、それを今に生かすような想像力、自分のこととして考えることが大事である。第2は、市場に既にシグナルが出ている所もある。このシグナルを大事にして、立地選択、耐震補強、防災とうに生かしていくことが大事。第3は、防災はリスクマネージメントの一環として一部管理部局だけがやるのではなく経営そのものである。積極的にマネージメントを開示する方がメリットがあり、金融面でも後押しするような仕組みも少しずつ出てきている。第4は、普段の備えであり、リスクに対する正しい情報の提供とそれに正しく向かい合うこと、引っ越しや大掃除等の生活の中にちょっとした防災の工夫をすることも非常に大事である。本日は多面的に議論いただきありがとうございました。

(以上)

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